2017年11月14日火曜日

米国のラスベガス銃乱射事件時にジェット燃料タンクを銃撃

 今回は、2017年10月1日(日)、ネバダ州ラスベガスの大通りの野外コンサート会場に向けてマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を乱射し、観客58人が死亡、500人以上が負傷する事件が起ったが、この事件でホテルの部屋から銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発が直撃していたというタンク事故を紹介します。
                  標的になったジェット燃料タンク  (写真はReviewjounal.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ネバタ州(Nevada)のラスベガス(Las Vegas)にあるマッケラン国際空港の敷地にある小型飛行機用の燃料貯蔵施設である。

■ 発災(被災)があったのは、燃料貯蔵施設のジェット燃料用固定屋根式タンクである。タンクは2基あり、1基当たりの容量は43,000バレル(6,800KL)である。タンクの運転管理はスイスポート・フューエリング社(Swissport Fueling)が行っている。
ラスベガスのマンダレイ・ベイ・ホテルの周辺 
(写真はGoogleMapから引用)
ジェット燃料タンクとマンダレイ・ベイ・ホテル  
(写真はNydailynews.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年10月1日(日)午後10時過ぎ、ネバダ州ラスベガスの大通りで開催されていたカントリー・ミュージック・フェスティバルの野外コンサート会場に向けてネバダ州在住のスティーブ・パドッグ容疑者(64歳)がマンダレイ・ベイ・ホテルの32階から半自動ライフル銃を約10分間にわたって無差別に乱射した。この米国現代史上最悪の銃乱射事件では、観客58人が死亡し、500人以上が負傷した。
 パドック容疑者は滞在先ホテルの部屋の中で自殺しているのが発見された。パドック容疑者が宿泊した部屋から銃16丁と銃弾、自宅から少なくとも18丁の銃と大量の銃弾、爆発物が見つかった。

■ この事件では、パドック容疑者がホテルの部屋から野外コンサートの観客を銃撃する際、マッケラン国際空港の敷地にある燃料タンクに向けて発砲し、ライフルの銃弾2発を直撃させていたことが明らかになった。さらに、パドック容疑者は燃料タンクに向けて焼夷弾(しょういだん)を撃っていた。焼夷弾は発火性の薬剤を装填したもので、着弾すると、火炎を生じ、攻撃対象を焼き払うために使用する。なお、ホテルの部屋からコンサート会場までの距離は約1,100フィート(335m)で、部屋から燃料タンクまでの距離は約2,000フィート(610m)だった。

■ 専門家によると、この種の焼夷弾は燃料タンクに引火することは可能であるという。焼夷弾はパドック容疑者がいたホテルの部屋と燃料タンクの近くで見つかった。ただ、焼夷弾でタンクを爆発させようとしたのか、タンクに向け発砲するのに焼夷弾を使用したかは明言されていない。

■ 銃弾の一発は、満杯ではなかったが油の入っていたジェット燃料タンクT-202の側板を貫いていた。もう一発は、同じタンクの側板上部に当たっていたが、貫通していなかった。このタンクは専門家によって調査され、火や煙が出た気配は無かったことが分かった。

ホテルの割られた二つの窓 (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
■ FBIの調査によると、ホテルの32階の部屋では、2つの窓が割られ、ひとつはコンサート会場に向いており、もうひとつは燃料タンクが直接見える方向だった。

■ 調査官によると、ホテルの部屋からトレーサー弾(曳光弾)が見つかったという。トレーサー弾は弾丸に火薬のほかに発光剤が装薬されており、飛んでいくとき明るく燃え、昼間の肉眼で発射軌道を見ることができ、夜間の発射では非常に明るい。これにより、射撃者は発射された弾丸の軌道を観察して照準補正を行うことができる。ただし、今回の銃撃でトレーサー弾が使われたという証拠はないという。

■ マッケラン国際空港の関係者によると、銃が乱射されたコンサート会場から逃れようと、300人ほどの人たちが空港の周囲に設置されていた保安用フェンスを突破し、飛行場内を横切り、一時的に航空機の離発着ができなくなっていた。

被 害
■ 燃料タンク1基が銃弾による損傷を受けた。側板を貫通しており、油を抜いて検査を行い、補修が必要である。
                   事件現場の位置関係  (図はThetruthaboutguns.comから引用)
             ホテルの部屋と残された銃  (写真はNytimes.comから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、不法行為による故意の過失である。

< 対 応 >
■ タンクは油を抜き出し、検査を行い、必要な補修が行われる予定である。

■ マッケラン国際空港の関係者は、タンクへの攻撃が明らかになった後、銃撃によってタンクが爆発する可能性は少ないと語った。さらに、ジェット燃料は、引火しなければ、炎に短い時間、曝されても耐えるように設計されていると補足した。

■ 事件後、マッケラン国際空港は、安全な燃料供給を維持するための措置について燃料貯蔵施設の専門家に相談している。事件の対応に当たったラスベガスの保安官は、ジェット燃料タンクからは燃料ベーパーを連続的に抜いて出すようにされているので、銃撃で引火する可能性は低かったと語っている。

■ 10月5日(木)、全米ライフル協会は、ライフルが機関銃のように弾を早く発射できるようにする装置に対して厳しい規制をかけることを是認した。これは、何年にもわたって新しい銃規制に強く反対してきたグループにとっては稀なことである。パドッグ容疑者は、1分間に数百発を発射できる半自動ライフルを使用していた。
                  ジェット燃料タンク  (写真はAbcnews.gfo.comから引用)
側板上部に2発の銃弾跡の残ったタンク 
 (写真はReviewjournal.comから引用)
                 銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
                銃弾跡の拡大  (写真はReviewjournal.comから引用)
補 足
■ 「ネバタ州」(Nevada)は、米国の西部に位置し、人口約270万人の州で、人口の3分の2以上がラスベガス都市圏に住んでいる。
 「ラスベガス」(Las Vegas)は、ネバタ州南部に位置し、市域の人口は約60万人の都市で、カジノの町として有名である。
米国のネバタ州とラスベガスの位置 
(図はGooglleMapから引用)
■ ラスベガスにある「スイスポート・フューエリング社」(Swissport Fueling)は、正式名称が「Swissport Fueling of Nevada, Inc.」で、航空会社、空港、燃料供給業者に代わって航空燃料の取り扱い業務を提供する会社で、国際的な空港関連企業であるスイスポート・インターナショナル社(Swissport International Ltd)の傘下の会社である。
  
■ 「発災(被災)タンク」は、容量43,000バレル(6,800KL)の固定屋根式タンクである。グーグルマップによると、直径は約25mであるので、高さは約14mクラスのタンクである。

所 感
■ 今回の事件では、銃弾によってタンク火災が起きるかどうかが議論になっている。過去のタンク事故の中につぎのような事例がある。
 このタンク火災は、灯油相当で着火しにくいジェット燃料と異なり、引火しやすい原油という油種である上、油井用の小型タンクという違いはある。しかし、銃弾によって引火・爆発して火災になりうるといえる事例である。今回の事件でタンクに直撃したのは、ライフル銃の銃弾(またはトレーサー弾)とみられるが、発射された焼夷弾がタンクに当たっていれば、火災になった可能性は高かっただろう。 

■ 銃弾以外の武器によるタンクへの攻撃はつぎのような事例がある。中東における紛争に関連するものが多いが、近年、タンクへのテロ攻撃は急増しているといえよう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
     ・Reviewjournal.com,  McCarran’s  Fence Breached by People Fleeing Las Vegas Strip Shooting,  October  03,  2017
     ・Reviewjournal.com, Commissioner Calls for Security Review of Jet Fuel Tanks after Las Vegas Strip Shooting,  October  05,  2017 ・Nytimes.com,  N.R.A. Supports New Rules on ‘Bump Stock’ Devices,  October  05,  2017
     ・Fox6now.com, Sheriff: Las Vegas Mass Shooter Fired at Nearby Fuel Tanks, Shot Security Guard before Shooting at Concert,  October  09,  2017
    ・Cnn.co.jp,  ラスベガス銃乱射、燃料タンク狙い焼夷弾射撃も 情報筋,  October 11,  2017 
   ・Voanews.com, Police: Las Vegas Shooter Fired at Jet Fuel Tanks,  October  13,  2017
    ・Edition.cnn.com,  Las Vegas Shooter Fired ‘Incendiary' Rounds at Fuel Tank,  October  11,  2017
    ・Firedirect.net,  USA – Aviation Fuel Tanks Deliberately Targeted During Mass Shooting Incident,  October  27,  2017
    ・Reviewjournal.com,   Jet fuel tank targeted by Las Vegas shooter will soon be inspected,  October  19,  2017
    ・Japantimes.co.jp  , Vegas Gunman Aimed at Aviation Fuel Tanks to Create Diversion, Had Escape Plan: Sheriff,  October  09,  2017



後 記: 今年10月に起ったラスベガスの銃乱射事件は日本でも大きく報道されました。容疑者が自殺したので、事件の意図や詳細は多くの疑問が残っているようです。そのひとつがジェット燃料タンクを標的にした銃撃です。事件の2日後には、タンクが銃撃されたというニュースを報じているメディアがあります。その後も多くのメディアからタンク銃撃の話が流されていますが、内容が少しづつ違っており、イマイチはっきりしないというのが本当のところです。
 しかし、まとめた経緯から推測した話をすれば、容疑者は当初の計画ではタンクを標的にしていなかったと思います。観客が空港の敷地内へ逃げ込もうと保安フェンス前に集まり押し倒そうとするのを見た際、タンクの存在に気がつき、火災を誘起させようと狙ったものではないでしょうか。よくタンクから火が出なかったものです。しかし、600m離れたタンクに命中させているのですから、射撃の腕は悪くなかったのでしょう。距離感を確かめようと、自宅周辺の地図を見て、改めて600mの距離がいかに遠いか分かりました。

2017年11月8日水曜日

トルコで開放工事中のナフサ用貯蔵タンクが爆発、死傷者5名

 今回は、2017年10月11日(水)、トルコのイズミル県にあるターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社のアリアガ製油所で開放工事中のナフサ用浮き屋根式タンクで爆発が起こり、5名の死傷者が発生した事故を紹介します。
(写真Thepeninsulaqatar.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、トルコ(Turkey)のイズミル県(Izmir)アリアガ市(Aliaga)にあるターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社(Turkish Petroleum Refineries Corp.: Tupras)のアリアガ製油所(Aliaga Refinery)である。アリアガ製油所の精製能力は年間1,100万トン(20万バレル/日相当)である。

■ 発災があったのは、アリアガ製油所の貯蔵タンク地区にあるナフサ用の浮き屋根式タンクである。
トルコのターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社のアリアガ製油所付近 
(写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年10月11日(水)午前9時25分頃、ナフサ用浮き屋根式タンクで爆発が起った。

■ 事故に伴い、消防署が出動した。爆発があったのち、制圧するほどの火災は起こらなかった。

■ 爆発のあったタンクは、長期間使用されていなかった後のメンテナンスの実施中だった。

■ タンク内では、清掃と溶接作業が行われており、タンク内にいた請負会社の作業員4名が重傷を負い病院に搬送され、また作業員1名が治療を受けている。その後、重傷の4名の作業員の死亡が確認された。

■ 事故に伴う周辺環境への影響はなく、製油所の稼動は通常どおり継続している。

被 害
■ 浮き屋根式タンク内での爆発によって、タンクに物損が出たと思われるが、詳細はわからない。

■ 事故に伴い、死者4名、負傷1名の労働災害が発生した。
(写真はKamuoyu.orgから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、浮き屋根式タンクの浮き屋根下部に滞留していた可燃性ガスに溶接などの火気によって引火・爆発したものと思われる。

■ タンク内に可燃性ガス滞留の原因を含め、調査が行われている。

< 対 応 >
■ ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社は爆発の原因について専門家による調査を始めた。

■ 労働社会保障大臣は、事故を究明するため4名の検査官を任命し、主導的に調査を開始するよう指示した。

■ ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社は、プラントへの入構前にすべての従業員と請負会社の社員に対して作業安全基準について教育・訓練を実施しているが、事故発生を鑑みて作業安全のプロセスと作業方法について全面的に見直すと語った。

■ 10月12日(木)、当局は爆発事故の容疑で7人を逮捕し、うち4人は拘留され、3人は監察処分で釈放された。捜査の対象者になっているのは、ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社のオペレーション・チーフ・エンジニアの3名、オペレーション・セーフティ・スペシャリスト1名、下請け会社のプロジェクト役員1名、サイト・マネージャー1名、組立工チーフ1名の7名である。しかし、4人に対する逮捕理由の詳細は発表されていない。

■ ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社における主な事故はつぎのとおりである。
 ● 1999年8月17日に起った地震の日に、イズミット製油所(22.6万バレル/日相当)で大火災が起こり、3日間燃え続けた。
 ● 2015年7月、アリアガ製油所(20万バレル/日相当)で火災事故があった。
 ● 2016年2月、クルックカレ製油所(11.2万バレル/日相当)で火災事故があった。
 
■ トルコの労働安全衛生協議会の報告書によると、2017年1~9月の9か月間に労働災害で死亡した労働者は1,485人で、うち9月には147人が亡くなっている。

補 足
■ 「トルコ」(Turkey)は、正式にはトルコ共和国で、西アジアのアナトリア半島と東ヨーロッパのバルカン半島の東トラキア地方を領有するアジアとヨーロッパにまたがる国で、人口約7,500万人、首都はアンカラである。
 「イズミル県」(Izmir)は、トルコの西部に位置し、人口は約377万人である。「アリアガ市」(Aliaga)はイズミル県のエーゲ海側に位置し、人口約76,000人の港湾都市である。
                     トルコの位置   (図はYonlee.hatenablog.comから引用)
■ 「ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社(Turkish Petroleum Refineries Corp.: Tupras)は、1983年にトルコ政府によって設立された石油精製会社で、4つの製油所を所有している。アリアガ製油所(Aliaga Refinery)の精製能力は年間1,100万トン(20万バレル/日相当)である。
ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社のアリアガ製油所 
(写真はOgj.comから引用)
所 感 
■ この事故の詳細は分からないが、印象はつぎのとおりである。
 ● 「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」が活かされていない事例だと思われる。
 ● 類似事例としては、2014年2月の「バングラデシュの石油貯蔵所で火災によって死傷者9名」や2009年5月の米国アーカンソー州にあるテプコ社の石油貯蔵所で開放中のタンクが爆発した事故が挙げられるだろう。
 ● 事故要因に当該事業所(ターキッシュ・ペトロリアム・リファイナリーズ社)のオペレーション・エンジニアの運転管理に問題があったとみられるところからすれば、タンクの種類は異なるが、2012年6月の「太陽石油の球形タンク工事中火災」のようにタンク接続配管の縁切りにミスのあった可能性があろう。

■ トルコにおける労働災害死亡事故は、2017年1~9月の9か月間で1,485人とある。これは年間1,980人に相当する。日本の労働基準局によると、日本の労働災害死亡者数は2016年が928人で過去最少となっている。しかし、日本は10年ほど前に今のトルコのレベルであり、減少してきたとはいえ、必ずしも少ないと言い切れない状況である。  
日本における労働災害死亡者数の推移 
(図はMhlw.go.jpから引用)


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Tupras.com.tr ,  Announcement  Regarding the Incident at Tüpraş İzmir Refinery(1)~(6),  October  11ー12,  2017 
    ・Ogj.com, Turkey’s Tupras reports explosion at Izmir refinery,  October  13,  2017 
  ・Dailysabah.com,  Explosion kills 4 at Tüpraş oil refinery in Turkey‘s Izmir,  October  11,  2017
    ・Foxbusiness.com, Explosion at Turkish oil refinery kills 4, injures 2,  October  11,  2017  
    ・Uk.businessinsider.com, Turkey arrests four people over explosion at Tupras refinery: Anadolu,  October  14,  2017
    ・hurriyetdailynews.com,  Four killed in explosion in TÜPRAŞ oil refinery in Turkey’s İzmir,  October  11,  2017
    ・Aa.com.tr,  Turkey: 4 remanded into custody over refinery explosion,  October  14,  2017
    ・Bianet.org,  Explosion in Tüpraş İzmir Oil Refinery: 4 Workers Killed,  October  11,  2017
    ・Mhlw.go.jp ,  平成28年 労働災害発生状況(厚生労働省労働基準局),  May  19,  2017 



 後 記: トルコの事故を紹介するのは初めてです。情報の数は多いのですが、内容が限られています。発災事業所からウェブサイトのニュース・リリースに事故情報(2日間で6件)が発表されていますが、内容は深まりません。このニュース・リリースの中に真実に基づかない情報に踊らされることがないようにということが書かれているところを見ると、噂が拡散していたようです。どのような噂が飛び交っていたのかわかりませんが、例えば、負傷者数は2名という情報が多く、4名という報道もありました。(ここでは、発災事業所の発表である負傷者1名を採用しましたが・・・) また、発災写真も少なく、今の世の中だと、投稿写真がもう少し出てもよいのではないかと感じました。
 一方、びっくりしたのは警察の動きです。事故から2日後には逮捕者が出ています。まだ、原因が分かっていない(公表されていない)段階での逮捕ですから、日本と随分違うという気がしました。おそらく事情聴取するための逮捕ではないでしょうか。

2017年10月29日日曜日

イランのハッカーがサウジアラビアの石油化学会社へサイバー攻撃

 今回は、2017年9月、サウジアラビアの石油化学の会社が、イランのハッカー集団(クラッカー)によってコンピュータを破壊する新しいタイプのマルウェアのサイバー攻撃を受けた事例を紹介します。
< 発災施設の概要 >
■ 被害があったのは、サウジアラビアの石油化学の会社である。具体的な社名は明らかにされていない。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年、サウジアラビアの石油化学の会社が、コンピュータを破壊する新しいタイプのマルウェアのサイバー攻撃を受けた。攻撃の手口はフィッシング詐欺の一種で、信用されている企業になりすまし、偽の雇用機会を装ったEメールを使い、ターゲットの会社のコンピュータに侵入するものである。

■ このサイバー攻撃は“APT33”というハッカー集団(クラッカー)によるもので、 この“APT33”はイラン政府の関与が疑われる諜報活動グループである。サウジアラビアをターゲットにしたイランによるサイバー攻撃は2002年と2016年の2回行われたが、今回も同様にイランが仕掛けたとみられている。

■ この情報は、2017年9月20日(水)、サイバーセキュリティ会社のファイア・アイ社(Fire Eye Inc.)が報告したもので、サウジアラビアだけでなく、米国、韓国の石油化学会社や航空会社をターゲットにしたサイバー攻撃で、イラン政府が関与している疑いがあるとしている。
 韓国の企業が狙われている背景ははっきりしないが、韓国とサウジアラビアの石油化学の共同事業に関連しているのではないかという見方がある。

■ ハッカー集団(クラッカー)は、対象のコンピュータに一度侵入してから4~6か月間、システム内に留まっていたとみられる。この間、データを盗み出すことができるが、マルウェアの跡を残すことになった。ファイア・アイ社では、このマルウェアを姿が変わるという意味の“シェープシフト”(Shapeshift)と呼んでいる。このプログラムを作成するコーディングにイランの公用語であるペルシャ語が引用されていたという。また、イラン政府のハッカー組織であるナスル研究所(Nasr Institute)が攻撃に関与した証拠があるという。

■ 2012年8月、サウジアラビアのサウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)とカタールの天然ガス生産者であるラスガス社(RasGas)をターゲットにしたサイバー攻撃“シャムーン” (Shamoon)の背後には、イランが関与していたとみられている。このウイルスはハードドライブを機能しないようにし、コンピュータ画面に燃えているアメリカの旗の画像を表示する。サウジ・アラムコ社は、最終的にネットワークを閉鎖し、30,000台のコンピュータを破壊した。

■ 2016年11月には、 “シャムーン” の新型がサウジアラビア政府のコンピュータにウイルスを感染させた。この背後にもイランが疑いを持たれている。新型“シャムーン” は、起動時に読み込まれるマスターブートレコードを消去し、コンピュータを機能不全にする。
 この攻撃では、サウジアラビア政府機関だけでなく、エネルギー、製造、運輸業界の関連組織が被害に遭った。サウジ民間航空総局では、コンピューター数千台が破壊され、重要なデータが消去された。サウジ民間航空総局によると、運航や航行システムには影響がなく、攻撃を受けたのは事務管理システムであるが、数日間の業務停止を余儀なくされたという。このサイバー攻撃は、11月17午後8時45分、不正なプログラムが作動して狙った組織のコンピューターのデータが消去され始め、コンピュータ画面に死亡した3歳のシリア難民の男の子の画像が表示されたという。被害に遭ったコンピューターは、その後再起動できなくなった。
   
被 害
■ 企業のコンピュータが何らかの影響を受けていると思われるが、被害の有無や程度はわからない。
  
< 被害の原因 >
■ 被害の原因は、意図的なコンピュータへのサイバー攻撃である。この攻撃を行ったのは“APT33”というイラン政府の関与が疑われる諜報活動グループとみられている。

< 対 応 >
■ ファイア・アイ社は、ハッカー集団とそのサイバー能力を特定することで、関連する脅威を事前に検知し、対応できるとしている。

補 足
■ 「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国で、西アジア・中東のイスラム共和制国家である。世界有数の石油産出国であり、人口は約7,500万人で、首都はテヘランである。
 「サウジアラビア」(Saudi Arabia)は、正式にはサウジアラビア王国で、西アジア・中東に位置し、サウード家を国王にした絶対君主制国家で、人口約3,000万人の国である。世界一の原油埋蔵量をもち、世界中に輸出している。首都はリヤドである。
 サウジアラビアはイスラム教スンニ派が85%で、シーア派のイランとは敵対関係にある。サウジアラビアとイランは国交断絶の状況にある。
 
■ 「ファイア・アイ社」(FireEye Inc.)は、2004年に設立されたコンピュータ・ネットワークのセキュリティ・サービスを行う米国の企業である。カリフォルニア州のミルピタスに本社があり、日本法人も設立している。
 ファイア・アイ社は、ウェブサイト、電子メール、ファイル・ストレージ、エンドポイント(パソコン、ラップトップ、携帯機器)のサイバー・セキュリティの脅威を検出、防止、軽減するためのソフトウエアを提供し、クラウド型サービスや技術支援・保守を提供する。同社のウェブサイトによると、世界67か国以上の6,000を超える組織に導入され、 フォーブス誌による世界のトップ企業ランキング2,000社(フォーブス・グローバル2000)の中で650社以上で利用されているという。

■ 「マルウェア」(Malicious Software: Malware)は、悪意のもとに開発・利用されたソフトウェアの総称で、コンピュータ・ウイルス、ワーム、スパイ・ウェアなどである。

■ 「ハッカー」とは、元来、コンピュータ技術に精通した人のことである。これが転じて、コンピュータ技術を悪用して他人のコンピュータに侵入・破壊を行う者を指すことが多い。しかし、これは誤用が定着したものなので、使用すべきでなく、技術を悪用する者は「クラッカー」(破壊者)と呼んで、「ハッカー」とは区別すべきだという意見がある。
 これと同様に、「ハッキング」は、コンピュータやソフトウェアの仕組みを研究・調査する行為をいい、ハッキングそのものは、高い技術レベルを必要とするコンピュータ利用といった意味合いであり、善悪の要素を持たない。コンピュータの破壊などを伴い他者に迷惑をかけるものや、秘匿されたデータに不正にアクセスすることなど、悪意・害意を伴うもののことは「クラッキング」と呼び、明確に否定的意味合いがある。 「ハッキング」 を「クラッキング」と同じ意味で使われることが多いが、誤用だという意見から使用すべきでないとする人も多い。

■ 「サイバー攻撃」(CyberAttack)は、インターネットの通信機能を悪用して情報技術関連のインフラを破壊する行為である。具体的な手口は、「膨大な量のメールを送付する」、「大規模なデーター量の添付ファイルを付けたメールを送付する」、「ウェブサイトに侵入してデータを改ざんする」、「ユーザーを偽のウェブサイトへ誘導(フィッシング)し、悪意のあるプログラム(マルウェア)をダウンロードさせる」、「トロイの木馬を利用して、他のユーザーのパソコンを遠隔操作可能にする」、「特定のウェブサイトに一斉にアクセスすることで、機能不能にする」などの方法があるという。

■ 北朝鮮のサイバー攻撃の事例 
 ファイア・アイ社は、 2017年10月18日、 「北朝鮮の攻撃グループがスピア・フィッシング攻撃で複数の米国電力企業を標的に」と題するプレス・リリースを発表した。これによると、北朝鮮政府との関連が濃厚とされるハッカー集団(クラッカー)が複数の米国電力会社をターゲットにしたサイバー攻撃を仕掛けてきたという。攻撃の手口はフィッシング詐欺の一種で、送信されてきたスピア・フィッシング・メールを検知、阻止したという。
 このサイバー攻撃は、初期段階の偵察活動であり、直ちに破壊的な結果をもたらすものではない。過去の経験から判断すると、仮に検知されなかった場合でも、破壊的な攻撃の準備には数か月かかると考えられるという。これまでのところ、北朝鮮の関与が疑われる活動は一貫しており、サイバー・スペースで不当な先制攻撃を仕掛けるというより、抑止力の誇示が目的だと考えられる。しかし、北朝鮮のサイバー攻撃は大胆で、国力誇示のために、手の内や帰属先が相手に知られる可能性を厭わないという。彼らは戦争の抑止や、武力衝突時に混乱を生じさせる手段として、韓国、米国およびその同盟国を中心に、今後もエネルギー業界を標的にすると考えられると指摘している。
ファイアー・アイによるサイバー攻撃対策の仕組みの例
  (図はMarubeni-sys.comから引用)
所 感
■ 今回の事例は、国家間のサイバー攻撃の状況の一端を知ることができた。 2016年10月に起った 「イランでサイバー攻撃が疑われる中、精油所でタンク火災」事故では、イランがサイバー攻撃を受けており、イランとサウジアラビアの二国間で攻撃しあっている。今回の石油化学の会社をターゲットにしたサイバー攻撃は、石油化学会社の工場の制御システムに侵入したものではないようである。おそらく、2016年のサウジアラビアの航空会社のケースのように攻撃を受けたのは事務管理システムではないだろうか。
 これが両国のサイバー攻撃に関するハッキング技術のレベルなのか、もっと重大な被害を与えるまでの前哨戦(偵察活動)なのか分からない。しかし、目で見えないサイバー空間で戦いが行われていることを認識しておかなければならないだろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Nbcnews.com ,  Iran-Linked Hackers Said to Be Attacking U.S. Companies,  September 20,  2017 
  ・Thehackernews.com ,  APT33: Researchers Expose Iranian Hacking Group Linked to Destructive Malware,  September 20,  2017
   ・Fireeye.jp,  ファイア・アイ、イランのハッカー集団「APT33」の 活動内容と技術詳細を明らかに,  September 22,  2017
    ・Hazardexonthenet.net,  Iranian group suspected of hacking Saudi aviation and petrochemical industries,  September 22,  2017  
  ・Wired.jp,  世界最大の石油企業、ワークステーション3万台に攻撃,  August  28,  2012
    ・Jp.reuters.com, サウジにサイバー攻撃、ウイルス「シャムーン」 4年ぶりに新型,  December 01,  2016
    ・Fbloomberg.co.jp, サウジアラビアに大規模なサイバー攻撃、空港当局のPC数千台を破壊,  December 01,  2016
    ・Cnn.co.jp,  サウジ政府機関に時限式サイバー攻撃、システムを一斉破壊,  December 02,  2016
    ・Fireeye.jp,   北朝鮮の攻撃グループがスピア・フィッシング攻撃で複数の米国電力企業を標的に,  October  18,  2017



後 記: 今回の事例は貯蔵タンクに直接関係のない話ですが、サイバー攻撃というものを知っておくのもよいと思い、取り上げました。この分野の言葉は何気なく使っていますが、実際よく分かっていないので、基本的なところだけ勉強してみました。しかし、実際、取り付く島がないというところですね。
 あえて感想をいえば、ハッカー集団には、大きく2つがあるのではないでしょうか。純粋にコンピュータ技術を深める個人やグループで、ハッカー学会というようなものを組織しそうな人たちです。これらの人たちは、宇宙物理学(天体物理学)の分野で行われているように、お互いにコミニュケーションを取り合いながら、切磋琢磨しているのではないでしょうか。ここで収まっていれば、大きな問題は起きないでしょうが、怖いのは国の政府が組織するハッカー集団です。コンピュータ技術者だけでなく、あらゆる分野の技術者が動員され、軍事兵器化されることです。これから先の話は映画の世界だけに留まっておいてほしいですね。

2017年10月21日土曜日

テキサス州バレロ社のタンク浮き屋根沈降による環境汚染

 今回は、8月27日(日)、テキサス州ヒューストンにあるバレロ・エナージー社のヒューストン製油所において、ハリケーン・ハービーの豪雨によって原油貯蔵タンクの浮き屋根が沈降し、環境汚染について問題になった事例を紹介します。
バレロ・エナージー社のヒューストン製油所
(写真はReuters.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、テキサス州(Texas)ヒューストン(Houston)にあるバレロ・エナージー社(Valero Energy Corp.)のヒューストン製油所である。

■ テキサス州南部にハリケーン・ハービー(Hurricane Harvey)が上陸し、各所の石油施設が被災したが、ヒューストン製油所のタンク施設でも影響を受けた。事故が起ったのは、タンク地区にある直径190フィート(58m)の浮き屋根式の原油貯蔵タンクである。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年8月25日(金)、米国テキサス州南部にハリケーン・ハービーが上陸した。上陸時の勢力は中心気圧938hPa、最大風速58m/sで、ハリケーン分類の上から2番目に強い「カテゴリー4」だった。上陸後、勢力は弱まったものの、速度が落ち、テキサス南部に停滞した。ヒューストン周辺では、5日連続で雨が降り続き、総降水量が米国本土の最高記録である1,318mmに達し、多くの石油施設に影響が及んだ。

■ バレロ・エナージー社ヒューストン製油所では、豪雨により浮き屋根式タンク1基の浮き屋根が沈降し、貯蔵されていた原油が防油堤内に漏洩するとともに、油面が曝露してベーパーが大気へ放出した。漏洩した油量は分からないが、堤内に留まり、クリーンアップ作業が行われた。

■ 8月27日(日)、バレロ・エナージー社は、第一報として、貯蔵タンクの屋根の部分的な陥没によって、ベンゼン6.7ポンド(3kg)、不特定な揮発性物質3,350ポンド(1,520kg)が放出されたと米国環境保護庁(The U.S. Environmental Protection Agency: EPA)へ報告した。

■ これに対して、米国環境保護庁は、東ヒューストンのマンチェスター地区に放出された量をかなり過小評価していると指摘した。調査が完了するまで、正確な量は公表しないと語った。この件についてバレロ・エナージー社からは何のコメントも行われていない。

■ 以前、住民地区にあるヒューストン市と環境保護団体の大気モニターがベンゼン濃度(短時間曝露)について国の規制値を超えて2倍の値を測定していたことがある。ベンゼンは原油やガソリンに含まれている発がん性物質である。

■ バレロ・エナージー社ヒューストン製油所から放出されたベンゼンは、ハリケーン・ハービー通過後にヒューストン地区にある大気モニターによって検出された有毒化合物質の中で最も高い濃度の値だった。一方、この傾向は他の都市のベイタウンやポートアーサーでも同様に見られた。

■ 環境保護団体によると、9月4日(月)に検出されたベンゼン濃度は324ppbで、国の許容値である180ppbの2倍近かった。これは連邦政府が労働者に特別な呼吸装置を推奨するレベルを上回っている。

■ 米国環境保護庁は、9月5日(火)、「タンク屋根の事故時点におけるタンク内に入っている油の量からすれば、屋根陥没後にすぐにタンクから大量に放出される。当該事業所はタンク内容物の移送を行って減量に努めるとともに、泡の投入によって放出される量をできるだけ抑えるようにすべきである」と語った。

■ 直径190フィート(58m)の貯蔵タンクからは、9月8日(金)の時点でも、“中規模”の放出が続いていることが米国環境保護庁の調査で明らかになった。バレロ・エナージー社は、ポンプを使用して当該タンクから原油を抜き取っている最中であり、さらにタンク内に沈降した屋根を撤去する安全な方法を検討していると米国環境保護庁へ回答した。

被 害
■ 原油貯蔵タンクの浮き屋根が沈降してしまうような物損が出た。また、操業ロスなどの被害が出ているが、被害額は分かっていない。

■ 原油貯蔵タンクの油面が大気に直接曝露して、大気に環境汚染物質が放出された。 バレロ・エナージー社の第一報では、ベンゼン6.7ポンド(3kg)、不特定な揮発性物質3,350ポンド(1,520kg)が放出されたと報告した。しかし、米国環境保護庁は過小評価だと指摘した。

< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因はハリケーン・ハービーによる風水害である。
 間接原因としては、原油貯蔵タンクの屋根の雨水排水系の保守が十分でなく、何らかの要因によって閉塞し、豪雨時の雨水が排出できずに、屋根が部分的陥没したものとみられる。

< 対 応 >
■ バレロ・エナージー社は、事故が豪雨の所為であり、タンク屋根の雨水排水系から漏洩した油を事業所員が迅速な行動で封じ込めた点は評価されるべきと反論した。さらに、クリーンアップの状況は米国沿岸警備隊が確認しているし、タンクからの放出に関するモニタリングについては州と米国環境保護庁に協力していると述べた。

<ハリケーン・ハービー襲来によるテキサス州の環境汚染 >
■ ハリケーン・ハービー襲来後、テキサス州において有害な化学物質が流出したと各機関に報告されている。8月23日(水)~9月3日(日)の間に、油、ケミカル、廃水などが流出したという報告は96件にのぼっている。

■ 米国環境保護庁によると、流出した化学物質の正確な量を推定することは難しいという。第一報は目視で観察した結果が報告されており、米国環境保護庁や他の機関が確認のため現場に到着したときには、クリーンアップが終わっているケースや、すでに構外のどこかに流れ出てしまっているケースもある。けれども、米国沿岸警備隊は、油流出やケミカル流出の事故報告について追跡調査し、結果を公表することができる。

■ 環境保護団体によると、米国環境保護庁などに出されている事故報告は氷山の一角にすぎないと指摘する。キンダー・モルガン社(Kinder Morgan)は、 8月27日(日)に500バレル(80KL)ものガソリンを流出させ、報告を出しているが、大きな問題になっていない。キンダー・モルガン社は流出した油を泡で覆い、公共の地区には出ていないという。 

■ 米国環境保護庁や自治体当局は、洪水の水に細菌や毒性化学物質が含まれている可能性があると警告しているが、その発生源や量についてはほとんど言及していない。各所における下水や廃水処理系からの流出は少なくとも80件にのぼる。
 環境保護団体は、住民が洪水後の清掃作業を行い、家屋の修復を始めると、汚染水に接触し、病気にかかる可能性があると指摘している。

■ テキサス州ハリス郡には、ダイオキシン類、鉛、ヒ素、ベンゼンなどの有害物質に汚染されてスーパーファンド・サイトの対象になっている工業団地が被災しているが、少なくとも14箇所がハリケーン・ハービーによって洪水で浸水したり、損傷を受けている。米国環境保護庁によると、13箇所について評価し、2箇所に改善努力が必要という結果だった。これらのスーパーファンド・サイトでは、重大な健康上のリスクを伴っており、サイトの多くは石で覆われた防水シートによって防護されているにすぎない。 

■ 環境保護団体によると、洪水によってスーパーファンド・サイトに存在する毒性物質が地域社会へ拡散することになり、汚染水に直接接したり、汚染された魚介類を食べることによって住民が病気にかかる恐れがあると懸念している。 
ハリケーンによる被災状況
左のタンク浮き屋根は沈んでいるように見える)
  (写真Chron.comから引用)
ハリケーンによる被災状況
(タンク地区がすべて浸水している)
  (写真Whio.comから引用)
                 ハリケーンによる被災状況  (写真Huffingtonpost.comから引用)
                ハリケーンによる被災状況  (写真ocregister.comから引用)
補 足
米国の主な都市とヒューストンの位置
(写真Ameblo.jpから引用)
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,780万人の州で、州都はオースティンである。
 「ヒューストン」(Houston)は、米国テキサス州の南東部に位置し、ハリス郡にある人口約210万人の都市である。

■ 「バレロ・エナージー社」(Valero Energy Corp.)は、1980年に設立された石油を主としたエネルギー会社で、テキサス州サンアントニオを本部に米国、カナダ、英国、カリブ海で事業を展開している。
 ヒューストン製油所には、精製能力10万バレル/日の製油所を保有している。
 バレロ・エナージー社は今年8月下旬に襲来したハリケーン・ハービーによって影響を受け、テキサス州にあるポートアーサー製油所、コーパスクリスティ製油所、ヒューストン製油所、テキサスシティ製油所、スリーリバーズ製油所の5つの製油所の運転停止または減産を強いられた。

■ 「発災タンク」は、直径190フィート(58m)の浮き屋根式の原油貯蔵タンクである。 ヒューストン製油所タンク地区をグーグルマップで調べてみると、直径の異なったタンクが多いのがわかる。その中で直径58mのタンクに該当するのがある(写真の矢印のタンク)が、被災写真がなく、発災タンクと判断する根拠としては薄い。 
バレロ・エナージー社のヒューストン製油所
(写真はGoogleMap から引用)

所 感
■ ハリケーン・ハービーの豪雨によって、テキサス州でタンク浮き屋根が沈降した事例は少なくとも11件ある。(「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」を参照) 
 この中でバレロ・エナージー社ヒューストン製油所の事例だけが耳目を集めることになった。おそらく、米国環境保護庁へ提出したタンク曝露面からの汚染物質の放出推定量が他の箇所よりも格段に小さく、米国環境保護庁の不信感を募ってしまったのではないだろうか。

■ タンク浮き屋根が沈降した事故で、教訓として参考になる事例はつぎのとおりである。
 ダブルポンツーン型浮き屋根でも、屋根沈降が起こり得ることを示す事例である。この事故は「危険物質の放出」の分類でレベル6段階中、レベル4と評価されている。大気へ発散させた汚染物質の量が報告されており、揮発性の有機化合物の量は3,185トンで、うちベンゼンは55トンである。
(期間や条件が異なるが、今回のバレロ・エナージー社の報告は、ベンゼン3kg、不特定な揮発性物質1,520kgとしている)

 本事例は、浮き屋根沈降の経緯、事故発見後の対応、再発防止策などについて詳細な事故報告書が公表されており、参考になる。

 本事例の事故報告者では、浮き屋根沈降の反省からタンク点検の改善点が示されている。また、類似事故の再発防止の観点から、総務省消防庁が「浮屋根式屋外タンク貯蔵所の保安対策の徹底について」という通知を出した事例である。なお、紹介したブログの「補足」の中で、沖縄の事例をもとに原油タンク浮き屋根沈降時の安全対策や油抜取り方法をまとめた自衛防災組織等の防災活動の手引き」(危険物保安技術協会、2014年2月)を紹介している。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・Chron.com, Valero "significantly underestimated" benzene leak at Houston refinery,  September  14,  2017
      ・ Nytimes.com , High Levels of Carcinogen Found in Houston Area After Harvey,  September  06,  2017 
  ・Hazmatnation.com, Valero “significantly underestimated” benzene leak at Houston refinery,  September  14,  2017   
      ・Chron.com, Air monitors detect cancer-causing compound as environmental concerns grow in east Harris County
,  September  06,  2017 
      ・Hazmatnation.com, Dozen of Active Spills being Worked in The Wake of Hurricane Harvey,  September  12,  2017 



後 記: 8月下旬、テキサス州に襲来したハリケーン・ハービーによる石油施設の被害(事故)について「米国テキサス州でハリケーン上陸による石油施設の停止と油流出」で紹介しました。ハリケーンの被害が広範囲で深刻なものが多く、個々の事故に関する情報は埋もれているような状況で、浮き屋根沈降や油流出に関する詳細な内容はほとんど分かりませんでした。
 そのような中で、バレロ・エナージー社ヒューストン製油所の浮き屋根沈降に関する事故が大気汚染の過小評価という観点から多くのメディアが報じていましたので、取り上げることとしました。しかし、その後、大気放出量の第一報以降の修正値が報じられることはなく、タンク事故状況の内容が深まったとはいえませんでした。一方、テキサス州ヒューストン周辺における石油・化学施設の「光と影」の影の部分、すなわち東京都豊洲市場どころではない環境汚染問題が見えてきました。