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2013年3月14日木曜日

長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩

 今回は、2013年2月15日、米国ワシントン州の放射性廃棄物保管施設であるハンフォード・サイトの放射性廃液タンクから漏洩した事故の情報を紹介します。この放射性廃液は長崎に投下された原子爆弾に使用されたプルトニウムを生産した時に派生した廃液で、今もハンフォード・サイトの地下タンクの貯蔵されています。この情報は米国で広くニュースになっているほか、日本でも一部の報道機関で記事になっています。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・NBCNews.com,  Tank at Hanford Nuclear Site Leaking Radioactive Liquids, Washington Governor Says, February  15,  2013
      ・Inquisitr.com,  Nuclear Tank Leaking at Washington’s Hanford Site, February 16,  2013 
  ・EditionCNN.com,  Tank Storage Radioactive Waste Leaking in Washington, February  16,  2013  
  ・NyDailyNews.com, Radioactive Waste Tank Leaking at Washington State’s Hanford Nuclear Reservation, February 16,  2013
      ・ RT.com, ‘No Immediate Risk’: Nuclear Waste Tank Leaking in Washington,  February 17,  2013 
  ・ FireDirect.net,  US Nuclear Tank Leak Reported at Hanford,  February 21,  2013
      ・ FoxNews.com, 6 underground tanks holding radioactive  waste leaking in Washington state, February 23,  2013
      ・EditionCNN.com,  Governor:  6 Tanks Leaking Radioactive Waste at  Washington Nuclear Site, February  23,  2013
  ・Hanford.gov, Office of River Protection Confirms a Decrease of Liquid Level in Hanford Single Shell Tank, February 15,  2013

 <事故の状況> 
■  2013年2月15日(金)、米国ワシントン州のジェイ・インスレー知事は、ワシントン州の放射性廃棄物保管施設であるハンフォード・サイトの放射性廃液タンクから漏洩があったと発表した。ハンフォード・サイトは米国本土にある放射能汚染箇所の中でも最もひどい地区として知られているが、この施設のクリーンアップが長い間、遅れていることを改めて浮き彫りにした。
■ ハンフォード・サイトは、面積が586平方マイル(1,518平方キロメートル)あり、米国国家の古い核施設で、核兵器用のプルトニウムを製造していた10年間を経た後、放射性廃棄物を保管している。タンクは寿命20年といわれていたが、その期間をはるかに過ぎて今も使用され、高レベルの放射性廃液を多量に保管している。
■ 同金曜に米国エネルギー省は、ハンフォード・サイトの放射性廃液を保管している地下タンク177基のうち1基の液位が減少していると発表した。液位が減少しているのは、Tタンク所にある一重壁(シングル・シェル)型地下タンクT-111で、容量は530,000ガロン(2,000KL)である。同タンクは1943年~44年にかけて建設され、1945年に廃液を受け入れた。
 タンク近くのモニタリング用井戸では高いレベルの放射線は検出していないが、インスレー知事によると、漏洩量は年間を通じて150~300ガロン(560~1,130L)の範囲にあり、長期で見れば地下水や川への汚染が懸念されると述べている。
ハンフォード・サイト
(写真はエネルギー省ハンフォードのHPから引用)
一重壁(シングル・シェル)型タンク
■ インスレー知事は、「漏れた物質はきわめて毒性が強く、ワシントン州の土壌や地下水に放射性物質が漏れ出ることは例外を許さない政策(ゼロ・トレランス・ポリシー)としなければなりません」と述べた。知事は、住民の健康にただちに危険を及ぼすものでないと強調したが、このことが問題先送りの口実にしてはならないとも言っている。
 インスレー知事は記者会見で、「今回のことについて大変驚いています。今回、漏れがわかったタンクだけでなく、その当時に建設された他の一重壁型タンクの健全性に懸念があります」と語った。知事は、「国は何年か前にこのような問題に対処すると約束していたのに、特に議会の予算審議によって歳出削減されてしまった結果、ハンフォード・サイトではさらにリスクが大きくなってしまったのです。連邦政府の優先事項としてクリーンアップを進めなければなりません」といい、さらに「適切な時期に法制度に基づく我々の権利を行使しようと思っています。この問題をはっきりさせます」と語った。インスレー知事によると、米国エネルギー省のスティーブン・チュー長官とは良いパートナー関係だが、高レベルの汚染地区のクリーンアップについて議会が承認するかどうか懸念しているという。
■ 問題のタンクには、固体と液体が混じったドロドロ状のスラッジが約447,000ガロン(1,690KL)入っている。タンクは1940年代に建設されたもので、以前、漏洩していたことはよく知られている。しかし、1995年にすべての液が移し替えのためにポンプで汲み上げられてからは安定していた。
 インスレー知事によると、2005年にハンフォード・サイトの全タンクが安定した以降、液の漏出があったことを明らかにされたのは、今回が最初だという。知事のスタッフによると、連邦政府は他のタンクに問題がないことを確認中だという。
■ 第二次世界大戦の最中の1943年、連邦政府は、ワシントン州東部の町から遠く離れた不毛地帯であるハンフォードに原子爆弾を製造する極秘プロジェクトを立ち上げた。地元住民は立ち退かされ、数千人の作業員がサイトに動員された。この結果、ハンフォード・サイトではプルトニウムが世界で最初に生産され、プルトニウム型原子爆弾の製造に使用された。日本に投下された2発の原子爆弾のうち、このプルトニウム型原子爆弾は1945年に長崎に投下された。これは戦争の終結に効果があった。
 冷戦中も、ハンフォード・サイトでは数基の原子炉が稼働し、プルトニウムの生産が続けられた。最後の原子炉が1987年に停止され、州と連邦政府による大規模なクリーンアップのための努力が払われたが、今日、ハンフォードは米国本土で最も放射能に汚染された地区となっている。クリーンアップのために、これまでの数十年に多額の費用がかけられたが、今後も多額のコストがかかるといわれている。
 シアトル・タイムズによれば、ハンフォード・サイトの面積586平方マイル(1,518平方キロメートル)のうちおよそ10%は汚染されているという。ワシントン州環境庁によれば、トリチウム、硝酸クロム、ストロンチウム90を含む物質が河川へ浸透しているという。ただし、同省によれば、地区の農作物に不安全なレベルのものは見つかっていないという。
■ クリーンアップの中心となっている方策は、古くなった地下タンク177基から多量の毒性の高い放射性廃液の移し替えである。古い地下タンクから廃液が長い間にわたって漏れており、60基を超えるタンクから推定百万ガロン(3,780KL)が漏れていたといわれている。これは、地下水および太平洋北西岸側で最大の水系であるコロンビア川への脅威となっている。
二重壁(ダブル・シェル)型タンク 
 177基の地下タンクのうち149基が一重壁型タンクで、28基が二重壁(ダブル・シェル)型タンクである。エネルギー省は漏れていた一重壁型タンクの廃液を二重壁型タンクへ移し替えを行なった。しかし、現在では、二重壁型タンクの余裕スペースはほとんど使い切っている。
 さらに、123億ドル(1兆1千億円)をかけて安全且つ安定的に廃棄物の処理を行うためのプラント建設が遅れており、予算が大幅に超過する状況にある。プラントは、ガラス固化体プロセスによって放射性廃棄物をガラス・ログにしようとするものである。プロジェクトは技術的な問題で遅れている上に、プラントの設計と安全性について疑問があるとして、最近、何人かの労働者が訴訟を起こしている。
■ ハンフォード・サイトの監視団体である「ザ・ハンフォード・ウォッチドッグ・グループ・ハンフォード・チャレンジ」のトム・カーペンターさんは、「もう待つ時間はない。タンクはすでに壊れ始めているんだ。我々は大きな問題を抱えているんだ」と語っている。 
■ 2月末に迫った強制歳出削減計画は、議会によって停止しない限り、すべての連邦政府機関の支出カットが行われ、ハンフォード・サイトでは作業員が解雇され、これまでの改善の努力が止まってしまうことになると、インスレー知事は心配している。インスレー知事は今回の問題について話し合うため、来週(2月18日の週)、ワシントンD.C.を訪問するという。
漏れていたタンクは1基でなく、6基
■ 2月22日(金)、インスレー知事は、ハンフォード・サイトで漏れていた廃液タンクが1基でなく、6基だったと発表した。先週、知事は住民の健康にただちに危険を及ぼすものでないと強調していたが、この発表は不安を呼び起こすものとなった。
 22日(金)の午後、知事は、「ハンフォード・サイトで6基のタンクから漏れていたという話は、すべての一重壁型タンクの健全性に疑問を呈さざるを得ない」とツイッターで述べている。知事によると、この新しい情報はワシントンD.C.において米国エネルギー省チュー長官との会見で知らされたという。知事は、先週、年間の漏洩量が150~300ガロン(560~1,130KL)の範囲だと聞いていたが、「チュー長官は、その漏れ量には他のタンクからの漏れも含んでおり、エネルギー省の分析データを正しく説明していなかったと話していた」と語った。しかし、知事は漏洩に関して「まだ、健康にただちに危険を及ぼすものでない」と改めて述べている。

補 足
■  「ワシントン州」は、米国西海岸最北部に位置し、人口約670万人で、州都はオリンピアであるが、規模や経済の面で中心都市はシアトルである。 
 放射性廃棄物保管施設のハンフォード・サイトはワシントン州東南部のベントン郡にある。 ハンフォードという町は、核生産施設の土地を確保するため、1943年、当時小さな農業の町だったが、強制的に立ち退かされ、現在は存在しない。町があった場所は、現在のハンフォード・サイトの100F区域である。 

■  「ハンフォード・サイト」は、面積1,518平方キロメートルに及ぶ広大な土地で、コロンビア川がほぼ北から南へ流れるところで、一番近くの町は人口約49,500人のリッチランドである。年間の降雨量は少なく、乾燥地で、砂漠に近い土地である。
 第二次世界大戦中、原子爆弾を製造するマンハッタン計画によって、ハンフォード・サイトは核施設の建設が進められ、1945年8月の戦争終了までに、3基の原子炉と3基のプルトニウム処理施設が完成し、運転された。1946年以降の冷戦中もソ連の核兵器に対抗するため、さらに拡張が図られ、1963年には9基の原子炉がコロンビア川沿いに配置され、5基の処理施設が建設された。その後、1964年から1970年にかけて徐々に活動が停止された。
ハンフォード・サイトの核処理施設19601月)
コロンビア川上流の川岸にあり、手前はN原子炉、すぐ後ろにKE原子炉(2基)とKW原子炉、ずっと後方に世界最初のプルトニウム生産施設B原子炉が見える。   (写真はWikipediaから引用) 
タンク所の配置
(写真はエネルギー省ハンフォードのHPから引用) 
 その後、ハンフォード・サイトは米国で最大の核廃棄物汚染の問題地区となった。1988年、ハンフォード・サイトは4つの区域に分けられ、ワシントン州環境部・米国エネルギー省・米国環境保護庁の3者でクリーンアップが進められている。クリーンアップ・プロジェクトは二つの規制団体の監視のもと、米国エネルギー省が管理し、11,000人の作業員がクリーンアップ作業、廃棄物の移設、建築物の除染、土壌の除染に従事し、年間20億ドル(1,800億円)を費やしている。当初30年以内に完了するとされた浄化計画のうち、2008年時点で終わったのは半分未満だった。近年、廃棄物処理状況を一般が見られるビジター・センターもできたが、汚染物質が地下水へ到達し、コロンビア川に流出することへの懸念は払拭されていない。 
視察で訪れた東京電力に説明するハンフォード・サイト職員
 (写真はエネルギー省ハンフォードのHPから引用)
 なお、エネルギー省ハンフォード・サイトのホームページによると、2013年1月17日に東京電力のメンバーがハンフォードのクリーンアップ技術を福島で応用するためサイト視察に訪れたという。

■ 放射性廃液を貯蔵しているタンク型式は、 「一重壁(シングル・シェル)型タンク」と「二重壁(ダブル・シェル)型タンク」に分けられる。 「一重壁型タンク」は、コンクリート製の側壁と底板に鋼製のライニングが施工され、ドーム型のコンクリート製屋根である。一重壁型タンクには4つのサイズがある。今回、最初に発表された漏洩タンクは、Tタンク所(T Tank Farm)にあるT-111で、直径約75フィート(22m)、高さ約30フィート(9m)、容量約530,000ガロン(2,000KL)で、土被り約7フィート(2.1m)の地中に埋められている。

放射性廃液の貯蔵タンク型式
左上が二重壁型タンクで、他の4つが一重殻型タンク    (写真はエネルギー省ハンフォードのHPから引用) 
 「二重壁(ダブル・シェル)型タンク」は、鋼製のタンクの外側に、鋼製ライニングを施工したコンクリート製タンクの二重構造になっている。サイズは、直径約75フィート(22m) 、高さ約48フィート(14m)、容量約1,160,000ガロン(4,300KL)で、土被り約7フィート(2.1m)の地中に埋められている。ワシントン州環境庁のホームページには、2012年に二重壁型タンクAY‐102の内壁側から漏れた形跡があり、状況を監視しているという情報が掲載されている。
一重壁(シングル・シェル)型タンク 
二重壁(ダブル・シェル)型タンク 

■ 「放射性廃棄物」の問題を幅広く取材した新聞記事として、中国新聞(本社広島市)が2001年9月~2002年7月にかけて38回連載した特集「核時代 負の遺産」がある。この取材の主旨は、第二次世界大戦中の米国の原爆製造から約60年、冷戦終結によって1980年代半ばに約70,000個にも達した核兵器の解体による高濃縮プルトニウムやウランの処理問題、プルトニウム製造工場などでの放射能汚染問題、老朽化した原子力潜水艦や原子力発電所の解体問題、原子力発電所の事故、放射性廃棄物貯蔵所の処理問題など原子力のエネルギーに依存した20世紀から先送りされた「負の遺産」が残されており、その重荷にあえぐ米国と旧ソ連を歩き、実態を探ったものである。ワシントン州のハンフォード・サイトにも訪れ、当時取材した記事が掲載されている。それから10年余、改善されたはずの放射性廃棄物の問題は解決されておらず、今回の漏れ事例のように顕在化した。 「核時代 負の遺産」の記事は、東京電力福島第一発電所の事故を経験したため、現在読んでも、当時の識見は秀逸である。

所 感
■ 広島・長崎原爆投下から約68年、広島・長崎では原爆による人への影響は今も残っている。一方、米国においても、この原爆を製造した際に出た放射性廃液が今も保管され、環境汚染の問題を引きずっている。まさか、このようにして地下タンクからの放射性廃液の漏れ事例を紹介するとは思わなかったというのが率直な感想である。
 当初漏れているタンクは1基という話から6基という情報に変わった。説明が足りなかったという話が出ているが、米国エネルギー省の2月15日に出されたニュース・リリースでは、はっきりとT-111タンクの1基であることが明示されている。その後、同省からニュース・リリースは出ていない。実態が隠されていると思う。

■ 記事中に地下タンクは寿命20年という値がある。タンクの鋼製ライニング厚さや放射性廃液の腐食率はわからないが、仮に厚さをやや厚く10mm、腐食率をやや厳しく0.5mm/年とおくと、寿命は20年となり、この数値自体はおかしいものではないと思う。それが現在も使用されていることは、一般の工業分野では信じられない。原子力分野の異常な常識である。
 それはなぜか。それは、放射性廃液(廃棄物)の浄化戦略が無いからである。戦略の戦いの対象である放射性廃液は、2重壁型タンクへ移そうが、ガラス固化体にしようが、放射能を無くすわけでない。放射性廃棄物は放射能の毒性を保持したまま、形を変えているだけである。これが原子力分野の「クリーンアップ」なのである。 


後 記: 今回、情報を調べていて、米国では、この2月、保有する70,000トンの核廃棄物を地中へ埋めるという判断をしたらしいとの情報がありました。米国エネルギー省は、反対意見があるのもかかわらず、2005年に核廃棄物の再処理を検討し始めていましたが、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故を契機に再処理に懸念を示したということです。米国は、原子力エネルギー利用から派生する放射性廃棄物の最終処分を決めず、先送りしてきましたが、結局、以前に凍結した地下への埋設にすることを決めそうです。








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