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2013年4月2日火曜日

韓国の慶尚北道で重油タンクが爆発

 今回は、2013年3月7日(木)、韓国の慶尚北道亀尾市にある韓国鉱油の重油貯蔵タンクが爆発した事故を紹介します。韓国の貯蔵タンク事故情報は、このブログで初めてですが、亀尾市では、3月初めに3件の工場事故があり、昨年2012年9月には死者を出す化学工場事故が発生しており、一連の事故に関する意見や住民の声が取り上げられています。
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・KoreaJoonganDaily.com,  Gumi Blasted with Third Disaster in under a Week, March 8,  2013
      ・YonhapNews.co.kr,  Oil Tank Explodes in City Grappling with Gas Leak, March 7,  2013
  ・Khan.co.kr, Blast at a 28,000ℓ Crude Oil Tank! Another Surprise in Gumi, March 8,  2013  
  ・Iyaninarukan.doorblog.jp, 亀尾で今度は重油タンクが爆発・重大事故は今月3件目, March 8,  2013
  ・Lovecokea.exblog.jp, 亀尾でまた事故、今度は重油タンクが爆発(朝鮮日報), March 8,  2013 

 <事故の状況> 
(写真はIyaninarukan,doorblog.jpから引用)
■  2013年3月7日(木)午前8時21分、韓国の慶尚北道亀尾市にある石油貯蔵タンクが爆発する事故があった。事故があったのは、亀尾市オタエドーにある韓国鉱油の亀尾油槽所の容量200KL重油タンクである。タンクはコーンルーフ式で、爆発によって屋根が噴き飛んだ。
■ 事故発生後、ただちに消防隊が出動し、190名を超える消防士と20台の消防車が現場へ駆けつけ、泡消火を行なった結果、約30分後に鎮火した。警察および消防当局によると、この事故によるけが人はなかった。 

■ 韓国鉱油は地方の燃料供給を行っており、亀尾油槽所には貯蔵タンク4基と出荷設備を有している。4基のタンクはディーゼル燃料用2基、灯油用1基、重油用1基であった。事故当日、重油タンクには28KLの油が入っていた。従業員の話によると、タンクローリーに24KLの重油を積み込んでから約5分後に爆発音を聞いたという。消防当局によると、タンクには入っていた4KLの大半が燃焼し、被害額は約900万ウォン(81万円)と見込まれる。


 (写真はYonhapNews,Khan.co.krら引用) 
■ 消防署および亀尾市当局によると、油や消火排水は、防油堤によって封じ込まれ、構外へ流出することはなかったと発表している。警察および消防当局は、タンク内のオイル・ベーパーの爆発が事故原因とみているが、真の原因究明のため国立科学捜査機関へ調査を依頼したという。また、当局は事業者の従業員に対して事故の状況について事情聴取している。 事故当時、事業所の現場には3名の従業員がいたが、事前に異常を発見できなかった。従業員のひとりは、「わたしは事務所で仕事をしていたんですが、大きな爆発音が聞こえ、同時に揺れを感じました。外を見ると、タンクの方から真っ黒い煙が流れてきました。そして炎が空へ勢いよく上がっていました」と語っている。
 なお、警察の関係者によると、韓国鉱油に設置されている監視カメラが今回作動していなかったため、事故発生時の状況把握が難しいと話している。

■ 亀尾市民のカン・ジョンミョンさんは、「終わりのない工場事故が続いており、怖いね。どこか別な町に引っ越したくなるね」と語った。
 (図はIyaninarukan,doorblog.jpから引用) 
 2日前の3月5日(火)、亀尾市コーダドーにある亀尾ケミカル社の工場で塩素ガスの漏洩事故が起こっている。液体塩素を貯蔵タンクローリー車へ荷役中、午前8時50分にバルブから漏れて塩素ガスが流れ、近くの住民約200人が医者の手当を受けた。この事故では、液体塩素貯蔵所の浄化処理用の送風機が故障していたことで、被害が大きくなったが、事前に10~15分ほど送風機を試験稼動するという作業規則が守られていなかった。
 3月2日(土)には、午後8時34分、亀尾市イムスードーにあるLGシルトロン社の半導体工場において、硝酸、フッ化水素酸、酢酸を含む有毒な化学物質を約30~60リットルを大気へ漏洩させる事故が起こっている。この事故では、発生から16時間後にようやく当局へ通報され、隠蔽の疑いが持たれている。
 この一連の事故の3か月前の2012年9月には、亀尾市の化学会社ヒューブ・グローバル社の工場で爆発があり、大量のフッ化水素酸が漏洩し、死者5名、負傷者18名が出たほか、周辺住民約1,500人が病院で治療を受けるという事故があった。この事故では、ヒューブ・グローバル社の作業員がマニュアルに記載された作業要領を守っていなかった。

■ 亀尾市は、1969年、国内初の国家工業団地として建設され、現在では、工業団地内に1,800社が操業している。亀尾市の工業団地は、当初、電子産業として始められ、今や韓国国内で輸出製品を生産している最も大きい地域の一つとなり、韓国の経済成長を牽引している。市民団体は、今回の一連の事故が産業化の過程における経済成長一辺倒の行き過ぎに関係しているとみている。
 度重なる事故の背景について、亀尾YMCAの総主事であるイー・ヨンシクさんは、「経済成長が第一優先という1970年代のポリシーが今も続いており、地方自治体や中央政府の意識が変わらないと同様、会社の意識やシステムは成長に合ったものになっていません」といい、さらに、「今こそ、自治体と市民が一緒になってセーフティ・ネットを確立し、地域全体として事故防止と通報・広報システムを構築すべきです」と語った。 

■ 亀尾市当局は、「危険物や有毒物を取り扱う事業者は、現在136箇所あるが、これらを指導・チェックする担当公務員は1人しかいない」と説明した。また、作業の特性上、1箇所の工場で有毒物、危険物、毒性ガスなどを同時に取り扱う事業者が多いが、関連する法律と管轄(消防・環境・ガス公社・地方自治体)が複雑に絡み合っているため、効率的な管理が難しい状況にあるという。慶尚北道の道庁である大邱(テグ)にある大邱保健大学消防安全管理学科のチェ・ヨンサン教授は、「1997年のアジア通貨危機以降、企業に対する規制緩和により安全管理者の選任基準が緩和され、3~5社が共同で1人を採用することも可能となった。ところが、これが企業の安全にとってマイナスの結果をもたらしている」と指摘した。

補 足 
■  「慶尚北道」(キョンサンプクト、けいしょうほくどう)は、韓国(大韓民国)の東南部に位置する行政区で、人口約270万人である。「慶尚」とはかつての中心都市であった慶州(新羅の古都)と尚州組み合わせた地名であり、この周辺地域を慶尚と呼ぶ。
 「亀尾市」(クミ市、 きび市)は、慶尚北道の南西部の内陸に位置し、朴正煕元大統領の出身地で、その政権下で工業都市化が進んだ町であり、現在、人口約41万人である。亀尾は、元々、農業が主であったが、亀尾国家工業団地が造成され、 1970年代初めの政府の輸出促進政策に力を得て、内陸最大の先端輸出産業を保有する都市へ成長した。現在、亀尾市には亀尾国家工業団地1~4団地(24.4㎢)の地区があり、主な生産品としては半導体、携帯電話、LCD、TV、ブラウン管、情報通信機器などがある。

(写真はYanhapNews.co.krから引用) 
■ 韓国の主要な石油会社としては、SK社、ヒュンダイ・オイルバンク社、GSカルテックス社、エスオイル社などである。「韓国鉱油」は地方の燃料油供給を行っている石油会社であるが、詳細な会社情報は不詳である。亀尾市オタエドーに油槽所を所有しているが、グーグルマップで調べてみても貯蔵タンク所らしい場所は見出せなかった。 

所 感
■ 今回の事故情報はよくわからないところが多い。内容液について「重油」としたが、バンカーBオイル、バンカーCオイル、クルードオイル、産業用ボイラー燃料と報道によって違っている。タンクの大きさについて直径約5m×高さ約5mと報じているところもあるが、このサイズでは容量200KLではなく、100KLクラスになる。
 事故内容について疑問があるとすれば、タンクローリーへ移送した後、4KLしか残量がないことである。タンク容量の2%であり、タンク高さを5mと仮定すれば、液位は10cmレベル程度である。タンクは保温されているので、内部に加熱設備が設けられていると思われる。加熱設備の型式が分からないが、液位が低い状態で油が過剰に過熱された可能性がある。また、加熱設備が発火源になったことも考えられる。

■ これまで韓国の貯蔵タンク事故情報はあまり無い。実際に無いのか、情報が伝えられないのかはよくわからない。近くて、遠い国である。今回の事故報道では、亀尾市の国家工業団地における頻発する事故で、市民が不安を持ち始めているというところに力点がおかれている。日本の昭和40年代のような様相である印象をもつ。韓国産業の急発展という「陽」の部分に対して、これまで潜在化していた「陰」の部分が顕在化したといえる事故情報である。


後 記: 今回の事故情報は韓国産業の実情の一端を知る機会になりました。日本では、金融緩和によるデフレ脱却の論争が盛んですが、最近、哲学者の内山節(うちやまたかし)さんが興味深い話をしています。断片的ですが、印象に残った言葉を抜き出してみます。
周南市西緑地公園の桜

 「マクロ政策の視点では人々のそれぞれの生き方は見えず、手の出しようがないのです」 「デフレに陥っているといわれていますが、物価の下落幅は小さいし、物価が下がっていても国内総生産(GDP)はわずかだが拡大している時期のほうが多いのです。物価下落の背景には、世界経済の供給構造の激変があります。少数の先進国が生産を独占していた自動車や家電製品も、途上国の工業化で価格が急激に下がりました。液晶テレビのような競争の激しい製品が、金融緩和で値上がりするわけがありません」 
 「若い人たちは物価も賃金も上がらないなかで、お金を使わずに生活するノウハウを持ち始めています。たとえば、シェアハウスに住む人が増えている。(中略) 当初は収入が増えず防衛的にやっていたのでしょうが、そんな生活も悪くない、と」 
岩国市錦帯橋の桜
 「多くの人たちが、富を貨幣で換算することに疑問を強く持ち始めています。たとえば住宅を買う時も、価格がいくらかではなく、家族だんらんの温かい雰囲気にできるかを大切にしている」
 「(日銀や政府は)とにかくインフレを起こさないようにしてもらいたい。物価安を前提に、豊かさを追い求め、生活のスタイルを確立した人々の世界がいっぺんに行き詰まるからです。いま社会で起きている生き方の模索を邪魔してはいけない。デフレをコントロールできていないのに、インフレをコントロールできるという論理はかなり怪しい」 
 「若い人たちにモノを買ってもらうために必要なものは、財政政策でも金融政策でもありません。非正規雇用に制約をかけて正規雇用さざるを得ないように企業誘導するとか、最低賃金を引き上げるとか、雇用・労働政策をきちんとやればいいのです」 
 「企業は一度、低賃金でやれる仕組みをつくると、それが当たり前になってしまう。そこからイノベーション(技術革新)は起きません。いま日本経済を冷え込ませているのは、この問題なのです」
 少し硬い後記になりましたので、この日曜日に行った山口県の桜の写真を入れました。こちらは今が満開です。
 






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