2013年9月25日水曜日

東京電力福島原発の汚染水貯留用組立式円筒タンクからの漏れ原因

 今回は、2013年8月19日に東京電力福島第1原子力発電所において放射能汚染水を貯留する組立式円筒型タンク(容量1,000㎥、直径12m×高さ11m)から高濃度汚染水の漏洩がわかりましたが、その後、原因追究が行われ、2013920日に調査結果が発表されました。ここでは、この間に行われた調査情報について紹介します。なお、組立式円筒型タンクからの漏れ事例は当ブログの「東京電力福島原発の汚染水貯留用組立式円筒タンクから漏れ」を参照。


            タンク解体後の目視点検結果 (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 

本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力プレスリリース;福島第一原子力発電所構内H4エリアのタンクにおける水漏れについて, September 20,  2013
      ・朝日新聞, 原発汚染水漏れ関連記事, September  21,  2013
      ・Sankei.jp.msn.com, 原発汚染水漏れ関連記事, September  20,  2013
    ・Mainihi.jp, 原発汚染水漏れ関連記事, September  20,  2013
  ・Nsr.go.jp, 原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループの議事録等, August 27~ September  12, 2013

 <概 要> 
■  2013年8月19日(月)9時50分頃、福島県双葉郡大熊町・双葉町にある東京電力福島第1原子力発電所において放射能汚染水を貯留する組立式円筒型タンク(容量1,000㎥、直径12m×高さ11m)から高濃度汚染水が漏洩していることがわかった。

■ その後、原因追究が行われ、2013年9月20日(金)に調査結果が発表された。ここでは、この間に行われた調査情報についてつぎの項目に基づいて時系列的にまとめた。
  ●組立式円筒型タンクの構造
  ●漏洩箇所特定の調査方法
  ●漏洩箇所の大きさの推測
  ●調査結果
     ・カメラによる内部確認結果
     ・バブリング試験の結果
     ・タンクの解体後の調査結果

 <組立式円筒型タンクの構造> 
■ 組立式円筒型タンクの構造は底板部が5枚に分割されており、底板フランジ部は4つある。
■ 東京電力が原子力規制委員会に報告した資料(8月30日付け)によると、底板フランジ部は止水構造のタイプによってType-1~Type-5まで5種類に分かれている。今回、H4エリアにおいて漏れがわかったタンクはType-1である。なお、組立式円筒型タンク総数305基のうち39%に当たる120基がType-1で、いずれもH4エリアに設置されている。
組立式円筒型タンクの底板部の構造
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用)
組立式円筒型タンクの底板フランジの止水構造の種類
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
底板フランジ止水構造のタイプと設置基数
(表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
 <漏洩箇所特定の調査方法> 
■ 東京電力は、8月27日、原子力規制委員会に対して、タンク内は水抜き後も放射線量が高いため、つぎのようなステップで調査を進めることを報告した。
 1.タンク内の除染前
    ●カメラによる内部確認:上部マンホール,アクセスマンホールよりカメラを挿入し,状況の観察
    ●バブリング試験:または代案としてトレーサ(蛍光剤+ブラックライト)による漏洩箇所特定
          バブリング試験の方法  (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

 2.タンク内の除染後 (除染期間;約1週間)
    ●目視点検
      ・胴板(一般部,接合部シーリング材)
      ・底板(一般部,フランジ,フランジ締結ボルト,接合部シーリング材)
    ●部材点検(可能であれば)
     ・フランジ締結ボルトを外し,当該締結部詳細目視およびボルト詳細点検
 3.タンクの解体後 (クレーン車の搬入後、解体工事期間1~2週間)
    ●個別部位の詳細調査
    ●特定部位で顕著な腐食が確認された場合,水質等を模擬して腐食試験を実施 

■ 東京電力は、8月27日、原子力規制委員会に対して、タンクの漏れ要因についてつぎのように報告した。
       漏洩原因に対する要因分析 (表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

 <漏洩箇所の大きさの推測>
■ 東京電力は、8月30日、原子力規制委員会に漏洩箇所の大きさの推測(参考値)を報告している。この報告によると、漏洩時間および水位から漏洩面積を推測し、長さ25mm×開口(隙間)1mm程度と見られる。
        漏洩箇所の大きさの推測  (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

 <調査結果> 
■ 東京電力は、8月27日に原子力規制委員会にタンク内の除染前の調査結果をつぎのように報告している。
    ●カメラによる内部確認結果(8月22~23日に実施)
      ・漏洩箇所の特定につながる調査結果は得られなかった。
      ・胴板一般部について,外見上異常なし。接合部にはシーリング材が残存している。
      ・底板については,残水のため一般部の観察ができていない。
      ・底板フランジ部については、接合部のシーリングが残存している。
      ・ボルト締結部は、シーリングとクラッドにより形状がやや明確でないが,顕著な腐食は無い。
カメラによる内部確認結果
(写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

■ 東京電力は、9月12日、原子力規制委員会に対して、タンク内の除染前に行ったバブリング試験の結果を報告した。
    ●バブリング試験の結果(9月5日実施)
      ・漏洩箇所を特定できなかった。
    ●バブリング試験の実施経緯(8月30日~9月5日)  
      ・8月30日、試験を実施したが、タンク底板と基礎コンクリートの間から、エアリークが生じたため、
       試験箇所(底板フランジ面)を加圧できなかった。
      ・このため、加圧ラインの変更(タンク底板と基礎コンクリートの間に直接エアを注入するラインを
            設置)や、コーキング箇所にモルタルを追加施工する等の方法により、エアリーク量の低減対策
             等の改善を行い、試験箇所を加圧できるよう施工し直した。
      ・9月5日、バブリング試験を実施した。(空気圧0.004MPaで保持)(実施時間:12:45~14:35)
       しかし、試験の結果、気泡の発生は確認されなかった。
    ●バブリング試験の失敗要因(東京電力が原子力規制委員会へ9月12日に報告)
        ・タンク底部の漏洩パスが確認できない(気泡が発生しない)のは、水頭圧の有無により
         タンクの変形状態が異なることに起因しているものと想定。
        バブリング試験の実施 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
       バブリング試験の失敗要因 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

■ 東京電力は、9月12日、原子力規制委員会に対して、タンク内の除染後の調査についてつぎのように報告した。
    ●除染後のタンク入槽内の目視点検、部材点検は実施しない。
    ●解体工事を優先して進める。
      解体は、漏洩の起きたNo.5タンクへの重機アクセスのため、先行してNo.10タンクを解体する。 
        タンク解体工事   (写真はmainichi.jpから引用) 

■ 東京電力は、9月20日、タンクの解体後の調査結果を報道発表した。
    ●ボルトの打診点検の結果
      ・ボルトの打診等による締結状態の確認を行なった結果、5本のボルトに緩みを確認。
    ●目視点検の結果
      ・側板最下部と底板とのフランジ部、および底板フランジ部にシーリング材の変形・破損を確認。
                 解体後の目視点検結果 (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
                解体後の目視点検結果 (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 
                   解体後のフランジ部の線量測定結果  (図は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 

        ●側板部のバキューム試験結果
      ・タンク下部側板とフランジ部との溶接部のうち、比較的高線量が確認された箇所(さび部)
       について、局所的に吸引を実施した。
      ・当該部に塗布した発泡剤からの継続的な泡の発生は確認されなかった。
       また、タンク内部に塗布した泡も吸い込まれなかった。
                   タンク側板溶接部のバキューム試験  (写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用) 

■ 朝日新聞によると、東京電力は20日、底板をつなぎとめるボルト5本に緩みを確認したと発表し、ボルトが緩むと隙間ができることから、東京電力原子力・立地本部の尾野昌之本部長代理は「ここから漏れた可能性が高いが、さらに調査を進める」という。
 産経ニュースによると、5箇所のボルトは手で触れるとぐらつきが分かる緩み具合で、タンク東側に集中していたと報じている。底板は5枚の鋼板が約300本のボルトでつなぎ合わされている。このほか、つなぎ目からの水漏れを防ぐ止水材も8カ所で、剥がれるなどの劣化が見つかったと報じている。  

補 足 
■ 「止水構造のタイプ」
 今回の東京電力が原子力規制委員会に報告した資料によると、底板フランジ部は止水構造のタイプによってType-1~Type-5まで5種類に分かれていることがわかった。この違いについて東京電力やメーカーである東京機材工業による解説はないが、建設当初からフランジ部のシール性に課題を持っていたことがうかがえる。 Type-1~Type-5はつぎのように変遷している。
  ・Type-1 水膨張性止水材(水膨張性ゴムパッキン) + フランジ上側にシーリング材
       (Type-1‘として一時、ポリエチレン樹脂系パッキンを使用)
  ・Type-2 水膨張性止水材 + フランジ上側にシーリング材 + モルタル充填(アスファルトシート)
  ・Type-3 同上 + 目地コーキング
  ・Type-4  同上 + 目地コーキング + 止水シート
  ・Type-5 水膨張性止水材 + フランジ上側にシーリング材 + ボルト部にシーリング材
        (水膨張性止水材はフランジ部に設けた溝に挿入)
 さらに、側板の止水構造もType-1~Type-5によって変更している。このように短期間に止水構造の変更を行っていることは、実績に基づいて改良したというよりアイデアのレベルを試したものと思われる。
 
底板フランジの止水構造Type-1
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

底板フランジの止水構造Type-2
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

底板フランジの止水構造Type-3
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

底板フランジの止水構造Type-4
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

底板フランジの止水構造Type-5
(図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

側板の止水構造のタイプ
(表は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

所 感
■ 東京電力はまだ断定していないが、調査の結果は予想されたとおりの漏れ原因(底板の締結部からの漏れ)である。しかし、ここに至るまでに時間がかかり過ぎるというのが率直な感想である。漏れが確認されたのは819日で、今回の調査結果の発表が920日と1カ月を要している。タンク内の放射性物質除染や解体工事に時間を要する要因はあるにしても、長すぎる。

■ 東京電力は民間会社の一社であるが、通常の民間会社であれば、もっと早く進めただろう。何が違うかというと、調査方法に関する学術研究でもやるようなステップだったことである。2日間を要したカメラによる内部確認および7日間以上を要したバブリング試験などは漏れ原因にまったく結びつかなかった。東京電力の考察でバブリング試験の失敗要因(水頭圧の有無によりタンクの変形状態が異なることに起因)は、貯蔵タンクの分野に携わっている人なら常識的なことであり、バブリング試験と聞いただけで、何も得られないことは予想できる。
 東京電力がまとめた「漏洩原因に対する要因分析」をみれば、解体後検査(一般でいう開放検査)を真っ先に行うという結論になるはずである。要因分析の「材料品質不良、施工不良、腐食・劣化」は解体しなければ、わからない項目である。

■ 今回の解体後検査において、底板フランジ部に施したシーリング材が膨らんでおり、機能していないことがわかった。締結の密封機能は、本来のパッキンに委ねるしかないのである。フランジ部の漏れ防止性能に疑問を持ち、補助の止水構造を追加したと思われるが、結局は気休めのアイデアに過ぎなかった。また、肝心のパッキンにも飛び出しが見られ、「水膨張性止水材」の放射能汚染水に対する適性にも疑問が出てきた。しかし、本来、底板に締結部のある組立式円筒型タンクは、土木用の水貯留に限定すべきで、漏れの許されない放射能汚染水の貯留用としては不適なのである。

<追 記> (9月26日)
■ 東京電力は、9月25日、タンク解体後の底板バキューム試験の調査結果を報道発表した。
    ●底板バキューム試験の調査結果
      ・底板フランジ部の隣り合うボルト2箇所から泡の吸い込みを確認。リング材の変形・破損を確認。
        ●バキューム試験の実施経緯
      ・9月20日、底板バキューム試験を実施したが、底板周辺に設置している試験用シール部からの
       漏れがあり、泡の吸い込みが確認できなかった。
      ・試験用シールをやり直し、9月25日に再度試験を実施した。
(写真は東京電力が報道へ配布した資料から引用)

(写真は朝日新聞から引用) 
■ 読売新聞によると、東京電力は、漏水箇所を探すため、解体したタンク内で底部のつなぎ目に泡をかけ、外側(底板の下)からポンプで吸引。約300本のボルトのうち、隣り合う2本のネジ穴付近へ泡が吸い込まれ、タンク外へ通じる隙間があることが分かった。ボルトは2本とも緩んでいなかった。20日に緩みが判明したボルト5本には隙間が確認されなかったと報じている。

 時事通信社によると、東京電力は、漏出したタンクの底板南側で2カ所の小さな隙間が見つかり、そこから汚染水が漏れた可能性が高いと発表したと報じた。これまでに底板の東端で5本のボルトに緩みが見つかっていたが、別の場所だった。さらに、東電福島復興本社(福島県楢葉町)で記者会見した相沢善吾副社長は「1,000トンの水が上に乗れば、底板は下に膨らむ。分解点検の結果、ボルトが緩んでいた箇所からも漏れていたという結論もあり得る」と説明したと報じている。



後記; 組立式円筒形タンクの漏れの問題については前回の報告で終わる予定でしたが、世の中の関心が高いので、調査結果の出た現段階でまとめることにしました。(9月26日に追記しました)
 ところで、東京電力福島原発の問題というのは、皮肉なことが多いですね。9月2日、原子力学会が「トリチウムは薄めて海に流すべきだ」という見解を出しました。トリチウム(三重水素)はALPS(汚染水処理施設)で除去できないためです。ところが、この見解が出た9日後の9月11日、福島原発の汚染水漏れのあったタンク近くの観測井戸でトリチウムが6.4万ベクレル/リットル検出されたと東京電力は発表しました。その後も9月14日、トリチウムは15万ベクレル/リットルまで上昇したと発表し、さらに9月16日、トリチウムは17万ベクレル/リットルまで上昇したと発表しました。この情報は逐次メディアで報道されました。原子力学会は真面目(?)に反論するでしょうが、皮肉というより、 “汚染水” は学会を関西でいう“おちょくる”という感じですね。 


2013年9月21日土曜日

米国ニューハンプシャー州の地下タンクでフラッシュ・ファイヤー、2名負傷

 今回は、2013年9月9日、米国ニューハンプシャー州マンチェスター市のハノーバー通りにあるモービル給油所の地下タンクでフラッシュ・ファイヤーが起き、工事中の作業員2名が火傷を負うという事故を紹介します。
事故のあったニューハンプシャー州マンチェスターのモービル給油所 
 (写真は1.WHDH.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・1.WHDH.com, 2 Workers Injured in Gas Tank Explosion in NH,  September 09, 2013
      ・Boston.CBSlocal.com, Explosion at Machester, NH Gas Station,  September 09, 2013 
  ・NECN.com,  2 Men Injured in Manchester, NH Flash Fire,  September 09, 2013
      ・WMUR.com,  Workers Seriously Injured in Fire in Diesel Tank,  September 10, 2013
      ・Firehouse.com,  Flash Fire Severely Burns Two N.H. Tank Technicians,  September 11, 2013      

 <事故の状況> 
■  2013年9月9日(月)午後1時頃、米国ニューハンプシャー州にある給油所の地下タンクで爆発事象が起き、2名の負傷者が出る事故があった。事故があったのは、ニューハンプシャー州マンチェスター市のハノーバー通りにあるモービル給油所の地下タンクでフラッシュ・ファイヤーが起き、工事中の作業員2名が火傷の重傷を負った。
ハノーバー通りの風景 (右が事故のあったモービル給油所、左がCITGO給油所)
(写真はグーグルマップのストリートビュー から引用) 
■ 地下タンクは、ディーゼル燃料用で直径8フィート(2.4m×長さ24フィート(7.3m)、容量10,000ガロン(38KL)の大きさだった。タンクは地下に埋設され、出入り用に長さ6フィート(1.8m)のマンウェイが付いている。従って、タンクは深さ14フィート(4.2m)の地中に置かれていることになる。当日、タンクは空で、午後1時頃に何かの要因で爆発事象が起きたものである。消防署の職員のひとりは、「ガソリン火災のようなフラッシュ・ファイヤーだったようです」と語った。

■ ふたりの作業員がファイバーグラスで製作された空のタンク内に入って、ライニング補修を行っていたとき、爆発したという。通りの向かい側でCITGOの給油所を営んでいるジョン・ブリューワーさんによると、事故が起こったとき、マンホールから煙が上がるのが見えたという。大きな爆発音はなく、タンクのマンホールから勢いよく煙が出ていたという。
 被災者の救出にも携わったブリューワーさんは、「男性の一人がマンホールの下から登って来て、手を上げてごろりと仰向けになるのが見えました。駆け寄って見ると、その男性は腰から下がかなり火傷を負っていました」と語った。もうひとりの男性は下に取り残されていた。数人の人がその男性を助けようとした。ブリューワーさんは、「私たちはその男性が付けていた安全帯を引っ張ってマンホールから出しました。男性は頭から足先までひどい火傷でした」と語った。二人は救急医療用ヘリコプターでボストン病院へ搬送された。

■ マンチェスター消防署のジェームズ・バークッシュ署長は、「消防署では、タンク内に入り、発見した証拠について書類を作成しているところです。報告によると、タンク内には落下して壊れた産業用の照明灯が1個あったということです」と語った。強力な照明灯は、タンク内のライニング補修に使用する樹脂剤などのケミカル類のフラッシュ・ファイヤーの火源になった可能性がある。バークッシュ署長は、事故後に可燃性ガスが存在していなかったので、フラッシュ・ファイヤーの可能性が高いと語っている。

■ 被災者はサウス・カロライナ州出身で、ドナルド・スコットさん(24歳)とアンディ・スノーさん(31歳)の二人の男性である。二人は、ミズーリ州に本拠を置くタンク・テック社の従業員で、仲間5人で今回の工事現場に働きに来ていた。事故発生時、給油所は開店していたが、二人以外に負傷者は出なかった。

■ 調査官は、病院において入院したスノーさんとタンク・テック社の他の3名の事情聴取をした後、フラッシュ・ファイヤーの火源となったのは、産業用の照明灯だった可能性が高いと見ている。バークッシュ署長によると、「作業員のひとりは、照明灯が落下するのを目撃しており、その後火花が飛び、大きな炎が上がるのを見た」という。作業員らは炎を消火器2台で消火させたといっている。バークッシュ署長は、「間違いなく事故(アクシデント)の範ちゅうだった」と語っている。しかし、バークッシュ署長によると、調査官は慎重に照明灯について調べ、試験を行う予定だという。バークッシュ署長は、「問題は工事が安全な手順で、安全な方法で行われていたかどうかです。この点について調査しています」と語った。「この調査の結論が出るまで、現場の作業はすべて保留です」とバークッシュ署長は語った。 

■ バークッシュ署長によると、タンク・テック社が同州の別な場所で同じ工事を行なっていることを考慮して、調査官も結論を早く出すよう努めているという。実際、月曜日にハノーバー通りの給油所現場にやってきた作業員のひとりは、タンク・テック社の従業員として最近、セーラムの現場で働いてきたと言っている。タンク・テック社の広報担当は、会社では同州において多くの作業員を雇っているので、今日、誰がどの現場で作業しているかということを即答するのは実際のところ難しいと話している。

■ タンク・テック社広報担当のジョナサン・マクニーリー氏は、「信じられません。(セーラムの)現場での作業は完璧だったと思っています。現時点で言えることは、技能工たちが知っていることを明らかにすることです。私どもは、関係機関の方々に協力して、事故の原因を明らかにしたいと思っています」と語っている。さらに、「会社は1985年から操業していますが、今回のような事故は初めてです」とマクニーリー氏は語った。
                    上から見た発災現場    (写真は1.WHDH.comから引用) 
             被災者を搬送する消防隊と救急隊   (写真はFirehouse.com から引用)
      タンク・テック社の安全掲示板の見える発災現場   (写真はFirehouse.com から引用) 
       タンク・テック社の工事用資機材が並んだ発災現場   (写真はNECN.comから引用) 
       タンク・テック社の工事用車両が置かれた発災現場   (写真はNECN.comから引用) 
補 足                                                        
■ 「ニューハンプシャー州」は米国北東部に位置し、人口は約132万人の州である。
 「マンチェスター」は、ニューハンプシャー州の南部にあり、州都であるとともに同州の最大都市である。人口は約11万人、都市圏人口は約17万人と、米国東部のニューイングランド北部3州の最大都市である。
(写真はグーグルマップから引用) 
  ■ 「フラッシュ・ファイヤー」(Flash Fire)は、可燃性ガス、可燃性または爆発性液体あるいは可燃性粉体と空気の混合気が着火して突然、激しい火災を起こすことをいう。高温、短時間、急速な火炎前面が特徴である。一般には「爆発」という用語で表現するが、消防など専門分野では区別しているので、今回は「フラッシュ・ファイヤー」という用語を使用した。

■ 「タンク・テック社」(Tank Tech, Inc.)は、1985年に設立されたタンク保全の専門会社である。タンク・テック社はミズーリ州を本拠として、カリフォルニア州、フロリダ州、サウス・カロライナ州、アリゾナ州に支店を置き、タンクの検査、コーティング補修、二重壁へのアップグレードなどの業務を米国国内で展開している。
(写真はTank Tech.Inc.のWebSightから引用)


所 感
■ 今回の事故については、消防署からよく情報公開されており、事故の状況や原因はほぼ推測できる。ライニング補修で使用する溶剤が気化して可燃性混合気を形成した中で、照明灯が落下して着火し、フラッシュ・ファイヤーを起こしたものと思われる。工事施工会社のタンク・テック社は地下タンクの検査や補修工事の専門会社で、実績もあり、今回も工事資機材を専用のトレーラーで搬送してきているので、基本的な工事の手順や方法に問題はないと思う。しかし、可燃性混合気を形成させているので、喚気状態が悪かったことは間違いない。人間は慣れてくると、手抜きや近道行為をしがちであり、何らかの基本的な事項を逸脱していたものと思われる。
2006年愛媛県の製油所で起こった火災事故現場
(写真は毎日新聞から引用) 
■ 照明灯が火源になったと見られ、実証のための試験が予定されているようだ。照明灯が火源で事故になったたらしいということを見て、思い出したのは、2006年1月17日、愛媛県菊間町の太陽石油四国事業所において開放工事中の10万KL原油タンクで火災が発生し、作業中の7名に死傷者が出るという事故である。事故直前に照明灯が倒れたという情報から火源は照明灯だといわれたが、照明灯のガラスは割れておらず、試験を行っても、再現できなかった。結局、着火源は特定できず、帯電による静電気のスパーク、照明灯や配線の漏電・ショートによる電気スパーク、鋼製工具・機材接触による火花のいずれかという結論だった。今回の事故では実証できるかどうかわからないが、着火したのは事実であり、なかなか再現しなくとも、事故は偶然の重なりで起こるものである。


後 記: 今回の事故情報では、当初「爆発」という言葉を標題に使っていましたが、耳慣れない言葉ですが、「フラッシュ・ファイヤー」としました。米国では、細かく区分しているようです。
 話は変わりますが、以前、この後記で周南市にある出光興産の旧アスファルト充填所のタンクが解体された話をしましたが、今回、この跡地を含めて開発面積約19,000㎡ に、広島市に本社をもつ総合スーパー「イズミ」が進出してくることが決まり、報道発表されました。周南市の駅前にあった山口県東部で唯一の百貨店の近鉄松下が閉店し、街の活性化が課題となっていました。この進出で出店するテナントや駐車場の大きさなどは未定ですが、約1,000人の雇用を生み出すそうです。時代は変わるという感じですね。
開発用地の全景、右が旧アスファルト充填所跡地 

2013年9月16日月曜日

米国テキサス州で落雷によって天然ガス付臭剤タンク噴き飛ぶ

 今回は、2013年9月7日、米国テキサス州ハリス郡アタスコチータにある天然ガスの計量ステーションに設置されていた付臭剤のメチル・メルカプタン用タンクが落雷によって爆発し、空中へ飛翔し、公共道路へ落下した事例を紹介します。
      テキサス州ハリス郡で落雷によって噴き飛んだタンク   (写真はABClocal.comから引用)
本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・KHOU.com,  Shelter-in-place Lifted for Area near Atascocita Road,  September 07, 2013
      ・ABClocal.go.com, Lightning Reportedly Hits Storage Tank, Propels It into Atascocita,  September 07, 2013 
  ・OurTribune.com, ‘Shelter-in-place’ Order Lifted after Crews Clean Atascocita Haz-Mat Spill,  September 07, 2013      

 <事故の状況> 
■  2013年9月7日(土)午後1時30分頃、米国テキサス州にある天然ガス施設に落雷があり、貯蔵タンクが公共道路に噴き飛ぶという事故があった。事故があったのは、テキサス州ハリス郡アタスコチータにある天然ガスの計量ステーションに設置されていたメチル・メルカプタンの貯蔵タンクで、落雷によって爆発し、空中へ飛翔し、公共道路のアタスコチータ通りへ落下した。
ハリス郡アタスコチータ通りの発災現場付近
                  タンクは矢印のように約40噴き飛んだ    (写真はグーグルマップから引用)

■ 落雷を目撃していたロバート・アギラールさんは、「車を運転していて曲がっているとき、雷がタンクに落ちるのが見えたよ。タンクが空中にまっすぐに飛び出し、電線を越えて私の車をかすめて落ちた。実際、タンクは付属していたはしごをつけたまま、こっちへ向かってきたよ。はしごはくるくる回っていたね。雷が落ちるのを見たのは2回目だったが、今度のはまったく強烈だったね」と語った。

■ 消防隊によると、そのときタンクは1台の車の上に落ちたという。タンクからは天然ガスに臭いを付けるためのケミカルが漏れ始めていた。ハリス郡緊急対応班によると、付臭剤はメチル・メルカプタンで、無色・可燃性の物質だという。事故現場に遭遇したアギラールさんは、「ガスか何かが燃えて出るような異様な臭いがしたね」と当時を振り返って語った。ケミカルは高濃度では有毒であるため、当局は、事故発生に伴い、アタスコチータ通り5,000区の東地区の住民にクリーンアップが終わるまで外へ出ないよう緊急避難警報を出した。

■ アタスコチータ消防署によると、爆発したのはメチル・メルカプタンを保管していたタンクだという。当日の嵐通過中、タンクに落雷があり、爆発したものだという。アタスコチータ消防署のアーネスト・ベズデック氏は、「事故は計量ステーションで起こりました。実際に爆発したタンクはメチル・メルカプタン用タンクです。メチル・メルカプタンは天然ガスに入れられ、臭いを付けることは常識的に行われています。こうすることによって、天然ガスが漏れたとき、私たちは臭いで気がつきます。タンクの中には、このようなケミカルが入っていたのです」と説明した。
■ ハズマット隊(Haz-Mat)が出動し、こぼれ出たもののクリーンアップを行い、事故から1時間後にすべて問題ない状態になったと発表した。アタスコチータ通りは現場のクリーンアップが終わるまで閉鎖された。道路上に落下したタンクは移動され、2時間後に通りの交通規制は解除された。この事故による負傷者は出なかった。
■ 当局によると、緊急避難警報(Shelter-in-place)は、住民に対して最も近いシェルターにただちに避難するよう促す警報だという。この警報は、ケミカルや放射能が放出されるような環境汚染の事故時に、大気から隔離するための予防的措置として出される。この警報が出されたときには、そのまま屋内にとどまるか、家族とさらに対策をとるかはテレビやラジオを聞いて判断してほしいと、アタスコチータ消防署は補足した。
(写真はABClocal.comから引用)
(写真はKHOU.com から引用) 
               設置場所付近に移動したタンク残骸  (写真はABClocal.comから引用)
アタスコチータ通りの天然ガス計量ステーション付近の風景
(写真はグーグルマップのストリートビュー から引用) 
アタスコチータの天然ガス計量ステーション
   注:中央に見えるはしご付きのタンクが発災タンク   (写真はグーグルマップのストリートビュー から引用) 

補 足                                                          
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
 「ハリス郡」はテキサス州東部にあり、人口約425万人の州で、郡都はヒューストンである。
 「アタスコチータ」はハリス郡の北東部に位置し、人口約65,000人の町である。アタスコチータ(Atascocita)はアタスコシと称されることもある。

■ 「メチル・メルカプタン」(CH3-SH)は、メタンチオールとも呼ばれ、アルコール分子中の酸素原子の代わりに硫黄原子の入った化合物で、揮発しやすく、たまねぎの腐ったような不快臭のある液体である。ガスの付臭剤のほか、医薬品、殺虫剤、反応促進剤などに使用されている。液体の比重は0.9で、引火点は-18℃、気体時の密度は1.7、爆発範囲は3.8~21.8%である。加熱または燃焼すると分解して、引火性の有毒なガスを生成する。  
 漏出した場合、周辺は立入り禁止措置をとり、処理者はゴム手袋、保護眼鏡、保護服を着用し、風上から作業を行う。漏出が少量の場合、ウェス等に吸収させて密封できる容器に回収する。

所 感
■ 今回の事故は、一般ユーザー向けの天然ガスに付臭剤を注入する計量ステーションにおいて、付臭剤のメチル・メルカプタンの貯蔵タンクが落雷を受け、爆発して飛翔したものと思われる。日本では、北海道の一部で都市ガス原料に天然ガスが使用されているが、米国では一般的に天然ガスが使用されており、このような施設は少なくないと思われる。発災タンクはそれほど大きくなく、まわりの施設や木々に比べても低いが、落雷は高い施設に落ちるわけでないことが理解できる事例である。
■ 欧米では、石油タンクの火災や流出の事故でも、ハズマット隊(Haz-Mat)が出動する。今回は、特殊なケミカルであり、当然、ハズマット隊が対応している。アタスコチータは人口約65,000人の町であるが、消防署にハズマット隊が編成されている。従来、日本では化学テロを想定して大都市のみにしかハズマット隊を置いていなかったが、最近は石油コンビナートのある地方都市の消防署にもハズマット隊を編成する傾向になっている。今回のような事例を見ると、日本にも広くハズマット隊を置くべきである。


後 記: 今回の事故情報で一番惑わされたのが、発災場所です。情報源の中に現場の地図を示していたメディアが2つありましたが、双方の場所が違っていました。現場の写真がありましたので、グーグルマップで探せば、すぐ分かると思っていたら、これがなかなか大変でした。写真は望遠カメラで撮っているため、遠近感がよくわからず、写真とストリートビューを見比べながら調べ、やっとたどり着きました。結局、現場の地図を示していた2つとも間違っていました。 
 ところで、落雷の事故といえば、今年820日、ベネズエラの国営石油公社PDVSAのアムアイ製油所において蒸留装置に雷が落ち、火災となる事故がありました。ベネズエラPDVSAでは、 当ブログで紹介したように、今年2013811日、プエルト・ラ・クルス製油所において「ベネズエラの製油所でタンク地区に落雷して火災発生」の事故が起こったばかりです。また、アムアイ製油所では、1年前の2012825日に「ベネズエラの製油所で爆発してタンク火災、死者41名」の事故がありました。天罰ではないでしょうが、 PDVSAで働いている人たちはいやになるでしょうね。