2018年2月24日土曜日

米国オハイオ州で天然ガスパイプラインが爆発

 今回は、2018年1月31日(水)、米国オハイオ州ノーブル郡サマーフィールドにある天然ガス用ロッキー・エクスプレス・パイプラインのパイプライン施設で起った爆発・火災の事故を紹介します。
(写真はFacebook.comの動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、米国オハイオ州(Ohio)ノーブル郡(Noble County)サマーフィールド(Summerfieald)にあるロッキー・エクスプレス・パイプライン(Rockies Express Pipeline)の天然ガス用パイプライン施設である。ロッキー・エクスプレス・パイプラインはタルグラス・エナージー社(Tallgrass Energy)などによって運営されている。  

■ 事故があったのは、 24インチ・セネカ・ラテラル(24-inch Seneca Lateral)称されているパイプラインで、このラインはロッキー・エクスプレス・パイプラインとマークウェスト処理プラントの間をつなぐものだった。発災があったのは、サマーフィールドから北へ約3マイル(4.8km)のオハイオ513号線と379号線の間にあるパイプラインで、施設内にはこのほかに複数のパイプラインがあった。
               ノーブル郡サマーフィールド周辺    (写真はGoogleMapから引用)
                 ロッキー・エクスプレス・パイプライン      (図はSnl.comから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年1月31日(水)午前2時30分頃、サマーフィールドの北にあるパイプラインが爆発し、火災となった。

■ サマーフィールドの住民は夜中に起った爆発で目を覚まされ、夜空が明るくなっているのを見た。多くの住民から消防署へ緊急通報があった。

■ 発災に伴い、各消防隊が出動し、消火活動を行った。出動したのは、ノーブル郡消防署のほか、ボランティア型のサマーフィールド消防署、ベルバリー消防署、カルドウェル消防署の各消防隊である。

■ タルグラス・エナージー社は、事故に伴い、 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインを停止し、ほかと縁切りした。火災は午前4時30分頃に制圧された。
 
■ まわりには建物はなく、火災による影響は軽微で、樹木がわずかに焼けた程度だった。消防隊は1月31日の午前中までホットスポットがないことを確認するため、現場に待機した。

■ 事故に伴うけが人の発生や住民の避難は無かった。
(フェースブックに発災時の火炎の動画「Mid-OhioValley Weather Update」が投稿されている)

被 害
■ 天然ガス用パイプラインの一部が損壊・焼損したものとみられる。被害の状況は不詳である。

■ 事故に伴う負傷者な出なかった。また、住民の避難もなかった。

■ パイプラインの一部が運転できずに、天然ガスの供給へ影響が出た。
(写真はAmerica.easybranches.comから引用)
< 事故の原因 >
■ パイプラインの爆発原因は調査中である。

< 対 応 >
■ タルグラス・エナージー社はパイプラインの爆発原因の調査に入った。

■ 環境保護団体は、今回の爆発を起こしたパイプラインが詳細な審査を受けることなく承認されていたと指摘した。2013年、 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインは、天然ガスの流れの変更について所有者からの要請があり、連邦エネルギー規制委員会が承認していた。当初、天然ガスは東から西へ流れだったが、その後この地域で急成長しているマルケス・シェールのガス田生産のため、所有者は流れを逆にする承認を求めていた。環境保護団体は、プロジェクトは環境影響評価書を準備して審議された後に、承認されるべきだという抗議書を提出していた。会社が計画を決めてから1か月でパイプラインは承認されており、極めて速い決定である。これは、環境審査プロセスの規制を基本的に撤廃するという問題だと指摘している。

■ オハイオ州環境評議会は、1月31日(水)、「パイプラインが爆発事故を起こしたという報告を受けたときには、常に最悪の事態を考える。幸い、今回の事故ではけが人が無かったが、米国国内を横断しているパイプラインに関する懸念が残った。爆発原因について十分調査されなければならない。国内を走っているパイプラインは数多くあり、潜在的危険性としてパイプライン破裂の問題についてじっくりと検討することは重要である。将来の事故を回避するため、パイプラインの建設には慎重な対応が求められる」という声明を出した。

補 足
■ 「オハイオ州」(Ohio) は、米国の中西部の北東に位置し、人口約1,150万人の州である。州都は人口約79万人のコロンバスである。
 「ノーブル郡」 (Noble County)は、オハイオ州の東部に位置し、人口約14,000人の郡である。1814年、北アメリカで最初に油井施設が設置された郡で、19世紀後半には人口20,000人を超えていた。
 「サマーフィールド」(Summerfieald) は、ノーブル郡の東部にあり、人口約250人の町である。   
 
■ 「タルグラス・エナージー社」(Tallgrass Energy)は、 2012年に設立された原油・天然ガスの輸送に携わるパイプライン会社である。カンザス州リーウッドに本拠地を置き、ワイオミング州、コロラド州、ネブラスカ州、カンザス州、ミズーリ州、イリノイ州、インディアナ州、オハイオ州を通る全長約11,900kmのパイプラインを有している。

■ 「24インチ・セネカ・ラテラル・パイプライン」(24-inch Senaca Lateral Pipeline)は、ノーブル郡サマーフィールドにあるマークウェスト・エナージー社(MarkWest Energy)のセネカ処理施設(Seneca Processing Facility)からタルグラス・エナージー社のロッキー・エクスプレス・パイプラインへ接続する約14.7マイル(23.5km)のパイプラインである。セネカ処理施設は天然ガスの製品化処理用として2013年に操業を開始した。
 24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインの発災場所をグーグルマップで調べたが、パイプライン施設らしい場所が点在しており、特定はできなかった。
24インチ・セネカ・ラテラル・パイプライン
 (写真はNapipeline.com から引用
 サマーフィールドにあるマークウェスト・エナージー社の天然ガスセネカ処理施設
 (写真はGalvanizeit.orgから引用)
所 感 
■ 発災したパイプライン(施設)の状況がわからないので、爆発原因は推測しようがない。一方、ロッキー・エクスプレス・パイプラインの運営を行っているタルグラス・エナージー社は2012年に設立された会社であり、 そのパイプライン支流である24インチ・セネカ・ラテラル・パイプラインも2013年に操業を開始しており、比較的新しい。このように新しいということが発災に関係しているのかもしれない。あるいは、操業開始から落ち着いてきた段階での緩みや慢心といったことが背景にあるのではないだろうかとも思う。

■ 消火活動の状況は分からないが、発災から約2時間ほどで制圧されており、天然ガスの場合、遮断弁を閉止するいう操作をすれば、油のような流出の拡散がなく、比較的速い制圧が可能だと思われる。消防隊が出動しているが、おそらく、まわりへの延焼防止を主とした消防活動だったと思われる。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Hazmatnation.com, Ohio Firefighters Respond to Pipeline Explosion, February 1, 2018
    ・Reuters.com, Tallgrass Isolates Ohio Natgas Pipeline Segment after Rupture, February 1, 2018
    ・Daily-jeff.com, Pipeline Explodes in Eastern Noble County Field,  January  31,  2018
    ・Wtov9.com, Pipeline Explosion Results in Fire in Noble County,  January  31,  2018
    ・Theoec.org, Statement from the Ohio Environmental Council on an Overnight Explosion of the Seneca Lateral Pipeline ,  January  31,  2018
    ・Napipelines.com, Natural Gas Pipeline Explodes in Noble County, Ohio,  January  31,  2018
    ・Marcellusdrilling.com, Utica Pipeline Explosion in Noble County, OH Affects Natl Output, February 2, 2018
    ・Thenewscenter.tv, Environmental Group Says Pipeline Not Thoroughly Reviewed, February 1, 2018



後 記: 最近の傾向としてオイル(石油)に関係する事故より、天然ガスに関わる事故が多いように思います。掘削技術の進化により天然ガスの生産が増加しているからではないでしょうか。今回の事故を調べていて、米国を横断するロッキー・エクスプレス・パイプラインについて初めて知りました。グーグルマップで発災場所を調べましたが、天然ガスのパイプライン施設らしい場所が点在しており、特定できませんでした。また、サマーフィールド周辺は草木が刈り取られてパイプラインが敷設されたと思われる直線が数多く見られ、地下には縦横にパイプラインが走っていると感じました。これが米国経済の源泉のひとつなのでしょう。しかし、これで本当にいいのかという素朴な疑問も湧いてきます。米国国内でも、環境保護団体が監視活動をしているのがその表れではないかと思いながら、まとめました。



2018年2月12日月曜日

カナダのラック・メガンティック列車脱線事故の原因(2013年)

 今回は、2013年7月6日(土)、カナダのケベック州ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こし、47名の死者を出した事故の原因について紹介します。(当時の事故状況についてはカナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上」を参照)
(写真はtheatlantic.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、カナダ(Canada)ケベック州(Quebec) ラック・メガンティック(Lac Megantic)を通る鉄道である。この鉄道で貨物列車が脱線したが、事故のあったところは市街地の一角で店や住宅が隣接している場所だった。

先頭のディーゼル機関車
(写真はTsb.gc.caから引用)
■ 事故を起こした列車は、米国のレール・ワールド社(Rail World inc.)の子会社であるモントリオール・メイン&アトランティック鉄道(Montreal, Maine & Atlantic Railway)が運行していたもので、5台のディーゼル機関車に72両編成の石油タンク車が引かれていた。石油タンク車には原油が積まれており、米国ノースダコタ州バッケン地区からカナダ東部のニューブランズウィック州の製油所へ輸送中だった。石油タンク車は1両当たり30,000ガロン(114KL)の石油を積むことができ、輸送していた量は7,700KLだった。
ケベック州ラック・メガンティックの事故現場周辺
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2013年7月6日(土)午前1時15分頃、ラック・メガンティックで貨物列車が脱線し、脱線した石油タンク車63台のほとんどが損壊し、さらに爆発・火災を起こした。脱線したのが、ラック・メガンティックの市街地の一角で店や住宅が隣接している場所であったため、石油タンク車の爆発・炎上により周辺4区画が壊滅的な被害を受けた。
(写真はCanadianbusiness.comから引用)
(写真はTheglobeandmail.comから引用)
■ 最初の爆発以降も午前4時頃まで爆発が続き、建物40棟が倒壊し、多くの死傷者が出た。また、住民約2,000人が避難を余儀なくされた。爆発半径は1kmに達したといわれている。
(写真はCommondreams.orgから引用)
■ 火災は翌日も続き、7日(日)午後7時にやっとほぼ鎮火し、9日(火)には多くの住民が帰宅し始めた。しかし、発災現場では建物が倒壊しており、行方不明者の捜索は難航した。事故から1週間経った713日(土)に新たな遺体が確認されたが、それ以降も捜索が行われた。結局、5人が分からないまま、行方不明を含めた死者の数は47名となった。

■ 列車は事故の前、ラック・メガンティックから約11km西のナントで駐車しており、運転士はいなかった。ナントは丘の上にあり、ラック・メガンティックの町へは緩やかな下り坂になっており、列車が動き出して暴走したものとみられた。 なお、標高515mのナントから標高407mのラック・メガンティックまでの標高差は108mで、平均勾配は1.2%だった。
(列車の動き出しから脱線までの経過を映像化したYouTube「Simulationdu déraillement Lac-Mégantic」が公開されている)

被 害
■ 爆発・火災にともない、住民の死者(行方不明5人を含む)は47名にのぼった。

■ 周辺地区が壊滅的な被害を受け、40棟の建物が損壊した。また、住民約2,000人が避難をした。

■ 63台の石油タンク車が脱線して爆発・火災で損壊し、内部の原油は流出したり、焼失した。
(写真はTsb.gc.caから引用)
< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、丘の上にあるナントから緩やかな下り坂になっており、無人の列車が動き出し、約11km暴走し、ラック・メガンティックのカーブで列車が曲がりきれずに脱線したものである。

■ 大事故に至った要因はつぎのとおりである。
 ● 乗務員は運転士ひとりだけで、その夜はナントで駐車することになっており、列車は無人だった。
 ● 当夜、主機関車でボヤが起こり、消防隊が消火したが、列車のエンジンを切ったため、エア・ブレーキが効かなくなっていた。
 ● 列車にはエア・ブレーキのほか、各車両には手動ブレーキがあった。運転士は列車を離れる前に、7個の手動ブレーキをかけただけで、確認テストは行われていなかった。
                 列車のブレーキ系統    (写真はTsb.gc.caから引用)
 ● 傾斜地でブレーキ力が不十分な状態になったため、10,000トンの列車が下り坂を走行し始めた。速度は徐々に増加し、約11km先のラック・メガンティック市街地のカーブに入ったとき、列車が脱線した。速度は、カーブを安全に曲がるための速度の3倍に当たる時速105kmに達したとみられる。 
 ● 使用されていたDOT-111型の石油タンク車は、当時の安全標準に合致していなかった。このため、脱線後の石油タンク車から油が大量流出した。米国当局のテスト結果(1991年)、タンク車の外壁に補強を施すべきだという対策が表明されているにもかかわらず、カナダは新規車両だけに適用することとしており、リスクを潜在する石油タンク車を使用し続けていた。
              DOT-111型の石油タンク車    (写真はTsb.gc.caから引用)
 ● 鉄道線路が傾斜地の終わりでカーブになる形状だったため、脱線しやすかった。
(事故を調査したカナダ運輸安全委員会「 Transportation Safety Board  of  Canada: TSB」は、事故の概要を映像化にまとめてYouTubeLac-MéganticMMA Train Accident - 6 July 2013」に公開している)

< 対 応 >
■ 7月6日(土)の午後9時30分時点では、5両の石油タンク車が制御できない状況で炎上していた。7月7日(日)の朝には、燃え続けていたのは2両のみになった。ラック・メガンティック消防署は、ケベック・シティにあるウルトラマー製油所から搬送してきた特殊泡薬剤を使って、一晩中、火災と戦った。ラック・メガンティック消防署は近隣のシャーブルックや隣接する米国のメイン州からの消防隊の支援を受け、150名の消防士が消火活動に従事した。
 
■ 運輸安全委員会の調査官は、7月8日(月)、暴走した貨物列車のブラックボックスを回収したことを発表し、これが事故原因の手掛かりになるだろうと話した。

■ ラック・メガンティック列車脱線事故は、刑事事件としてモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の関係者3人が起訴され、裁判となった。長い裁判の結果、2018年1月19日(金)、カナダの裁判所は、元運転士、オペレーション・マネージャー、鉄道運行管理者の3人を無罪と判決した。
 ● 列車はナントで駐車することになっており、運転業務を終えた運転士は宿舎のホテルに移動した。運転士は列車から去る前に、鉄道運行管理者に走行中に気づいた機械的不具合と煙発生について報告した。対応は翌朝行うということになった。
 ● 当夜、主機関車でボヤが起こったが、消火のために、消防隊がエンジンを切った。列車のエンジンを切ったため、エア・ブレーキが効かなくなった。しかし、エア・ブレーキは長時間のうちにエアが漏れるので、駐車のための主ブレーキと考えるべきでない。
 ● 列車にはエア・ブレーキのほか、各車両には手動ブレーキがあり、運転士は列車を離れる前に、7個の手動ブレーキをかけた。事故後の調査によると、列車が動き出すことの無いようにするためには、17~26個の手動ブレーキをかける必要があった。手動ブレーキの確認テストは行われなかったが、この確認テストを行うには、2名の乗務員が必要だった。
 ● 運転士のブレーキ操作方法は、モントリオール・メイン&アトランティック鉄道の運転指針に従っていたものだった。なお、カナダの鉄道規則では、駐車する列車の制動は手動ブレーキだけで効くようにし、確認テストを行う必要があった。

補 足
■ 「ケベック州」はカナダ東部にあり、米国のメイン州やバーモント州と国境を接する州で、人口は約780万人である。州都はケベック・シティであるが、州の最大都市はモントリオールで、公用語はフランス語である。
 「ラック・メガンティック」は、ケベック州の南東部に位置し、人口約6,000人で、農業・林業を主とする町である。現在、鉄道はそのままであるが、建物の被害のあった区域はほとんどが更地になっている。
■ 「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」(Montreal Maine & Atlantic Railway)は、米国のレール・ワールド社(Rail World inc.)の子会社で、20031月に設立され、総延長510マイル(800km)の線路を保有し、カナダのケベック州、ニューブランズウィック州、米国のメイン州、バーモント州の顧客に物流サービスを提供している鉄道会社である。
 レール・ワールド社は、1999年、エドワード・バークハート氏によって設立された鉄道管理および鉄道の民営化・再編に関する投資・コンサルタントを行う会社である。カナダおよび米国における「モントリオール・メイン&アトランティック鉄道」のほか、欧州のエストニア、ポーランドに傘下の鉄道会社を保有する。

■  「DOT-111型」タンク車の安全性は米国の国家運輸安全委員会(NTSB)から指摘されているが、NTSBがまとめた「DOT-111 Tank Car Design」の概要はつぎのとおりである。
 ● 過去、1991年安全性の検討、1992年ウィスコン州スーペリア事故、2003年イリノイ州タマロア事故、2006年ペンシルバニア州ニューブライトン事故などを調査した結果、タンク破損の発生率が高い。
   ● 使用されているタンク車の69%はDOT-111型で、危険性物質の輸送に広く使われている。最近、バイオエタノール燃料の輸送にはDOT-111‘S型が使用されている。
 ● 米国鉄道協会(AAR)は、事故後の対応として、2011年10月からエタノールおよび原油の輸送にはすべて新しいDOT-111型を使用し始めた。この型式は、ヘッド部とシェルの肉厚増加、焼きならし鋼の使用、1/2インチ厚のヘッド・シールドの採用、上部付属物の保護などの変更を行っている。
 ●米国鉄道協会は既設タンク車の取扱いについて明確にしていない。新旧のタンク車が混在した場合、実質的に安全が強化されたとはいえない。 

< 所 感 >
■ 2013年、この事故情報に接したとき、「世の中には、予期せぬ悲惨な事故が起こるものだというのが第一印象である。週末の夜、住民6,000人の穏やかな町が、突然、戦場のように建物が壊され、炎上し、多くの人が亡くなるという最悪の事故に巻き込まれたのである」というのが、偽らざる感想だった。

■ それから5年、今回、刑事事件としての裁判結果に接して、この事故の難しさを感じた。裁判結果が示すように事故に至った状況をみると、決定的な法的な過失は無く、偶然がいくつも重なって起っている。一方、安全基準を満足していない石油タンク車が脱線・爆発・炎上という大事故に至ったのは、潜在危険性が高く、「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則どおりだともいえる。
 
■ 事故を起こしたモントリオール・メイン&アトランティック鉄道の安全文化に対する取組み姿勢に問題があったという。それでは、 この脱線事故を防ぎ得るにはどうすればよかったのか。
 ● 運転指針の作成段階での気づき(危険予知)である。列車駐車時の必要な手動ブレーキ数の根拠(データ)はあるのか、その前提条件(傾斜地、貨物車の数など)は適切かというような疑問を考えることである。
 ● 乗務員(運転士)1名による列車運行に変更になった際、ブレーキの確認テストができなくなることへの気づき(危険予知)である。(多分、初めから1名での運転ではなかったはず)
 ● 日常での運行時の運転士の気づき(危険予知)である。 傾斜地のナント駅で列車を駐車する機会は少なくなかったはずである。手動ブレーキだけで本当に効くのだろうかという問題意識をもった運転士はいるのではないだろうか。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Firedirect.net, Canada – 3 Cleared Of Negligence In Lac Magantic Railway Disaster,  January 25,  2018
    ・Blogtank-accidentspot.jp,  カナダで石油タンク車が脱線して市街地で爆発・炎上,  July  22,  2013
    ・Tsb.gc.ca,  Lac-Mégantic Runaway Train and Derailment Investigation Summary,  October  28,  2014
    ・En.wikipedia.org, Lac-Mégantic Rail  Disaster, January  25,  2018
    ・Cbc.ca, All 3 MMA rail workers acquitted in Lac-Mégantic disaster trial , January  19,  2018



後 記: 5年前、列車の石油タンク車の大事故ということでブログに紹介しましたが、最近になって事故の刑事事件としての裁判結果が出たという情報から調べてみました。47人の犠牲者が出た事故というのに、法的な過失はなかったという結果(法の限界)になにか割り切れない思いがあります。どうしようもなかったでは、所感の書きようがないので、想像を膨らませて危険予知の観点から考えてみました。融通の利かない人をマニュアル人間ということがありますが、マニュアル(基本)に則ることは大事です。一方、今回の事故原因をみても、必ずしもマニュアルが全て正しいとはいえないことがあることです。考えさせられる事例でした。
 一方、前回、所感で「事故でもう一つ注目するのは、鉄道会社の事故後の危機管理対応のまずさである。(中略) トップ(最高経営責任者)の言動がまったく不適切である。トップの危機管理意識の欠如か、トップに不適切な情報を流した組織の問題かはわからないが、“最悪のシナリオを考える米国” にもほころびが現れてきたようにも感じる事例である」と書きましたが、残念ながらほころびが進んでいるように感じますね。

2018年1月29日月曜日

豪州のリサイクル施設で車の燃料タンクが爆発して火災、負傷2名

 今回は、2017年12月13日(水)、豪州クイーンズランド州ケアンズにあるシムズ・メタル・マネジメント社のリサイクル施設の金属スクラップ置き場で廃車の燃料油タンクが爆発し、火災となった事例を紹介します。
(写真はCairnspost.com.auから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、豪州(Australia)クイーンズランド州(Queensland)のケアンズ(Cairns)ポートスミス(Portsmith)にあるシムズ・メタル・マネジメント社(Sims Metal Management)のリサイクル施設である。

■ 発災があったのは、コンポート通り沿いにあるリサイクル施設のヤードにあった金属スクラップ置き場である。
ケアンズ市コンポート通り沿いにあるシムズ・メタル・マネジメント社(Sims Metal Management)のリサイクル施設周辺 (矢印が発災場所)     (写真はGoogleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年12月13日(水)午前11時50分頃、シムズ・メタル・マネジメント社のリサイクル施設で爆発があり、金属スクラップ置き場が火災になった。施設からは有害なガスを含むおそれのある真っ黒い煙が流れた。

■ 事故に伴い、ふたりの負傷者が出た。ケガの程度は軽いといわれたが、41歳の男性は病院へ搬送され、治療をうけた。このほか、煙を吸って気分が悪くなった人が1名おり、病院に搬送された。

■ 爆発が起ったときに事務所のドアの後ろで作業していた人の話によると、事務所の窓のベネチアン・ブラインドが吹き飛ばされ、怖かったといい、現場で起こっていることが想像できたので、すぐに避難したという。周辺の会社にいた人々も避難した。

■ 発災に伴い、消防隊が出動し、8台の消防車とともに消火活動に従事した。

■ 警察は緊急事態を宣言し、近くの住民には、現時点では室内にいて、煙が入ってこないようにドアを閉め、屋外に出ないよう注意喚起した。また、呼吸が苦しいと感じた人はただちに緊急通報するよう指導した。一方、クイーンズランド消防・救助局は周辺地区の通りで大気(空気質)のモニタリングを行った。同機関は科学専門担当官とハズマット隊と連携して、地域に及ぼす煙の悪影響の有無について監視した。

■ 金属スラップ置き場にはいろいろな種類の材料が置かれており、その中には潜在的に燃え得る性質のものもあり、結果として燃焼したものとみられる。幸い、当該スラップ置き場は細かく区切られており、火災の消火作業にとっては若干有利な条件だった。 しかし、12月13日(水)午後6時の時点でも、火災が続いており、大量の煙が発生した。

■ 消防隊は、一晩中、重機のエクスカべーターを使ってスクラップの山を崩しては火元を露出させて消火活動を行わなければならなかった。

■ 消防隊の消火活動は12月14日(木)午前5時まで行われた。

■ 発災が起こる前に、1台の車両がスクラップ置き場で移動していたという。シムズ・メタル・マネジメント社によると、廃車を押しつぶしたときに、車の燃料タンクに残っていたガソリンがわずかに漏れて、何らかの発火源で引火した可能性があるとみている。 
(写真はChirnspost.com.auから引用)
(写真はcairnspost.com.auから引用)
(写真はcairnspost.com.auから引用)
被 害
■ 事故に伴って負傷者が2名出た。

■ 住民への避難指示は出されなかったが、家のドアを閉めて室内にいるよう注意喚起が出された。

■ 金属スクラップ置き場が焼損した。 損害額は分かっていない。

< 事故の原因 >
■ 事故の原因は特定されていないが、廃車を押しつぶしたときに、車の燃料タンクに残っていたガソリンに何らかの発火源で引火・爆発したとみられる。

< 対 応 >
■ 発災時の煙はケアンズ地域評議会の部屋から見えた。議員のひとりは、音は聞こえなかったが、大量の煙が流れていくのがはっきりと見えたといい、撮影した写真を公開した。 
ケアンズ地域評議会から見えた火災の状況
(写真はNews.com.auから引用)
補 足
■ 「豪州」(オーストラリア)は、南半球に位置し、正式にはオーストラリア連邦で、人口約2,400万人の国である。オセアニアに属し、オーストラリア大陸本土、タスマニア島のほか多くの小島から成る。
 「クイーンズランド州」は、豪州の北東部に位置する州で、人口約503万人の州である。
 「ケアンズ」(Cairns)は、クイーンズランド州の北東部にあり、ヨーク岬半島の付け根付近に広がる珊瑚礁に面する港湾都市で、人口約150,000人である。 
豪州の各州の位置   (図は2m.biglobe.ne.jp から引用)
■ 「エクスカべーター」(Excavator)は、本来、掘削用重機であるが、解体工事分野でも押しつぶしなどの作業に使用している。また、解体専用の機種も製造されている。今回の事例では、消火活動時の写真で使用された機種が分かる。   

所 感
■ 2017年3月に起った「豪州の自動車解体施設でLPG燃料タンクによる火災」によく似た事故である。
 同事故への所感では、「解体作業がどのような工程をとられているか分からないが、かなり荒い作業を行っていたという印象をもつ。しかし、燃料油の場合、燃料タンクからの油の抜き取りは比較的容易であるのに対して、 LPG燃料タンクでは残量が分かりにくい上にLPGの抜き取り(大気放散でなく)はむずかしい。この観点からすれば、LPG自動車の解体作業における盲点だったように思う」と書いた。
 しかし、今回の事故は、起こりにくいはずの燃料油のタンクで発生したとみられる。約8か月前に同じ豪州で類似事故が起こっているのである。事例が活かされない典型的な例だといえる。

■ スクラップ置き場の消火作業が困難だということが分かる事例である。前回は、LPG燃料タンクがどのくらいの数あるかわからない状況から、当初は火災拡大を防ぐ冷却を主とした防御的消火戦略がとられ、その後、爆発がおさまった段階で積極的消火戦略がとられたとみたが、今回は、最初から積極的消火戦略をとっている。しかし、スクラップ置き場の下部で起こっている火災を消火するために、重機のエクスカべーターを使ってスクラップの山を崩して火元を露出させながら対応しなければならなかった。このため、一晩中かかって17時間の消火活動を余儀なくされ、消防隊にとっては大変な作業だったと思う。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Abc.net.au, Petrol Tank Explosion in Cairns Metal Recycling Plant ‘Blew the Blinds off‘,  December  13,  2017
    ・ Dailymail.co.uk, Petrol Tank Explodes at Cairns Metal Scrapyard - Injuring Two People and Sending Thick Black Plumes of Poisonous Smoke into the Sky,  December  13,  2017
     ・Cairnspost.com.au, Spark from Pieces of Metal being Stacked Suspected Cause of Blast and Fire at Sims Metal in Cairns,  December  14,  2017
   ・Mypolice.qld.gov.au, Emergency Declaration due to Industrial Fire in Cairns,  December  13,  2017
     ・9news.com.au, Three Injured after Fiery Explosion Rocks Cairns,  December  13,  2017
     ・Tweeddailynews.com.au, Fuel in Car Suspected of Sparking Metal Yard Blast,  December  14,  2017


後 記: この事故情報に最初に接したとき、リサイクル施設に設置されていたガソリンタンクの爆発・火災だと思いました。しかし、そうではなく、廃車の燃料用タンクで、以前紹介した事例の類似事故だとわかりました。類似事例が起こっていながら、事故防止に活かされていません。情報を調べていて感じたのは、豪州がおおらか(らしい)国ということです。おおらかさは結構ですが、事例は活かしてもらいたいですね。
 ところで、前回のときは貯蔵タンクの事故が無かった(情報が聞こえてこないというのが正しい)ことから、少し異質ですが、紹介することとしました。不思議なことに、今回も貯蔵タンクの事故情報を聞かない状況です。相関はないと思いますが、どうなんでしょうか。まあ、貯蔵タンクの事故が無いということは良いことではあります。


2018年1月22日月曜日

イランの石油タンカーが中国沖で衝突・炎上して漂流後沈没、死者32名

 今回は、2018年1月6日(土)、中国・上海沖の東シナ海で石油タンカー(サンチ号)が貨物船(CFクリスタル号)と衝突して爆発・炎上し、乗組員32名全員が死亡して約8日間漂流した後、沈没した事例を紹介します。
(写真はBbc.com から引用)
< 発災施設の概要 >
石油タンカーのサンチ号(事故前)
(写真はZerohedge.com から引用)
■ 発災施設は、イランのナショナル・イラニアン・タンカー社(National Iranian Tanker Company)が運営管理しているパナマ船籍の石油タンカーのサンチ号(Sanchi)である。サンチ号は2008年に建造され、全長約274mで、総トン数約85,000トン、載貨重量約164,000 DWTで、イラン人30名とバングラデシュ人2名の計32名の乗組員が乗船していた。サンチ号はイランから韓国への石油を輸送していた。油種はコンデンセートと呼ばれる軽質原油の一種で、136,000トンを積んでいた。
 
■ 発災があったのは、米国から中国広東省に約64,000トンの穀物を輸送していた香港船籍のCFクリスタル号(CF Crystal)と石油タンカーのサンチ号が東シナ海で衝突したことによって起った。 CFクリスタル号は2011年に建造され、全長約217mで、総トン数約42,600トン、載貨重量約75,700 DWTで、中国人21名の乗組員が乗船していた。
東シナ海(East China Sea)周辺と衝突場所(マーク部) 
 (写真はCbc.caから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2018年1月6日(土)午後8時頃、中国・上海の東160海里(300km)の沖合で石油タンカーのサンチ号と貨物船のCFクリスタル号が衝突した。サンチ号は衝突後すぐに爆発があり、火災を起こした。

■ 1月7日(日)になっても石油タンカーの火災は収まらず、正午頃、爆発があり、黒煙は800~1,000mの高さにまで立ち昇った。発災に伴い、中国当局が8隻の船を派遣し、韓国は沿岸警備艇と飛行機を支援のため送った。米国海軍もまた救助活動を支援するために、沖縄の嘉手納基地から軍用機を飛ばした。中国公船が石油タンカーの消火に当たったほか、通過船の偶発的な侵入を避けるため、周辺に航行警報を出し、巡視船と航空機で監視を続けた。

■ 1月8日(月)、CFクリスタル号の乗組員21名は全員無事であることが確認されたが、サンチ号の乗組員は行方不明である。 

■ 1月8日(月)午後の状況は、船から真っ黒い煙が吹き出しており、さらに強風と雨と高波という悪天候によって視界が悪くなっており、現場での活動は難航した。 しかし、船から流れて来たとみられるひとりの遺体が発見された。

■ 1月9日(火)、強風・高波の悪天気が続き、さらに石油タンカーの火災で有毒ガスが発生したことによって、消火活動や捜索・救助活動は難航が続いた。

■ 衝突事故から3日が経っても、依然として石油タンカーは火災を起こしたまま漂流し続け、環境への懸念が高まった。コンデンセートは、油流出でよく見られる黒色の原油とは非常に異なっている。コンデンセートは、天然ガス田から採取される原油の一種で地表において凝縮分離した軽質液状の炭化水素である。コンデンセートは、常温常圧において液体でナフサの成分とよく似ており、ガソリンや石油化学原料として利用されるが、硫黄(硫化水素)、ヒ素、水銀、鉛などの不純物を含むことがあり、毒性が高く、原油よりも爆発性がある。流出事故が起ったときの環境への懸念という点では、衝突が海岸線からかなり離れたところで起こっており、軽質の原油のため比較的速く蒸発・分散されるので、大きなインパクトにはならないかも知れないという。一方、環境専門家の中には、広範囲の海洋生物を殺す可能性があると指摘した。
炎上しながら漂流する石油タンカーのサンチ号
(写真はXindemarinenews.com から引用)
上写真の拡大 (右舷に大きな凹みが見える)
(写真はXindemarinenews.com から引用)
■ 石油タンカーは炎上したまま、上海と奄美大島の間の海域を時速2.2kmほどの速さで漂い、110日(水)の夕方には、衝突地点から南東へ約65海里(120km)の距離を漂流した。韓国の海洋漁業省は、貨物船との衝突後4日目に猛烈な火災が発生したため、タンカーは燃え尽きるまで1か月近く炎上する可能性があるとの見方を示した。
(写真はDw.com から引用)
(写真はMaritimeherald.com から引用)
(写真はFinancialexpress.comから引用)
            炎上するサンチ号の消火活動   (写真はFinancialexpress.com から引用)
(写真はRferl.org から引用)
(写真はAfpbb.comから引用)
■ 110日(水)午後1230分頃、サンチ号の船首側の一部で爆発が発生した。中国の事故対応部隊は石油タンカーから離れざるを得なかった。日本の海上保安庁・第十管区海上保安本部の巡視船「こしき」が、同日午後12時頃に現場海域に到着した。

■ 1月13日(日)、中国は13隻の船舶が出して消火活動および捜索・救助の活動を行った。爆発のリスクがある中で石油タンカーに乗船し、デッキに2名の遺体を発見したが、船内は有毒ガスと90℃近くの高温の環境で捜索は難しかった。サンチ号の乗組員は先に発見された遺体と合わせて3名の死者が確認され、行方不明は29名となった。 また、石油タンカーのブリッジから衝突の原因調査に役立つブラック・ボックスが回収された。
         サンチ号での捜索・救助活動 (ブリッジの階段付近に赤い作業着の人影が見える)
(写真はChinaplus.cri,cn から引用)
            サンチ号での捜索・救助活動 (サルベージ船からクレーンを使って乗船)
(写真はThechemicalengineer.comから引用)
              サンチ号での捜索・救助活動 船尾付近に赤い作業着の人影が見える)
(写真はEblnews.com から引用)
■ 衝突して損傷した貨物船CFクリスタル号は、事故から4日後に中国浙江省舟山市の港に入った。CFクリスタル号の乗組員によれば、事故から最初の1時間の間に起った爆発と有害ガスの放出によって石油タンカーの乗組員は全員亡くなったのではないかと語っている。
          衝突して損傷した貨物船CFクリスタル号    (写真はThecover.cnから引用)
■ 石油タンカーは衝突後、火災を起こしながら、日本の奄美大島の西方の排他的経済水域(EEZ)付近を漂流していた。 114日(日)正午頃、突然、石油タンカー内で爆発を伴う激しい火災が発生し、船体が大きく傾き、炎や黒煙に包まれて見えなくなった。石油タンカーは横転し、午後5時頃に沈没したものとみられる。海面では石油タンカーから流出した油が燃え続けているという。 日本の海上保安部によると、奄美大島の西方約315kmでレーダーから船影が消えたので、この付近で沈没したとみられるという。
              石油タンカーの漂流軌跡  (写真はThecover.cnから引用)
                沈没していく石油タンカー  (写真はGizmodo.com.au から引用)
(写真はYomiuri.co.jpから引用)
(写真はAbcnews.go.com から引用)
■ 115日(月)、石油タンカーのサンチ号が沈没したことを受けて、イラン当局は乗組員32名全員が死亡したと発表した。

■ 沈没翌日の1月15日(月)午前1時30分時点でも海面で火災が続いているのが確認されたが、1月15日(月)午前10時頃に火災は消えた。

■ 石油タンカーのサンチ号の沈没によって、大量で有害な油膜がこの海域に脅威を与えることになった。油膜のエリアは101平方キロメートルとパリの市域に相当し、沈没前から倍増した。中国当局によると、油膜は大きく4つに分かれ、その中で最も広いのは48平方キロメートルだという。油膜には、サンチ号の機関用の重油を含んでいる。今後、積載していた136,000トンのうち焼失した残りのコンデンセートが沈没した船から流出してくるとみられる。この種の油膜は見分けにくい一方、有害な海中油膜として大量に形成され、海中生物に被害を与える可能性がある。
              石油タンカー沈没後の油膜の漂流   (写真はXinhuanet.comから引用)
■ 英国のナショナル海洋センター(National Oceanography Centre とサウスアンプトン大学(University of Southampton)によるコンピュータモデルによれば、油膜は韓国沿岸に漂着する可能性があるが、3か月以内に到達することはないだろうとみられている。しかし、この海域の海流は複雑であり、またコンデンセート海上流出の事例は少なく、どのような挙動をとるのか予測がつかないという。
              東シナ海の海流と流出油膜の漂流    (写真はBbc.com から引用)
■ 石油タンカーの火災が消滅して沈没したため、中国の2隻の船がこの海面に油を分散するケミカルを散布した。

■ 1月17日(水)、中国当局は、海中に沈没した石油タンカーのサンチ号を発見したといい、今後、さらに水中ロボットで調査を行う予定だと発表した。サンチ号は、1月16日(火)朝、深さ115mの海底に沈んでいることが分かった。

■ 1月18日(木)、中国農業省は、サンチ号から流出した油の影響を調べるため、調査船2隻を派遣した。約1週間かけて、衝突した海域から船が沈没した地点に移動しながら、海洋生物や海底の泥を採取するなどして環境への影響を調べるという。

被 害
■ 総トン数約85,000トン(載貨重量約164,000 DWT)の石油タンカー1隻が衝突・炎上後、海に沈没した。衝突した相手の貨物船も船首側を大きく損傷した。

■ 石油タンカーに積載されていたコンデンセート136,000トンの一部が火災によって焼失したほか、残りは石油タンカーとともに海中を沈んだ。また、石油タンカーの機関用燃料の重油が流出した。これらの油流出によって海域が汚染されているが、影響は調査中である。

■ 事故に伴い、石油タンカーの乗組員32名が死亡した。

■ イランのナショナル・イラニアン・オイル社(National Iranian Oil Company:NIOC)の推定によると、損害額は110百万ドル(121億円)で、内訳は石油60百万ドル(66億円)、タンカー本体50百万ドル(55億円)である。

< 事故の原因 >
■ 衝突の原因は分かっていない。

< 対 応 >
 ■ 1月8日(月)、中国外務省は捜索・救助活動に好ましい状況ではないと語った。香港船籍の貨物船CFクリスタル号に乗っていた中国人21名が救助されたにもかかわらず、石油タンカーのサンチ号の乗組員32名の情報について何も正式発表されなかった。

■ 1月12日(金)、イラン当局の都市開発・道路交通省の湾海海洋局が12人から成る同国の救助隊を上海に派遣した。その後、中国の事故対応部隊とともに捜索・救助活動に参加した。イランは、オランダとドイツの火災対応の専門家2人を雇用し、現場で中国の捜索・救助隊員に助言していると述べている。

■ 1月12日(金)、日本の海上保安庁は、イランから日本に消火活動支援のためヘリコプターと固定翼機の派遣要請があり、日本が中国に支援を申し出たところ、中国側からこの事故は自国で対処すると返答があったと報じられている。この事故でイランは中国の救助活動を批判してきた。  

■ 1月16日(火)、中国外務省は、イランの一部から出ている中国がサンチ号の乗組員救助に努力していなかったという意見に対して、この指摘は偽りで無責任だと反論した。中国は、上海と江蘇省から事故対応部隊を編成し、日本と韓国と協力しながら救助活動を行ったと語った。

■ 1月15日(月)、環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、石油タンカー事故の環境リスクを懸念してつぎのような声明を発表するとともに、事故の概況についてまとめた「石油タンカー衝突事故に関する概況報告書」をウェブサイトに掲載した。
 ● グリーンピースは、タンカーに積まれた軽質原油のコンデンセート136,000トンの流出によって、起こりうる環境への影響を懸念し、今後の除去作業の状況を注視している。
 ● 現時点では、海に流出したコンデンセートの正確な量、どのくらい燃焼または蒸発したかを見積もるのは不可能である。コンデンセートは軽質、無色、ある程度可溶性であるため、濃厚な原油よりも水から分離させるのが一層困難である。
 ● コンデンセートには硫化水素などの有毒成分が含まれており、その揮発により大気汚染が引き起こされる。さらに、これらの化学物質の燃焼および分解プロセスにおいて、一酸化窒素、二酸化窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの汚染物質が発生し、ヒトが吸入したり皮膚に触れた場合に有毒となる可能性がある。流出量をできるだけ早く調査し、適切な封じ込めと除去対策を講じなければならない。

■ グリーンピースが指摘する海洋環境と食用魚種への潜在的なリスクは、石油タンカーの沈没がウマヅラハギやケンサキイカなどの多くの商業的な魚種にとって重要な産卵場所で発生したとし、この時期、同地域では、タチウオ、キグチ、マサバおよびワタリガニなどの一般的な食用種が越冬地と して利用しており、また、ザトウクジラ、セミクジラ、コククジラなど多くの海洋哺乳類の移動経路であるといい、つぎのような提案をした。
 ● タンカーが沈没してしまったいま、環境への影響を最小限に抑えるために、コン デンセート流出による潜在的な影響を評価する作業に移行することが重要である。
 ● どのくらいのコンデンセートが流失したかの分析をできるだけ早く実施し、適切な封じ込めと除去対策を講じる必要がある。
 ● 中期的には、開放海域での今回の衝突の原因を究明する綿密な調査を行う必要がある。 乗組員の人命や 環境へのリスクは非常に大きく、この事故から教訓を得なければならない。

所 感
■ 何もかも異常な石油タンカーの衝突事故である。乗組員32名が全員死亡し、衝突から8日間(約189時間)爆発・炎上を繰り返しながら漂流を続けた後に沈没に至るという事故が現実に起こりうるのである。
 衝突の原因は調査中で分からないが、発災写真を見ると、石油タンカーのサンチ号は右舷船首側に大きな凹んだ跡が見える。一方、衝突相手の貨物船のCFクリスタル号は船首左側に大きな陥没跡が見える。この損傷状況からみると、石油タンカーの右舷横っ腹に貨物船の船首が激しく突っ込んだと思われ、果たして回避行動が行われたのか疑問をもつ。夜(午後8時頃)という時間帯ではあるが、両船とも長さ200mを超える大型船であり、監視されていれば、このような激しい衝突は避け得たであろう。

■ 石油タンカー・サンチ号の被災写真を見ると、船体の火災部のほかブリッジ周辺もひどい焼け方をしており、爆発・炎上がかなり激しかったと思われる。それにしても乗組員32名全員が亡くなるというのは信じがたい状況である。燃焼性が高く、有毒ガスを生成するコンデンセートの危険性を如実に表しているといえよう。

■ 石油タンカー・サンチ号の火災は常に右舷で生じていると思われ、右舷側のタンクや配管が損傷して、爆発と火災が繰り返して起ったものと思われる。一旦、火が消えても漏れ出た可燃性ガスに高温の部材で引火することは容易に想像できる。極めて条件の悪い中で懸命な消火活動が行われたみられるが、沈没が近いと思われる石油タンカー・サンチ号の写真を見ると、船はかなり沈んでいる。おそらく、高波による海水の浸入と消火水によって船内のタンクに水が入り、傾いていったものと思われる。消火を達成しないと、乗組員の捜索・救助が行えないという状況ではあったが、積極的消火戦略をとり続けたのは適切ではなかったように思う。この点は研究すべき事項だと感じる。 


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Firedirect.net, China – Burning Oil Tanker Off Coast ‘in danger of exploding’, January  08,  201
      ・Aasahi.com, 東シナ海でタンカー炎上、32人不明 貨物船と衝突, January  07,  2018   
      ・Columbian.com, Oil Tanker Burning off China’s Coast at Risk of Exploding, January  08,  2018
      ・Cnn.co.jp, タンカーが貨物船と衝突し炎上32人不明 中国沖, January  08,  2018
      ・News.nicovideo.jp, 一カ月炎上の懸念も − 東シナ海でタンカー衝突事故、イラン海運企業が日本に救援要請, January  10,  2018
      ・Cnn.co.jp,  Oil  Tanker Sanchi Partially Explodes in East China Sea, January  11,  2018
      ・Huffingtonpost.jp, 上海沖で衝突、火災を起こしたタンカーが漂流 東シナ海, January  11,  2018  
  ・Afpbb.com, 中国沖で衝突・火災のタンカーで新たに爆発、日本のEEZ内に漂流, January  13,  2018
      ・Theguardian.com, Two bodies recovered from burning oil tanker adrift off China coast, January  13,  2018
      ・Bbc.com, Burning oil tanker sinks off China after one week, January  14
      ・Yomiuri.co.jp,  炎上漂流タンカー、奄美沖で沈没…原油流出恐れ,  January 14,  2018
      ・Reuters.com, Burning Iranian oil tanker sinks after January 6 accident: Chinese state TV, January  14,  2018
      ・Sankei.com,  上海沖で衝突のタンカー、日本の排他的経済水域内で沈没か,  January  14,  2018
      ・Theguardian.com,  Iranian oil tanker sinks off China as official says no hope of survivors, January  14,  2018
      ・Bbc.com, Huge oil spill left after burning tanker sinks off China, January  15,  2018
      ・Gizmodo.com,  Burning Oil Tanker Sinks Creating Huge Spill in East China Sea, January  15,  2018
      ・Edition.cnn.com, Burning Oil Tanker Sinks in the East China Sea, January  15,  2018
      ・Greenpeace.org, 2018/01/15 グリーンピース声明:石油タンカー事故、環境リスクを懸念, January  15,  2018
      ・Xinhuanet.com, China says claims of inadequate rescue of sunken oil tanker "untrue, irresponsible“, January  16,  2018
      ・Xinhuanet.com, China Detects Position of Sunken Oil Tanker Sanchi, January  17,  2018
      ・Www3.nhk.or.jp, タンカー沈没 中国が流出油の影響調査で船派遣, January  19,  2018
      ・En.wikipedia.org, Sanchi Oil Tanker Collision, January  20,  2018
      ・Xindemarinenews.com, 16万吨级油轮碰撞全船爆燃第一现场视频。有爆炸危险,10海里半径避航!, January  12,  2018



後 記: 今回は陸上の貯蔵タンクの事故ではありませんが、日本でもニュースに取り上げられた事故であり、経過を注目していた事故でした。当初は国内のメディア(海外メディアの日本版を含む)も盛んに報じていましたので、これらの報道記事だけでまとめられるのではないかと思いました。しかし、情報を整理していくと内容に違いがあり、その後の続報も不足してまとめられる状況ではないと感じました。結局、中国での取材をもとにした欧米のメディアによる情報が参考になりました。ただ、海外メディアの記事は日にちではなく、曜日の表示が多く、今回のように二週にまたがるような事故の場合、日にちが曖昧で不確かなところがあるのではないかと思っています。

 この事故について日本の排他的経済水域(EEZ)付近で漂流して沈没し、油流出による環境汚染や漁業への影響が懸念される状況でありながら、日本の海上保安庁、農林水産省、環境省などからの情報が聞こえてこないのはなぜでしょう。海上保安庁は巡視艇を派遣しているので、状況をつかんでいるはずですが、あまりにも情報公開に消極的です。

 また、石油タンカーの被災写真はたくさん報じられていますが、これも不思議なことに衝突した右舷側の写真が出てきません。衝突の激しさを示す写真は上空から撮られたものが一枚だけです。写真は中国から提供されたものが多いので、意識的に右舷側からの写真を公表していないと思わざるを得ません。このためか、フェイク写真(別な写真を含む)と思われるもの(下写真を参照)が出ています。この中には、標題の写真に使いたいものがありました。ニュースの記事の信頼性や写真の真偽に悩ませられながらまとめました。