2013年2月28日木曜日

米国ノースカロライナ州で落雷によるエタノールタンク火災

 今回は、2013年2月16日、米国ノースカロライナ州シャーロットにあるエコ・エナジー社の所有するエタノールタンクで、大雪の中、落雷によると思われる火災が発生した事故を紹介します。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・WsocTV.com,  Official: Lightning Strike or Static Possible Cause of Tank Fire, February 16,  2013
      ・NBCNews.com, Tank farm fire possibly caused by lightning strike, February 17,  2013 
  ・FireHouse.com,  N.C. Firefighters Battle Fire in 40K Ethanol Tank, February 17,  2013  
  ・TankTeam.com, Lightning Strike Blamed for Tank Fire, February 18,  2013 

<事故の状況> 
■  2013年2月16日(土)午後4時過ぎ、米国ノースカロライナ州シャーロットにあるタンク施設で、落雷によると思われる火災が発生した。事故があったのは、シャーロット市のポウ・クリーク近くでマウント・ホーリー通り沿いにあるエコ・エナジー社の所有する容量40,000ガロン(150KL)のエタノール用貯蔵タンクだった。
シャーロットのタンク施設のある地区   (写真はグーグルマップから引用)
写真はWscoTV.comから引用
■ 爆発の衝撃は2マイル(3.2km)離れた住宅地でも感じたという。住民のオーエン・フローさんは、そのとき窓がガタガタと鳴ったという。「私は家の外にいたのだが、雪雲から鳴った雷だと思ったよ。そうしたら、市の緑色のトラックが通りを走り過ぎて行ったので、思わず、神よ、飛行機事故でないようにと祈ったよ」とフローさんは語った。
■ 事故発生後、ただちに消防隊が出動し、午後4時15分に現場に到着したときには、タンクから高さ約20~30フィート(6~9m)の火炎が上がっていた。70名を超える消防士が水と泡を使って消火活動を行い、1時間半後に火災を制圧下に入れた。この火災による負傷者はなく、当局によると、住民や環境への危険もなかったという。
写真はWscoTV.comから引用
 シャーロッテ消防署のマーク・バスナイト署長によると、当時、この地区には大雪が降っていたが、消火活動の妨げにはならなかったという。消防隊員はタンク施設での事故を想定した訓練をしていたとバスナイト署長は語った。
■ 調査官は、ナショナル・ウェザー・サービスからのデーターを解析して原因が落雷によるものか確認中である。落雷でなければ、静電気によるものだろうという。

補 足
■  「ノースカロライナ州」は米国東南部に位置し、人口約950万人で、州都はローリー市である。 
 「シャーロット」はノースカロライナ州南西部のメックレンバーク郡にあり、州の最大都市で人口約73万人である。シャーロットは、初期にはゴールドラッシュで沸き、金鉱の街として栄えたが、やがてゴールドラッシュの中心がカリフォルニアへと移って下火となり、その後は綿織物産業が発展した。20世紀後半以降は金融センターとして急成長を遂げている。気候は四季がはっきりしており、最も暑い7月の平均気温は27℃、最高気温の平均は32℃で、日中は30℃を超える日が多い。最も寒い1月の平均気温は5℃、最低気温の平均は0℃で、月の半分は最低気温が氷点下に下がる。冬季には月間3~5cm程度の降雪が見られ、年間降雪量は約14cmである。

■ 「エコ-エナジー社」(Eco-Energy Corp.)は、1990年に設立されたバイオ燃料のエネルギー会社である。テネシー州に本部があり、年間売上高は約30億ドルで、バイオ燃料市場の約10%を占めている。物流部門は、北米に12の支部と600箇所のターミナルを持ち、800,000バレル(127,000KL)の貯蔵能力を有し、年間25,000台の鉄道貨物車と60,000台の輸送用トラックでサプライ・チェーンを操業している。
 2011年、シャーロットに110,000バレル(17,500KL)のタンク・ターミナルを再オープンしており、今回の火災のあったタンクはこの一つだと思われる。
火災のあったエコ-エナジー社シャーロット・タンクターミナル(写真はグーグルマップから引用)
タンクターミナルの風景(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
■ 「エタノール」 (ethanol) はアルコールの一つで、エチルアルコール (ethyl alcohol) とも呼ばれる。化学式はC2H6Oで、揮発性が強く、殺菌・消毒に用いられるほか、近年では産業資源としてのバイオマスから生成したバイオエタノールが自動車燃料として用いられている。米国ではトウモロコシ、ブラジルではサトウキビに由来するモラセス、欧州では甜菜が主な原料となっている。米国では、1970年代から中西部のトウモロコシ生産地帯においてエタノール混合率10%のガソリンが販売され始め、1990年代になると、クリーンエア・アクト(大気浄化法)にもとづき、エタノール混合に優遇措置がとられ、2000年代になってE10とよばれる10%混合ガソリンが広く販売されている。 

■ 「シャーロット消防署」はシャーロット地区を管轄する消防署で、フルタイムの職員1,164名、うち消防士1,044名で、消防車41台、はしご車15台を保有し、2010年には93,000回の出動に対応した。レスキュー隊のほか、4台のハズマット車、6台の航空機火災対応車などを保有している。訓練部門では、延年間60,000時間(2010年)の訓練を実施している。

所 感
オーストラリアのエタノールタンク火災事故(2004年)
■ エタノールタンクの火災事故としては、2004年3月、オーストラリアのニューサウスウエールス州のマニルドラ社のエタノール貯蔵タンクで爆発・火災を起こした事例がある。近年、バイオ燃料としてエタノールの使用が拡大しており、貯蔵タンクの数が増えれば、タンク火災の危険性は高くなる。

■ 今回のタンク火災は大雪の中で起こったという稀な事例であるが、火災は天候や時間にかかわらず、起こるということである。写真では、それほど大規模な火災ではなかったように見えるが、エタノールは揮発性の高い液体であり、消火活動は易しいものではなかったはずである。シャーロット消防署は、73万人の人口を抱える都市の消防署だけに人員・資機材ともに充実し、訓練も行われていたので、的確な消防活動ができたのであろう。


後 記: 近ごろ、為替や株価の話題など経済成長の話が飛び交っていますが、コラムニストの天野祐吉さんが最近書いた文章の中に、「だいたい、経済成長なんてものはしゃにむに追いかける時代はもう終わっている。いまの成長は人間のためでなく成長のための成長だ。『限りある地球で限りない成長が可能だと考えるのはエセエコノミストか愚か者だが、現実はエセエコノミストと愚か者ばかりになっている』とフランスの経済哲学者セルジュ・ラトゥーシュおじさんは毒づいていたが、その通りだとぼくも思う」というのがありました。私もそうだと思います。以前、作家の沢木耕太郎氏が引用したゼロ成長時代の日本は「静かなる世界の中心たれ」だと思いますね。






2013年2月24日日曜日

燃焼爆発の危険性解析

 今回は、英国安全衛生庁(HSE)が出している「燃焼爆発の危険性解析」という情報を紹介します。当ブログで爆発の解析に関する事故情報が多かったので、取り上げてみました。元々は石油貯蔵タンク分野でなく、海底油ガス田開発の分野で行われている燃焼爆発の危険性解析、すなわちハザード評価ですが、爆発の解析方法の現状について参考になります。
 本情報は英国安全衛生庁HSE(Health and Safety Executive)のインタネット・ホームページで公表されたGuidance, Offshore oil and gas, Fire and Explosion Strategy-Issue1に掲載されている「Explosion Hazard Assessment」 の資料について要約したものである。
<背 景>
■ オフショア設備(海洋油ガス田開発設備)では、多種多様なタイプの爆発が起こりうる可能性がある。すなわち、空間封じ込めのない爆発(障害物の存在によって形成された過圧力)、空間封じ込めの爆発(空間封じ込めと障害物の組み合わせによって形成された過圧力)、外部爆発(封じ込めに伴う現象、ベント爆発)、内部爆発(例えば、フレアースタック内)、物理的爆発(例えば、破壊した圧力容器)、固相爆発(例えば、坑井製作用爆薬の使用に関連するもの)、ミスト爆発およびBLEVE(沸騰液膨張蒸気爆発)である。
■ 大半の施設では、爆発・火災のリスクの中でも爆発事象が重要な要因としてあげられている。1973~97年の20年間において北海のオフショア設備では、10件の大きな爆発事故(>0.2bar)が起こっている。そのうち8件は英国系の事故で、1980年代が最も多い。最近の1992~99年のデーターでは、英国系の設備で10件の爆発事故が起こっており、最も多いのはガスタービンやフレアーシステムに関連した内部爆発である。
<現 状>
 =大規模実験データ=
■ 大規模なテストによって得られた実験データは貴重な知見であり、オフショア設備におけるガス爆発がどのような挙動で起こっているかを理解するのに大いに役立っている。その当時のモデルでは、予測し得ないような新しい現象を観察できた。例えば、小さな規模の障害物によって爆発圧力が大幅に増大することなどである。しかし、多くの場合、結果に対して十分な分析が行われていない。その結果、爆発メカニズムの解明を得る機会を逃している。大規模なテストによって得られたデータは、おしなべて言えば、過圧力と火炎到達時間に関する測定結果に限られている。厳密なモデル評価やモデル開発のためには、さらに詳細な情報(例えば、火炎速度に関する情報)が必要である。
=実際の放出ケース=
■ JIP(Joint Industry Project)のフェーズ2およびフェーズ3aで実施された大規模なテストは、モジュール全体に充満する静的で正規組成の雲に関するものだった。しかし、大きな乱流を伴う実際の放出において、テスト時に観察されたよりも大きな爆発の過圧力が起きるかどうか疑問が残った。JIPのフェーズ3bでは実際の放出ケースを取り上げ、ここから最初に解ったことは、正規組成に近い濃度のガスでモジュールが急速に充満する場合があり得るということだった。一方、実際の放出テストでは、過圧力は低いのが通常であるが、常にそうなのかということに関してはなおもはっきりしていない。
=ミスト爆発= 
■ 高圧で揮発性液体を保有した設備では、二相または‘ミスト’で放出することがある。ミスト爆発に関する実験研究の数は限られており、ミスト爆発の挙動に関するメカニズムは実際のところよく解っていない。初期条件を設定することが難しいため、この分野の研究もこれからの課題である。特に、ある粒径サイズのミストにおいてベーパー濃度が同じであっても、極めて大きな爆発を形成することがあるが、なぜか解っていない。
<爆発モデルの比較>
■ 現在、利用可能な爆発モデルはつぎのように分類される。
 ● 経験モデル: 例えば、TNOマルチ-エネルギー・モデル、ベーカー・ストリーロ法、過密度評価法(COMEX/NVBANG)
 ● 現象論モデル: 例えば、SCOPE and CLICHE
 ● CFDモデル(数値流体力学モデル): 例えば、FLACS、EXSIM、 AutoReaGas 、CFX、COBRAなど
 2000年までに開発されたモデルに関する評価および将来性に関する提案は、HSEによってまとめられ、2004年に公表されている。
■ 経験モデルは適用範囲に限界がある。複雑な形状には対応できず、物理的要素を単純化したモデルである。それにもかかわらず、この方法は簡単に概略的な計算ができることでよく使われている。特に、より高度なツールを用いて調査する必要があるかどうかのスクリーニングとして有用である。
■ 現象論モデルは経験モデルよりやや複雑である。現象論モデルは経験モデルより適用範囲の制限が少なく、実験データとよく合っており、経験モデルより不確実性のレベルは小さい。現象論モデルは実際の対象構造をモデル化するのではなく、簡略化した方法(例えば、回廊で結んだボックスのようなもの)に置き換える。このモデルは、計算の必要度が少なく、比較的使用しやすくなっている。従って、超過曲線の作成など多くの計算を実施しなければならない場合に使うのに適している。
■ CFDモデルは2つのグループに分けられ、ひとつはシンプル・モデルで、もうひとつはアドバンス・モデルである。 2つのグループの違いは、やや独断的ではあるが、アドバンス・モデルが物理的および化学的プロセスをより完全に説明することができ、形状の画像化や数値解析の精度がよいといえる。この違いを示すために、JIPのフェーズ2における主要な知見のひとつ、すなわち小さな規模の障害物に関する重要な点について考えてみる。シンプルCFDモデルでは、小さな規模の障害物の問題を避けるために、PDR(多孔・分散性レジスタンス)モデルを使用する。一方、アドバンスCFDモデルでは、課題解決のためAMR法(解適合格子法)を使用する。現象論モデルや経験モデルに比べると、CFDでは、結果の精度がはるかに良く、フレキシビリティに富んでいる。しかし、CFDはコンピューターの使用時間が極めて長く、エラーの出る範囲も大きい。不確実性のある問題領域はつぎのとおりである。
 ●形状設定上の問題 : 上述のとおり
 ●燃焼プロセスのモデル化の問題 : 市販のCFDコードは、燃焼状態を解析してモデル化したものでなく、実験で得られた簡略化した相関を使用している。
 ●流動のモデル化の問題 : CFD爆発プログラムで通常使用されている乱流モデルは、厳密にいうと、高速の燃焼流動に合っているとはいえない。
 ●過圧力の超過計算における問題 : これには、つぎのような事項を含んでいる。
   ・分散計算と爆発計算の両方とも同じCFDコードを使用。(モデル化の必要項目はそれぞれ異なっている)
   ・相当数の分割CFDシミュレーション(各シミュレーションの品質に関係)では統計学的に有意な結果を得ることができるが、これを避けた場合のコンピュータのラン時間。
   ・想定される様々な漏洩事象のすべてについて雲の形状と過圧力のデータを算出するため、不確実性を含んだ‘対称性の形状’あるいは‘物理的推論’の問題。
   ・CFDモデルの中には‘正規組成と等価な雲’をつくる際に不確実性を内在することがあり、このため、洗練されたガス分散モデルによる爆発過圧力の計算の高い精度に対して相殺してしまうことがある。
 ●妥当性の確認および検証 : CFDコードの中には検証データの開示に不足しているものがある。プログラムが定期的に更新されているか、新しいバージョンが定期的に発行されているかということは、プログラムの妥当性の観点から関心があるところである。
<産業界で行われている解析方法>
■ オフショア設備で行われている爆発の危険性解析(ハザード評価)には、経験モデルを用いた簡略の評価から複数のCFDシミュレーションを用いた詳細な解析まで広く様々な方法がとられている。ここでは、産業界で行われている方法について調べ、その中からわかった主要な事項はつぎのとおりである。
 ●ある設備では、他と‘違い’があるとして、爆発の危険性解析を詳細に実施されることがある。しかし、爆発ハザードという観点から見て、本当に比較できるのかという疑問が生じる。
 ●一般に立てる仮説は、正規組成のガスでモジュールが充満されていることを基に爆発の解析を実施することであり、すなわち、これは最悪のケースということになる。これは、重要な影響を与えるつぎのような点を無視していることになる。
   ・局所的なピーク過圧力に寄与する過密度。そして、実際の放出時に伴う乱流は更に過圧力を高める可能性がある。 (ガスがモジュールを完全に充満していなくても)
   ・爆発リスクに伴う被害拡大やTR障害を考慮して、発生頻度の低い最悪ケースだけを計算してしまうと、過圧力は低いが、発生頻度の高い事故を除外してしまい、総合的な爆発リスクについて判断することができなくなる可能性がある。
 ●実際の放出ケースについて評価する際、担当者が爆発の過圧力をガス雲の容積にもとづき簡略な方法で算出することがあるかも知れないが、これは過密度に関する重要な影響を無視することになる。
 ●産業界において超過曲線を導くために用いられている方法の考え方は必ずしも一致していない。不確実性を処理する方法は明確になっていないし、用いられている方法は範囲が広く、一般的な曲線を修正して使うもの、現象論モデルとCFDモデルを組合せたもの、CFDモデル単独のものなどいろいろあり、これらを比較することは難しい。
 ●ガス爆発のモデル化において超過曲線を追究した開発でも、体系的にまとめるところまで至らず、実証できなかった。
 ●設計段階で爆発解析を行う場合、モジュール内の過密度レベルを仮定するということは難しい。(詳細設計の情報がないため)   過去において設計の初期段階では、爆発過圧力はかなり過小評価されていた。
 ●爆発過圧力と構造物の挙動との相互作用は、まだよく解っていない。
<戦略的な開発上の問題>
=爆発現象の解明=
■ 実験データ
 ●テストからもっと有用な情報を得るため、JIPテストによる大規模な実験データについて根本的な見直しを行うこと。
■ 実際の放出
 ●JIPフェーズ3Bの実際的な放出テストと通気を伴うガス放出による結果から解明の向上を行うこと。
 ●爆発テストで使用するいわゆる実際的なガス雲を、現実の事故において生じる実際の条件にどのようにして近づけることができるかということ。
■ ミスト爆発
 ●瞬間的なミスト雲を把握できる診断技術の開発を促進すること。
 ●ミスト爆発の小規模な実験研究を推進して、基本的なメカニズムの解明を行い、爆発で起こる結果に関する評価が可能にすること。
 ●長期的には、ミスト爆発の大規模実験の実施を検討すること。
=爆発のモデル化= 
■ 短期計画
 ●ガス爆発のモデル化に関してCFDやその他の技術を追究し、最適化を推進すること。
 ●CFD計算に優れた人材育成の組織化を進めること。そこでは、流体力学、燃焼学、コンピューター計算への理解を深めながらCFD計算を実行できる人材を育成する。そして、できる限り‘バディシステム’をとり、内容のチェックを行うことによって計算結果の品質を保証できるようにする。
 ●産業界で使用されているコードにおいて、異なるバージョン間で出てくる結果に関する相違点について調査を行うこと。
 ●超過曲線の導き方によって出てくる違いのレベルにいろいろな意見があり、もっと評価について議論を要する。
 ●コード開発者はもっと情報公開を行い、つぎのような点を明らかにすること。
   ・プログラムの検証テスト結果・・・確認テストの概要を示す書類など
   ・CFDコードに入れた数値技術やモデル化技術
 ■ 長期計画
 ●コード開発者への期待事項:
   ・着火、層流火炎の成長、そして乱流燃焼へ至る物理的サブ・モデル化の向上
   ・乱流モデル化の向上、層流から乱流への移行に関する精度のよいモデル化、二相流モデルの改善
   ・差分スキームの精度向上、ソルバーの効率化の向上、いずれも堅牢性を有すること。
   ・火炎面と障害物について適切な解に導くようなメッシュ細分化や改良方法の導入
 ●CFDコードやその構成サブモデルについて、校正(キャリブレーション)やチューニングを行わなくてもよいような検証方法の開発
 ●爆発と構造物の挙動の相互作用に関する解明とモデル化の改善
補 足
 「英国安全衛生庁」は、「Health and Safety ExecutiveHSE)は1974年に設立され、イングランド、ウェールズ、スコットランドにおける国民の健康と安全を司る国の機関で、日本では「英国安全衛生庁」あるいは、「健康・安全行政部」ともいわれる。 HSEが行った事故調査で有名なものは、200512月に起きたイングランドのバンスフィールド石油貯蔵所における爆発火災事故(40名以上の負傷者発生)である。ハザード評価の分野では、ドイツのBAM(ドイツ連邦材料試験研究所)、オランダのTNO(応用科学研究機構)並ぶ世界を代表する研究機関として知られている。
■ 海洋油ガス田開発分野では、設計、材料、安全など多くの課題を解決するため、民間企業だけでなく、政府(国の研究機関など)も参画する「Joint Industry Project JIP)」が設立され、活動を行っている。この活動の中の一つが爆発の危険性解析に関するものである。活動は段階毎にフェーズ123と設定され、実験や研究が行われ、成果は実際の現場で活用されている。
■  この資料に紹介されている「CFDモデル](数値流体力学モデル)のコード例は、FLACS、EXSIM、 AutoReaGas 、CFX、COBRAが挙がっているが、特にFLACS、EXSIMはオフショア設備の危険性解析評価のための爆発シミュレーション用として開発されたものである。
FLACSによる石油プラットフォームの爆発解析例
「FLACS」はノルウェーのGexCon社が開発し、水素や可燃性ガスの燃焼爆発危険性解析のためのソフトウェアで、フルバージョンでは水素の漏洩過程と爆発、気体放出、ガス爆発などの解析が行える。日本では、㈱爆発研究所が販売代理店となっている。 「EXSIM」は英国のシェル石油グローバル·ソリューションズとノルウェーのテレマーク技術研究開発センター(Tel-Tek社)によって開発されたものである。 「AutoReaGas」はオランダのセンチュリーダイナミクス社(現在は米国Ansys社に買収)とオランダのTNO社が共同で開発したものである。「CFX」は米国Ansys社が保有する汎用熱流体解析ソフトウェアで、幅広く用いられている。「COBRA」は米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所が開発したもので、従来、原子力部門で活用されてきた。 
所 感
■ 最近、当ブログで爆発の解析に関する事故情報が多かったので、HSE(英国安全衛生庁)が公表している爆発の解析方法に関する情報を取り上げてみた。海底油ガス田開発では、爆発事故が人命および環境汚染へ直接、影響を及ぼすので、燃焼爆発の解析が最も進んでいる。ハザード評価の分野で世界を代表する機関であるHSEがまとめた今回の情報は、爆発の解析方法の技術動向とその課題がよくわかる
 爆発の解析方法は、経験モデル( TNOマルチ-エネルギー・モデルなど)から現象論モデルへ、さらにCFDモデル(数値流体力学モデル)へ移行している。海底油ガス田開発分野は、TNT等価法は簡略の評価方法にさえ対象になっていない。おそらく、石油貯蔵タンク分野などでも、この方向性になっていくものと思われる。


後 記: 余談になりますが、今回の情報を調べていて、世界(欧米)における基礎研究の進め方の一端を垣間見るように思いました。一企業だけでやれないことは、企業が集まって国際的な組織を作り、さらに国家の研究機関が支援して地道な基礎研究を進め、そして、その研究成果を実際に応用し、さらに深化させるということです。ここには明らかに戦略思想があります。日本でも最近、戦略という言葉がよく使われますが、戦略が内向きというか、自己満足的というか、根本的に日本に欠ける発想ですね。日本では到底やれる話でなく、やはり、日本は技術の活用の道でいくしかないと感じさせられます。



2013年2月18日月曜日

太陽石油の球形タンク工事中火災(2012年)の原因

 今回は、2012年6月27日、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所において内部検査のため開放中の液化石油ガス用球形タンクから出火し、内部で工事中の作業員1人が負傷する事故の原因について紹介します。事故の原因調査は太陽石油の社内事故調査対策委員会でまとめられ、2012年8月31日に公表されました。遅くなりましたが、改めてまとめてみました。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・TaiyoOIl.net, T-116火災事故報告(概要), August 31, 2012
 当該情報は太陽石油社内の事故調査対策委員会の事故報告書(概要)として公表されたものである。社外者から見ると、理解しずらい点があり、一部表現を代えてまとめた。

<事故の状況> 
■  2012年6月27日(水)10時45分頃、愛媛県今治市菊間町にある太陽石油四国事業所において内部検査のため開放中の液化石油ガス用球形タンクT-116から出火し、内部で工事中の作業員1人が負傷する事故があった。
2010年建設完了時の球形タンク施設 
 
(写真はKajima.co.jpから引用)
■ 火災の発生した球形タンクの仕様はつぎのとおりである。
  設備名: 球形タンク T-116
  設置年: 2010年9月14日完成
  型  式: 全溶接鋼板製球形タンク
  容  量: 2,000トン
  内容物: ブタン
  内  径: 19,420mm
  材  質: 球殻板 圧力容器用鋼板(SPV490:JIS G 3115)
■ 球形タンクは開放点検の工事が行われることになっていた。この準備ため、6月12日(火)に仕切板を挿入して縁切りし、ガスパージのための水張りが開始され、6月18日(月)に完了した。この時点で工事への引渡しが行われた。その後、水抜きが行われ、6月22日(金)に完了した。工事のため、タンク内への入槽作業は6月25日(月)から開始され、同日から火気使用作業が行われた。工事体制は、元請会社が統括管理を行い、下請会社2社が作業を行う体制で進められた。
実況検分中のタンク外上部。右の垂直配管がブロー用配管と思われる。
ブローダウン行き配管は見えない。安全弁用のバルブが取外されている。
  
(写真は愛媛新聞の動画から引用) 
■ 事故当日の6月27日(水)、作業開始前のタンク内部の環境測定が行われ、タンク外上部および下部にて可燃性ガス等のないことが確認され、工事が始められた。工事は、タンク外上部でブロー用バルブの取外しおよびタンク内部で鋼製ラダーの切断が予定されていた。しかし、タンク外上部の作業で、誤ってブローダウン行き配管のフランジを開放し、仕切板の抜取りとバルブの取外しが行われた。このため、ブローダウン行き配管内のプロピレンガスがタンク内に流入し、タンク内部で溶断作業を開始しようとして使用した着火器・ガス溶断機が着火源となり、火災に至った。

 <事故の原因>
■ 事故の直接原因は、タンク外上部の作業において、工事請負会社の作業員が、本来、ブロー用バルブを取外すべき作業を誤って、可燃性ガスの入ったブローダウン行き配管のバルブを取外す作業を行なったことによる。
■ 事故の要因はつぎのとおりである。
  ●作業内容の伝達ミス(工事請負会社): 工事請負会社内での伝達ミスおよび作業確認不足が重なったことにより、作業員が取外してはならないバルブ(ブローダウン行き配管バルブ)を取外してしまった。
 ●危険性の認識不足(工事請負会社): 工事請負会社内で、仕切り板が挿入されているブローダウン行き配管のフランジ開放を行った場合、可燃性ガスが漏洩するという危険性の認識が共有されていなかった。 
 ●作業環境設定への配慮不足(事業者): ブローダウン行き配管のフランジ開放、仕切板の抜取りおよびバルブの取外しをされた場合、配管内部のガスが漏洩するという危険性があったが、バルブ閉止、仕切板挿入および仕切板への表示を終えた段階(6月上旬に実施)で、事業所の規則に基づいた環境設定の対応は完了しており、誤作業等により環境設定が崩されることを想定していなかった。

 <再発防止策>
(1)工事請負会社の「作業の見える化」を徹底指導
 工事請負会社内での伝達ミスを防止し、危険箇所に対する認識を全作業員が共有するために、作業指示書や図面等を活用した書類を用いた「作業の見える化」を徹底するよう指導する。
(2)事業所従業員の立会い強化 
 事故前日に、大気開放となっている安全弁の仕切板とバルブの取外しを行っており、当該ブローダウン行き配管の仕切板とバルブの取外し作業も同様に問題ないと錯覚し易い状況があった。
 安全な作業環境を設定する上で、仕切板の挿入・取外しは最も重要な行為であり、現在の事業所規則では、可燃性ガス等危険性のあるフランジ等の開放作業においては、事業所従業員が必ず立会いすることになっているが、今後は誤作業による環境設定の変更が生じないよう、全ての仕切板(気密テスト等で使用するテストプレートは除く)の挿入・取外しにおいて、事業所従業員が立会う。
(3)作業禁止機器の管理強化
 作業環境設定用の仕切板とバルブには表示を行っているが、今後は、開放してはならない旨を強調して表示し、更に固縛を行い誤作業を防止する。
(4)工事請負会社への教育 
 事業所内で作業する工事請負会社で構成される建設業安全協力部会を通じて、フランジ開放や仕切板挿入・復旧等、開放作業の危険性や作業手順等について再教育を実施する。

補 足
■ 「プロピレン」は、分子式C3H6のオレフィン系炭化水素で、無色・無臭の可燃性の気体である。沸点-47.7℃、ガス比重1.48(空気=1.0)で、一般には液化石油ガス(LPG)と同様、高圧ガスとして取り扱われる。プロピレンはエチレンの熱分解などで副生されるが、太陽石油では流動接触分解設備(FCC)により得られたオフガスだと思われる。用途としてはポリプロピレン(合成樹脂用)、アクリロニトリル(合成繊維、合成ゴム用)の原料である。 

■ 「ブローダウン配管」は緊急時や運転停止作業中などで装置や高圧タンクから系外へ液体を排出するために設けられた配管で、常時は常圧またはわずかに正圧である。今回の事例では、プロピレンが無色・無臭のガスで、配管フランジを開放しても、漏洩音がなく、臭いもしなかったため、作業員は気がつかなかったと思われる。プロピレンはガス比重が空気より重く、配管の開放部から下方へ流れ、タンク内へ入ったものである。
 事故後、なぜか漏れたガスの種類を明らかにすることが避けられた。本来、液化石油ガスタンクは高圧ガス保安法の適用を受け、愛媛県の管轄であるが、ブローダウン配管から漏れたプロピレンによる事故は高圧ガスとは関係のない軽微な事象と判断し、負傷者が出ている事故にも関わらず、愛媛県は実況検分に立入りしなかったものと思われる。

所 感
■ 前回の事故情報を紹介した際、太陽石油のホームページのニュース・リリースが3回出た後、ぱたっと発信されず、意図的な配慮を感じ、果たして真実の原因調査結果が出るのか疑問が残るという所感を書いた。そして、「事故事例は二度と起きないように、事実を明らかにし、再発防止策を出して活かすことである。これは官庁の組織内や発災事業所内に死蔵することなく、公にして他社でも活用できるようにすることが重要であり、真実の原因調査結果が公表されることを期待する」と結んだ。その後、社内の事故調査対策委員会のまとめた事故原因調査報告書が公表されたことは大変評価する。
■ 「三井化学岩国大竹工場の爆発事故(2012年)の原因」の情報を当ブログで紹介した際、所感で、事故の未然防止のためには、①「ルールを正しく守る」、②「危険予知活動を活発に行う」、③「報告・連絡・相談(報連相)により情報を共有化する」の3つだと述べた。過去の失敗事例要因を調べてみると、危険予知不足が60~70%、ルール遵守不足が20~30%で、この2つが圧倒的に多いが、報・連・相不足によるものも5~10%程度ある。今回はその 「報連相により情報を共有化する」ということの欠けたことが主要因で起こった事故であった。
 一方、事故原因および再発防止策に書かれた内容を整理し、深層原因を想定して、今回の事例を「ルール」と「危険予知活動」と「報連相」に関して階層毎に分析してみれば、次表のようになり、失敗要因と対策がわかりやすくなる。


後 記; 最近、山口県では、石油コンビナートなどで事故が起きた場合、県の主幹課から各地区の「環境保健所」へ通報するというルールを新たに設けることになったという記事が新聞に載っていました。水質汚濁や大気汚染に対応するためだといいいます。以前からずっとこのブログで述べているように環境汚染事故発生時の対応や住民避難の要否判断は自治体の環境部署ですので、やっと一歩前進したと思います。事故は起きないことに越したことはありませんが、ロシアで隕石が落ち、多くの被害が出るような世の中です。備えは大切です。










2013年2月12日火曜日

アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況

 今回は直接の貯蔵タンク事故情報でなく、2013年1月16日アルジェリアの天然ガスプラントで起こった人質拘束事件の警備状況に関する情報についてまとめたものを紹介します。海外とはいえ、テロリストがターゲットにした天然ガスプラントの警備状況を知ることは、海外での建設だけでなく、日本国内の施設における警備や危機管理について参考になると思います。
 2013年1月、アルジェリアの天然ガスプラントにおいてイスラム過激組織による人質拘束事件が起きたが、ここでは、インターネットのいろいろな情報から天然ガスプラントの警備状況についてまとめた。

 <事件の状況> 
■  2013年1月16日(水)午前5時頃、重武装した集団がアルジェリアのイナメナス近くのティグエントゥリヌにある天然ガスプラント地区を襲撃し、同地区で働いていたアルジェリア人と外国人の多くを人質として拘束した。襲撃したのは、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」に所属するモフタール・ベルモフタールが組織した「血判部隊」というイスラム武装集団であった。
■ 天然ガスプラントは、イナメナス・ガスプロジェクトの名で知られている天然ガスの開発プロジェクトで、4箇所のガス田と、イナメナスから西に約45km離れたティグエントゥリヌにガス集積とガス処理施設がある。イナメナス・ガスプロジェクトは2006年から始められ、英国のエネルギー会社のBP社、ノルウェーのエネルギー会社のスタトイル社およびアルジェリア国営炭化水素化学輸送公社(ソナトラック)の3社の合弁会社で操業されている。日本の建設会社の日揮はプラントの建設を受注し、現地に駐在している。このため、同地区には、英国、ノルウェー、日本などの外国人が働いていた。
■ 事件発生から1日を経過した1月17日午後12時、アルジェリア軍が人質誘拐犯に対して攻撃を開始した。事件発生から1月19日のアルジェリア軍最終攻撃による事件収束までの経緯について、BBCではつぎのように伝えている。
➊ バス攻撃: 1月16日現地時間午前5時、重武装した集団がイナメナスの飛行場のある方向へ向かうガスプラントの作業員を乗せた2台のバスを襲撃した。
➋ 人質拘束: 武装集団はティグエントゥリヌにある施設の方へ車で突進し、この地区にある居住区と主ガス施設にいたアルジェリア人と外国人の労働者を人質として拘束した。
➌ 軍が地区を包囲: 保安部隊とアルジェリア軍が人質を拘束した誘拐犯を包囲した。英国キャメロン首相をはじめ西側諸国のリーダーは、アルジェリア政府に対して行動を起こす前に、専門的なアドバイスをすることを申し入れた。
➍ 軍の攻撃: 1月17日午後12時(グリニッジ標準時間13時)、誘拐犯が人質の何人かを施設から移動させようとした時、アルジェリア軍は攻撃を開始した。報じられたところによると、何人かの人質は逃げることができたが、幾人かの人質が死亡したという。
➎ 最終攻撃: アルジェリア軍は、1月19日、7名の人質を殺害した最後の11名の誘拐犯を壊滅して最終攻撃を終えたと、国営放送は伝えた。現時点では、少なくとも人質48名と誘拐犯32名が死亡したとみられる。

■ イスラム武装集団の襲撃からアルジェリア軍の攻撃による犠牲者について、AFPでは1月20日時点でつぎのように伝えている。
 その後、1月25日時点で判明した死亡者は、外国人39名(日本人10名、フィリッピン人8名+身元不明2名、ノルウェー人5名、英国人5名、米国人3名、マレーシア人2名、ルーマニア人2名、コロンビア人1名、フランス人1名)、アルジェリア人1名(警備員)、誘拐犯29名の計69名であった。当初、誘拐犯32名全員が死亡と伝えられていたが、3名は生きて逮捕されていたことがわかった。
 
<侵入防止設備の状況> 
           (写真はFNNから引用
■ 事件後に現場公開で入ったFNNの写真によると、プラント周囲には「侵入防止柵」が設けられていることがわかる。タイプは「忍び返し型フェンス」で、忍び返し部には「鉄条網」が張られている。
■ 侵入防止柵の前に「コンクリート・ブロック」が置かれ、車両による強行突破防止が図られている。写真で見てわかるように柵とコンクリートブロックの間は自動車が走行できる幅がある。おそらく、プラント内側からこの中に入り、柵周囲を車両で巡回点検することができるようにしたものと思われる。
ガスプラントの建設地 
         (Statoil Photo Manf red Iarischから引用
■ 美化や環境保全上からすれば、境界柵の前面は木々の林にされるが、侵入防止の観点からいえば、境界柵の前面は林にせず、見通しがきくようにされるのがよいとされている。そして、車両による強行突破を防止するため、境界柵前面に深い溝やコンクリート・ブロックが設置される。操業会社の一つであるスタトイル社が公開している現地の建設写真を見ると、プラントはまったく木々のない荒涼とした砂漠地帯に建設されており、監視しやすい反面、どこからでも近寄ることのできるサイトといえる。
■ 近年、敷地境界に「侵入警戒システム」を設置する場合がある。これは、フェンスの網にテンションセンサーのワイヤを組み込み、フェンスに生じるたわみ、振動、切り破り、引っ張りを特定して侵入を検知できるようにしたり、あるいは、赤外線やマイクロ波を利用して、不法侵入者等の異常を検知する。
 今回のガスプラントに侵入警戒システムが設置されていたかわからない。しかし、BBCの報じたニュースでは、BP社のアラン・ライトさんがプラント内の事務所からフェンスを切断して外へ脱出したという。このことから推測すれば、フェンスに侵入警戒システムは設置されていなかったと思われる。

 <ガスプラント正門までの検問の状況> 
ガスプラントから約10km手前にある軍の検問所
          
(写真はReuterから引用
■ 現場公開に伴い現地にはいった報道によれば、ガスプラントの施設までには、幹線道路からガスプラントへの分岐路に軍の「検問所」があり、居住区近くに「外門」がある。この外門から約3km先にプラントの「正門」がある。
 毎日jpによれば、分岐路に軍の「検問所」があるが、夜陰に紛れれば、軍の警戒網は破れると感じたと報じている。「外門」は「ゲート」型で金属製の門などはなく、当時は警備会社が警備していたと思われ、毎日jpは重武装集団なら楽々と突破できただろうと報じている。居住区には高さ2mほどの金網で囲まれており、入り口には金網の門が設置されている。毎日jpによれば、この門は武装勢力の強行突破でひしゃげていたという。
ガスプラントの正門 
■ ガスプラントの「正門」は、現場公開で現地にはいった報道写真によれば、道路脇にコンクリート・ブロックがあり、道路には真っ直ぐに突破できないように金属ポールが立っている。金属ポールは抜き出し可能なタイプになっており、写真では今回の襲撃や軍攻撃のためか1本が倒れ掛かっている。「正門」は金属製のスライド型で、通常、どこにでもあるタイプと思われる。
■ 現在、「外門」は地元警察が警備し、「正門」はアルジェリア軍が警備しているが、読売新聞によれば、「施設の内部の警備は、プラント区域や居住区域、外部への出入り口である外門を含め、施設運営者であるBP社が委託した民間警備会社が担当していた」という。
■ 12a09.WorldPressによれば、武装集団は1月16日未明、リビア国境沿いで警備の手薄な砂漠地帯から国境警備の隙を突くように侵入し、アルジェリア政府公用車を偽装した車両で移動し、メンバーの一部は軍服を着ていたという。軍の警戒網を避けるため幹線道路の使用も控えていたと伝えている。

 <警備体制の状況> 
■ 前述のようにガスプラント内、居住区、外門の警備はBP社の委託した民間警備会社が行っていた。
 BBCは、ゲートとガスプラント内のパトロールは民間警備会社が行っていたと報じている。また、読売新聞も、施設警備はアルジェリア政府と施設を運営する外国企業との合意に基づき、民間警備会社が担当し、軍や治安警察は施設内部の警備に関与していなかったと報じている。
 一方、施設に出入りする車両の警護のため、20~30名の憲兵(政府治安部隊)が常駐していたが、車の警護をするだけで、武装集団の侵入には無力だったという情報や、入り口は軍が、施設内は民間会社が警備していたという情報があるが、少なくとも事件当日は軍や警察の警備はなかったと思われる。
■ 前述のAFPの掲載した図では、道路右側にアルジェリア軍キャンプと記された場所があるが、ここがアルジェリア軍の駐在地と思われる。軍(あるいは憲兵)の施設警備に関する役割ははっきりしない。
 同様に、前記のBBCの掲載した地図では、道路左側に警備所(セキュリティ)と記された場所があるが、この詳細を説明した情報はない。NHKによると、「施設の手前で、施設内に拠点を置く武装警察が検問所を設けて出入りを管理していた」というBP社の広報担当の話を報じている。警備所はこの地元警察の駐在地であるかもしれない。しかし、武装警察に関する情報は何もなく、当日駐在していたか疑問が残る。
■ 民間警備会社の警備員は銃を携帯していなかった。NHKによると、軍は民間の警備員に銃を持たせるように求めていたが、BP社は施設の内部での銃の使用は安全上の問題があるとして、警備員が銃を持っていなかったと報じている。アルジェリア国内では、民間警備員が武装していなかったことが危機管理上の問題だったという意見が出ている。
■ 読売新聞によると、外門を守る警備員は身分証明書や車内の確認しかしないという元人質の証言を伝えている。
■ 読売新聞によると、日揮も独自に地元の民間警備会社2社と契約を結んでおり、事務所のあるプラント区域と居住区域に各2名の警備員を配置していた。神奈川新聞によると、日揮は本社に24時間体制で海外スタッフの危機管理を支援する部署を設置していたが、今回は想定を超えるものだったと同社広報部長の談を伝えている。

 <非常事態発生時の警備対応状況> 
■ イスラム武装集団がガスプラントを襲撃した際、正門を警備していた警備員が非常事態用「警報ボタン」を押して、施設内に「警報」を鳴らして、構内にいる人に危険を知らせた。
 産経ニュースによると、民間警備会社の警備員のムハンマド・ラハマルさんは事件発生時、正門を警備していたが、武装集団に開門を命じられたが応じず、警報ボタンを押した。その直後、ラハマルさんは銃撃され、死亡したという。アルジェリア人唯一の死者となったラハマルさんの行動を地元メディアは英雄的と賞賛しているという。
■ 産経ニュースによると、「警報」を受けて多数の従業員が現場から脱出し、ガスプラントは安全対策のために一部で稼働を停止させたと報じている。 

 <警備強化の動向> 
■ 1月30日、英国キャメロン首相はアルジェリアを訪問し、セラル首相と会談し、テロ対策に向けた連携強化について確認しあった。 

 <テロに関する事前の情報> 
■ NHKは、「生かせなかった警告」として、2112年12月にインターネットに掲載されたビデオ声明が各国の治安当局者の注目を集めていたと報じている。声明を出したのは「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」に所属していたモフタール・ベルモフタールが「血判部隊」という新しい組織を結成し、欧米への聖戦を宣言したというものだった。
 同記事には、「日本が再び狙われる懸念も」として、日本の中東専門家から寄せられた1つの仮設を紹介している。テロリストからみて、日本は格好のターゲットになっているのではないかという見方である。その理由は、①現地職員の背景調査などのセキュリティ・チェックの甘さ、②情報管理の緩さ、③国際的にみれば過剰なほどの敏感な反応、だという。以上のような点から日本は攻撃しやすく、圧力もかけやすいとみられる恐れがあるという。テロリストの冷徹な目に、日本人、日本企業、日本政府はどう映っているのか、検証する必要がある。

所 感
■ 今回、ガスプラントの警備情報をまとめてみて感じたのは、標準的な警備状態ではあったが、テロや外国人誘拐事件が起こっている国情の警備としてはやはり甘かったという印象である。外務省の安全ホームページによれば、2011年アルジェリアのテロ発生件数は203件だという。さらに、201212月には、今回襲撃したイスラム武装組織が結成され、インターネットで声明を出している。砂漠の中のプラントで、幹線道路を外せば、どこからでもアクセスは可能であり、人質拘束を目的とすれば、イナメナスからでも45kmも離れた所に居住区とガスプラントが一箇所に集まり、銃を携帯しない警備員体制という状況は、テロリストから見て襲撃しやすいと感じてもおかしくない。この点、結果論であるが、英国BP社(およびスタトイル社とソナトラック)の判断は甘かったと言わざるを得ない。おそらく、自爆テロや不法侵入レベルを想定し、今回のような重武装の集団による正面攻撃によるテロを想定していなかったものと思われる。
■ 日本では、海外駐在の日本人労働者の安全についていろいろな意見が出されている。それはそれで大切なことであるが、振り返って国内の足下を見るべきである。2001年、米国の9.11多発テロ事件以降、日本でもテロ対応が叫ばれ、国民保護法が制定され、国内のいろいろな所に「テロ対策中」の看板があり、表面上は対応されているように見える。しかし、本当に万全なのだろうか。
 20055月、北海道電力の泊原子力発電所の敷地内に、山菜採りの業者らが侵入していたことがわかった。業者らが侵入したのは重要な「防護区域」の外側で、電力会社が自主的に管理・監視する「周辺監視区域」だったといわれるが、テロ対策強化の必要性が改めて問われる事件であった。
 日本ではテロは起こらないという雰囲気があり、予断がある。原発の安全神話と同じである。砂漠と同じような海に面してアクセスの容易な日本でテロが起こらないという保障はない。テロリストは思いつきで場所を選ぶのではない。重要施設で警備に最も弱点のある所が狙われるのである。 

後 記: 今回は世界から注目された事件だけに、さすがに情報量は多いものでした。 しかし、欲する警備状況の情報は断片的で多くはありませんでした。また、元人質だったアルジェリアの人の談話が流されていますが、人によってまったく違う内容であったり、場合によっては同じ新聞社で違った記事が掲載されたり、整理するのに迷いました。
 余談ですが、今回の事件に対して当事者である英国のBP社、ノルウェーのスタトイル社、日本の日揮のホームページについて感じたことです。事件発生の第一報は各社とも同じ頃に同じような内容(事件発生のみ)でした。その後のニュース・リリースは違ってきます。最も頻繁で丁寧に情報公開したのはスタトイル社です。さすがにリスクマネジメント専門のERM社にコンサルティングを頼んだ会社だと感じさせます。英国のBP社も続報を伝えています。日揮は続報がなく、事件が収束したあとに「アルジェリア事件に対するお悔やみおよび献花の御礼」のニュース・リリースだけでした。テレビや新聞では広報部長が発表していましたが、ホームページのニュース・リリースにも掲載すべきだと思いました。







2013年2月4日月曜日

米国テキサス州でたばこによるタンク爆発・火災

 今回は、2013年1月29日、米国テキサス州ヴァンザント郡ヴァンにある油井用の石油貯蔵タンク施設で起こった爆発・火災事故について紹介します。事故は、不法侵入した男女二人がタンクの上の渡り歩廊で、たばこを吸おうとして火をつけたとときに爆発が起きたいう普通では考えない原因です。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・CBSLocal.com,  2 People Hunt in East Texas Oil Tank Explosion, January 29,  2013
      ・ABC13.com,  Two Injured in Explosion at Oil Storage Facility in Van Zandt Co,  January 29,  2013
  ・WAFB.com, Names Released of Two Injured in Van Oil Tank Facility Explosion,  January 30,  2013 
  ・KiiiTV.com,  Names Released in Oil Storage Tank Explosion,  January 30,  2013 

<事故の状況> 
■  2013年1月29日(火)午前3時頃、米国テキサス州ヴァンザント郡ヴァンにある油井用の石油貯蔵タンク施設で爆発・火災があり、負傷者が発生する事故があった。
ハズマット隊を含め、出動した消防隊
 
(写真はKTTXNewsの動画から引用) 
 ヴァンザント郡消防署は通報を受け、他にタイラー消防署、グランサリーネ消防署、リンデール消防署とともに、ヴァンの北方で州道110号線沿いにある石油貯蔵タンク施設の火災現場へ急行した。消防隊は燃え尽きる戦術をとった。アレン消防署長の説明では、「油流出によってこの地区が環境汚染に曝されるのだけは避けたかった。このため最もやりやすかったのは燃え尽きさせることだった」という。
■ 消防署長によると、24歳の男と24歳の女が貯蔵タンクの階段を登り、タンクの上の渡り歩廊にいたとき、タンクの一つで爆発が起き、他のタンクへ延焼したという。タンクには、塩水が少し混じった油と可燃性ガスが入っていたという。署長は、「二人は静かな時間を過ごすためにここまで来たと言っている。そして、たばこに火をつけた次の瞬間、No.1タンクが爆発したと言っている」と語った。
 すぐに2基のファイバーグラス製のタンクが火災となり、最終的には3基目のタンクに燃え移った。
■ タンクの上にいた二人は重傷を負い、ダラスのパークランド・メモリアル病院へ搬送された。女性は生命維持装置の中で治療を受け、男性は顔、胸、腕の火傷の治療を受けている。
              燃え尽きさせる戦術をとった火災現場 (写真はKTTXNewsの動画から引用)
■ 爆発の衝撃は静かなヴァンの町を揺るがし、 住民のオリバー夫妻はベッドから飛び起きた。夫のジェームズさんはCBS-11ニュースの記者に、「“ドーン”という大きな音で起こされたよ。あんな大きな音を聞いたことがあるかい? 一瞬、何が起こったのかと思ったね」と当時の状況を語った。
 事故のことは町の話題になった。ジャーナリストを目指している高校三年生のエミリー・マクミランさんは、「信じられない! 変わった事故のひとつだわね。何とも言いようがないわ」と話し、さらに「誰だか知らないけれど、知っている人だといやだわ。わたしにできることはその人たちのために祈ることだけ」と語った。
■ 火災がほとんど下火になってくると、住民の関心は油による環境汚染の懸念に変わり、近くのクリークへ流れ込まないようにすることだった。住民のオリバー夫人は、「わたしたちは地域の水系を使っているの。油が飲料水系に入ったらと思うと心配だわ」と懸念を示した。州の環境検査官も同様に思っていた。検査官は午前中に現場へ入った。石油貯蔵施設の所有者であるスリー・フォーク社の作業員は、1日をかけて流出しないように堤を直し、汚染土壌を除去し、できるだけ被害が出ないように努めた。
             下火になった火災現場   (写真はKTTXNewsの動画から引用)
■ スリー・フォーク社によると、並んでいた4基のタンクの1基が爆発し、残り3基が完全に焼損したという。残っている比較的大きな容器は油井から出てくる塩水を貯蔵しているとのことである。スリー・フォーク社の代表者であるビリー・ウィルソン氏は、「それらの容器類は塩水の処理施設です。油井から出てくる塩水はここに集められ、再注入井から地中へポンプで戻すようになっています」と説明した。被害者たちはスリー・フォーク社の従業員ではなかった。
■ その後、当局の発表によると、男性はパークランド・メモリアル病院での治療を受けているが、容体は良好だといい、一方、女性はすでに病院から退院しているという。

補 足
■  「テキサス州」は米国南部に位置し、人口約2,500万人で、州都はオースティンである。 テキサス州はメキシコ湾岸沿いで、ハリケーンや落雷の多い州である。 
 「ヴァンザント郡」はテキサス州の北東部に位置し、人口約52,000人の郡である。
 「ヴァン」はテキサス州ヴァンザント郡にある町で、人口約2,600人である。 

■ 「スリーフォーク社」(Three Folks Operating Co.)はテキサス州にあるエネルギー会社で、石油・ガスの生産を行っている。ヴァンの町にも油井をいくつか保有している。
右後方に油井が見える 

所 感
■ 信じられないようなタンク火災事故が起こる。しかし、米国では、2012129日オクラホマ州で銃弾によるタンク火災事故が起こっている。(当ブログでは2012214日に紹介) 米国では、小さな油井が身近に数多く存在しているため、このような石油施設への危険意識が希薄だと言えるが、日本でも規模の小さい油槽所などは数多くあり、日本で起こらないと断言はできない。事故は思いも寄らない要因で起こるのである。
■ 米国の一地方のローカルな関心をもたれる話題として報道されている。その中で興味深いのは、消防署が燃え尽きさせる消火戦術をとったことである。タンクがグラスファイバー製で火災のために焼損し、防油堤内に漏出したと思われ、火を消すことが堤外へ流出してクリークを通じて水系への環境汚染に至ることを回避するという判断であるが、写真でわかるようにハズマット隊も出動しており、米国の地方における消防隊の適切な対応がうかがえる。


後 記: 2月3日節分の日に近くの神社で行われた豆まきに行ってきました。今年は日曜と重なり、また天候にも恵まれたこともあり、多くの人と一緒に「福は内、鬼は外」のお祓いを受けました。しばらくは、福豆を食べる日々になりそうです。