2012年12月31日月曜日

最近の石油貯蔵タンク火災からの教訓

 今回は、2012年5月9日に行われた第11回国際燃焼・エネルギー利用会議でBAM (ドイツ連邦材料試験研究所)が発表した「Lessons Learned from Recent Fuel Storage Fires」の資料について紹介します。
 本情報は2012年5月9日に行われた11th Int. Conference on Combusion and Energy Utilization(第11回国際燃焼・エネルギー利用会議)で発表され、インタネットで公表された「Lessons Learned from Recent Fuel Storage Fires」(By Kirti Bhushan Mishra, Klaus-Dieter Wehstedt and Holger Krebs: BAM  Federal Institute for Materials and Testing;ドイツ連邦材料試験研究所 )の資料について要約したものである。
要 旨 
 最近、石油貯蔵施設において起こった大きな爆発・火災発事故の危険性は多くの注目を集めている。規制機関や科学界のいずれも、このような大災害を回避するため、適切な安全対策について大きな関心が寄せられている。この論文は、最近に起こった英国バンスフィールド火災(2005年)、プエルトリコ火災(2009年)、インドのシータプル火災(2009年)の石油貯蔵タンク火災事故において生じた危険性についてまとめたものである。これらの事故が起こった背景にある潜在的な類似性について検討したものである。国際的な基準によって爆発および火災の安全距離を推測するため、各種方法(モデル)の適用性とコンピュータ・シミュレーションについて確認した。爆発と火災の危険性を評価するために、蒸気雲爆発(VCE)および火災の放射フラックスによって生じる過圧力(オーバープレッシャ)について検討した。米国防火協会(NFPA)とヨーロッパ標準(EN)によって定められた基準について焦点を置いた。
Ⅰ.はじめに
■ 工業界における安全は進歩しているにもかかわらず、世界規模で見ると、なおも爆発や火災事故がたびたび起こっている。事故は、設備の誤作動によるものから、人の判断ミスなど、いろいろな要因によって起こり得る。このような失敗によって、例えば貯蔵タンク周辺に、突然、石油が流れ出し、蒸気雲が形成される。燃焼性があって点火源があれば、蒸気雲は大きな爆発、いわゆるプロセス安全分野において言われる蒸気雲爆発を生じる可能性がある。最近10年間でも、貯蔵タンク施設では多くの重大事故が報告されている。しかし、ここでは、3件の重大事故について取り上げる。1番目の事故は2005年のバンスフィールド火災(英国)、2番目は2009年のプエルトリコ火災(USA)、3番目が同じく2009年のシータプル火災(インド)である。本論文の議論は、前記3件の事故のみを対象にしている。これらの事故には類似性が多く見られ、特に重要なことは、蒸気雲爆発のあと、引き続いて火災が起こっていることである。バンスフィールド火災については調査報告書が公表されており、過圧力を導き出すパラメータが得られた。他の2件の火災については新聞や雑誌の記事から得た情報をもとに同様に仮定して導いた。
■ 蒸気雲の結果として形成される過圧力は、2150kPaの範囲にあると推測されている。このような超過圧力は、いろいろ発表されている既存モデルによって推測することができる。しかし、バンスフィールド火災後に推算された過圧力のピーク値が200kPaを超えているということは、これまでの蒸気雲爆発に関する常識から考えられないことだった。このような過圧力が形成するということは、パラメータについて考え直す必要がある。多くの要素の中から、ある主要なパラメータがDDT(爆燃-爆轟遷移)に重要な働きをする。結果としてDDTが出現すれば、爆発による災害はより甚大なものとなる。従って、過圧力の形成に寄与する条件を注意深く追及し、安全対策を見直していく必要がある。前記に挙げた事故に関していえば、いくつかの疑問点が出てくる。例えば、バンスフィールド火災でわかった過圧力は、プロセス安全分野において予想できなかったのか?  蒸気雲に関する既存モデルでは、過圧力を推測することができなかったのか?  このように答えられていない疑問点がいくつかある。この論文では、この点について言及し、数値流体力学(CFD)によるシミュレーションの導入を含め、これまでと別なモデルを適用して分析することを試みた。
■ 本論文の第2章では、爆発後に、たまに起こることのある大規模なプール火災に対する安全距離の推測について論じる。爆発の大きさ、タンクの基数および周辺条件によって、プール火災は1箇所または複数箇所になる。時には、1回目の爆発および/または続いて起こる爆発によって周囲のタンクを巻き込み、猛烈な火災へ至ることがある。このような火災が起こったときには、次々と悪い方向へ向かう。影響の及ぶ範囲は、災害の大きさによって異なり、数mの単位から数kmの規模になることもある。一方、安全距離の基準は、火災が人の生命や施設へ及ぼす損傷特性に基づいて作られた分類によっているのが通常である。このような大きなプール火災からの安全距離(本論文で報告)は、あとで示すような既存と異なったモデルによって推測できる。さらに、数値流体力学を使って安全距離を推測することについて述べる。
大事故の概要
■ この章では、この10年間に起こった重大火災事故の概要について紹介する。多くの大事故が起こっているが、ここでは、A.バンスフィールド火災(2005年)、B.プエルトリコ火災(2009年)、C.シータプル(2009年)だけを取り上げる。表1には、これらの事故の主要な事項について記載している。
A. バンスフィールド火災(2005年、英国)
■ 20051211日の早朝、バンスフィールド貯蔵施設の912番タンクに無鉛ガソリンを過剰(タンク容量より多く)に受入れ、タンクをオーバーフローして、防油堤内に油が溜まった。912番タンクに設置されていた自動安全警報設備が故障していたため、常用運転時の2倍以上の割合で受け入れてしまった。非圧縮性流体の圧力差と流量には、⊿ p V2の関係があり、タンクは、常用運転条件における圧力の2.2倍の液体の過圧力で、オーバーフローしていたことが明らかである。(表1も参照)
1 バンスフィールド火災事故(2005年、英国)
■ この液体の過圧力が、無風に近い条件のもとで蒸気雲の形成に寄与し、さらに爆発の(ガス)過圧力に寄与したことは確かである。蒸気雲爆発の過圧力に関する既存の考え方では、バンスフィールドで生じた実際の過圧力の大きさに対してむしろ過小に評価してしまう。バンスフィールドの蒸気雲爆発について試算してみると、過圧力の平均推定値は5kPaとなり、破壊状況(被害解析の結果)から推測される過圧力 >200kPaと大きな差がある。蒸気雲の直径は391mと推定されており、(最初の)点火源はポンプ室の高速回転機械だと見られている。過圧力の影響は爆発点から2km離れたところでも感じられた。幸いなことに死亡者は出なかったが、重軽傷者の発生は避けることができなかった。
B. プエルトリコ火災(2009年、米国)
2 プエルトリコの貯蔵施設火災事故(米国、2009年) 
■ 2009年10月23日、米国自治領プエルトリコのバヤモンにあるカリビアン石油においてバンスフィールド火災と同様の経緯で事故が起こった。この事故でも、石油製品、特にガソリンの受入れ流量をコントロールできない状況があり、蒸気雲が形成され、最終的に大きな爆発の過圧力(リヒター・スケール2.8)を引き起こしてしまった。事故の状況を図2に示す。事故調査は米国の化学物質安全性委員会(CSB)によって現在も継続中であり、事故の詳細は公表されていない。インターネットおよび新聞から得られた情報の一部は、表1に記載している。目撃者の証言や被災の状況を考え合わせてみても、当該事故はバンスフィールド火災と類似性のあることがわかる。
C. シータプル火災(2009年、インド)
3 シータプルの貯蔵施設火災事故(インド、2009年) 
■ 2009年10月29日、インドのシータプル工業地区(ジャイプールの近く)にあるインディアン石油のガソリン貯蔵所において爆発のあと火災が起こり、延焼して火災は1週間以上続いた。インド石油産業安全局によって事故調査が行われた。この火災事故もバンスフィールド火災と類似性が見られた。ただし、シータプル事故の背景には、オペレータの知識不足・思い違いによる要因があった。しかし、科学的観点から見れば、当該事故も前述2件の事故と類似性がある。すなわち、タンクからのオーバーフロー、静かな大気中(弱い風速)での蒸気雲の形成、ポンプ・発電所による点火源、そして最終的に他のタンクへの延焼である。
ハザード基準
■ 一般に、可燃性液体を貯蔵する施設は、規制機関によって制定された標準的な基準に基づいて設計される。しかし、工業分野によっては自分たちのハザード軽減基準をもっているところもある。いずれにしても、爆発や火災によって生じる被害についてはっきりさせなければならない。最も重要なことは、爆発の過圧力や火災の熱輻射によって人や近隣施設が受ける被害について、建設や操業の前に、定量化させておく必要がある。 この章では、蒸気雲爆発と大規模なプール火災に至るようなガス爆発・火災について科学的に言及する。
A. 蒸気雲爆発(Vapor Cloud Explosion; VCE)
■ 蒸気雲爆発の形成は、多くの要因の組み合わせとみることができる。蒸気雲爆発(ここで論じている事故に関して)によって生成する過圧力は、主につぎのパラメーターに基づいている。 
      1.燃料の可燃性および量(Flammability and Quantity of Fuel) 
      2.空間の封じ込め度/過密度(Degree of Confinement/Congestion) 
      3.点火源および点火の強さ(Source and Strength of Ignition) 
      4.気象条件(Weather Condition)
■ これまでに考えられてきた実験的なモデルは、ほとんどが上記の4つのパラメーターに基づいている。要因の一つが欠ける状況では、発生の可能性や範囲は大きく変わってくる。例えば、ある場所で蒸気雲が形成しても点火源が無ければ、有害性はないかもしれない。あるいは、風速が高い状況であれば、蒸気が拡散し、滞留する危険性は小さくなる。リスク・アセスメント分析では、このような危険性の存在程度や要因に関する組み合わせなどの検討を行う。
■ 以前から多くの研究が行われてきているが、最近では、バンスフィールド火災の蒸気雲爆発による過圧力について解き明かす研究が行われている。これまでは、蒸気雲爆発に関する常識として、異常な過圧力が形成することはないというレポートが多かったが、最近になって高い過圧力が形成するという論文が多数出されている。このような方向性にあるけれども、我々は、今回、利用可能なモデルの適合性について検証してみた。関連文献の中から、蒸気雲爆発の過圧力を推測できるとする6つの異なった方法を選んだ。それぞれについて簡略に説明するとつぎのとおりである。
1.TNT等価法(TNT Equivalent Method)
■ この方法は、蒸気雲爆発によって形成する過圧力を評価するには最も簡単な方法である。燃焼性(炭化水素)物質WHCの体積または重量が与えられれば、TNT火薬の等価重量WTNTがわかる。TNT等価重量によって引き起こされる破壊状況は同じだと仮定したものである。軍時目的によってTNT火薬の爆発特性に関するデータは数多く蓄積されており、TNT火薬のデータから対象物質の特性を推定するというのは簡単である。次式(1)と(2)は同じことを示している。
4 蒸気雲爆発と換算距離から求める過圧力(ベーカーほか)
■ 式(1)の得率ηは現場の過密度によって変わる。R(m)は爆心からの距離である。同式に関して経験に基づく標準的な値は3~5%である。化学量論的な割合にある場合や極めて過密度の高い場所の場合、20%の値になる例が報告されている。図4から換算距離Z(m・kg-1/3)から現場における圧力を表す線を介して過圧力は縦軸の値によって求めることができる。初期評価のためには、この方法が利用できる。
■ 例えば、この方法をバンスフィールト火災に適用してみる。得率を20%と置き、爆発源から距離2kmの場所では、過圧力は~9kPaとなる。得率をもっと小さく3%と置いた場合にも、TNT等価法では、過圧力は約4kPaとかなり高目の値となり、このときバンスフィールド火災で爆発源と見られているポンプ室から2kmの場所でも余り下がらない(0.7~1kPa)。このように過大に評価する傾向にあり、バンスフィールド火災のような事故では、この方法はあまり使用されない。この方法の最大の欠点は、TNT火薬で生じる現場の圧力は>100kPaとかなり高くなるが、可燃性ガス爆発では爆発波が遠くまで伝播するという違いがあるためである。従って、広い空間のある場所では、過圧力を正しく推測できないといえる。
■ この方法をプエルトリコ火災とシータプル火災に適用し、爆発に寄与した可燃性燃料の重量に従って過圧力を推測すると、それぞれ24kPaと13kPaとなる。(表2参照)
2.UKAEA法
■ この方法は、英国原子力機関(UK Atomic Energy Agency)によって考えられたもので、爆発の過圧力を推定するものである。 決定には、点火源の強さ、封じ込め度/過密度に関連するデータが必要である。バンスフィールド事故のように強い点火源(緊急ポンプ室)で、封じ込みがなく、過密度が低いレベル(<30%)の場合、過圧力は10~50kPaの範囲になる。表2も合わせて参照。他の2件の事故について適用し、入力データに従って出してみると、過圧力は同様に10~50kPaの範囲になる。
3.過密度評価法(Congestion Assessment Method; CAM、ケイツ、シェル)
■ この方法は、ケイツとパトックによって考えられたもので、デジション・トリー(決定木)によって推定するものである。(ここではデジション・トリーの詳細を示さないが) この方法では、対象条件のもとで必要な仕様は、点火源の強さ、封じ込め度、過密度、燃料の種類である。ある程度の封じ込め度の中で、激しい点火があった場合、CAM:過密度評価法によると、過圧力は100~800kPaの範囲になる。プエルトリコ火災とシータプル火災に同様な条件を仮定して適用すると、過圧力は約70kPaとなる。
4.ベーカー・ストリーロ法(Baker and Strehlow Method)
■ この方法は、マッハ数(火炎伝播速度)、燃料の反応性、過密度・封じ込め度に基づいている。式(3)、(4)、(5)は最大過圧力を求める式である。
■ ここで、反応性が中位、マッハ数MW0.55 E; 全有効エネルギー(J)、過密度が高レベルの場合、過圧力は50kPaとなる。無次元の圧力PSは、図5の換算距離Rを介して求める。プエルトリコ火災とシータプル火災の2件の事故に関してマッハ数を0.55と仮定(炭化水素に関して一般的に有効な値)すれば、過圧力は同じ値となる。
5 蒸気雲爆発と換算距離から求める過圧力(ベーカーほか) 
5.TNO(Multi Energy Method)
■ この方法はヨーロッパで最も広く用いられている。この方法の良いところは、爆発源の強さを求めることができることである。過圧力を求める式(6)はつぎのとおりである。
ここで、Pmax: 過圧力 kPa VBR:容積閉塞率(%)、Lf:火炎経路距離(m)、D:障害物平均直径(m)、SL:可燃性混合物の層流燃焼速度(m/s
 式(5)の距離と式(4)の無次元の過圧力の関係は図6に示す。
6 蒸気雲爆発と換算距離から求める過圧力(ファンデンベルグ)
■ この方法をバンスフィールド火災に適用し、VBR=4%、 Lf=50m、D=0.3m、 SL=0.52m/s (ブタン)と置けば、過圧力は2,000 kPaを超える値となる。シータプル火災に適用し、VBR=4%、 Lf=50m、D=0.3m、 SL=0.46m/s (ヘキサン)と置けば、過圧力は>2,000 kPaとなる。プエルトリコ火災の場合、火炎伝播速度、容積閉塞率、火炎経路距離がシータプル火災と同じと思われるので、過圧力も同じと推測される。
6.CFD法(Computational Fluid Dynamic Method)
■ 最近の20年間にコンピュータによる計算能力はすごい勢いで進歩している。蒸気雲爆発のプロセスを解明するため、例えば乱流域、燃焼およびそれらの相互作用によるガス爆発現象を表すモデル化が行われてきた。従来、乱流域や燃焼はそれぞれ別なモデルとして考えられてきた。反応性のナビエ-ストークス方程式を解くことによって、流体分野の詳細について、例えば圧力場や速度場で解明することができるようになった。今日、市販の数値流体力学(CFD)パッケージがいろいろ出ている。Ansys、CFX、Fluentは汎用のパッケージであり、EXSIMやFLACSは爆発のシミュレーション用として特に開発されたものである。
■ バンスフィールド火災の蒸気雲爆発について、CFDによるシミュレーションの方法で分析してみる。蒸気雲は直径400m、高さ3mのパンケーキ形とおく。プロパンと空気の混合気が中央で爆発し、爆轟波が障害物無しで通り抜ける場合と領域内に障害物がある場合について分析してみる。表2に示すように、障害物が無い場合のシミュレーションでは、300m地点において過圧力は20 kPaとなった。一方、(蒸気雲の中心から)100m地点に障害物がある場合、過圧力は1,700 kPaとなった。このことは、推測値を見直すべきだと思われ、そのためには実際の現象の詳細を解明する必要があることを示している。
■ 表2に示した変数は、公表されているいろいろな著者の論文や報告に基づいて決めた。UKAEA法では値が過小評価になっている一方、CAMでは過圧力が大きな範囲になっている。推測値としてはTNO法が良いようで、形成された過圧力も予測できないような値ではないことを示している。
■ バンスフィールドにおいて蒸気雲爆発に関するリスク・アセスメントが正しく想定されていたかどうかに関係なく、蒸気雲爆発が現場の封じ込め度/過密度によってDDT(爆燃-爆轟遷移)を形成するということがわかる前に、2件の同様な事故によって示されてしまった。
B.プエルトリコ火災およびシータプル火災へのモデルの適用
■ 前章では、蒸気雲爆発によって生じる過圧力の推測について言及した。表1に示した現場のデータ(本論文を書くまでに入手できたもの)を見ると、表2で示すように蒸気雲爆発の過圧力に影響するパラメーターに大きな差異はないことがわかる。リヒター・スケールによる爆発力の値を比較すると、類似性があることがよくわかる。しかし、燃料の量や反応性、周囲の条件、死傷者や被害額には明らかに差異がある。最も注目していることは、プエルトリコ火災とシータプル火災から得られるビデオや写真には、バンスフィールド火災で見られたような周辺のタンクが巻き込まれた様子のないことである。これは、燃料の反応性が低かったことや爆発の過圧力が小さかったことを示すのかもしれない。しかし、損傷状況の大きさが過圧力が小さかったことを示すとはいえない。このことは、さらに調査して見直さなければならない。
C.火災のハザード基準
■ 火災によるハザードは、通常、人間や施設に対する熱輻射によって分類される。事故として憂慮すべき火災は大きな状態で燃えるプール火災である。プールはメートル単位の直径で大きさをみる。過去の文献の中でかなりの数で研究されているのは、各種炭化水素プール火災における熱輻射に関する報告である。炭化水素の中で主に憂慮されているのはガソリンである。ガソリンによる大きなプール火災(d=8m)から放射される熱輻射量と距離の関係は図7に示す。しかし、8mのプールは、表1に示すように実際の蒸気雲の直径とはかけ離れている。勢いよく燃え上がる火災(d >>1m)の表面から放射される熱輻射が飽和状態にあると仮定することによって、安全距離を推定することができる。過去の文献にいくつかの方法が提起されている。ここで、前記に挙げた事故に適用してみる。
1.実験データおよび相関性
■ ガソリンによる大きなプール火災の実験値(d=8m)が報告されている。放射される熱輻射量(火災からの水平距離⊿yにおける放射状に測定した値)は、130kW/㎡(最も接近位置)から低い方は15 kW/㎡の間で変化している。実験値を曲線に直すと図7のとおりで、数式で表すと下記のように式(7)となる。

7 火災からの換算距離と熱輻射量の関係 
■ 式(7)を用いてd=391mのプール火災について外挿法で安全距離を推測する。 熱輻射限界として1.5 kW/㎡(EN1413)の場合および人間の皮膚火傷限界5 kW/㎡(30秒、NFPA59A)の場合について推測した結果を表3に示す。正確な安全距離を推測するには、d=8mのプール火災では小さいと思われる。バンスフィールド火災の場合には火災の影響は1kmを超えて広がっており、また他の2件の火災を見ても、式(7)はかなり低めに安全距離を推測してしまう。式(7)を適正な式に見直すには、少なくとも d>10mの大規模なプール火災実験を数多く行う必要があると思われる。
2.点源法(Point Source Method)
■  点源法(ポイント・ソース法)を利用して、大規模な火災による安全距離を推測することができる。これは、火災を1つの点と仮定し、逆自乗則によって導く。安全距離はつぎのような式から求められる。
 ここで、frad:輻射率(-)  mf:燃焼率(kg/㎡・s) hc:発熱量(kJ/kg)、  AP:プール面積( E = 1.5kW/㎡ および 5 kW/
 バンスフィールド火災の安全距離について、式(8)を適用すれば、予想限界の範囲内の推測値が得られる。しかし、輻射率fradは油種によって大きく変わってくる。
3.立体火炎モデル(Solid Flame Model)
■  立体火炎モデルとは火炎を固体形(3Dの円筒形または2Dの長方形)として考える方法で、そのように仮定した形の表面積から平均的な輻射を定義することによって安全距離を推測する。このため、つぎのような形態係数ΦF,Rの式を用いる。
 ここで、τ:透過率(-) SEP:平均放射度(kW/㎡)、 b:平均火炎幅(m) H:平均火炎高さ(m)
 式(11)は、安全距離と長方形火炎表面積の火炎特性との関係式である。このモデルをバンスフィールド火災に適用し、熱輻射限界としてヨーロッパ基準をとれば、安全距離は約1kmとなる。同様にしてNFPA49A基準をとれば、表3に示すような安全距離となる。ここで、再び難しいのは、SEPおよび火炎の形をどのように選択するかにある。これらの値は油種によってかなり変化するので、出てきた値を保証するということができない。
4.CFDモデル(Computational Fluid Dynamic Model)
■  コンピュータ・シミュレーションを利用することによって大規模なプール火災の安全距離を推測することができる。平均火炎表面積を反応性のナビエ-ストークス方程式を解くことによって得る。このようにして火炎表面積の平均温度が推定できれば、 SEP(平均放射度)の精度を上げることができる。それから、それぞれの安全距離は式(11)と同様な式によって導くことができ、結果を図8に示す。図8は、熱輻射と換算距離の関係をプロットしたもので、平均火炎表面積温度(~1000K)と高温度域(~1200K)におけるものである。米国基準(すなわちNFPA49A)とヨーロッパ基準(すなわちEN1413)によるそれぞれの安全距離を図8に示す。
 これらのCFDによる予測値は表3に示す。点源法、立体火炎モデル、CFDシミュレーションによる推測の安全距離は>1kmとなっており、これは定量的に合っていると言える。平均的な安全対策について考える限りにおいて、CFDシミュレーションは、特別な安全距離を考慮する上から、満足できる結果を保証し得る。
8 火災からの換算距離とCFDによる推測の熱輻射量の関係 
D.プエルトリコ火災およびシータプル火災への適用
■  同様にしてモデルの結果(EN1413の場合 ⊿y/d ~1.5)をプエルトリコ火災(d=641m)とシータプル火災(d=252m)に適用すれば、安全距離は~1km(プエルトリコ)と0.38km(シータプル)となる。近隣地に住む人たちの安全(EN1413 皮膚火傷限界基準1.5kW/㎡)を考慮すれば、この最低値をとるべきことは明らかである。プエルトリコ火災とシータプル火災については、貯蔵現場、封じ込め度・過密度、燃料供給の状況に関する報告書が現在もいくつか出されている。この論文ではある仮定をして論じたが、新しい報告書によってより正確な推測が得られるようになるだろう。
Ⅳ.結 論
■  この研究では、最近見られた大きな爆発と火災の危険性に関して、いくつかの本質的な要素が得られた。共通的な結論をまとめるとつぎのとおりである。
1. 既存モデルによって過圧力の推測(バンスフィールド火災の場合)が可能である。
2. 実験規模の結果からバンスフィールド火災の過密度や点火源の条件に置き換えることは容易ではない。そのため、爆轟への遷移を容易に推測することができない。
3. リスク・アセスメントの観点で見ると、バンスフィールド火災では、TNO法によって感覚的に近い過圧力の推測値が得られた。
4. 他の2件の事故(米国プエルトリコ火災およびインドのシータプル火災)はバンスフィールド災害と類似性があることがわかった。ただし、燃料の量、周辺条件および因果関係を除く。
5. バンスフィールドの蒸気雲について火災ハザード評価を行なった。その結果、同様な自然条件にあるところでは、安全距離(ヨーロッパ基準)は最低1kmを考慮すべきであることが明らかになった。
6. 安全対策の想定、リスクの想定およびリスク・アセスメントの検討のためには、CFDシミュレーションによって大規模火災の安全距離を推測できることを付け加えておく。


<補 足>
 「ドイツ連邦材料試験研究所」(Federal Institute for Materials and Testing は、 1956年に創立されたドイツ経済技術省の機関で、材料・物質に関わる基礎研究と試験を実施しており、通称「BAM」(Bundesanstalt für Materialforschung und –prüfung )と呼ばれている。ハザード評価の分野では、英国のHESオランダのTNOと並ぶ世界を代表する研究所として知られている。研究所はドイツのベルリンにあり、職員は約1,600名で、うち研究者が約700名である。
■ 「爆発」(Explosion)は、一般的には気体の急速な熱膨張を指す。爆発のうち膨張速度(火炎伝播速度)が音速に達しないものを「爆燃」(Deflagration)、膨張速度が音速を超えるものを「爆轟」(Detonation)と呼んで区別する。これは、爆燃が衝撃波を伴わず、被害が比較的に軽微であるのに対し、爆轟は衝撃波を伴い、甚大な被害を及ぼすからである。発火から爆燃を経て、爆轟に遷移する現象を「爆燃-爆轟遷移」(DDT:Deflagration to Detonation Transition)という。火薬類の爆発はこの典型であるが、可燃性ガスでは起こりにくい。空気中に可燃性ガス(気化したガソリンなど)が充満して、これに着火する場合、爆轟が起きるかどうかは、①気体の濃度、②空間の封じ込め度(密閉強度)、③点火源(着火する際に加えられるエネルギーの大きさ)、④気象条件に左右される。
 爆発に伴い空気中を伝播する圧縮波を爆風と言うが、この爆風のピーク圧力が「過圧力」(Overpressure;常圧より増大している値)である。通常、爆風圧力ともいうが、ここでは原文どおり過圧力(または過圧)とした。 5kPaを超えると、建築物に軽微な被害が生じ、50 kPa(約0.5気圧)を超えると、人の致死率が1%以上になるとされている。爆風は伝播途中の地形や建造物の影響を受け、その他、気温や風向等の気象状況の影響を受けて、強まることもある。

■ この論文では、熱輻射限界(基準値)について、ヨーロッパが「1.5 kW/㎡」(EN1413)、米国が「5 kW/㎡」(NFPA59A)としている。日本は消防庁指針があり、最新の「石油コンビナートの防災アセスメント指針の改訂」(2012年11月21日、財団法人 消防科学総合センター)では、「基準値自体には問題はないと考えられる。旧単位系で切れの良い2,000kcal/㎡・h としており、これを国際単位系に変換し、2.3kW/㎡ に改める」としている。
 なお、同指針改訂では、ファイヤーボールの放射熱の基準値について10,000kcal/ ㎡・h を見直し、人体への影響がファイヤーボールの継続時間により異なることから、想定災害の規模に応じて、5~10kW/㎡ 程度を基準値とするとされている。また、爆風圧の基準値は、現在、高圧ガス保安法に基づく保安距離のベースの一つになっているが、同指針改訂では、既存製造施設に対して11.7kPa(0.12kgf/cm2)、新設製造施設に対して9.8kPa(0.1kgf/cm2)となっているのに対して、建屋の窓ガラスやスレート屋根が破損するなどの二次被害により人が負傷する可能性も考慮し、2~5kPa 程度の値を基準値とするよう見直されている。

■ 爆発に関する解析モデルについて前述の「石油コンビナートの防災アセスメント指針の改訂」では、「現指針で例示されているTNT等価法により概ね妥当な評価を行うことが可能である」としている。
 ただし、補記として、「TNT等価法は簡易に爆風圧を推定することができるが、開放空間における爆轟を前提としており、現実的にはほとんど起こり得ない現象であるとの指摘(AIChE;アメリカ化学エンジニア協会)がある。TNT等価法のほか、爆風圧の算定モデルとしては、TNO Multi-Energyモデル、Baker-Strehlowモデルがよく用いられる。これらは蒸気雲爆発(爆燃)を前提としたモデルであり、より現実的なモデルであるとされている。しかしながら、TNO Multi-Energy モデルでは、可燃性ガスがどの程度の範囲(容積)で爆発するかを設定することで、爆発強度を見積もる必要があり、Baker-Strehlowモデルでは、火炎の拡大方向と障害物の状況により、火炎速度を見積もる必要があることから、適用にあたってはこれらの検討が必要である」と記述されている。

<所 感>
■ 今回の資料(情報)は、可燃性ガスの爆発・火災に関する解析方法について、ヨーロッパの現状を含め、よくまとめられている。特に、最近起こった英国バンスフィールド火災(2005年)、プエルトリコ火災(2009年)、インドのシータプル火災(2009年)の石油貯蔵タンク火災事故の実例を検証しているので、興味深く読むことができた。結論を含めて内容をよく吟味したい資料である。
 確かに、バンスフィールド火災事故を知ったときには、石油(ガソリン)でこのように甚大な被害の出る爆発・火災事故が起こり得るのだと驚いたが、それは極めて稀な事例だと思った。しかし、プエルトリコ火災、シータプル火災と大規模な爆発・火災事故が続き、貯蔵タンクの事故は必ずしも稀ではなかった。爆発分野を専門とする部門を持つドイツ連邦材料試験研究所(BAM)において、これら一連の事故を研究テーマにしたことは必然であったと思う。
■ 今回の情報でドイツ連邦材料試験研究所(BAM)は、爆発に関する解析方法についてヨーロッパで最も広く用いられているTNO(マルチ・エネルギー法)が妥当であることを確認している。また、コンピュータによるCFDシミュレーションによる方法を推奨している。 TNT等価法は、初期評価に利用できるとしているが、現実の爆発事例に合わないという判断である。このように米国やヨーロッパでは、TNT等価法の限界を指摘しており、日本もこの点、見直す時期にあると思われ、爆発や防災アセスメント分野における新しい標準化を期待したい。

後記; 今回のまとめは要約することに加えて、PDFの資料から指数関数などの式や図・表をスクリーン・ショットでコピーして、邦訳分を貼りつけ、さらにスクリーン・ショットでコピーしてまとめ用の資料を作成したり、下付き・上付きの文字入力があったり、結構、手間がかかりました。しかし、以前にも述べましたが、スクリーン・ショットの威力を再認識しました。この機能がなければ、当該資料をまとめる気にならなかったでしょう。年末にキリよく終えることができました。

























2012年12月17日月曜日

米国オクラホマ州グレンプール火災(2006年)の消火活動

 今回は、今年10月の紹介に引続き、米国の消火専門会社であるウィリアムズ社(Williams  Fire & Hazard Control)が消火活動を支援した事例を紹介します。
 2006年6月12日、米国オクラホマ州グレンプールにあるエクスプローラ・パイプライン社の石油ターミナルの貯蔵タンクが落雷によって火災する事故が起こり、ウィリアムズ社が出動し、大容量泡放射砲システムを使用して消火に成功した事例です。グレンプールでは、この石油ターミナルの隣りにある石油ターミナルで3年前にタンク火災があった事例は前回に紹介しました。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・ FireWorld.com, A Lightning Strike in Glenpool, OK, Threatens To Consume 120,000 Barrels of Gasoline, Industrial Fire  World Vol21 No4
  ・ khk-syoubou.or.jp, 米国の石油タンク全面火災事例, August 31, 2006

<事故の状況> 
■  2006年6月12日(月)午前9時、米国オクラホマ州グレンプールにあるエクスプローラ・パイプライン社石油ターミナルのタンクに落雷があり、火災が起こった。発災タンクは、ガソリン用の内部浮き屋根式タンクで、直径43m、油面最大高さ13.6m、容量20,000KLであった。
 タンクにガソリンを油面13m19,800KL)まで受入れたとき、この地方に雷雲が通過し、1時間後の午前9時頃、落雷を受け、シール部火災(リング火災)が発生した。2時間半後の午前11時半頃、外側のコーンルーフ(円錐屋根)が崩壊、タンク内に落下し、内部浮き屋根が沈没してしまい、このため、タンク全面火災に拡大した。 約11時間後の午後8時頃、消火活動によって火災は鎮火した。
<消火活動> 
=初期対応=
■午前9時10分、グレンプール消防署へ落雷による火災発生の報告があった。 同消防署では保有している消防用エンジン1台と3名の消防士を出動させた。消防士は、タンク屋根の外周りで火災が発生しているので、シール部火災(リング火災)と判断した。また、タンクはコーンルーフタンクを改造した内部浮き屋根式タンクであることを確認した。                            
■午前11時30分頃、外側のコーンルーフが崩壊し、タンク内部に落下した。このため、内部浮き屋根が沈没し、火災は全面火災へ拡大した。 この頃、エキスプローラ・パイプライン社はウィリアムズ・ファイア・アンド・ハザード・コントロール社に連絡をとった。 ウィリアムズ社は同社からの要請に応え、活動を開始した。
■ 一方、グレンプール消防署は、タルサ市など近郊の消防署の協力を要請した。 消火用水は2つの水源から持ってくる措置がとられた。一つは、5インチホースを展張して、エキスプローラ社の給水ラインにつなぎ込まれた。もう一つは、タルサ市から運び込まれた大容量送水ポンプによって直接供給するようにされた。
 エキスプローラ社はウィリアムズ社に、火災タンクから内容物であるガソリンを移送する旨、通知していた。ウィリアムズ社はタンクから油を抜かないように何度も忠告したが、この立場の違いは異なったままだった。ウィリアムズ社は、「油移送しない理由は屋根の損傷を防ぐため」だと述べた。 しかし、すでに屋根は損壊してしまっており、エキスプローラ社を説得できなかった。 内部浮き屋根は6本の脚で着底するようになっている。油移送することによって、浮屋根が異常に高温になったり、屋根の下に可燃性ベーパーが溜まることの危険性を説いた。エキスプローラ社は深さ10フィート(約3m)で油移送を停止した。
=ウィリアムズ社の対応= 
■ ウィリアムズ社は、午後4時までに5名の専門消防士と必要な補助機材の準備を終え、チャータ便で派遣した。ウィリアムズ社が専門消防士を身軽に移動できるのは、消防資機材の関係会社とネットワークを構築しており、各所の製油所や倉庫に資機材を保有させているからである。 今回の場合、送水ポンプ1台(4,000gpm = 900㎥/h)と消火薬剤18㎥1㎥トート×18個)は、タルサ市のサノコ製油所から運んだ。 ウィリアムズ社がこの地域で出動要請のあったのは、この2年間で3回目だった。 このため、この地域の緊急対応に応えるようにしていた。
■ 屋根がタンク内へ脱落してしまったので、ウィリアムズ社は消火戦術を変える必要があった。ウィリアムズ社は、内部浮き屋根式コーンルーフタンクの外側の屋根が崩壊した理由について「内部浮き屋根とコーンルーフ間の空間で、油のベーパーによる息継ぎが起こり、コーンルーフの弱い部分に応力が集中し、長い時間、火災に曝されたのち、屋根が崩落した」と判断していた。
■ ウィリアムズ社は、現場の状況を歩いて確認し、現場指揮所の位置を決めた。各消防士の役割を割り当て、活動は開始された。 エキスプローラ社は トラックやフォークリフトなどの資機材を提供し、グレンプール消防署などの消防隊はホース展張に従事した。 この消火活動に対して、のちに、ウィリアムズ社は過去に経験した火災対応の中で最も強力な支援を受けたと述べている。
 ウィリアムズ社は、2,000gpm7,500L/分)の大容量泡放射砲モニター“Hired Gun”を使用し、バックアップとして8001,000 gpm3,0003,800L/分)の“Daspit Tool”を使用した。ウィリアムズ社は標準の“フットプリント”理論の消火戦術で対応し始めた。 “フットプリント”理論は、同社が特許をとった消火方法である。
■ ウィリアムズ社は、 “フットプリント”に織り込んだもう一つの消火戦術の方法をとった。この方法も特許をとったもので、「ティーシング;梳(すく)」または「ワイピング;(はく)」法である。 消火活動中、14分間をこの方法に変えた。ウィリアムズ社では、原油火災に対してこの方法の経験はあるが、ガソリン火災では初めて使った。消火戦術を変える必要があったのは、タンク中央部にあった大きな配管のためだった。この配管のために、タンクでは、泡被膜の上で炎が上がっていた。
■ 「ティーシング;梳(すく)」(炎を“もてあそぶ”)のテクニックは、ノズル角度をわずかに増やし、高さを上げ、放射砲モニターによる放射面積を変えることによって、炎を前後に動かすことである。 この方法が良かったのは、沈下した屋根が泡被覆より上に出ている区域が45箇所に分かれ、それぞれで炎が上がっていたからである。小さな火の手でも、大きな火災に至る可能性がある場合は、消火戦術上、影響は大きい。   
■ この他にちょっとした問題としては、タンク屋根の下側についているコーク(炭)だった。コークはわずかに燃えていた。ウィリアムズ社は、時間をかけて、このコークの処置作業を行った。 熱したコークを冷却し、安全を保持するために使った泡薬剤は全使用量の30%に達した。
■ 午後8時までにタンク内の火災は完全に鎮圧された。 
=事例の教訓=
 ウィリアムズ社は、このグレンプール火災(2006年)の消火活動における教訓について、つぎのように述べている。 
  • タンク内の油のポンプ移送; 内部浮き屋根式コーンルーフタンクにおいて、外側の屋根がタンク油の中に落ちてしまったら、ポンプによる油の移送はやめるべきである。これは、屋根が油によっていくらか保護できる可能性があるためである。 屋根が油で保護できない場合、できるだけ屋根が上に出ている面積を小さくすべきである。このことによって使用する泡薬剤が少なくて済む。そうできない場合、多数の小火災に対する消火活動に立ち向かわなければならない。
  • 消火用水の確保; 火災を消火するためには、水が必要だということは今回の事例で理解されたであろう。
  • 経験の大切さ; 消火用水が確保されたとしても、最大の力は経験である。実際の火災現場への出動経験、鎮火に成功した正しい消火活動の経験が有用である。

補 足
■  「オクラホマ州」は米国南中部にあり、人口約375万人で、州都および最大都市はオクラホマシティである。オクラホマ州は石油、天然ガスおよび農業の生産が高い。合衆国46番目の州になっており、当初は全米のインディアン部族のほとんどを強制移住させる目的で作られた州で、このため、他の州に比べ、インディアンの保留地が非常に多い。気候は比較的温暖な地域にあるが、春先から晩夏にかけて、この地域特有の気候条件により雷雨が発生しやすいところである。
 「グレンプール」はオクラホマ州東中部のタルサ郡にあり、タルサ市圏にあり、人口約10,900人の町である。

■ 「エクスプローラ・パイプライン社」(Explorer Pipeline)のパイプラインは、メキシコ湾岸からシカゴなど中西部まで(距離1,400マイル=2,200km)、ガソリン、ディーゼル燃料油、ジェット燃料油を移送している。オクラホマ州タルサ市の南60マイル(約100km)のグレンプールにある石油ターミナルは、パイプラインの中継基地として操業されており、貯蔵能力はタンク31基×340万バレル(約54万KL)である。

■ 「ウィリアムズ・ファイア・アンド・ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、 米国テネコ火災(1983年)、カナダのコノコ火災(1996年)、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火実績を有しており、2003年に起こった今回と同じオクラホマ州グレンプールで起こった火災にも出動している。96年、01年、03年のタンク火災の消火活動については当ブログで紹介済みである。
                  
■ 「火災タンクからの油移送」についてエキスプローラ社とウィリアムズ社に意見の相違があった。エキスプローラ社は、同社なりの判断(消火活動の容易さと安全性を考慮)で、火災直後から油移送を開始して、午後の中頃まで行われ、貯蔵量20,000KLから15,000KLの油を回収した。 推測であるが、エキスプローラ社が製品油の回収を指向した背景には、3年前のグレンプール火災(2003年)がタンク火災からプール火災に至ってしまった事故の記憶があったためではないかと思われる。

所 感
■ 今回の事例は、直径43m油面最大高さ13.6m容量20,000KLのガソリン貯蔵タンクの全面火災において大容量泡放射砲システムによって消火できた事例である。20039月、十勝沖地震後の出光興産北海道製油所において日本で初めて起こった全面火災は、直径42.7m高さ24.39m容量32,779KL(出火時26,874KL)のナフサ貯蔵タンクであり、今回の事例のタンクと同規模の大きさだったが、当時の消防資機材では消火できなかった。この点、大容量泡放射砲システムの有効性を実証する事例の一つである。
■ 消火活動に参加した米国の消火専門会社であるウィリアムズ社(Williams  Fire & Hazard Control)がとった消火戦術や後日語られた教訓は意義深い。教訓の一つに「経験の大切さ;消火用水が確保されたとしても、最大の力は経験である。実際の火災現場への出動経験、鎮火に成功した正しい消火活動の経験が有用である」という指摘は正しいだろう。日本にはタンク全面火災の鎮火に成功した正しい消火活動の経験者はいない。これを補うのは訓練であり、他の火災の消火活動の情報を知り、疑似体験することしかない。

後記; この後記で石油備蓄基地の管理について一般競争入札に関する新聞記事の話をしましたが、その後、同じ朝日新聞の「記者有論」の欄に問題提起した記者が記事の背景について載せていました。要は「天下りの連鎖を規制で断つ」ため、「関連した業界への一切の再就職を禁止するという踏み込んだ規制が不可欠だ」という趣旨でした。しかし、今回の場合、石油備蓄基地の会社に矛先を向けるのは片手落ちだと思います。中央官僚は天下り先の独立行政法人を作るような施策をとります。「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」ができた際に石油備蓄基地関連の部門は大幅に人員が増えています。すなわち、天下り先を確保したのです。まず、この問題の掘り下げが先だと思います。
 ついでに言いますと、将来は天下りを進めるべきだと思います。官僚組織がピラミッド型でだんだん人を減らしていく仕組みをとる限り、新しく独立行政法人などを作ったり、関係業界への天下り先を確保しようとするのです。この仕組みをやめ、できるだけ長く勤めてもらうような組織に変えることです。そして、優秀な官僚人材は、関連業界でもどこでも天下りして、能力を発揮してもらうことです。仕事はしないというイメージの天下りではなく、実力のある人材が引き抜かれて天下るという世の中にすれば良いのです。

2012年12月10日月曜日

安全警告;水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱い

 今回は、「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)の安全警告の第3弾として「水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱い」の事例を紹介します。
 本情報は「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association ;UKPIA)が提供した「安全警告」についてつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・UKPIA.com, Process Safety Alert 005, Storage and Handling of Self-Reactive, Energetic Substances, April 5, 2011

 <概 要>
■ この安全警告は、貯蔵タンクにおいて起こった事故から、水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱いに関するリスクについて提起したものである。

 <事故の状況と原因> 
■  2-エチルヘキシル-ニトラートの入ったタンクの床が損傷していた。
 タンク損傷はタンク床と内壁下部に内部腐食が発生して起こったもので、約10mmの穴が開いていた。
■ タンクの床部と側板部はコーティング無しの炭素鋼製で、検査は10年前に実施されていた。この検査の実施項目の中には、pHチェックは入っていなかった。検査結果では、タンクは良好な状態だとされていた。
■ タンクの構造は、排水溜めが無かったが、吸込みノズル側へ傾斜がついていた。
■ 損傷がわかった後の検査で、通常時におけるタンクの息つぎによって、わずかな湿分がタンク床上に蓄積されていたことが明らかになった。水分が存在すると、製品が加水分解して硝酸になる可能性があり、これが腐食の原因となった。

 <教 訓>
■ 水分の存在で腐食性が高くなる物質の貯蔵と取扱いに配慮すべき事項は、つぎのとおりである。
 ● HAZOP分析(危険源特定・安全性評価手法)を実施する場合、水は存在(ごくわずかな量でも)すると仮定すべきである。ただし、水分を除去するための特別な方法がとられている場合は除く。
 ● 場合によっては、検査周期を見直すべきであり、 水分の浸入痕跡を検査する項目を追加すべきである。

補 足
■ 「英国石油産業協会」(United Kingdom Petroleum Industry Association UKPIA)は、英国の石油産業の下流部門に携わっている9社の会員会社による団体で、石油製品の精製、流通、販売に関して非競争領域における一般的な問題について共有化するために設立された。UKPIAでは、安全警告(Process Safety Alert)など英国の石油産業の下流部門に貴重な情報を提供している。

■ 「2-エチルヘキシル-ニトラート」は、化学式C8H17NO3で表され、引火点72℃の可燃性で、密度は0.963である。融点は75℃と常温では固体であり、ディーゼル燃料のセタン価向上剤などで用いられる。
(訳者注; 「安全警告」( Process Safety Alert)の原文では、「自己反応性で活性の高い物質」(Self-Reactive, Energetic Substance)とあるが、自己反応性に関わる原子団を含まないので、必ずしも注意喚起すべき自己反応性とはいえない。水の存在により、加水分解によって硝酸を生成するため前記のような表現になっているものと思われる。しかし、なじみのない表現であるので、本資料では、趣旨から「水分の存在で腐食性が高くなる物質」とした)

■ 「硝酸」は、化学式HNO3で表され、無色で刺激臭があり、腐食性の液体である。肥料、染料、爆発物などの製造に用いられる。

■ 「HAZOP分析」(Hazardous Operations Analysis;危険源特定・安全性評価手法)は、 「Hazard and Operability」ともいわれ、略してHAZOP(ハゾップ)と呼ばれている。1970年代から化学プロセス産業では、安全性および運転性評価手法として用いられており、化学プロセス産業におけるプロセス危険解析手法の標準となっている。HAZOPの特徴は、系統的で仕組みが簡単な解析手法で、さまざまな運転モード(連続運転、スタートアップ・シャットダウン、再生運転、バッチ運転等)に適用できる定性的解析手法である。検討は、異なる視点を重要視するため、プロセス・運転等の異なる専門知識を持ったメンバーで構成されるチームで実施する。
 しかし、今回の事例のように、水の存在無しを前提とすれば、どんなにHAZOPの検討を進めても、腐食性に関するリスクは出てこない。 従って、「HAZOP分析を実施する場合、水は存在(ごくわずかな量でも)すると仮定すべきである。ただし、水分を除去するための特別な方法がとられている場合は除く」という教訓が提起されている。

所 感
■ 今回の事例は、 2-エチルヘキシル-ニトラートという特殊な物質を貯蔵していたタンクの息つぎだけで、内部に湿分が混入し、腐食性の高い物質を生成するリスクについて安全警告したものである。英国石油産業協会(UKPIA) の安全警告「Process Safety Alert 002」では、重質燃料油タンクの水による突沸現象の事例を紹介している。この場合はかなり多量な水分の存在に関する危険性であり、今回の事例は、微量な湿分が長期にわたって徐々に腐食していくリスクについて警告したものである。試験室によるラボテストでは安定的な物質も、現実のプラント(タンク)では、いろいろな要因で思わぬリスクが生じ得るという事例で、UKPIAは、共通的な問題として、水のリスクについて警告すべきと判断したと思われる。


後記; パソコンのフリーソフトで最近、便利な機能を知りました。漢字の読み方がわからなかったり、特殊な漢字に変換するときに使う「手書き入力パッド」を出しているBandoIMEの機能の中に「スクリーンショット」があることを知りました。動画の画像やダウンロードできない画像をブログで挿入する場合、以前はカメラでパソコン画面を写真にとってトリミングなどの編集をし、縮小を行って使えるようにしていましたが、「スクリーンショット」だと簡単にパソコン画面から画像をコピーできます。
 当ブログでは、できるだけ絵(写真)を入れ、地球の裏側の出来事でも身近に感じるように編集したいと思っていますので、この機能は本当に便利だと感じています。







2012年12月5日水曜日

カナダのパイプライン石油ターミナル油流出事故-2012の原因

 今回は、2012年1月24日に起こった「カナダのキンダー・モーガン社の石油ターミナルで油流出」(当ブログで2月に紹介)事故の原因について紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・Canada.com, Pipeline Operators Ignored Alarms Warning of Abbotsford Oil Spill, November 28, 2012 
  ・TheProvince.com,  Kinder Morgan Ignored Warnings in Sumas Mountain Oil Spill : Report, November 29, 2012 
  ・AbbotsfordNews.com, Delayed Response Impacted Oil Spill, Says Report,  November 28, 2012

 <事故の状況> 
■  2012年1月24日(火)、カナダのブリティッシュコロンビア州のアボッツフォードにあるキンダー・モーガン社スーマス石油ターミナルの貯蔵タンクから原油が漏れた。流出した量はタールサンドから精製した軽質原油約110,000L(110KL)であった。

 <事故の原因> 
■ 2012年11月初めに国家エネルギー委員会は、キンダー・モーガン社スーマス石油ターミナルの油流出事故に関する報告書をまとめ、11月22日に公表した。報告書は、「会社のマネジメントの方法が不適切であったこと」と「オペレータが漏洩の確認を怠ったこと」の2つの問題を指摘した。
 報告書の中で、トランス・マウンテン・パイプライン担当のオペレータが警報が鳴っているにもかかわらず無視していたため、対応がとられるまでの3時間半にわたってガスケット破損部から油が流出し続けたという。
■ 最初に警報が鳴ってから6時間してオペレータが現場に到着したとき、油が流出しているのを発見した。原油は防油堤外へ出てはいなかったが、有害なガスが大気中に放出されており、近くの住民へ影響を及ぼしていた。油流出の報告書によると、パイプラインの所有者であるキンダー・モーガン社は、アジア市場向けに毎年300,000~750,000バレル(48,000~120,000KL)の量拡大を行っているという。環境保護団体のワイルダーネス・コミッティのベン・ウェスト氏は悪評の眼で見ざるを得ないと語っている。
■ 報告書によると、エドモントンにあるトランス・マウンテン・コントロール・センターの監視職員に問題があったという。1月23日夕方、スーマス石油ターミナルでは油の移送が行われていた。コントロール・センターのオペレータは警報がなったら15分間以内に対応することになっていたが、油漏洩の警報が鳴っているにもかかわらず、何も処置せず、つぎのシフトとの引継ぎがあるまで、警報は無視され放しだった。
■ 報告書によると、油漏洩の発見までに随分時間がかかっており、コントロール・センターのオペレータは決められた手順で作業を行っておらず、最近導入したデーター収集システムを調べてみると、警報設定が不適切であったことがわかった。国家エネルギー委員会は、キンダー・モーガン社に対して報告書で指摘した事項について是正処置を行うよう勧告し、「委員会は、この改善行動によって、今後、同様な事故を防止することができると判断している」と述べている。
■ 報告書によると、オペレータは警報が鳴っているのは強風によるものだと思い込み、調査のための現場担当者を派遣しなかったという。さらに、オペレータはタンクの容量が減っているのを見過ごしてしまった。
 報告書では、「夜勤のコントロール・センターのオペレータは低下に傾向気がついていたが、当初の容量に比べて小さい変化であり、天候の影響だと解釈し、漏れの可能性について考えなかった」という。

■ 時間ははっきり断定できなかったが、1月23日の真夜中ごろ、浮き屋根式タンクの雨水排水系統において水が凍結し、その圧力で屋根との接続ガスケットが破損したために漏洩が起こった。当時、気温は低く、風も強く吹いていた。夕方の早い時間から加温された原油がタンク内に移送されていた。移送が終わった頃、コントロール・センターのオペレータは警報を設定し忘れていた。
 警報システムは、新しいシステムと従来からあるシステムの2つが設置されていた。新しいシステムは1月23日午後11時26分に設定されたが、監視用に使用されるもう一つの従来からあるシステムは1月24日午前1時11分まで設定されていなかった。
■ 1月24日午前2時39分、従来からあるシステムから最初の警報が鳴った。コマンド・センターのオペレータは誤報と判断した。午前3時11分、パイプラインに設置されている新しいシステムから2回目の警報が鳴ったが、オペレータは再び誤報とみなした。午前4時11分、3回目の警報が鳴った。オペレータは注目すべきことだと思ったが、タンク液位の変化状況は確認しなかった。そして、引継ぎ簿にメモを記載したのみだった。次の直が午前5時に到着した。日勤のオペレータはタンク液位を確認したが、1KLの変化で計測器の精度範囲だと思った。
■ 午前5時47分、4回目の警報が鳴った。午前5時50分、オペレータはスーマス・ターミナルの担当者へ調査に行くよう指示した。ターミナルの担当者は6時50分に現場へ到着し、漏れを発見した。そして、屋根排水系統のバルブを閉め、漏洩源を縁切りした。 午前7時、最初の臭気の苦情がコントロール・センターに届いた。
■ 環境保護団体のデビッド・スズキ財団の事務局長であるジェイ・リッチリン氏は、今回の事実は、ミシガン州のカラマズー川で発生した「エンブリッジ流出事故-2010年」と同様、トランス・マウンテン・パイプラインの従業員が警報を無視したために起こっており、エドモントン~バーナビー・パイプラインと同様のトランス・マウンテン計画に懸念を覚えるといい、「どんなに高度なシステムがあっても、流出事故があるということです。今回のケースは実にひどいヒューマン・エラーだと思います。悲劇的なことですね。何かしなければならないと思っているときにも、人の健康と環境に対して重大な害を与える化学物質の漏洩が起こるということです。流出事故はもっと起こると思います。そして、私たちは、現実的な対応の難しさを目の当たりにしました。市民は本当に安全に実行することができるかどうか疑いの目で見るようになったと思います」と語った。
 比較された「エンブリッジ流出事故-2010年」とは、エンブリッジ・ノーザン・ゲートウェイ・パイプラインにおいてエドモントンにある監視オペレータが、漏洩警報が鳴ったにもかかわらず、17時間の間、対応しなかったため、20,000バレル(3,200KL)の油流出に至った事故である。
■ 流出事故後、キンダー・モーガン社広報担当のレクサ・ホーベンシールドさんは、弁明するように「住民の方にご迷惑をかけたのは、不快な臭いだけだったのです」と語っている。ホーベンシールドさんはEメールで、「私どもの施設で起こったすべての事故について私どもは重大にとらえています。2012124日、スーマス石油ターミナルの施設で貯蔵タンクから防油堤内に油を漏らした事故について、私どもは徹底した調査を行い、教訓を得ました。調査結果から、私どもは予防策と地元への広報の仕方について改善方法を確立しました。私どもは、スーマス・マウンテイン地区とのコミュニケーションが円滑にいくようにしましたし、これからも改善を図って参ります」と回答している。
■ アボッツフォードの住民でパイプライン反対派のマイケル・ヘイル氏は、国家エネルギー委員会の報告書を読み、「会社の体質の中には、何か起こっても事の重大性を小さくみせようとするところがあります」と懸念を強調するように語った。

補 足 
■  「カナダ」は、北アメリカ大陸の北部に位置し、連邦立憲君主制国家でイギリス連邦の加盟国である。10の州と3の準州をもち、人口は約3,400万人で、首都はオンタリオ州のオタワである。
 「ブリティッシュコロンビア州」は略してBCと呼ばれ、太平洋に面したカナダ最西部に位置し、人口約430万人で、州都はビクトリアである。
 「アボッツフォード」はブリティッシュコロンビア州の南西部に位置し、人口約12万人の都市である。

■ 「国家エネルギー委員会」 (National Energy Board)は、1959年、カナダ政府によって設立された独立した経済的な規制機関である。公共の利益に資するように石油・ガス・電力産業の調整を行い、エネルギー資源開発・利用について政府に助言する。エネルギー資源の輸出入許認可権やパイプライン・送電線の敷設許認可権を持ち、新設に際して公聴会を開くなど環境・安全管理対策を重視している。

■ 「キンダー・モーガン社」(Kinder Morgan Inc.)は、米国のエネルギー会社で、1997年に設立され、北米を中心にパイプライン輸送と石油貯蔵を行なっている会社である。Kinder Morgan Energy Partnersが親会社で、本社は米国テキサス州ヒューストンにあり、従業員は約8,000人である。
 事故のあったアボッツフォードのスーマスには、パイプライン用ポンプステーション兼貯蔵所の石油ターミナルがあり、6基のタンクを保有して総量103,000KLの貯蔵能力がある。石油ターミナルは遠隔管理で常時は無人と思われる。しかし、トランス・マウンテン・コントロール・センターのあるエドモントンと石油ターミナルのあるアボッツフォードは直線距離で約800kmあり、ターミナルの担当者は1時間ほどで到着できる所に駐在し、石油ターミナルとパイプラインルートの点検・操作などを行うものと思われる。
キンダー・モーガン社スーマス石油ターミナル。漏洩のあったタンクは右端タンクのいずれかである。
(写真はBCLocalNews.comから引用から引用)
■ 「トランス・マウンテン・パイプライン」(Trans Mountain Pipeline)は、エドモントンとバーナビー間1,150kmを結ぶパイプラインで、1952年に建設され、1953年にバーナビーからの出荷が始まった。
  2005年以降、キンダー・モーガン社が運営している。パイプラインは、36インチ径×150km、30インチ×170km、24インチ×830kmで、バッチング方式によって1本のパイプラインで原油(重質、軽質)、ガソリン、ディーゼル燃料の4種を移送しており、輸送能力は225,000バレル/日(約1,500KL/h)であるが、実能力は300,000バレル/日(約2,000KL/h)といわれる。
 近年、アルバータ州のオイルサンドから精製された原油をアジア向けに供給を拡大するため、太平洋側へのパイプラインの能力増強が計画されている。

■ 「ワイルダーネス・コミッティ」は正式にはWestern Canada Wilderness Committeeであるが、カナダでは略してWilderness Committeeと呼ばれる。カナダ太平洋側の自然を保護することを目的に1980年に設立された非営利環境教育団体で、ブリティシュコロンビア州のバンクバーを本拠して30,000人を超える会員がいる。戦略的な研究と草の根的な教育を通じて、野生の土地の保護、野生動植物の保護、公有地の防衛、太平洋岸の維持、健康づくりの支援を行なっている。

■ 「デビッド・スズキ財団」( David Suzuki Foundation)は、1980年にデビッド・スズキ氏らが設立した環境保護の財団である。カナダのブリティシュコロンビア州バンクーバーに本部を置き、カナダおよび米国に40,000人の資金提供者がいる。

所 感
■ 今年1月に起こった当該事故は、当ブログで「カナダのキンダー・モーガン社の石油ターミナルで油流出」として2月に紹介したが、当時は、石油ターミナル内のパイプラインから漏れた事故という情報だった。また、石油ターミナル近くの住民からの臭気クレームが発端で、漏れが発見されたという報道だった。しかし、事故発生源はパイプラインでなく、タンク内の原油が防油堤内に流出したものだった。そして、流出の発見が遅れたのは、再三、警報が鳴ったにもかかわらず、オペレータが誤報だと予断し続けて、現場に担当者を派遣しなかったためというヒューマン・エラーだった。
 警報システムには誤報がありうる。おそらく、以前にも強風や計測感度などの影響で誤報した例があったに違いない。そのために警報システムが2系統にされたと思われるが、機能が十分活用されていなかった。コントロール・センターのオペレータは、警報システムへの信頼が希薄な上に、石油ターミナルの担当者が1時間ほどかかるところにおり、現場調査の指示をためらう気持ちがあったと思われる。しかし、一旦、このような雰囲気が出ると、緩慢な職場風土になっていく。 事故自体は大事故ではなかったが、国家エネルギー委員会が調査に乗り出し、結果を公表するほど、操業の管理体制を問題視したのだと感じる。 

■  漏洩の直接原因は、浮き屋根タンクの雨水排水系統の配管接続部が凍結してガスケットが破損したためであった。今年11月初めに、当ブログで「安全警告;浮き屋根式タンクの雨水排水系統の健全性」(2011年6月、英国石油産業協会;UKPIA)を紹介したが、今回の事故原因はUKPIAの安全警告通りの事例だった。カナダはイギリス連邦加盟国であり、 UKPIAの安全警告の情報が入っている可能性は高い。カナダのキンダー・モーガン社が事例活用をしたかどうかはわからないが、まさに、リスクマネジメントの観点から、浮き屋根の雨水排水系統における漏れは、いろいろな要因によって、ある日、突然、顕在化する可能性があることを認識させられる事例である。

後記; 石油ターミナルという石油業の施設管理を行うオペレータは、危険物の知識があり、設備の機能・構造を熟知した人ですよね。一旦、事故が起こると、人の生命や環境に大きな影響を及ぼすので、責任感を持って従事しなければならない大変な仕事です。今回の事例のオペレータ(だけでなく、マネージャーも含む)の資質はどうだったのでしょうね。
 ところで、先日、朝日新聞に「石油備蓄基地管理 入札せず委託延長」という記事が比較的大きく報道されていました。内容は、国家石油備蓄基地を管理する独立行政法人「石油天然ガス・金属鉱物資源機構」が、民間会社に委託している契約を一般競争入札を行わず、延長しようということへの問題提起です。法制上は正しい見方といえないことはありませんが、元々おかしな体系なのです。放漫な石油開発事業を行った石油公団が解体されることになり、国家石油備蓄基地を管理する体制がおかしな体系になってしまったのです。石油公団に代わって石油天然ガス・金属鉱物資源機構が国から委託を受けて備蓄基地を管理するという建前となり、従来、国家石油備蓄基地を実質管理していた会社を一旦無くし、新たに操業だけを石油天然ガス・金属鉱物資源機構から委託される会社になったのです。
 これによって、国家石油備蓄基地を実質管理していた会社は石油業から警備業に変わったのです。ですから、警備業を対象にした一般競争入札が可能(?)になったわけです。でも、何かおかしいですよね。石油備蓄基地という石油業の施設管理をアルバイトのオペレータで管理するようなものです。
 無駄な費用は落とさなければなりませんが、入札の是非でなく、おかしな体系をやめることが先決だと思いますね。