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2013年4月20日土曜日

東京電力福島原子力発電所の地下貯水槽から汚染水漏れ

 今回は、2013年4月5日、福島県双葉郡にある東京電力福島第1原子力発電所の敷地内で放射能汚染水を貯めている地下貯水槽から汚染水が漏れた事故を紹介します。一般的な貯蔵タンクとは違いますが、新聞・テレビで大きく報道されている割に、地下貯水槽の構造や漏れ要因がよくわからないので、ここで取り上げることにしました。
プラスチック製貯水材(黑色)とマンホール部(白色)を組立て中の地下貯水槽の建設時写真(写真は東京電力HPから引用
本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力プレスリリース;福島第一原子力発電所地下貯水槽からの水漏れについて, April 5~19,  2013
      ・Asahi.com, 原発汚染水漏れ関連記事, April 5~12,  2013

<事故の状況> 
■  2013年4月5日(金)、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所の敷地内で放射能汚染水を貯めている地下貯水槽から汚染水が漏れていることがわかった。東京電力によると、4月3日(水)に発電所構内に設置した地下貯水槽No.2において、貯水槽の一番外側のシート(ベントナイトシート)と地盤の間に溜まっていた水を分析した結果、放射能を検出したので、4月5日(金)に一番外側のシート(ベントナイトシート)と内側のシート(2重遮水シート)の間に溜まっている水の分析を行ったところ、同様に放射能濃度を確認したことにより、地下貯水槽から汚染水が漏れていると判断したという。
(写真は朝日新聞から引用) 
■ 福島第1原子力発電所は、2011年3月11日の東日本大震災時に炉心溶融と原子炉建家爆発事故を起こし、事故直後から溶けた燃料を冷やすため、原子炉への注水が続けられている。この結果、原子炉建家には大量の汚染水が溜まった。少しでも減らすため、一部を再び冷却に使う循環注水冷却を2011年6月から始めた。しかし、建家内には約400トン/日の地下水が流れ込んでいるため、汚染水は増え続けている。このため、構内に貯水槽を建設し、汚染水を溜めている。貯水槽には、地上式タンクと地下貯水槽の2種類があり、今回、漏れがわかったのは地下貯水槽である。
■ 東京電力によると、地下貯水槽No.2は地面を掘って作られ、縦60m、横53m、深さ6mで、遮水性のある粘土質のベントナイトを用いたシート(厚さ6.4mm)を敷き、その上にポリエチレンの遮水シート(厚さ1.5mm)を2枚重ねている。この上に保護コンクリートを打設した後、貯水槽の中にプラスチック製貯水材(滞水材)を地上高さまで組立て、槽の法面には砕石を充填し、上部はシートおよび砕石・覆土で覆っている構造になっている。東京電力が報道関係へ配布した資料によれば、地下貯水槽は写真に示すような工程で建設されている。
                         地下貯水槽の構造    (東京電力の配布資料から引用)



地下貯水槽の建設工程 
(東京電力の配布資料から引用)

                      地下貯水槽の構造詳細    (東京電力の配布資料から引用) 

■ No.2地下貯水槽には約13,000トンの汚染水が入れられており、ほぼ満杯の状態だった。漏れた汚染水の量は水位変化(95.0%→94.3%)から約120トン、放射能7,100億ベクレルと推定され、2011年11月政府が事故収束宣言して以来、最大の放射能漏れ事故となった。汚染水は漏れ続けているとみられ、漏れた汚染水が地下水と混じり合っている可能性もある。東京電力は4月6日(土)から別の地下貯水槽No.6に移送を始めた。 
地下貯水槽の漏洩検知システム 
(東京電力の配布資料から引用)
■  4月7日(日)、東京電力は、地下貯水槽No.3について漏洩検知孔の水を分析した結果、放射能(全ベータ核種)が検出されたので、当該貯水槽の水位低下はないものの、一番外側のシート(ベントナイトシート)から外部へわずかな漏洩の可能性があると発表した。
 地下貯水槽No.3は、先に漏洩が確認された地下貯水槽No.2に隣接しており、縦56m、横45m、深さ6mで、11,000トンの汚染水を保管していた。
 東京電力は、地下貯水槽No.3の汚染水は貯水量を減らすために一部抜くほかは、当面、監視を強めるだけとし、「状態の悪い地下貯水槽No.2を優先している。(地下貯水槽No.3を)放置するわけではない」と釈明している。
地下貯水槽No.1No.7の設置場所(①~⑦)  
(写真はkobe-np.co.jp から引用) 
■  4月9日(火)、地下貯水槽No.2の汚染水は本設ポンプで地下貯水槽No.6へ移送していたが、午前10時、仮設ポンプ4台によって地下貯水槽No.1への移送を再開した。東京電力によると、午前10時時点の各地下貯水槽の水位は、No.2が約31%、No.6が約33%、No.1が約55%と発表した。
■ 4月9日(火)、東京電力は、午前中に地下貯水槽No.1の漏洩検知孔の水を分析した結果、放射能(全ベータ核種)が検出されたので、地下貯水槽No.1の水位低下はないこと、また、地下貯水槽No.1ドレン孔水の分析結果は確認できていないものの、内側のシート(2重遮水シート)から一番外側のシート(ベントナイトシート)へわずかな漏洩の恐れがあると判断したことを発表した。このため、仮設ポンプによる地下貯水槽No.2から地下貯水槽No.1への移送は、午後12時47分に停止された。
■ 結局、地下貯水槽はNo.1、No.2、No.3の3基に漏れがあることが判明し、4月10日、東京電力は地下超水槽の使用を断念し、汚染水は地上タンクへ保管することを決めた。

 <事故の原因> 
■  4月6日(土)、東京電力の記者会見が開催され、原子力・立地本部の尾野昌之本部長代理は、「遮水シートの接合面に何らかの損傷という可能性はある。設計で期待した能力はない」と施工などの問題があった可能性も指摘したが、詳しい調査は貯水槽の水を抜いた後になる。東京電力が汚染水を移し始めた先は、近くにある2つの地下貯水槽で、遮水シートなどの構造は同じである。同様の漏れは起きないかの質問に、尾野本部長代理は「漏れが起こる可能性がゼロではないが、これが最善の策」と説明した。
■ 4月7日(日)、地下貯水槽No.2に続き、地下貯水槽No.3でも同様に汚染水漏れがあることがわかり、施設の構造や施工に問題があるおそれが高まった。東京電力の記者会見では、漏水の原因として要因分析表のように、作業員が溶接したシートの継ぎ目からの漏れや突起物によるシートの破損などが挙げられた。このほか、水の重みでシートが引っ張られ、漏洩検知器を差し込んだ地上の貫通部の穴が広がって、そこから漏れ出た可能性もあり、東京電力はこの要因が高いとみている。
            漏れ要因分析表   (東京電力の配布資料から引用)
漏洩検知孔の貫通部近傍が破損するケース 
(東京電力の配布資料から引用)

■ 4月9日(火)、地下貯水槽No.2の汚染水の移送先だった地下貯水槽No.1でも同様に汚染水漏れがあることがわかった。東京電力はこれまで、貯水槽の上部から漏れていると推定し、満水状態にしなければ、汚染水を貯められるとしていた。しかし、今回漏れた地下貯水槽No.1は50%しか溜まっておらず、底に近い方のシートの継ぎ目などから漏れたことが確実になった。9日に会見した東京電力の尾野本部長代理は「原因については調査中」と繰り返し、「貯水量を減らしているのは、(上部からの漏れが)あくまで原因の可能性として実施している」と述べるにとどまった。
■ 4月10日(水)、東京電力の広瀬直己社長は記者会見を開き、地下貯水槽からの水漏れの原因を明らかにできていないことを認めた上で、今後、地下貯水槽を使う可能性はほぼないとの考えを示した。今回の発表では、4月15日の週から5月上旬にかけ汚染水約7,000トンは濾過水タンクなど既設タンクへ移送する。5月後半から6月初旬にかけ新たに鋼鉄製タンクを38基(容量計19,000トン)増設し、残る汚染水は約16,500トンを移す計画だという。
■ 4月12日(金)、東京電力は、地下貯水槽No.2の漏洩検知器貫通部について覆土部を除去して調査した結果、異常が認められなかったと発表した。東京電力が漏れ要因の中で最も可能性の高いとみていた貯水槽の上部からの漏れではないことが明らかになった。
漏洩検知孔の貫通部の調査結果(412日) 
(東京電力の配布資料から引用) 

<事故に関する識者の意見> 
  「3.11東日本大震災後の日本」というブログを出しているTSOKDBA氏は公表されている情報から事故の要因や原因について識見をまとめている。ブログの中から特記事項を紹介する。
    =事故が起こる前に指摘していた地下貯水槽への疑問=
■ 地下貯水槽は、 ALPS(Advanced Liquid Processing System)と呼ばれる汚染水の多核種除去設備の処理後の廃液を保管するために建設されたもので、 氏は「このような貯水槽では、ALPS処理後の廃液を入れるのであればまだ大丈夫だと思いますが、万一のことを考えると現在の濃縮塩水を入れておくには不安が残る構造です。(東電は濃縮塩水にも利用できると言っています)」と指摘していた。
注記; 現在の汚染水循環処理システムは主にセシウムしか効率的に除去できず、ストロンチウムなどの多くの核種を除去できないことがわかり、新たに多核種を除去できる設備「ALPS」を開発し、運用することになった。ALPSは、試験段階での性能として62核種についてほぼ検出限界値未満にまで除去できる性能を持った装置である。ただし、トリチウムについてはこの装置でも除去できない。今後、ALPSを運用することができても、その処理水をそのまま海洋に廃棄することは簡単にはできないだろう。現状の汚染水循環処理システムよりもはるかに汚染の少ない廃液として保管することができるため、何かの事故があったとしても、その漏洩による新たな海洋汚染のリスクは遙かに少なくすることができる。
■ 2012年後半に建設される設備の中には、ALPS処理液を入れるつもりで設計した地下貯水槽58,000トンがあり、この貯水槽はストロンチウムなどを含む濃縮塩水を貯蔵しておくには適していないが、汚染水保管タンクの貯蔵スペースの余裕は2012年末現在で約1か月分しかない。このため、ALPSの運用開始が遅れたからと言って、濃縮塩水用のタンクには余裕がないため、ALPS処理液用の地下貯水槽にストロンチウムなどを含む濃縮塩水を入れざるを得ない状況になってしまっているのが実情であると、氏は指摘していた。
    =漏れた汚染水の本当の放射能量=
■ 東京電力は、地下貯水槽No.2の汚染水の漏れた放射能量を推定7,100億ベクレルと発表しているが、これは、漏洩検知孔おけるサンプル濃度を採用している。地下貯水槽No.2 に保管されていた濃縮塩水の放射能濃度を採用すると、東京電力発表の約50倍となり、約35兆ベクレルとなると氏は指摘している。このことは東工大の牧野先生なども指摘しているという。
注;おそらく東京電力はそういうことはわかった上で、あくまで漏えい検知孔ではこの濃度だったという数値を使って説明し、反論するだろう。これは東京電力がよく使うテクニックの一つである。あるデータを公表して、それを元に全体を推論させるような情報の出し方をし、全体像を把握するのに必要な情報を敢えて出さない。今回の漏えい検知孔のデータも正しいだろう。その情報しか出さなければ、多くの人、特に記者会見にいる記者達は納得してしまう。東京電力にしてみれば、記者達が納得して自分たちの説明通りに記事を書いてくれれば、それでいいのである。もし地下貯水槽No.2に入っている13,000トンの濃縮塩水の濃度(例えば2.7×10(8)Bq/L)を同時に発表していたら、120トンという体積から、漏洩した放射能量はもっと多いのではないかという疑問が記者会見でもすぐに指摘されるだろう。それをさせないために、一番重要な情報は敢えて発表しないのであると、氏は指摘している。
     =漏洩事故の責任は、東京電力だけでなく、原子力規制委員会にもある=
■ 氏は、漏洩事故の原因が明らかになっていない段階だが、このような事故を防ぐ手段がなかったのかどうかというと、「東京電力の管理体制や地下貯水槽の設計・監視にも問題があるのは事実だが、今回の事故については東京電力だけを批判するのではなく、旧原子力安全・保安院(2012年9月19日廃止)および新しい原子力規制委員会にも責任がかなりあると考えるべきだ」と指摘している。
■ 地下貯水槽について、産経ニュースの「そもそも、同貯水槽は産業廃棄物の処理に使われる技術といい、汚染水をためる十分な能力を備えていたかについて、疑問が生じ始めている」や朝日新聞デジタルの「福島第一原発で相次いで汚染水漏れを起こした地下貯水槽の基本構造は、遮水シートを使った“管理型”と呼ばれるごみ処分場と同じだったことが、東京電力の説明で分かった。その構造について、専門家からは“ごみ処分場の水準から見てもお粗末だ”と厳しい批判が上がっている」と設計に問題があるという声を紹介している。
■ 一方、この地下貯水槽の仕様は東京電力が勝手に決めたものではなく、旧原子力安全・保安院が昨年8月から9月にかけて行った意見聴取会で確認し、やり取りを経て地下貯水槽に汚染水を入れても問題ないと評価しており、当時の原子力安全・保安院にも責任の一端がある、と氏は指摘する。
■ また、東京電力は2012年9月からALPSを稼働する計画だったが、原子力規制委員会とのやりとりの中で、HICと呼ばれる保管容器の落下試験が満足のいく結果が出なかったため、半年近くもALPSのホット試験が遅れてしまった。このために、本来はALPS処理水を入れるつもりで考え、濃縮塩水(汚染水)を入れるつもりのなかった地下貯水槽に濃縮塩水を入れざるを得ない状況に追い込まれてしまった。これが2013年1月の事で、東京電力は記者会見において、地下貯水槽が濃縮塩水を入れることのできる仕様だとは説明しているが、他に入れるタンクがないための強弁だと、氏は指摘している。
 河北新報(4月11日付け)で、「地下貯水槽から高濃度汚染水が漏れた問題は、汚染水からほとんどの放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)の稼働の遅れが背景にある。4月10日の原子力規制委員会で、ALPSの試運転を規制委がなかなか認めず、稼働遅れの一因となった点に反省の声も出た」ことを紹介している。
     =東京電力の公表しているデータだけでは、全体像がつかめない=
■ 氏は、その後の漏洩量について試算している。ポンプやライン中の汚染水はおよそ60トンと推測され、4月6日朝の約13,100トンから4月8日以降の12,600トンの差500トンのうち、60トンを差し引いても最大で440トンは遮水シートの外に出たという。貯水量の分析から言えることは、 4月6日から4月8日までの間に地下貯水槽No.1、No.2、No.6のどこかで最大440トンが遮水シートの外に漏えいが起こっている。(No.1だけとは限らない)、一方、4月8日以降は明らかな貯水量の低下は認められないという。
■ 地下貯水槽No.1で貯水量の低下がないということは、下部に穴が開いたという説明はできない。仮設ポンプ3-4台を用いた移送によって高い水圧に耐え切れなくなって漏れ出したが、その後ポンプを止めて逆流が起こったためにその漏れが止まった、という仮説も浮かぶ。
■ 一方、2層のポリエチレン(HDPE)の遮水シートの間、遮水シートとベントナイト層の間には長繊維不織布という厚さ6.5mmのものが3層に敷き詰められている。このため、遮水シートと遮水シートの間には約2cmの空間があり、そこに不織布が敷き詰められていて、1層目の遮水シートを通り抜けた濃縮塩水はまずこの空間に広がる。No.1の場合、約3000㎡×0.02m=60トンはこの遮水シート1枚目と2枚目の間に広がった可能性がある。
■ 地下貯水槽や漏洩検知孔の水位経緯について公表されているデータを分析すると、辻つまの合わないことが多々ある。いろいろな仮説も浮かぶが、東電が出している資料だけではとても全体像をつかめず、記者達がもっと突っ込んでデータを引き出させる必要がある、と氏は指摘する。

補 足
地下貯留施設の構造例 
(図はTaiseirotec.co.jpから引用) 
■  「地下貯水槽」は、貯蔵設備としての設計・建設規格に適合するものはなく、雨水貯留浸透技術協会の「プラスチック製地下貯留浸透施設技術指針」を準用して作られたものである。 「地下貯留施設」とは、地面を掘削してできる凹地に、「プラスチック製ブロック」などの「積層構造体」を滞水材(貯水材)として雨水を「貯留」または「浸透」させる施設である。このとき、滞水材外周部の遮水材(シート)が「遮水性」のときは 「貯留構造」、「透水性」のときは「浸透構造」となる。この施設は、本来、 河川の治水対策や雨水の有効利用、 雨水の流出抑制対策、区画整理事業などで用いられ、地形にかかわらず地上部の有効活用ができる特徴をもっている。 
                    地下貯留施設の使用例    (写真はTaiseirotec.co.jpから引用)
 もともと、雨水を取り扱うもので、「遮水性」といっても土木分野でいう遮水性能で緊密性を担保するという設計ではない。液体の保管を行うための地上タンクや地下タンクの貯蔵設備とは一線を画す施設である。この点について疑問をもったメディアもあり、4月10日に時事ドットコムや福島民放に「水保管目的で使用(利用)実績なし」という地下貯水槽の製作を請負った建設会社の取材記事が掲載されている。

福島原発の敷地に並んだ組立式円筒型タンクと枕型タンク 
(写真はTheWorldStreetJounal.comから引用)
■ 東京電力福島原発で使用されている 「地上タンク」には、 以前から既設設備として供用されている一般的な溶接構造式円筒型タンクのほか、事故後に導入された組立式円筒型タンクおよび枕型タンクがある。組立て式円筒型タンクは汚染水や真水の保管用として、枕型タンクは容量100㎥で高レベル廃棄物用として製作されたものである。福島原発に組立式円筒型タンクを納入した東京機材工業のホームページによると、同社は組立式円筒型タンクのほか角型タンクも納入しているという。事故後に製作された地上タンクは、現在、900基を超えているが、そのうち組立式円筒型タンクは280基以上という。組立式円筒型タンクは、もともと、土木工事用の仮設の水タンクに用いる目的で製作されたもので、接続部にパッキン(ガスケット)を使用しており、水密性能に限界があり、パッキン寿命は5年といわれる。

組立式円筒型タンクの淡水化装置濃縮水貯槽からの漏れ 
(東京電力の配布資料から引用) 
(写真は福島民報の記事) 
 実際、東京電力によると、2012年2月3日、組立式円筒型タンクを採用した淡水化装置濃縮水貯槽の側板接続部から漏れがあったことが公表されている。また、この組立式円筒型タンクについては、地下貯水槽漏れ事故前の2013年3月12日に東京新聞の記事(耐久性より増設優先、福島第一、急増タンク群 3年後破綻」を引用する形で、「汚染水タンクの手抜きが判明! 溶接をしなかったため、耐久性が減少! 3年後には大改修必至」という問題提起のブログが出されている。

所 感
■ 事故が起こった「地下貯水槽」は、本来、このブログで取り上げてきた「貯蔵タンク」とはまったく異質のもので、事故原因(漏れ原因)はわかっていないが、漏れが当然起こりうるといえる施設である。事故情報の中で紹介したように事故が起こる前から、この地下貯水槽が汚染水を保管するためには適していないと指摘されていた。プロセスプラントに比べ、貯蔵タンクの施設を軽視する人は少なくないが、今回は、原子力施設に比べ、汚染水の貯蔵施設を軽く見た結果だと感じる事例である。水密性を必要とする貯蔵設備に対して、地下貯留浸透施設を準用し、さらに内側法面に砕石充填を行うなど構造的に信じられない設計を行っている。施工写真の中でもシート敷設完了時のシートのゆがみ状況を見ると、貯蔵施設を専門とする建設会社の手によるものでないことがよくわかる。結論的には、このような漏れのあり得る地下貯水槽について漏れ原因を追究することは無意味だということである。


後 記; 今回の事故ほど多くの報道があった事例はありません。しかし、新聞やテレビの情報は誌面の都合のためか大差なく、また取材の掘り下げも不足しており、報道機関の限界を感じました。結局、最も利用したのは、東京電力が公表しているプレスリーリースと報道向け配布資料でした。そして、今回の事故では移送途中に配管フランジの漏れがあったり、インターネット情報では多くの話題があり、取り上げると、内容が散慢になるので、地下貯水槽の漏れと原因追究に絞りました。ということで、上記の所感以外に感じたことを付記しておきます。
 原子力(発電)分野の人には、核エネルギーを利用するために放射性物質を少々大気へ放出しても許され、少々海へ放流してもよいという考え方を今も持っています。しかし、2011年3月11日の原発事故で考え方を改めるべきです。原発事故直後に汚染水を放流した際、東京電力(および政府)は海で拡散し、薄まると言っていたにもかかわらず、漁場は今も影響が残っています。汚染水の海洋放出時は海外から猛批判を浴びたし、 ALPS処理後の低濃度の廃液を海へ放出することに地元の漁協は反対しています。放射能は消えることはなく、人間が制御できないのです。低濃度であっても放射性廃液を海に放流することはできません。このように考えると、ALPSを稼動させて、高濃度の放射性廃液と低濃度の放射性廃液を分離する意義があるか疑問です。基本的に放射性廃棄物はすべて地下深くに埋設処分を行うしかないと考えるべきです。今回の事故によって、地下貯水槽が汚染され、使用されたプラスチック製貯水材や砕石が新たに放射性廃棄物として発生してしまいました。
 2013年2月15日、長崎原爆製造時の放射性廃液を貯蔵している米国ワシントン州ハンフォード・サイトの放射性廃液タンクから漏洩事故がありました。60年以上経過しても放射性廃液は問題を内包したまま残っているのです。(本事故は当ブログ「長崎原爆製造後の放射性廃液が貯蔵タンクから漏洩」を参照してください)    










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