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2013年6月5日水曜日

米国で9日間に3箇所のタンク施設で落雷による火災発生

 今回は、2013年4月下旬から5月上旬にかけて、米国メキシコ湾岸の州において発生した3件の落雷によるタンク火災の情報を紹介します。
5月2日ルイジアナ州デナムスプリングの落雷によるタンク火災現場 (写真はNOLA.comから引用
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいて要約したものである。
  ・LightningProtection.com, Three Lightning Strikes Hit Three Storage Facilities in Nine Days,  May 9,  2013
      ・FireGreeer.com,  Lightning Ka-Boom Houston Oil Storage Tanks, April 28,  2013 
  ・KHOU11.com,  Fire Marshal Says Lightning May Have Started Fire at Oil Storage Facility, April 27,  2013   
  ・Reuters.com, Two Denbury Resources Crude Oil Tanks on Fire in Louisiana, May 3,  2013
    ・NOLA.com,  Oil Tank Explodes near Denham Springs, Homes Evacuated, May 2,  2013
      ・UPI.com, No Injuries Reported in Louisiana Oil Tank Explosion, May 3,  2013
      ・Examiner.com, Lightning Investigaed as Cause of Oil Tank Explosions in Louisiana, May 4,  2013

 <多発する落雷頻度とタンク火災> 
■  メキシコ湾岸付近の米国本土では、落雷の頻度が増えており、たびたび強烈な雷撃を眼にすることがある。不安定な天候はだんだん日常化し、気候の変化がはっきりわかるようになり、石油・ガス分野では直接的な影響が出始めている。問題の根は気温の上昇と異常な天候パターンにある。一回の落雷によって大きな被害を受けることもある。場合によっては、数百万ドル分の製品を失い、すぐに生産活動に影響する。4月下旬から5月上旬の2週間は、このような状況が現実のものとなった。メキシコ湾岸地区では、落雷によって3基のタンクが爆発する事故が起こっている。このうち2件はテキサス州で、もう1件はルイジアナ州で起こった。

■ 応用工学分野のコンサルタント会社を経営し、エンジニアでもあるピーター・カーペンター氏はつぎのように語っている。
「この41年間の中で、こんなに短かい期間に同じ州の貯蔵タンクが直雷を受けるような状況を経験したことがありません。実際、気象観測会社ヴァイサラが集積したデータから最近のテキサス州における落雷件数を入手しましたが、ある12時間の間にあった落雷件数は年間の落雷件数より多かったのです」

■ 4月24日(水)の早朝、テキサス州ヒューストン港の近くにある鉱油の入った貯蔵タンクに落雷があった。ヒューストン消防署はサウス・コースト・ターミナルに出動し、火災のあったタンクの消火に対応した。
 その3日後の4月27日(土)、テキサス州ハリス郡サイプレスで落雷があり、数基の原油タンクが爆発するという事故になった。消防隊がただちに出動し、まだ落雷の危険性のある不安定な天候の中で消火活動を行った。幸い、爆発があったにもかかわらず、負傷者は出なかった。

■  5月2日(木)夜、ルイジアナ州リビングストン郡デナムスプリングでオイルタンクに落雷があり、火災となり、2基のタンクが爆発を起こす事態となった。このため、近くにある20世帯以上の住民が3日(金)朝まで避難することとなった。2基のタンクには2,300バレル(365KL)の原油が入っていたが、中の油とガスが漏れ出して火災となった。消防隊が、丸一日火災の制圧に努めた結果、消火することができた。火災鎮火後、消防隊は、落雷によって爆発が起こったものと判断している。

■ 雷対策コンサルタント社(Lightning Eliminators & Consultant Inc.)の最高経営責任者 (CEO)であるアブラハム・サンダース氏は、「歴史上、このように落雷の発生件数の多い状況は見たことがありません。もはや落雷は異例な出来事ではなく、温暖化現象によるということがはっきりしており、落雷による事故は多発すると予想されます」と語った。

■ この話題は、まさに昨夜(5月8日)、ヒューストン・ペトロリアム・クラブにおいて開催された雷対策サミットで議論された。コノコフィリップス社、ノーブル・ドリリング社、アメリカ石油協会(API)およびその他の石油・ガス会社の役員を含めたペトロリアム・クラブの会員は、最近の多発傾向にある落雷の状況と影響について学んだ。コロラド大学のアル・J・ガジースキ教授によって最新のデータと研究が発表され、マサチューセッツ工科大学(MIT)のアール・ウィリアムズ教授が論評した。
 参加者は、雷対策の“最善策”や世界で行われている対策について十分理解して帰った。参加した役員やエンジニアは、石油・ガス工業分野における落雷対策の必要性や地球温暖化による天候パターンの変化について親密に議論を行っていた。 

<タンク火災の状況> 
① 4月24日 「テキサス州ヒューストンの落雷によるタンク火災」
  当ブログ「米国ヒューストンで落雷によるタンク火災」を参照。

② 4月27日 「テキサス州サイプレスの落雷によるタンク火災」
4月27日テキサス州サイプレスの落雷によるタンク火災
(写真はFireGeezer.comから引用)
■ 2013年4月27日(土)の午後、テキサス州ハリス郡を猛烈な嵐が襲った。このとき、サイプレスにある石油貯蔵施設に落雷があり、タンクが爆発・火災を起こした。事故があったのは、ハリス郡サイプレスの農道FM529号線近くにある石油貯蔵タンク施設で、午後3時15分頃に起こった。ハリス郡消防署が出動し、第一陣が現場へ到着したときには、数基のタンクが火に包まれていた。火災によって空に大きな黒煙が流れていた。

サイプレスの落雷によるタンク火災の黒煙
(写真はKHOU.comから引用) 
■ 警察および消防署は午後3時過ぎに911番緊急通報を受けたが、爆発のたびに通報が寄せられた。ハリス郡消防署の消防保安官であるディーン・ヘンズレー氏は、「タンクの何基かは爆発していたように見えました。火のついていないタンクもありましたが、火災を起こしたタンクでは内部の油が燃え続けていました」と語った。あとで分かったことは、大きさのいろいろな違うタンク6基が爆発していたということである。
 事故は2アラーム火災として対応され、消防署の出動によって火災は比較的容易に鎮圧できた。ホットスポットによる再燃を警戒して、タンク地区全エリアに防護用の消火泡膜が張られた。
■ この事故に伴う負傷者はいなかった。

③ 5月2日 「ルイジアナ州デナムスプリングの落雷によるタンク火災」
5月2日ルイジアナ州デナムスプリングの火災現場
(写真はNOLA.comから引用
■ 2013年5月2日(木)午後10時30分頃、ルイジアナ州デナムスプリングの石油貯蔵施設に落雷があり、タンクが爆発・火災を起こした。事故があったのは、デナムスプリングにあるデンバリー・リソース社の原油タンク施設で、木曜の夜にタンクの1基が爆発したあと、金曜に入って2基の原油タンクが火災になった。
 木曜夜はかなり強い低気圧がルイジアナ州の南東地区を通過し、ところによって雨と雷が発生していた。

タンク火災で近隣地区を警備する警察
(写真はNOLA.comから引用
■ ルイジアナ州国土安全保障・緊急防災本部は、木曜の夜の爆発後、近くの住民30世帯ほどに避難指示を出した。結局、この2基のタンク火災による負傷者は出なかった。火災のあったタンクは容量が約2,300バレル(365KL)で、最初の火災は5月2日(木)午後10時30分頃に発生した。炎は30フィート(9m)の高さにまで上がった。原油はタンク内あるいは周囲の防油堤内に留まったが、火災となり、火災エリアは200平方フィート(18㎡)になった。火炎からの熱によって消火泡が効力を発揮できる状況ではなかったため、タンクに水をかけて冷却し、泡が使用できるようになるまで待った。消火泡剤は午前1時頃から到着し始めた。2回目の爆発は5月3日(金)午前12時30分頃に起こったという。


■ 避難地区の近くに住むキム・ブラッドリーさんは、最初、自宅の木が倒れたと思ったといい、「家の中にいたけど、突然、ドーンと大きな音がして、窓ガラスが揺れたわ」と当時のことを語った。別な住民のドナルド・デヴィッドソンさんは、「家全体が揺れ、壁がガンガン鳴ったよ。最初、雷のような音が聞こえ、外へ出てみると、大きなファイアボールが消えかかっているのを見ました」と話している。

■ デンバリー社のコリンズ氏によると、タンクには同社が操業しているロックハート・クロッシング油田から生産し、パイプラインを通じて送られてきた油が入っていたという。なお、現在、パイプラインは閉止されているという。なお、ロックハート・クロッシング油田の生産量は1日当たり約1,100バレル(175KL)であり、事故による油田生産への影響はないという。ただし、油田のすぐ近くには貯油タンクがない。デンバリー社はロッキー山脈とメキシコ湾岸で事業展開している独立系の石油・ガス会社である。同社のウェブサイトによれば、同社はミシシッピー州とモンタナ州の両州において最大の石油および天然ガスの生産者だといい、2011年末において石油換算で462百万バレル(73百万KL)の総確認埋蔵量を保有しているという。
5月3日デナムスプリングのタンク火災現場  (写真はExaminer.comから引用
■ 調査官によると、現場にあった油を保有していた2基のタンクのうち1基は破裂し、火災を起こして爆発したものだと見ている。当局によると、2基目のタンクは爆発を起こしていなかったが、爆発時の熱によってわずかに変形したという。
 火災が収まった後、住民は自宅へ帰り始めた。ルイジアナ州環境保全局は現場に残り、2・3日間、焼け跡から出るフュームの大気への影響をモニタリングした。消防隊によると、現場のクリーンアップは5月4日(土)にかけて行われるという。
事故前のデナムスプリングの原油タンクと近隣住宅  (写真はグーグルマップから引用
補 足
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコ湾岸にある州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。「サイプレス」はテキサス州南東部に位置し、ハリス郡にあり、人口約12万人で、ヒューストン郊外都市となっている。
 「ルイジアナ州」は米国南部にあり、テキサス州東側と州を接するメキシコ湾岸の州である。人口は約453万人で、州都はバトンルージュである。「デナムスプリング」はルイジアナ州の中央部東に位置し、リビングストン郡にあり、人口約10,200人の町である。

■ 「雷対策コンサルタント社」(Lightning Eliminators & Consultant Inc.)は、1971年にピーター・カーペンター氏がコロラド州ボールダーで設立した会社で、接地システム、サージ保護、革新的な特許である電荷移送技術などを活用して総合的な雷保護や避雷設備を提供するとともに、落雷に関する問題解決を行うことを業務としているコンサルタント会社である。
 「雷対策サミット」(Lightning Protection Summit)は「雷対策コンサルタント社」が開催した会議で、2013年5月8日、テキサス州ヒューストンのヒューストン・ペトロリアム・クラブ(The Petroleum Club of Houston)において石油・ガス工業分野の関係者を対象に午後5時30分~8時30分の間、ディナー形式で行われた。

所 感
■ 貯蔵タンクの事故原因の三分の一は落雷によるものである。米国で落雷によるタンク火災が多いのは、油田掘削後に貯油しているタンクは浮き屋根式でなく、コーン屋根式が多く、可燃性ガスを形成する可能性が高いことが要因の一つである。
 そして、以前、当ブログの「 NASA(アメリカ航空宇宙局)による世界の雷マップ」で紹介したように、米国はメキシコ湾岸の州を中心に落雷の多い国である。しかし、その米国でも、今年の不安定(異常)な天候による落雷の多さに驚いている。落雷が多ければ、その分、タンクの落雷による火災発生の頻度は増えることは自明であるといえる。
■ 今回、3件の落雷によるタンク火災があったが、幸いなことに落雷時および火災消火活動において負傷者が出ていない。ルイジアナ州デナムスプリングの落雷によるタンク火災では、いち早く、住民の避難を行っている。また、消火活動については詳細を伝えていないが、いずれの事故でも比較的冷静に対応しているように感じる。
 日本でも、最近、猛烈な集中豪雨と強烈な落雷が発生するようになっており、落雷による(タンク)火災が起こりうると想定して、危機管理を行う必要がある。


オクラホマ州の竜巻
後記; 米国オクラホマ州で5月20日に巨大竜巻が発生し、死者24名を出す被害があり、日本でも大きく報道されました。さらに、5月31日に再び、巨大竜巻が発生し、ストームウォチャー(竜巻追跡人)と呼ばれる竜巻研究者3名を含む10人の死者を出しました。今回の落雷によるタンク火災事故の情報を調べると、不安定な天候で雷を伴う嵐により米国内でも異常と思えるほどの多くの落雷が発生していたことがわかりました。オクラホマ州巨大竜巻の前触れであったようです。一つの情報から思わぬところに結びついていると感じながらまとめていました。

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