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2012年9月20日木曜日

カリブ海キュラソー島で油流出して環境汚染

 今回は、2012年8月17日、カリブ海に浮かぶオランダ王国のキュラソーにあるキュラソー・オイル・ターミナルのタンクから漏れた原油が海上に流出し、周辺の海岸に漂着してフラミンゴなどの野生動物の生態系に影響を与えた環境汚染事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・CuracaoChronicle.com, Oil Spill at Jan Kok,  August  27, 2012
  ・Wdtn.com, Oil Spill Fouls Curacao Shore, Threatens Flamingos,   August  28, 2012
    ・NewsOrganizer.com, Oil Leak at Venezuelan-Owned Refinery  Threatens Curacao Wild Life, August  28, 2012
      ・Amigoe.com, Pictures from Coastguard Prove  the Spill Occurred on Friday, August  30, 2012
      ・Lubetech,co.uk,  Venezuela: Oil Spill at Curacao Refinery, August  31, 2012  

 <事故の状況> 
■  2012年8月17日(金)夕方、ベネズエラ沖のカリブ海に浮かぶオランダ王国キュラソーで油漏洩があり、環境汚染を起こす事故があった。漏洩事故があったのは、キュラソーのバレン湾にあるキュラソー・オイル・ターミナルのタンクから漏れた油が海上へ流出した。流出した油は浮遊して、周辺の海岸に流れ着き、野生動物などの生態系へ影響を及ぼす環境汚染が懸念されている。 
■  油流出の状況がわかってくると、リファイナリア・イスラ・キュラソー社はヤンコック地区における油汚染について新聞で非難を受けている。 イスラ社によれば、漏れが起こったのはバレン湾にあるキュラソー・オイル・ターミナル(COT)で、8月18日土曜日だという。一方、カリブ海沿岸警備隊は17日金曜日に油流出を確認しているというつじつまの合わない話である。
 8月17日(金)には、カリブ海沿岸警備隊が港湾安全点検(HVI)の警告を出している。しかし、製油所の発表では、「8月18日土曜の夕方、 9056番スロップタンクのドレンを通じて出た油を廃水処理装置で処理している中で、“オイル・キャッチャ”から油が漏れ出てしまいました。漏れ出た油が海へ流出したので、装置をただちに停止しました。製油所としてはすぐにHVIに呼応し、翌日、状況点検のためバレン湾へ人を派遣しました」と言っている。
■ 8月19日(日)以降もヤンコック地区の方へ油が漂流していたにもかかわらず、イスラ社は8月22日(水)に知ったと説明した。
          バレン湾に面したキュラソー・オイル・ターミナル    (写真はグーグルマップから引用)
■ ヤンコックの近くに住むポーリン・メッサーシュミット-ニピウスさんは、19日(日)午後6時頃にマウンテン・バイクでヤンコックへ行った夫から、油で覆われていると聞き、この油災害について関係機関に連絡し始めたと、環境保護団体SMOCに話している。油は海の入口部にあり、すでにサリーナの方へ漂流していた。海岸部の珊瑚ビーチも汚染されていた。
 8月22日(水)、バイク同好会のメンバー約30名はヤンコック地区が油で覆われていることを発見した。製油所の反応は、「バイクに乗った人たちから水曜日にイスラ社へ連絡がありました。製油所に連絡があったのは、それが初めてでした」としている。
 製油所は、「HVCを確認したのは8月22日(水)付けのアミーゴ新聞の中で、バレン湾で油漏れがあったこと、漏れ出た油がどの程度に上っているのか調査しているという記事からです。この時、同時にイスラ社は海から油回収のためバキューム車を出しました」と言っている。
■ カリブ海沿岸警備隊は、海上の油の位置を撮影するために定期的に飛行機を飛ばしている。また、沿岸警備隊は流出油の漂流状況について報告している。疑問なのは、なぜ対応部署が排出口をフェンスで閉鎖する行動を取らなかったかということである。
■ 製油所は、「イスラ社は、 8月23日(木)朝、環境部の担当者を状況確認のためヤンコック地区へ派遣しました。しかし、当地区の一部が個人所有の土地であり、担当者は十分に検査ができませんでした。所有者の了解を得て、イスラ社の担当者は24日(金)に検査を継続しました。24日(金)の夕方、イスラ社は翌25日(土)から清掃作業を始めるために必要な資機材と人員の確保を行いました。バキューム車、ダンプカー、ショベルカーなどで、作業員は請負会社から来てもらいました。作業は続いており、さらに強化する予定です」と述べている。
 製油所から発表されたところによると、「製油所は今回の事故に対して深く謝罪するとともに、責任を感じております。将来、同様な事故が起こらないように予防対策をとります。 製油所の運営をしている者として、清掃作業を始めたすべての従業員、シント・ウィリブローダス(ヤンコック地区)の住民の方々およびボランティアで参加されている方に深く感謝致します。これからも継続し、イスラ社は被害を受けた地域が再生していくように努めていきます」と語っている。
■ 製油所のマヌエル・メディナ所長を含めた全幹部およびキュラソー石油労連(PWFC)の代表者は、清掃作業を行った昨日の前の日に、地域の人へ報告会を催した。キュラソー石油労連のリーダーであるアンジェロ・メーヤー氏によると、約200名の人が集まったという。
■ 流出した油が海岸線に広がり、キュラソーの自然豊かな中で暮らすピンク色のフラミンゴなどの野生動物は油まみれになってしまっていると、カリブ海に浮かぶオランダ領の小さな島の住民や自然保護者は8月27日(月)に語った。地元の環境保護団体のリーダーは、ヤンコックに流れ着いた原油はイスラ社が所有する貯蔵タンクのうち少なくとも1基から流出したものだと、27日(月)に指摘した。
 イスラ社は、ダイビングと色彩豊かな町であるウィレムスタットでよく知られている南カリブ海の島に製油所を保有し、大きな経済影響力を持つ雇用主である。イスラ社の製油所は、キュラソー島から約40マイル(60km)しか離れていないベネズエラの国営石油公社によって運営されている。
■ 環境保護団体SMOCのピーター・ヴァン・リーウェン氏は、「おそらくキュラソーで起こった最大の(環境)災害です。ヤンコックの地区は全部真っ黒です。鳥たちは真っ黒です。カニが真っ黒です。植物が真っ黒です。すべて油まみれになっています」と語った。
 オランダテレビでカリブ海のオランダ領を担当し、キュラソーを本拠にしているジャーナリストであるディック・ドレイヤー氏は、油で汚染された面積は“およそサッカー場30個分”だと推定している。さらに、ドレイヤー氏は、はっきりとした油膜の筋が3本あって沖合を浮遊しており、“キュラソーの南側にある海岸に汚染の恐れ”があると付け加えた。
■ ヤンコック地区で撮った写真では、黒くなった海岸、岸の岩に垂れる油、打ち寄せる波に巻き込まれる油濁の状況がわかる。吹きさらしのソルトフラッツの上には、油に汚れたフラミンゴ、甲殻類、とかげがもがいている可哀想な姿があった。
■ SMOCのヴァン・リーウェン氏によると、先週(8月20日の週)の時点で油流出によって野生動物が脅かされ始めたが、 会社によるクリーンアップ作業は最近になって行われ、漏洩のあったタンク基地から1,000m以内の自然保護区だけに限られていたという。タンク基地には、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)が大量の原油を貯蔵している。ヴァン・リーウェン氏は、「多くの時間が何もされないまま過ぎてしまいました。会社の誰かがやっと動き始めるまでに1週間が経っています」と語り、さらに、現在は流出した油を回収するため、作業員がヤンコックの海岸で油と砂を一緒に運び出していると付け加えた。
■ イスラ社の広報担当に多くの問い合わせがあっているが、8月27日(月)には何の回答もなかった。
 キュラソーの公衆衛生・環境・自然省の大臣に、政府として流出にどのように対応したか、あるいは今後事故を防ぐために何をするかという説明を伺いたいということに対して、27日(月)には回答がなかった。
■  SMOCのヴァン・リーウェン氏は、8月27日(月)、製油所施設から油が出たことを認めたイスラ社のミセス・ルフゲンナートと話したことを語った。「彼らはバレン湾に入港した原油タンカーから出たものだと認識していました。タンカーが正しい方法、すなわちタンクを空にして水を入れる方法で入港していないのではないかということです。イスラ社の製油所は事故へ至った原因について内部調査を始めていましたが、清掃作業を始めたのは最近です」
■ 公衆衛生・環境・自然省は、災害場所を確認に行っている。しかし、 SMOCのヴァン・リーウェン氏によると、「災害場所のごく一部について何枚かの写真を撮った後、現場を去っています。私が言いたいことは、流出に対する責任がイスラ社にあることは当然ですが、行動を起こす前に調査することを優先してしまっています。ヤンコックの住民によれば、油が漂着して1週間が経っています」

■ 獣医のオデット・ドエストさんはヤンコックに留まり、鳥たちを捕獲して救護に努めていた。彼女はフェースブックで、3羽のフラミンゴが本当に油まみれになっていると発信した。彼女は、「多くの人たちが集まれば、再び、きれいになったフラミンゴが飛べるようになるでしょう。貢献したいと思った人は、ソルトフラッツの向かい側に立っている青い家へ来て、洗剤液とタオルを使って手伝ってください」と伝えた。

■ イスラ社の製油所を実質的に運営しているPDVSAは、油流出が8月17日(金)に起こったことをキュラソー当局へ報告したことを認めた。8月31日(金)の PDVSAの声明では、この10日間、状況を改善しようと地方当局と協力して清掃作業を行い、影響を受けた地域の掃除は終わりに近づいていると述べている。
 清掃作業が終わりに近づいたという声明が出されたにもかかわらず、環境保護団体は、 緊急時におけるPDVSAの対応が遅く、環境汚染が拡大したと指摘している。 環境保護団体がクレームをつけているのは、状況がわかってから対応につくまでに、10日を過ぎていたということである。
 SMOCのヴァン・リーウェン氏は、PDVSAが“災害”に直面したときのガイドラインを持っていないことと、島に頼るべき環境部署が無いことを指摘している。
 一方、キュラソー当局は事故の原因究明に乗り出すことを発表した。ゲリット・スコッティ首相は、職務としてPDVSA と会い、政府当局に事故原因をはっきりさせるよう指示したことを力説した。
■ キュラソーの経済を支える事業の一つは観光事業である。2011年には約39万人の観光客が訪れ、前年に比べ14%増加した。

補 足
■  「キュラソー」(Curacao)は、ベネズエラの北約60kmのカリブ海に位置するオランダ王国の構成国で、人口約142,000人の島国である。首都はウィレムスタットである。
 1915年にベネズエラで原油が発見されると、ロイヤル・ダッチ・シェル社がキュラソー島にベネズエラ産の原油を処理する製油所を建設した。1954年キュラソーはオランダ領アンティルに組み込まれ、行政上の中心地となった。1970年代のオイルショックの影響を受け、1985年ロイヤル・ダッチ・シェルが島から撤退した。2010年10月、オランダ領アンティルの5島は解体され、キュラソー島は単独の王国構成国となった。なお、解体された5島のうちキュラソー島とシント・マールテン島は単独の自治領となり、残る3島はオランダ本国に編入された。

■  1985年にロイヤル・ダッチ・シェルが撤退した製油所は、ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)がリース契約で取得し、「リファイナリア・イスラ・キュラソー社」(Refineria Isla Curacao B.V.)として1985年から操業している。製油所は首都はウィレムスタットに建設され、原油貯蔵施設および石油製品供給施設はウィレムスタットから北西約10kmのバレン湾に面して建設された。このタンク基地が「キュラソー・オイル・ターミナル」(Curacao Oil  Terminal)である。桟橋は6基あり、水深が1号21.0m、2号12.2m、3号17.1m、4号28.7m、5号19.2m、6号28.7mと非常に良い港として知られている。
               首都ウィレムスタットにあるイスラ製油所(中央)    (写真はグーグルマップから引用)

イスラ製油所の全景 
 
バレン湾に面したキュラソー・オイル・ターミナル 

■ 「ベネズエラ国営石油公社」( Petróleos de Venezuela, S.A.、略称PDVSA)は1976年に設立され、ベネズエラ政府が100%出資する石油会社で、日本ではベネズエラ国営石油会社あるいはベネズエラ石油公団とも表記される。
 今回の油流出事故は8月17日(金)に起こっているが、対応の最中である8月25日(土)に、ベネズエラのファルコン州にあるPDVSAのアムアイ製油所で、ガス漏れが原因と思われる爆発・火災事故が起こり、多くの死傷者を出す事故があった。この事故情報は本ブログの2012年9月2日に「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」として紹介している。

■ 「カリブ海沿岸警備隊」はオランダ海軍所属で、カリブ海のオランダ領を担当する沿岸警備隊である。キュラソーのウィレムスタットにあるパレラ海軍基地に駐留している。

■ 油汚染にあった野生動物の救護に獣医オデット・ドエストさんの活動が紹介されている。好意の行動ではあるが、ボランティアが参加した段階で適切な救護方法がとられたかは疑問である。  2012年1月11日、米国ニュージャージー州のバス車両基地にある油タンク2基からディーゼル燃料油が漏れて水路に流出し、環境汚染を起こす事故が発生したが、この時はトライ‐ステート鳥類救助・研究所(デラウエア州ニューアークを本部にする非営利環境保護団体)が活動している。
 この事故情報は、2012年2月29日に「米国で地下タンクからの油流出によって環境汚染」として本ブログに紹介している。その中では、「トライ‐ステート鳥類救助・研究所は現地に入って、野生動物の保護作業を行なっている。州環境保護省の広報担当ハッジャ氏によると、トライ‐ステートの職員が1羽の死んだカナダがんを発見したほか、ジャコウネズミとカメが死んでいたという。 トライ‐ステート鳥類救助・研究所はプロの鳥類介護者であり、また訓練を受けたボランティアが従事している。従って、住民は油の流出した地域で苦しんでいる動物を見つけても、自分たちで捕まえたり、介護したりせず、トライ‐ステート鳥類救助会ニュージャージー支部のホットラインへ連絡してほしい」とある。
 日本でも、この種の活動する団体が出てきており、野生動物救護医師協会は環境省の委託を受けて「油等汚染鳥救護のガイドライン」(2007年3月)を作成しており、インターネットで見ることができる。 http://www.env.go.jp/jishin/attach/guideline_ocb.pdf

■ 今回の事例では、環境保護団体SMOC (De Stichting Schoon Milieu Op Curacao )の名前が出てくるが、環境汚染の反響は予想以上に大きいと思われ、9月8日付けのCuracaoChronicle誌には、つぎのような記事が出ている
 「製油所はSMOCを非難・・・イスラ製油所の広報担当は、世界的な世論を意図的にミスリードしたSMOCの環境保護運動を非難した。環境保護運動として撮られた聖ウィリブロード教会の前で油まみれになったフラミンゴの写真は合成写真だと言っている」
 写真はヤンコック地区で撮られ、SMOCの提供した一枚であるが、世界の報道機関はこの写真を使った。写真合成の真偽はともかく、教会への畏敬の念と教会の影響は日本人が想像するより大きいものと思われる。指摘のあったのは右の写真である。

所 感
■ 事故要因ははっきりしないが、情報から推測すると、つぎのようなケースが考えられる。ケース1;タンカーのバラスト水をスロップタンクへ受け入れ、廃水処理装置に移送したとき、オイルキャッチャで処理できないほどの多量の油が混入していたために、海へ流出させてしまった、ケース2;バラスト水受入れラインに間違って原油を受入れ、スロップタンクに多量の原油が入り、廃水処理装置を通じて油を海へ流出させた、ケース3;原油タンクの水切り作業時に、水が抜けた後もドレン弁を開放したまま放置して、多量の原油を海へ流出させた。
 いずれにしても、運転操作に関する基本的なルールが守られず(あるいはルールが曖昧)、いくつものミスが重なって流出事故に至ったことは確かである。
 事故の未然防止のためには、①ルールを正しく守る、②危険予知を活発に行う、③報告・連絡・相談(報・連・相)を行い、情報を共有化する、という3つの事項を行うことであるが、今回の事故ほど、この3つの事項が欠けていたと感じる事例は稀である。
■ 一方、リスクマネジメントの観点で見ると、事故後の対応も最悪な事例である。発災時間が金曜の夕方という構内にいる従業員が少なく、且つ連絡が伝わりにくい時間帯だったという条件があったにしても、対応が悪い。おそらく、間違った事故第一報に引きずられ、状況を確認しないまま、経過していったものと思われる。恐ろしいほどの鈍さである。
 しかし、記事の中で環境保護団体が指摘している「災害に直面したときのガイドラインを持っていないこと」と「頼るべき環境部署が無いこと」については、よその国の話ではない。 2012年6月28日、市原市のコスモ石油千葉製油所においてアスファルトタンクの破損によりアスファルトが排水口を通って海上へ流出した事故では、今回ほどでないにしても油回収の対応が後手にまわった事例である。 日本の中にも指摘のような問題が内在しており、「頼るべき環境部署が無いこと」は、特に住民に直結している県、市、町レベルの地方自治体にいえる課題である。

後記; 残暑が続いていましたが、一気に涼しくなりました。暑さに耐えていたせいか、朝夕は肌寒く感じるほどです。  ところで、先日、NHKのBSプレミアムで放送されたコズミックフロント「アポロ13号 想定外を乗り越える男たち」を興味深く見ました。月着陸を目指す有人宇宙船アポロ13号が酸素タンクの爆発による危機に面したときに、管制センターと宇宙飛行士がとった行動をまとめたもので、いろいろ感心するところがありました。  その中で「マーフィーの法則」が出ました。アポロ計画では、あらゆる想定をしてマニュアルを作成しています。酸素タンク喪失という想定はしていなかったのではなく、そのような状況では電源が無くなり、2時間で飛行士は死亡するという結果だったので、マニュアル記載から外したのだそうです。この際、管制センターで緊急事態に対応した担当官の言葉が「起こる可能性のあることは、いつか実際に起こる」というマーフィーの法則でした。ここから「想定外を乗り越える男たち」の物語になりました。今回の油流出事例をまとめているときでしたので、余計にマーフィーの法則」の言葉が印象に残りました。













  


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