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2013年5月7日火曜日

イングランドのエセックス州でディーゼル燃料油タンクが火災

 今回は、2013年4月29日、イングランドのエセックス州サロックにあるヴォパック社のロンドン・ターミナルにおいて起こったディーゼル燃料油用タンクの火災事故について紹介します。火災のあったタンクは空の状態で、火災はタンクのリム・シール部で起こっています。
エセックス州サロックのヴォパック社のターミナルで起こったタンク火災に出動する消防隊 (写真はBBC.co.ukから引用
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・BBC.co.uk, Oil Terminal Fire: Crews Tackle Diesel Storage Tank Fire,  April 29,  2013
      ・RomfordRecorder.co.uk,  Wennington Firefighters among those Called to Diesel Tank Blaze at Vopak Terminal, West Thurrock, April 29,  2013 
  ・ThisisTotalEssex.co.uk,  Diesel Tank Catches Fire at Vopak Terminal in West Thurrock, April 29,  2013   
  ・YourThurrock.com, Fire Crews Successful in Tackling Fire at Vopak,West Thurrock, April 29,  2013
    ・Echo-News.co.uk,  Fire at Vopak in West Thurrock, April 29,  2013 

<事故の状況> 
■  2013年4月29日(月)午後3時30分頃、イングランドのエセックス州にある液体貯蔵ターミナルで石油タンクの火災が起こった。事故があったのは、エセックス州サロックのオリバー通り近くにあるヴォパック社のロンドン・ターミナルで、火災はディーゼル燃料油用タンクで起こった。
サロックにあるヴォパック社のタンクターミナル
(写真はグーグルマップから引用) 
消火泡剤搬送車
(写真はThisisTotalEssex.co.uk から引用) 
■ 発災に伴い、消防隊が出動し、60名を超える消防士と12台の消防車が現場へ駆けつけた。エセックス消防署は、救助作業車、消火泡剤搬送車、はしご車、ホース展張車など16の消火用機材を現場へ送り込んだ。火災のあったタンクは空の状態だったが、消防隊によると、“泡放射攻撃を浴びせた”という。
 事故に伴う負傷者はなく、避難する事態も無かった。消防隊は、15名を状況監視のため夜を通して現場に残した。
■ エセックス消防署によると、火はタンクのシール部から上がり、ヴォパック社の泡消火設備が自動的に始動したという。消防署は、「ごく最近、この種の事故対応についてヴォパック社の人たちと一緒に現場での訓練を行ったばかりだったので、消防活動がうまくいった」と付け加えた。
鎮火翌日に現場立入りした消防士
(写真はromfordRecord.co.ukから引用)
事故対策本部長のマーク・エリオット氏の話によると、火災はタンクのリム・シール部で起こったという。
■ 英国ヴォパック社の代表取締役イアン・コクラン氏は、29日夕方、つぎのような声明を出した。
 「私どものターミナルにおいて、メンテナンス作業中に火災があったことを報告します。火災があったのは空のタンクで、石油製品に被害はありませんでした。くすぶった物質は速やかに消火できました。私どもは安全を最優先してきており、今回も円滑に作業が進めることができました。事故に当たって迅速かつ心強い対応を行って戴いた地元関係機関に感謝の意を表します」
消火活動で出動し、発災翌日の消防士
(写真はromfordRecord.co.ukから引用) 

補 足
■ 「イングランド」は、通常、英国あるいはイギリスと言っているが、正式には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」である。人口は約6,200万人で、首都はロンドンである。
 「エセックス州」は、イングランドの東部に位置する州(カウンティ)で、人口約167万人、州都はチェルムズフォードである。
 「サロック」はエセックス州にある独立行政区の都市で、人口約16万人である。

■ 「ヴォパック社」(Vopak)は、オランダのロッテルダムに本部をおく「ローヤル・ヴォパック社」で、石油やケミカルなどの液体貨物のロジスティクス カンパニーである。世界31か国で85箇所のターミナルを保有する世界有数の物流企業である。英国には、「英国ヴォパック社」が3箇所の基地を持ち、サロックに「ロンドン・ターミナル」があり、86基のタンク(容量50~10,000KL)に約37万KLの石油製品などを貯蔵している。
 なお、日本には、日本通運㈱と長瀬産業㈱とのジョイントベンチャーである「日本ヴォパック社」があり、横浜、川崎、名古屋、門司に事業所を有している。
サロックにあるヴォパック社のタンクターミナル
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用) 
■ 「エセックス消防署」は、正式には「エセックス州消防および救助サービス」(Essex County Fire and Rescue Service;ECFRS) で、エセックス地域を管轄する州の消防機関である。管轄地域は 367,000 haで、年間に約25,000件の緊急事故に対応している。職員は1,640名のスタッフ、フルタイム消防士874名と待機消防士479名を擁している。同消防署のホームページには、緊急事故で対応した際の出動車両などの情報を公開している。当ブログで紹介した2011年6月3日のイングランドのケント州キングスノースにある廃油貯蔵施設の火災事故では、地域外であるが、エセックス消防署も消火活動支援で出動している。

所 感
■ 事故は、内部浮き屋根式タンクの浮き屋根用シール材がメンテナンス時の火気によって燃えたものと思われる201166日、米国メイン州で同様の火災事故が起こっている。その事故はメイン州サースポートにあるアーヴィング・オイルターミナルの内部浮き屋根式タンクで起こったもので、タンクは工事中で空だったが、浮き屋根のシール部から火が出たという今回と同じ状況である。タンクの定期保全時にシール部の火気養生が不足して、シール材を燃やすトラブルは過去にも起こっている。タンクの油抜きとクリーンアップを終了したら、内部に可燃物はないという予断と安心感で、可燃性であるシール材が盲点となった事例であろう
注記; 浮き屋根シールの構造は、フォーム・ログ・シール方式、リキッド・フィルド・ログ・シール方式、ワイパー・シール方式、シュー・シール方式があり、後者2つは金属製で可燃性ではないが、前者2つは可燃性である。シール方式については、当ブログの「内部浮き屋根シールの供用中検査の方法」(2011年8月)を参照。
ヴォパック社のアルミニウム製ドーム型タンクの例
(写真はVopak社のホームページからから引用) 
■ しかし、ガソリンのような揮発性液体でないディーゼル燃料油(軽油)に浮き屋根式タンクを使用するかという疑問がある。ただ、ヴォパック社のホームページによれば、アルミニウム製ドーム型浮き屋根式タンクの導入に積極的であるようなので、浮き屋根式タンクにディーゼル燃料油を入れているのかもしれない。米国メイン州の内部浮き屋根式タンクの火災では、消火活動が難しかったようだが、今回は、比較的円滑に火災は消火できたものと思われる。この要素の一つには、消防署がコメントを出しているように、事業所と公設消防による現場での訓練が役立ったものと思われる。
注記;米国メイン州の内部浮き屋根式タンクの火災は、当ブログの「オイルターミナルのタンク火災において消防隊奮闘」(2011年7月)を参照。

後記; ブログを2年間継続していると、類似事例が出てくることがわかりますね。残念ながら、世界規模で見ると、なかなか過去の事例が活かされないということです。今回は、当ブログで過去に紹介した2件の情報が役立ちましたが、私自身、いつ紹介したか忘れています。このとき、活用するのが自分のブログをGoogleで検索することです。例えば、「世界の貯蔵タンク事故情報」と「内部浮き屋根式タンク」という言葉で検索すると、欲する事故情報がリストされます。以前、投稿件数が増えたときにリスト表を作ることも考えましたが、Google検索すればよいと思い、やめました。これで良かったのです。最近、将棋のプロ棋士とコンピュータが対戦し、コンピュータ棋士が勝ったというニュースが報じられましたが、これほどではないにしろ、私自身が書いた情報の記憶をコンピュータは超えていると実感しますね。

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