2013年10月25日金曜日

アルジェリア人質事件 スタトイル社の調査報告

 今回は、2013年1月16日に起きたアルジェリア人質事件について、2013年9月12日、天然ガスプラントの操業会社のひとつであるノルウェーのスタトイル社が事件を包括的に調査した報告書「イナメナス・アタック」を公表しましたが、この中から、報告書で示された19の推奨事項とともに、前回、警備状況の項目として挙げた「侵入防止設備」、「警備状況」、「テロに関する事前の情報」および「警備体制」について言及された箇所を紹介します。前回のブログは「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」(2月)を参照。
        イナメナスの天然ガスプラント 写真はStatoilの「The In Amenas Attack」の表紙から引用
 <はじめに> 
■  2013年1月16日、アルジェリアの天然ガスプラントにおいてイスラム過激組織による人質拘束事件が起きた。当ブログではテロ対応の観点から警備状況の情報を整理し、「アルジェリア人質事件・天然ガスプラントの警備状況」としてまとめた。その後、2013年9月12日、天然ガスプラントの操業会社のひとつであるノルウェーのスタトイル社が事件を包括的に調査した報告書「イナメナス・アタック」を公表した。
護送中に軍の攻撃を受けた6台の車両の位置  
■ スタトイル社は、報告書の主な内容について、同社ウェブサイトでつぎのように述べている。
 ● 2013年1月16日のイナメナスにおけるテロ攻撃に対して、現地の人々を守るだけの外部セキュリティと内部セキュリティの総合的な警備力が欠けていた。アルジェリア軍は、現地に侵入して行われたテロ攻撃に対して、事前に検知することや防止することができなかった。現地における警備方法は、今回のような規模のテロ攻撃に耐え得るものでなかったし、攻撃時間を長引かすことのできるものを構築できていなかった。余りにも軍の警備行動を当てにし過ぎていた。
 ● スタトイル社と共同企業体はテロ攻撃を防止できなかったが、これはアルジェリア軍の警備を信頼し過ぎていたためである。スタトイル社や共同企業体は、施設に対して規模の大きな武力攻撃がありうるという想定を考えていなかった。
 ● スタトイル社と共同企業体の事故対応本部は、ソナトラック社と関係機関の地上部隊の支援を前提にし、民間レベルの緊急事態対応しか考えていなかった。スタトイル社の提言する総合的な緊急対応方法は有用で、専門的である。スタトイル社による別な対応が結果に違いの出る地域について調査チームとしては明らかにできなかった。
 ● スタトイル社はセキュリティのリスク・マネジメントを確立している。しかし、世の中の不安定で複雑な状況に伴うセキュリティのリスクに対応できるように、会社全体の能力と文化を強化しなければならない。
 ● 報告書には、イナメナスの施設およびアルジェリアの他の施設を前提として、組織と機能、セキュリティのリスク・マネジメント・システム、緊急事態への準備と対応、連携と連絡網に関して19の推奨事項をまとめた。

■ ロイター通信は、 9月13日、本報告書についてつぎのように報じている。
 「アルジェリアの天然ガス関連施設で今年1月に日本人10人を含む外国人37人が死亡した人質事件で、5人の従業員が犠牲になったノルウェーのスタトイル社が12日、複数の兆候があったにもかかわらず事件を未然に防ぐ準備ができなかったなどとする調査報告書をまとめた。
 78ページにわたる報告書では、施設の警備が不適切だったと結論付けたほか、2012年半ばから襲撃の数日前まで従業員によるストライキが行われていたことや、一部のスト参加者が外国人従業員を脅していたことも明らかにされた。また、施設の警備体制は、内部を企業側が、外部を軍が担当していたが、両者の協力や信頼関係が十分でなかったほか、企業側が警備面で軍に頼りすぎていたとも指摘した」

■ CNN放送は、9月13日、本報告書についてつぎのように報じている。
 「アルジェリアで今年1月に日本人を含む30人以上が死亡した天然ガスプラント襲撃事件で、ノルウェーのスタトイル社は調査報告書を発表し、警備上の不備と警備を任されていた軍に襲撃への備えがなかった点が事件を招いた2大要因だったと指摘した。
 事件ではスタトイルの従業員も人質となり、うち5人が死亡。報告書によれば、ガスプラントに関わっていた企業はいずれも、これほど大規模な集団による襲撃を予想していなかったという。また報告書によれば、企業側は警備をアルジェリア軍に過度に依存していた。だが、軍は襲撃犯が接近しているのに気づくことも、それを阻止することもできなかった。
 報告書は、テロ攻撃は予想外の事件だったとしつつ、これは今日、スタトイル社のような企業が深刻な安全上の脅威に直面していることをはっきり示していると指摘。また、襲撃に対して異なる対応を取ったとしても同じような被害が出ただろうとする一方で、施設が今回のような大規模な襲撃に対応できるように設計されていなかった点を教訓として挙げている」

■ 朝日新聞は、  9月13日、本報告書についてつぎのように報じている。
 「アルジェリアの天然ガス関連施設で今年1月に起きた人質事件で、日本人10人とともに従業員が犠牲になったノルウェーのスタトイル社は12日、調査報告書をまとめた。
 報告書では、予期せぬことで攻撃は防げなかったとする一方で、アルジェリア軍に警備を依存しすぎたため、襲撃の可能性に対する想像力が欠如していたと結論づけた。
 報告書は全88頁。施設が密入国の容易な国境地帯に近いことから、“どんな軍隊でも、強い決意をもったテロリストから完全な保護を保障できない“と指摘。”攻撃は全く想像できないとすべきではなかった”とし、政情不安な地域での安全対策を強化するよう勧告した」

■ ここでは、報告書で示された19の推奨事項とともに、前回、警備状況の項目として挙げた「侵入防止設備」、「警備状況」、「テロに関する事前の情報」および「警備体制」について言及された箇所を紹介する。

 <イナメナスにおけるセキュリティ状況> 
■ 警備体制
 警備体制については、外部セキュリティと内部セキュリティに分けている。
 ● 外部セキュリティは、アルジェリア政府の責任範囲で、国の法律によって管理されている。イナメナスにおける外部セキュリティは、「人民国軍」(People’s National Army)と「国家憲兵隊」(Gendamerie)の2つの組織によっており、それぞれの役割を担っている。
 注;報告書では、この2つの組織を総称して「軍隊」(Military)としている。
 ● 人民国軍は、イナメナス周辺の広い範囲のセキュリティについて責任を担っている。無許可の移動を制限するため、アルジェリア政府は石油・ガス施設まわりに「ミリタリー・ゾーン」を設定している。
 ● 国家憲兵隊は、施設直近の「砂漠ゾーン」のセキュリティについて責任を担っている。また、国家憲兵隊は、施設へのアクセス道路に検問所を設けて人の乗った車両をチェックするとともに、人の移動や搬送式掘削リグのセキュリティを所掌している。
 ● イナメナスにおける内部セキュリティは、イナメナス共同企業体が責任を担っていた。そこでは、一種の自主独立体としてオーナーの監視のもとに運営されていた。内部セキュリティには、物理的な防護柵、セキュリティ計画と実施、非武装の民間警備員、アクセス制御、事故対応計画、セキュリティの脅威に対する共同企業体の人たちと資産を守るための訓練およびその他の方法を含む。
 ● イナメナスにおける内部セキュリティの方法に関するマネジメントは、ソナトラック社の内部セキュリティ部(Sonatrach Internal Security Department: “SSI”)と共同企業体の駐在事務所“リエゾン” (Liaison)との間で共同運営されていた。リエゾンの業務は外部セキュリティ請負会社によって遂行されていた。
 ● サラーの共同企業体では、内部セキュリティの要件として民間武装警備が考慮されたが、イナメナスでは考慮されなかった。受入れ国政府が十分な防御を提供できないこともあるということであれば、施設や操業のためのセキュリティとして民間武装警備を追加していたかもしれない。しかし、このような警備を採用するということはリスクをも伴うということであり、適切な評価を行う必要があるし、プロ意識をもった訓練の行き届いていることを確認しなければならない。
  ● イナメナスにおけるセキュリティ組織は煩雑な上に、内部セキュリティに関してリエゾンからSSI、あるいはソナトラック社内への情報伝達はうまく機能しておらず、対応能力が不安視されていた。実際、現場では2つのセキュリティ組織が存在する形となり、お互いの尊重や信用が希薄で、協力する意思も薄かった。
イナメナスにおける多層セキュリティ・システム図 
イナメナス サイトビュー 
イナメナス 生産地区 
イナメナス 居住区 
イナメナス共同企業体の組織体系図 
■ 侵入防止設備
 ● 2009年、アルジェリアでは自動車爆弾の脅威が大きくなっていたため、イナメナス共同企業体では内部セキュリティをいくつか増強させるという決定を行なった。その一つは、プラント周囲の侵入防止柵の外側に設置したコンクリート・ブロックである。リエゾンは、武装攻撃、装甲車による門や柵への突入、自動車爆弾などの脅威に対する防御の増強方法をリコメンドした。イナメナス共同企業体は内部セキュリティとしてできうる対策、すなわち外柵、入出門、照明、車侵入防止、CCTV(防犯カメラ)、アクセス・コントロール、民間非武装警備をとった。これらは、武装攻撃に対して止めるものでなく、軍隊が出動して武装攻撃者を捕縛するまでの時間をかせぐためのものであった。
 ● これらは自動車爆弾に対する弱点を減少させ、防御策を改善させた。しかし、この改善はテロ攻撃時にそれなりに役立ったが、それだけに過ぎなかった。当時計画された物理的セキュリティの増強策は、今回のテロ攻撃を止めることに機能しなかった。
 ● イナメナスにおける物理的セキュリティは、武装攻撃に耐えうるものでなく、攻撃を遅らせることのできるものではなかった。攻撃を止めるには、物理的な防護策では不十分である。出動する軍隊の対応能力にもとづいて想定する防御力の程度によって、内部セキュリティは検討すべきである。
 ● さらに、今回は居住区と生産地区の同時攻撃を受けたので、3.5km離れた2つの地区の間に設置されていた国家憲兵隊の一つの駐留地では対応に限界があった。駐留地と居住区や生産地区が離れていたため、迅速な対応ができなかった。

■ 警備状況
 ● 軍隊の抑止力および防御力への依存性: イナメナスにおけるセキュリティは、外部セキュリティをアルジェリア軍が担い、内部セキュリティを共同企業体が担う多層体制をとっていた。アルジェリアの国内法に基づき、イナメナスのような戦略的な国内の重要施設の外部セキュリティは、軍隊が責任をもって遂行する権限が与えられている。テロ攻撃に対する防御を行うためには、外部セキュリティと内部セキュリティの多層体制で行わなければならない。
 実際、内部セキュリティにおける基本的な考え方は、施設を武装攻撃から守るための抑止力と防御力は軍隊に委ねられているという前提に立っていた。スタトイル社と共同企業体は、人民国軍のもっているテロの脅威に対する抑止力や防御力を信頼していたし、イナメナス周辺は守られていると考えていた。今回の特別なテロ攻撃では、国境が突破され、ミリタリー・ゾーンが突破され、国家憲兵隊が守るべき内部防護ゾーンが突破された。このように軍隊への信頼を高い状況に置いていた場合、1月16日のようなテロ攻撃に対抗できるのはアルジェリアの武装力をおいて他になかった。
 このように共同企業体は軍隊へ過度に信頼を置いてしまっていた。しかし、共同企業体の立場としては、仮に外部セキュリティが機能しなかった場合の想定について考えておくべきだった。前例のない不測の事態ではあったが、イナメナスのテロ攻撃はまったく想像も及ばない出来事ではなかった。世界的に見ると、重装備を行なった強固なテロリストは、要塞化した軍の施設でさえ撃破しうる能力をもっていることを示威している。入国手続きの緩やかなルクセンブルグのような国であっても、軍事力が無ければ、強固なテロリストに対して完全に防御することはできない。
 ● 軍隊との関係: 共同企業体は、外部セキュリティについて多層体制をとる軍隊の能力に関して不完全な情報しか得ていなかった。イナメナスにベースをおく国家憲兵隊との関係は確立しており、セキュリティ・リスク・マネジメント計画は一体化して策定していた。しかし、人民国軍との情報のやりとりは一部に限られていた。従って、想定計画にもとづいてテストを行う位置づけではなかった。さらに、アルジェリア当局と企業体がハイレベルの戦略的セキュリティに関する話し合いを行うことはなかった。 
 ● 共同企業体内では非常事態対応基準を制定し、自然災害、市民不安、限定的なテロ攻撃を含めたセキュリティおよび安全に関する事故の状況に応じた対応基準を定めていた。基準は操業の継続性を前提にしたもので、リスク・マネジメントを適切に行うためのガイドラインを定めたものである。基準には、警戒レベルに応じて“低”、“中位”、“高”、“最大”に分け、セキュリティ・リスクの判断を行うための考え方と警戒レベルに合った防御方法についてまとめられている。基準には、目で見る警戒標示や各人がとるべき行動が示されている。
 イナメナスでは、警戒レベルは週ごとに見直されていた。操業委員会において専門家のもとで、経営サポート・マネージャーによるリコメンドを基本にして警戒レベルを変更することになっていた。しかし、実際は、操業委員会にはかることなく、警戒レベルは設定されていた。この方法が最善だと判断されていたが、マネジメント・ツールとして体系的に情勢判断するシステムを使わず、一般的に知られていた別の警戒レベルでもなかった。このことは、本来、セキュリティ・リスク・マネジメントに従って進めるという基本の遵守を弱めてしまった。

■ テロに関する事前情報
 ● スタトイル社またはイナメナス共同企業体の中で、テロ攻撃が近々起こる恐れがあるという情報や具体的なテロ脅威の情報は存在していなかった。  実際、会社として確信をもって起こることを予期することは難しい。従って、突然のテロ攻撃が起こるということや外部セキュリティが次々と破られてくるという厳しい想定を考えることが肝要である。
 ● 想定欠如の背景: アルジェリアにおける歴史的背景を知れば、共同企業体が軍隊に信頼を寄せたことは理解できる。イナメナス・プロジェクトではセキュリティに関する事故は起こっていない。1990年代における混乱時期においても、石油・ガスの作業員やパイプラインに対して攻撃を受けたことがあるが、アルジェリア南部における石油・ガス施設はアルジェリア政府が守り通している。このようにアルジェリア国内の重要施設として位置づけられた場合、アルジェリア軍は優先度を高くして守ってきた。

 <セキュリティに関する推奨事項> 
■ イナメナスにおけるセキュリティ
(1) 潜在的なテロ攻撃の可能性に対して電子装置を活用した物理的な防護方法を強化することによって共同企業体としての能力を改善すること。セキュリティ・リスク・マネジメントの能力を強化するとともに、セキュリティの訓練と演習に関して整然としたプログラムを構築すること。セキュリティの理由から、セキュリティの強化方法の詳細をここで述べることはできない。

(2) 共同企業体内のセキュリティの長を任命することによって共同企業体全体のセキュリティ機能を強化し、そして特別なセキュリティ共同体を確立すること。これによって、脅威を制する強靭なシステムをつくることができる。

(3) 共同企業体と軍隊の組織間における調整、計画、演習について連携のとれた効果的な方法の確立に努めること。これによって、セキュリティ管理と危機管理に関するお互いの立場や計画立案について理解を深めることができる。

セキュリティの組織および機能
(4) 会社組織のセキュリティ能力に関して明確に定義づけた大きな目標を掲げること。安全分野と同様、セキュリティ分野における能力についてスタトイル社は高い目標を持つべきである。レベル向上にはリーダーシップの自覚と徹底心が重要である。

(5) セキュリティのリーダーシップを強化すること。セキュリティの長は組織的な位置づけを明確にし、最高経営責任者とは直接、常に連絡をとれるようにし、会社組織のセキュリティ指針を定め、推進させる権限を与えるべきである。

(6) セキュリティ組織を総合的に強化すること。セキュリティ組織の権限、位置づけ、重要性をはっきりさせ、会社レベルとともにビジネス社会における能力や適応力を増強すべきである。セキュリティの必要事項と能力を明確に定義した統制の位置づけを行い、特別なセキュリティのプロフェッショナルを養成していくべきである。会社は、すべてのリスク想定の検討結果に照らし合わせて、セキュリティ能力を定期的に見直していくべきである。

(7) セキュリティの総合的な方法を確立すること。組織内だけでなく、いろいろな専門分野から新たに創られたネットワークを活用して、身体認証装置、サイバー攻撃に対するセキュリティ、個人セキュリティの統合化を行う。統合されていない間、セキュリティの方法論と実行性に矛盾がないようにし、お互いが補完し合い、統制がとれていなければならない。

(8) すべての従業員とマネージャーに対してセキュリティ訓練を行うこと。すべての従業員に対しては基本的なセキュリティ訓練を行い、マネージャーおよび海外担当者、特にセキュリティ・リスクの高い国で従事する人には、目的とするセキュリティ訓練を行う。訓練は一過性の行事にしてはならない。訓練は適切な周期で実施していかなければならない。

(9) 従業員にはセキュリティ・リスクの可能性についてオープンにし、はっきりと伝えること。この情報の中には、防護レベルとリスクの不安材料を含め、その国と国民の間に潜在する予想リスクを明確にする。

■ セキュリティ・リスク・マネジメント・システム
(10) セキュリティ・リスク・マネジメント・システムは機能的で、目的に合致したもので、行動しやすいものを整備すること。整備されたセキュリティ・リスク・マネジメント・システムは、会社のコア・ビジネスの一部として扱われ、プロジェクト計画の中に組み込まれ、そしてスタトイル社の投資プロジェクトの決定プロセスの中に組み入れられるべきである。セキュリティ・リスク・マネジメントの方法は、標準化・オープン化・明文化を行い、専門家とマネージャーにとってリスク・脅威・想定について認識共有化でき、評価の判断ができるようなものにする。そして、効率的で行動に結びつくように検討できるものとし、結果として想定されるリスクに対して本気で取り組めるものにすべきである。

(11) セキュリティ・リスク・マネジメント計画は体系的に策定し、維持していくこと。計画はセキュリティ・リスク分析に基づいて策定すべきであり、その中にはセキュリティに関する想定を明確にしておく。

(12) 受入れ国との友好的な関係を構築すること。そして、相互の理解を深め、共同の計画策定や訓練について支援を受けることができるようにする。この目的は受入れ国との戦略的パートナーシップを構築し、企業の防護方法について受入れ国の能力を全面的に活用し、一体的で有効な体制を作り上げることである。リスクの評価および対策の検討においては、受入れ国の政策と能力を考慮しなければならない。スタトイル社は受入れ国の政府に対して、その国における重要なインフラの中で防護や支援を受けたいこと、および緊急対応事態時におけるその国の取るべき姿勢や人員・機材の動員について期待することを明確にしなければならない。

■ 緊急時の備えと対応
(13) 緊急時対応の計画策定について調整を行い、緊急時対応計画の標準化を行うこと。組織的な訓練と評価方法については共通的な標準化を行い、緊急時対応計画の中には、すべてのビジネス・エリアにおけるモニタリング方法や保険について明示する。学ぶべき点や現時点での最善策は、グループの枠を越えて組織的にわかるようにしておく。そして、大規模で長期間の緊急事態に備えて、会社として広範囲の人員配置ができる体制を組むべきである。この標準化はICS(シンシデント・コマンド・システム;現場指揮システムまたは危機対応システム)の基本と合致させ、他の会社・政府・関係機関との作業を容易にしておくべきである。スタトイル社の最新版はこの点において問題ない。

(14) セキュリティ関連の演習を行う実施頻度を増やすこと。スタトイル社は、国際的なレベルで提携している企業や政府に対してもっと働きかけるべきである。

(15) 国内の組織体制の中で確証してきた最善の方策を組み込むこと。この方策はスタトイル社の計画・訓練と一体化させ、ノルウェー国内と同様、すべての国際的な経営に適用できるようにすべきである。ただし、海外の文化基準に適合させる必要性については認められる。

(16) すでにある共同企業体の緊急時対応計画を見直し、保証できるものとすること。この中には、ノルウェー国外のすべての地域における関係書類と本国における対応計画を含む。緊急時対応についてお互いに養成することを目的にして参画した工業界や政府内におけるパートナーの計画、人員・資機材、能力については体系的に見直す。そして、緊急事態時における相互の支援や貢献に 関する見込み度を明確にする。

■ 協力関係およびネットワーク
(17) 関係のある政府機関や政府組織とは広く、且つ深く提携しておくこと。セキュリティや懸念事項に関する情報をもっている工業界や政府機関との提携関係を改善するよう、関係機関とは潜在する問題点についてハイレベルで戦略的な話し合いを行う。

(18) ネットワークや各協会との関係を強化すること。スタトイル社は、セキュリティの考え方を明確にもっている団体(例えば、海外セキュリティ諮問協議会: Oversea Security Advisory Council、国際セキュリティ・マネジメント協会: International Security Management Association)との密接な関係を考慮すべきである。

(19) 共同企業体や協力組織とのセキュリティに関するマネジメントや契約について標準化を確立させること。会社がモニタリングや追跡調査を通じて適切な識見を得たり、影響度について見通すことができるよう、契約面や実行面から慎重に検討する。この中には、共同企業体や協力組織内のセキュリティの役割や緊急対応時の役割について明確にしておくことを含む。

補 足
■ 「ICS(シンシデント・コマンド・システム」(現場指揮システムまたは危機対応システム)は、米国で開発された災害現場・事件現場などにおける標準化されたマネジメント・システムである。命令系統や管理手法が標準化されている点が特徴である。1970年代、米国では多くの山火事が発生し、一度に多くの人が一人の監督者に報告するので処理しきれない、関係機関の異なった組織構造により組織的な対応が困難、信頼のおける情報が流れてこない、通信装置や通信手順が統一化されていない、指揮命令系統が不明確、関係機関が使用する用語が統一化されていないなどの多くの問題があり、消防機関で開発されたシステムである。その後、他の行政機関などでの利用が拡大し、2004年に制定された米国インシデント・マネジメント・システムでは、米国で発生するあらゆる緊急災害・緊急事態にICSを適用することが定められている。日常の事件・事故からテロ事件・ハリケーン災害などの危機管理まであらゆる緊急事態対応で使用されているほか、自主防災組織・地域防災、原子力防災、さらにコンサート、パレード、オリンピックのような非常時以外のイベントなどでも活用されている。ICSの概要についてはウィキペディアの「インシデント・コマンド・システム」を参照。

所 感
■ 前回の所感では、「ガスプラントの警備情報をまとめてみて感じたのは、標準的な警備状態ではあったが、テロや外国人誘拐事件が起こっている国情の警備としてはやはり甘かったという印象である。おそらく、自爆テロや不法侵入のテロレベルを想定し、今回のような重武装の集団による正面攻撃によるテロを想定していなかったものと思われる」と書いたが、今回の報告書では、2009年に「自動車爆弾」のテロレベルを想定した警備設備の改善にとどまったとあり、予想が裏付けられた。警備設備としては、コンクリート・ブロック、外柵、入出門、照明、車侵入防止、CCTV(防犯カメラ)、アクセス・コントロール、民間非武装警備であり、日本でも設置されているところがあるような標準的な警備状態だといえる。
■ 今回の報告書の中で注目するのは、「共同企業体は軍隊へ過度に信頼を置いてしまっていた。しかし、共同企業体の立場としては、仮に外部セキュリティが機能しなかった場合の想定について考えておくべきだった。前例のない不測の事態ではあったが、イナメナスのテロ攻撃はまったく想像も及ばない出来事ではなかった」という点である。アルジェリアのような国にいても自爆テロや不法侵入レベルしか想定しておらず、警戒レベルの運用も形骸化してしまっていた。まして安全神話のある日本では、テロは起こらないという雰囲気や予断がある。「前例のない不測の事態ではあっても、日本にイナメナスのようなテロ攻撃はまったく想像も及ばない出来事ではない」と思う。異常天候が続き、これまで想定してこなかった災害が発生し、「想定外」という言葉はないと言われ始めた。テロ攻撃も同じである。
■ このように考えると、日本のセキュリティは一企業の範囲を出ていない。これからは、警察や自衛隊による外部セキュリティを含めた対応計画や訓練が必要だと考える。この点、スタトイル社が今回まとめた「セキュリティに関する推奨事項」は海外プロジェクトだけでなく、国内のセキュリティを考える上でも有用な情報である。


後記; アルジェリア人質事件は貯蔵タンクの事故情報と直接の関係はありませんでしたが、世界的に注目を浴びた事件でしたし、貯蔵タンクのテロ攻撃に関する警備の観点から興味があり、この点に関する情報を2月にまとめて紹介しました。今回、スタトイル社が報告書を出したというので、再び、まとめることにしました。ノルウェーのスタトイル社という会社は情報公開に関して戦略的な考え方をもっており、積極的だと聞いていましたが、このように全88頁の報告書をインターネットで公開するということに感心します。公開しなかった内容があるにしても、かなり自社の恥をさらすことになる報告書です。失敗を活かすことを一企業だけでなく、広く世界に知らせようという考え方は素晴らしいと思います。日本では、特定秘密保護法案が検討されていますが、もともと情報公開の意識が薄い官庁や自治体で、萎縮してさらに情報が出てこなくならないようにあって欲しいものです。
 


2013年10月17日木曜日

米国テキサス州で油井施設のタンクが爆発・火災、1名負傷

 今回は、2013年10月8日、米国テキサス州カーンズ郡ジレットにある油井関連施設で、ガルフコースト・アクイジション社所有の塩水処理プラントの貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、作業員1名が負傷した事故を紹介します。
カーンズ郡ジレットにある油井関連施設のタンク火災 
 (写真はNews4sanantonio.com から引用)
 <事故の状況> 
■  2013年10月8日(火)の午前5時頃、米国テキサス州にある石油貯蔵施設で爆発・火災があり、1名の負傷者が出る事故があった。事故があったのは、テキサス州のサンアントニオから南西約54マイル(86km)のカーンズ郡ジレットにある油井関連施設で、ガルフコースト・アクイジション社所有の塩水処理プラントの貯蔵タンクが、夜明け前の午前5時頃、爆発し、隣接タンクへ延焼して火災となった。

■ 爆発によって1名の負傷者が出たほか、ハイウェイ80号線が数時間にわたって閉鎖された。爆発後に発生したタンク火災に伴い、ジレット消防、ケネディ消防、カーンズ・シティ消防、ニクソン/スマイリー消防の5箇所の消防署が消火活動のために出動した。いずれもボランティア型消防署だった。郡当局によると、爆発後の対応に出動した緊急対応部隊は約60名だったという。保安官のドゥエイン・ヴィラヌエバ氏によると、数時間後に火災は鎮火したが、緊急対応部隊は現場で監視を続けているという。爆発のあった場所は比較的田舎だったので、爆発によって被災した家屋はなかった。カーンズ郡当局は、煙による地域への危険性は無いと発表した。

■ 消防当局によると、負傷したのは38歳の男性の作業員で、発災時に貯蔵タンクの点検を行っていたという。被災者は顔と左半身に火傷を負っており、サンアントニオ軍医療センターに緊急空輸された。保安官によると、被災した作業員と電話で話をしたが、彼は大丈夫だと言っていたという。保安官によると、被災者はガルフコースト・アクイジション社の従業員で、ゴンザレス出身だという。

■ 消防署と副保安官が現場に着いたとき、プラントは炎に包まれ、空は真っ黒だったという。消防署長によると、発災現場に到着してみると、隣接していた他のタンクが余りにも近く、最初は火炎に対する消火活動を控えざるを得なかったという。カーンズ市消防署のチャールス・マリック署長は、「炎が油の入った鋼製タンクを舐めるほど近かったので、もしタンクがロケットのように飛び上がったら、近くにいる隊員が悲惨な状況になることはわかっていた。それで、我々は引き下がり、様子を見ることにしました」と説明した。消防隊は約2時間火災の状況を監視した後、つぎの活動に入った。ヴィラヌエバ保安官によると、9基のタンクの爆発は収まったものの、なおも燃え続けていたので、消防隊は火災を制圧しようと前進していった。午前9時30分、火災は鎮火した。
               タンク火災への消火活動 (写真はKOUE.comの動画 から引用)
■ 消防署の最後の部隊が現場を離れたのは午前11時30分だった。ヴィラヌエバ保安官によると、8日火曜の午後も、クリーンアップ作業員を除いて、爆発現場周辺は立入り制限されたままだった。 

■ 当局によると、爆発したタンクには油と塩水が入っていたという。この油と塩水は油井のフラッキング法、すなわち水圧破砕法から発生したものである。事故があったのは、ハイウェイ80号線沿いにあるカーリック油井#1の塩水処理プラントで、保管タンクから油分をすき取り、塩水を地中にポンプで戻すようになっている。

■ 爆発原因については発表されていない。テキサス州鉄道委員会とOSHA(米国労働安全衛生局)が調査に入った。カーンズ郡当局によると、8日火曜の朝早く、タンクの日常点検中に爆発が起こったことは間違いないという。当局では、作業員が点検用歩廊に上がったとき、形成していた静電気がスパークして事故が起こったのではないかと推測している。

■ 当該施設は、2年前にテキサス州鉄道委員会から認可を受けたものだという。テキサス州鉄道委員会の記録では、現場に隣接する牧場主が家畜や井戸水に対する悪影響への懸念を示していたという。一方、所有者で操業会社のガルフコースト・アクイジション社による違反行為の記録は見つからなかった。州全体をみると、この1年、鉄道委員会の査察によって、原油・天然ガス施設における違反行為が55,000件以上指摘されている。そのうち400件近くが“重大”違反で、テキサス州鉄道委員会は罰則評価を行い、全罰金額は117万ドル(115百万円)にのぼっている。

■ 10月初めの週にも、フォールス・シティにおいて破砕用水のパイプラインが爆発し、6名の男性が火傷を負うという事故があった。これらの事故発生に伴う所管部署はOSHAである。10月1日からの政府閉鎖の一部機関として、OHSAでは多くの職員が休暇処置に入っている。しかし、OHSAの対応チームは働いており、現場で作業を行っている。カーンズ郡当局者は、油井での業務は危険な仕事だと言っている。実際、油井での問題によって死亡事故が続いている。ヴィラヌエバ保安官は、「今年になって亡くなった人は9名になっています。今回も見たとおりです」と語っている。
 (写真はKENS5.comの動画から引用)
 (写真はKENS5.comの動画から引用)
補 足                                                          
■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,510万人と全米第2位である。
 「カーンズ郡」はテキサス州の中央部南に位置し、人口約15,000人で、郡庁所在地はカーンズ・シティである。 
 「ジレット」はカーンズ郡の北方に位置し、人口約200人の町である。

■ 「フラッキング法」(Fracking Process)は、原油・天然ガス田において水を高圧で注入し、油・ガスを抽出する「水圧破砕法」をいう。最近では、天然ガスやシェールガスの採掘において広く採用されている。シェール(頁岩)の中に存在するガスを、岩を破砕することによって地上に取り出す方法である。頁岩を地上に堀り出せば、岩の処分に困るが、地中で岩を砕けば、ガスを安価に採掘できる。しかし、この方法には、水に薬品が混入されており、この注入される水や薬品が地下水などの環境汚染の原因になっているのではないかという懸念がある。また、米国では、混入される薬品は企業秘密とされ、開示する必要がないことも問題視されている。米国では、数百の化学物質が使用されており、その中には、メタノール、ナフタレン、ベンゼン、鉛といった有毒性のある物質もあるといわれており、米国環境保護庁が大掛かりな調査を行っている。
 当ブログの「米国コロラド州で洪水によって被災したタンクから油流出」でも、天然ガス採掘における水圧破砕法の薬品が、油とともに環境汚染への懸念が問題視されている。

■ 「政府封鎖」(Government Shutdown)とは政府機関が閉鎖されることであり、とくに議会で予算案(あるいは暫定予算)の成立が難航することで、期限切れとなり政府機関が閉鎖されることを指す。
 2013年9月、オバマケアといわれる医療保険改革法を巡って、下院で多数を占める共和党は支出増大を招くとして反対している。一方、上院で多数の民主党は内政の最重要課題であり、妥協には応じられないとして対立して予算が成立せず、10月1日から一部政府機関が休みとなる「政府閉鎖」の状態が生じている。

■ 「ガルフコースト・アクイジション社」(Gulf Coast Acquisitions Co.)は、テキサス州レヒュージオを本拠とする石油・天然ガスの掘削・生産を行う石油会社である。会社の詳細はわからない。テキサス州カーンズ郡ジレットには事故を起こした油井関連施設がある。
テキサス州カーンズ郡ジレットにある油井関連施設
グーグルマップでは建設中の写真である
(写真グーグルマップから引用) 
所 感 
■ 今回、事故があった油井関連施設は2年前に認可されたばかりで、操業期間は長くない。当局の推測は形成していた静電気がスパークしたとみている。タンクには揮発性の高い油が存在していたと思われるので、人体に発生した静電気がスパークし、可燃性ガス(爆発混合気)に着火して爆発した可能性は考えられる。
  このような施設には、一般的に人体用の除電棒が設置されており、手で握れば除電されてスパークはしない。操業期間が2年ほどであり、慣れによって基本を守らない近道行為が生まれやすい時期だともいえる。この人間の近道行為(除電棒に触らないで済ます)は、時として何事も起こらないケースがある。そうすると、近道行為が日常化し、守るべきことが形骸化してしまう。ところが、このような基本事項の逸脱は、ある日突然、問題が顕在化し、大きな仕打ちを受ける。これは一つの類推であるが、この事故原因には何らかの基本事項の逸脱があるように感じる。

■ 事故のあったところは人口が少ない地方の場所であり、複数のボランティア型消防署による消防活動だった。人員は60名ほど集まっているが、おそらく消火資機材は十分なものではなかったと思われる。小型タンクではあるが、隣接タンクへ延焼しており、無理な消火活動を避け、燃え尽きさせる戦略は適切だったと思う。消火後のタンク写真を見ると、タンクによって損壊程度が違う。屋根が無くなっているが、液面が見えるタンクもある。タンク内の液は水と油であり、油の多かったタンクは損壊がひどく、水の多かったタンクは上部の油が燃え尽きたものであろう。発災から約4時間半で鎮火しており、存在していた油量はそれほど大量ではなかったと思われる。

 備 考
  本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・News4sanantonio.com,  Worker Injured in Explosion at Oil Storage Facility,  October  08, 2013
      ・KVUE.com, 1 Hurt in Fiery South Texas Well Site Explosion,  October  08, 2013 
      ・MySanantonio.com, Karnes County Blast Injures 1,  October  08, 2013
      ・Texas.icito.com,  1 Injured in Tank Farm Explosion in Karnes County,  October  08, 2013
      ・KENS5.com,  Officials: Oilfield Accidents a Growing Problem for Karnes County,  October  08, 2013
      ・HoustonChronicle.com,  Explosion Injures Worker at Saltwater Disposal Plant,  October  09, 2013 



後 記: 現在、米国の上院と下院、共和党と民主党(オバマ政権)の議論(争い)が注目され、政府閉鎖の問題について、毎日、テレビや新聞で報道されています。今回の事故情報の中に、まさか政府閉鎖が関係してくるとは思いませんでした。今回の事故調査作業について直接の影響はなさそうですが、米国の信用低下というか国力低下を感じるニュースではあります。また、日本では石油・天然ガス資源が乏しく、採掘のフラッキング法が話題になりませんが、米国や英国では環境汚染について問題視されつつあります。今回の事故も水圧破砕法という新しい技術に派生したものだといえます。ひとつの事故情報から新たに見えてくるものがあるものですね。

2013年10月10日木曜日

米国アリゾナ州の建設資材プラントで石油タンク火災

 今回は、2013年9月23日、米国アリゾナ州マラーナにあるヴァルカン・マテリアル社の建設資材プラントで石油貯蔵タンクが火災となった事故を紹介します。
マラーナにあるバルカン・マテリアル社の建設資材プラントで石油タンク火災
 (写真はAztarnet.comから引用) 
 <事故の状況> 
■  2013年9月23日(月)午後2時過ぎ、米国アリゾナ州の建設資材プラントで石油タンクが火災となる事故があった。事故があったのは、アリゾナ州マラーナのウェスト・アブラ・バレー通り沿いにあるヴァルカン・マテリアル社の建設資材プラントで、 2基の石油貯蔵タンクが火災になった。

■ ヴァルカン・マテリアル社の従業員から午後2時22分に同所の石油貯蔵タンクで火災発生という通報を受け、ノースウェスト消防署は、ピクチャ・ロック消防署からの消防車1台とともに、火災現場に急行した。その後、ハズマット隊も出動した。

■ ヴァルカン・マテリアル社は事故後の24日(火)に出した声明の中で、「私どもはノースウェスト消防署の迅速な対応に感謝しております。私どもは、関係機関の方々と事故に関する情報を共有化し、事故原因の究明を行って参ります。私どもの骨材事業(砕石・砂)は事故の影響を受けておらず、通常通りの操業を継続できます。アスファルト事業は、火災の原因を究明してアスファルト・プラントの改修が完了するまで、一時的に操業率が落ちることになります。ヴァルカン社は、地域社会、環境、従業員の健康と安全を守ることに努めております」と述べている。

■ 最初の消防車が到着したとき、容量3,500ガロン(13KL)の貯蔵タンク2基から大きな火炎と大量の煙が立ち昇っていた。2基のタンクには、アスファルト品の製造に使用されるポリマーを含んだ液体石油製品が入っていた。また、火災から125フィート(38m)しか離れていない所に、アスファルト品の温度保持用バーナーに使用されるプロパン・タンクがあった。隣接していたプロパン・タンクの容量は1,000ガロン(3.8KL)で2基あった。

■ 駆けつけた第一陣の消防隊は、火炎を制圧しようと努めたほか、プロパン・タンクへの延焼防止の消防活動を行なった。最初に出動した消防車は、クラスB消火用泡剤15ガロン(57リットル)を火災の中心に向けて放射した。可燃性液体の火災では、水だけで消火するのは難しい。消火用泡剤は、燃焼し続けるのを抑えるようベーパーの発生を抑制し、可燃性液を冷却する機能を担う。その後に現場へ到着した消防車がクラスB消火用泡剤55ガロン(208リットル)を積んできた。水と混合すると、約1,000ガロン(3,780リットル)の泡となる。この泡消火活動によって火炎の減衰と熱油の冷却に効果が出始めた。

■ 消防車4台、はしご車1台、給水車3台を含む数台の支援車両で出動してきた総員29名の消防隊によって26分後に火災制圧に成功した。しかし、消防隊にとって消防活動の条件は必ずしも良くなかった。特に水が十分でなく、その対応として近くの井戸から強引に給水したのは一つの挑戦であった。
 火災が起こったとき、プラントには少なくとも4名の作業員がいた。プラントのオペレータや消防士にケガ人は出なかった。

■ 9月24日(火)、油火災が収まった翌日、プラントの操業が再開された。発災現場には調査官が立入り、火災の原因を調査中で、24日も調査官は現場で調査を行っている。
(写真はKgnu9.comから引用)
           アスファルト・プラントの火災現場 (手前は応援で出動したピクチャ・ロック消防署の車両)
 (写真はAztarnet.comから引用)
(写真はmaranaweeklynews.com から引用)
(写真はmaranaweeklynews.com から引用) 
                                              
補 足
■ 「アリゾナ州」は米国南西部にあり、人口は約655万人で、州都はフェニックスである。アリゾナ州はグランドキャニオンで有名である。
 2013年6月、アリゾナ州では記録的な猛暑が続く中、州都フェニックスから北に135km離れたヤーネルヒルで落雷とみられる山火事が発生し、広大な面積を焼失したほか、消火活動に参加した “ホットショット”と呼ばれるエリート消防士19人が死亡するという事故があった。この事故は当ブログ「米国アリゾナ州の山火事で消防士19名死亡」で紹介した。

 「マラーナ」は、アリゾナ州の南部に位置し、ピマ郡にある町で、人口は約35,000人である。

■ 「ヴァルカン・マテリアル社」(Vulcan Material Co.)は、1909年に設立され、建設資材の生産・供給を中心に事業を行っている会社である。本社はアラバマ州バーミングハムにあり、砕石、砂、砂利、アスファルト、レディミクスト・コンクリートの建設資材の生産は米国最大の会社である。骨材生産プラントは300箇所以上、アスファルト・コンクリート生産プラントは約200箇所保有しており、マラーナには骨材生産プラントとアスファルト生産プラントがある。 
ヴァルカン・マテリアル社のマラーナ事業所(左がアスファルト・プラント、右が骨材プラント)
 (写真はグーグルマップから引用) 
ヴァルカン・マテリアル社のマラーナ事業所
 (写真はグーグルマップ・ストリ-トビューから引用) 
■ 「クラスB消火用泡剤」(Class B Firefighting Foam)は、火災クラスB、すなわち可燃性液体の火災に適した消火用泡剤をいう。米国では、燃焼物によって火災クラスをA~Kの6種に分けている。クラスAは普通の可燃物、クラスBが可燃性液体、クラスCが電気設備、クラスDが燃焼性金属、クラスEが放射性物質、クラスKが食用油脂である。
 なお、日本では、消火器の基準(消火器の技術上の規格を定める省令)から、A火災:普通火災、B火災:油火災、C火災:電気火災の3種に分けている。また、消火用泡剤については「泡消火薬剤の技術上の規格を定める省令」が制定されており、大容量泡放射砲システムの導入を契機に、たん白泡、合成界面活性剤泡、水成膜泡の3型式の泡薬剤基準が決められたが、世界の消火用泡剤の進歩に合わせ、同等の性能を有するものを排除しない内容になっている。

所 感
■ 今回の発災タンクは、円筒タンクではなく、枕型タンクである。火災写真を見ると、地上部からも火炎が上がっており、漏洩を伴った地上火災と思われる。
 建設資材用の骨材(砕石・砂)の 生産プラントに適した場所に舗装用アスファルト・プラントを建設したためか、水利条件が悪かったようだ。火災写真の中に応援で出動したピクチャ・ロック消防署の車両は給水車と見られ、発災場所が建設資材の生産プラントで消火用水が不足するという判断のもとに給水車の応援を要請したものと思われる。それでも、消防活動に必要な絶対量の水が不足するため、井戸から強引に給水したことを挑戦(チャレンジ)と表現しているので、厳しい状況の中での決断があったものと思われる。
実際の消火活動では、理想的な条件が揃っているわけでなく、的確な状況判断と決断力が必要なことを示す事例である。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Kgnu.com,  Northwest Fire Fights Fire at Oil Storage Facility,  September 23,  2013
      ・MaranaWeeklyNews.com,  Northwest Fire Responds to Fire in Oil Storage Tank ,  September 24,  2013
      ・Marana-avravalley.tucsonnewsnow.com,  Materials Plant Reopens after Oil Tank Fire ,  September 24,  2013
      ・Azstarnet.com,  2 Oil Storage Tanks Caught Fire at Marana Plant,  September 24,  2013





後 記: 台風24号は、山口県では前日に小学校・幼稚園の休校を決めるほど心配されたのですが、駆け足で通り過ぎ、登校時間には晴れ間も見える天気になりました。一部りんご園(山口県にもあります)のりんごが落ちてしまう被害はありましたが、河川の氾濫もなく、なによりでした。
周南市徳山動物園に来たゾウのナマリーとミランダ
 (写真は周南市徳山動物園のウェブサイトから引用) 
 地元周南市の町の良い話題としては、徳山動物園にゾウさんが2頭来たことです。昨年2月にゾウのマリが死んだ後、童謡「ぞうさん」の作詞家まどみちおさんが周南市出身ということもあり、ゾウ・プロジェクトが結成されるほどゾウへの思い入れが大きかったのですが、このほどスリランカから贈られ、9月28日から公開されています。早速、小学校では、遠足でゾウさんを見に行っています。なぜかこどもはアンパンマンとゾウさんが好きですね。

2013年10月4日金曜日

東京電力福島原発 汚染水処理施設のタンク不具合について

 今回は、東京電力が福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンク漏れの原因について7月25日に公式発表された以降の情報について紹介します。今回はバッチ処理タンクだけでなく、ALPS全体の状況について紹介することになります。
 バッチ処理タンクについてはすでに当ブログで3回紹介しています。漏れ状況と原因追求に関する事項は「東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンクから漏れ」(2013年6月)および東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2013年7月)、東京電力福島原子力発電所の汚染水処理施設のタンク漏れの原因(2)(2013年7月)を参照してください。
     2013928日に起こったバッチ処理タンクからの排出不調事例の原因
(写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 
 <バッチ処理タンクの漏れ原因報告> 2013年7月29日 
■  2013年7月29日(月)、東京電力は、原子力規制委員会に対して福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンクからの漏れ原因についてつぎのような見解を報告した。
 ● バッチ処理タンク2Aからの漏洩の原因はすき間腐食と判断する。腐食を発生させた要因は海水由来の塩化物イオンが存在していることに加え、次亜塩素酸や塩化第二鉄の注入によって腐食が加速される液性であったこと、付着したスケール等がすき間環境を形成していたこと等から推定した。再発防止対策として、欠陥部の補修完了後、ゴムライニング(クロロプレンゴム)を施工する。
 ● すき間環境等に起因する典型的なステンレス鋼の局部腐食による欠陥は、既存のセシウム吸着装置「サリー」において2012年2月に発生した事例があることを報告している。

■ 多核種除去設備A系の配管フランジ部の腐食状況の調査結果をつぎのように報告した。
 ● 下図の赤丸箇所のフランジシート面に腐食を確認した。(下図青丸箇所に腐食は確認されず)
 ● 腐食の確認されたフランジは差し込み溶接(スリップオン)型フランジに限られ,一体型フランジには確認されなかった。スリップオン型フランジは内部にすみ肉溶接箇所があり,配管形状が不連続で、流れが滞留し、シート面にすき間腐食を発生しやすい環境であったと推定している。
 ● スリップオン型フランジの腐食は、バッチ処理タンク周りおよびデカントタンク周りに限られ、共沈タンク以降の下流では確認されなかった。 バッチ処理タンクで酸性となった処理水が中和されていること、
次亜塩素酸が徐々に分解され残留塩素濃度が下がったこと,共沈タンクでアルカリ液性となること等が要因として推定している。
 ● 短期的な再発防止対策としては、犠牲電極によるフランジ面の腐食防止を行う。(腐食が確認されている範囲についてフランジとガスケットの間にガスケット型Zn 板(犠牲陽極)を挟む)

■ 多核種除去設備A系のホット試験期間は79日間だった。(バッチ処理タンク漏洩のため停止) なお、B系は47日間、C系は0日間である。B系の運転続行はリスクがあり、8月初めに停止する。
20122月セシウム吸着装置「サリー」で起こった腐食事例
 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
ALPSのその他機器の腐食状況調査結果(729日時点)
 (図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 
フランジ面の腐食状況および再発防止対策
 (写真・図は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

     すき間腐食の推定要因根拠
 (写真は原子力規制委員会へ提出した東京電力の資料から引用) 

 <バッチ処理タンク以外の吸着塔にも腐食> 201387日 
■  2013年8月7日(水)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のバッチ処理タンク以外の吸着塔にも腐食が確認されたことを発表した。
 ● A系統の吸着塔6Aの吸着材交換を計画し、吸着材の抜取り作業を実施後、内部点検を行ったところ、点検口のフランジ面のすき間腐食と吸着塔内面に腐食に起因すると推定される変色を確認した。
                   吸着塔6Aの内部状況  (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <他の吸着塔などにも腐食> 2013813日 
■  2013年8月13日(火)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の吸着塔を調査した結果を発表した。
 ● A系統の吸着塔6A以外で、前回の水平展開調査で腐食が確認されなかった箇所の近傍等を中心に追加調査を実施した結果、循環タンク戻り配管ノズル、吸着塔8A、吸着塔9A、点検口ノズルにおいて、フランジ面のすき間腐食を確認した。
 ● 停止したB系統吸着塔6Bについても吸着材抜き取り後、点検を実施した結果、6Aと同様、フランジ面のすき間腐食と吸着塔内面の腐食に起因すると推定される変色を確認した。
             A系統の追加調査における腐食状況 (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

         B系統の追加調査における腐食状況 (写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <他の吸着塔などの腐食範囲広がる> 2013年8月22日 
■  2013年8月22日(木)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)の吸着塔の追加調査した結果を発表した。
 ● 追加調査結果は下表のとおりである。
 ● 吸着塔6Aの上流において、腐食性の強い塩酸を注入している箇所の詳細調査を実施したが、有意な腐食は確認されなかった。
 ● 吸着塔6A入口の塩酸注入箇所に腐食が確認されなかったことから、吸着塔6Aに充填された「吸着材4」(Ag添着活性炭)に腐食を発生して促進させる要因があると推測される。吸着塔6Aと同じ「吸着材4」(Ag添着活性炭)を充填している吸着塔2Aを含む吸着塔1A~5Aに腐食が確認されなかったことから、アルカリ環境下ではステンレス鋼の腐食が抑制されていると推測される。
               吸着塔の追加調査における結果 (図は東京電力の報道配布資料から引用) 

         A系統吸着塔の追加調査における結果 (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

A系統吸着塔の追加調査における結果 (吸着塔6A上流の塩酸注入部)
   (写真は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <多核種除去設備(ALPS)の腐食および原因> 2013年9月25日 
■  2013年9月25日(水)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)について、これまでの腐食状況と原因について発表した。
 ● バッチ処理タンク2Aで発生したタンク下部からの漏洩原因
    ・生成した鉄沈殿物がタンク内に堆積・付着することによるすき間環境の形成と、薬液注入
     (主に次亜塩素酸)等による腐食環境が促進といった複合的な要因が重畳したことによって、
     想定以上の腐食が発生し、欠陥が貫通、漏えいに至ったもの。
 ● 吸着塔6以降における腐食
    ・吸着塔6に充填された銀添着活性炭に腐食を発生して促進させる要因があると考えられ、
     かつアルカリ環境下ではない吸着塔6下流側に腐食が確認された。
 ●  バッチ処理タンク近傍及び吸着塔6以降フランジ部の腐食
    ・腐食が確認されたフランジ部は、フランジ部の形状により流体がよどみ状態となっており、
     局部腐食が発生しやすい低流速となっていることも腐食を促進させる要因となっていたと
     推測している。

■ 再発防止策はつぎのとおりである。
  ● バッチ処理タンクの再発防止対策
     ・タンク内面にゴムライニング(クロロプレンゴム) を施工する。
  ● 水平展開範囲の対策
     ・すきま腐食発生の可能性があるフランジに対し、ガスケット型犠牲陽極等を施工する。
      また、将来的にはより信頼性を高めるため、ライニング配管への取替を検討する。
■ C系のホット試験を開始する際に行う対応
   ● 次亜塩素酸注入を止める。
   ● 腐食電位を上昇させる中性領域における銀添着活性炭吸着塔をバイパスする。
   ● バイパスする銀添着活性炭の吸着性能を確保するため、吸着塔の構成変更を行う。
■  C系のホット試験は9月27日(金)より開始する。
バッチ処理タンクの腐食再発防止対策  
(写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 
     C系統ホット試験の開始時における塔構成  (図は東京電力の報道配布資料から引用) 

 <多核種除去設備(ALPS)の試運転再開してすぐに不調で停止> 2013928日 
■  2013年9月28日(土)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置である多核種除去設備(ALPS)のホット試験の状況について発表した。
 ● 9月27日(金)午前0時04分よりホット試験(水処理設備で処理した廃液を用いた試験運転)を開始したが、同日午後10 37分にバッチ処理タンクからスラリーを排出するラインにおいて流量が十分出ていないため、スラリー移送ポンプを停止し、循環待機運転に移行した。原因は調査中。

■ 毎日新聞は、つぎのように報じた。「東京電力は福島第1原発の放射性汚染水を浄化する多核種除去装置(アルプス)に不具合が見つかり、汚染水の処理を停止したと発表した。同装置は27日未明、約2カ月ぶりに試験運転を再開したばかり。東京電力によると、最初の処理工程で生じる沈殿物を含んだ汚染水を排出する過程で不具合が見つかった。運転再開から停止までに約100トンの汚染水を処理したという。不具合の原因は調査中で、復旧の見通しは不明。アルプスはトリチウム(三重水素)以外の62種類の放射性物質を除去する能力があり、汚染水対策の「切り札」と位置付けられている。今年3月に試験運転を開始したが、タンクの腐食による水漏れが発覚し、8月に運転を停止した。2014年1月の本格稼働を目指し、今月27日に3系統中の1系統で試験運転を再開していた」

 <多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因> 2013年9月29日 
■  2013年9月29日(日)、東京電力は、福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置の多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因について発表した。
 ● バッチ処理タンク2C内に、ゴムライニング施工時に設置した梯子によるライニング損傷防止のためのゴムパッド(20cm×20cm程度、厚さ3mm)と思われるものがドレン孔付近に発見された。このゴムパッドがドレン孔を塞ぎ、十分な流量が出なかった。
 
■  2013年9月30日(月)、東京電力は、原子力規制委員会に対して福島第1原子力発電所にある放射能汚染水処理装置の多核種除去設備(ALPS)の運転不調の原因について報告した。バッチ処理タンク1Cについても内部点検した結果、問題ないことを確認したので、9月30日に運転を再開することとした。

■ 毎日新聞は、つぎのように報じている。「東京電力福島第1原発で、放射性汚染水を浄化する多核種除去装置(アルプス)が試運転を再開したばかりで停止した問題で、東京電力は29日、不具合の原因は、タンク内に置き忘れたゴム製シートが排水口をふさいだためと発表した。再開のめどは立っていない。
 アルプスは汚染水対策の「切り札」と位置づけられているが、トラブル続きで、チェック体制が問われそうだ。東京電力によると、ゴム製シートは、タンク内部を上り下りする仮設のはしごを固定するために使ったもので、大きさは縦横20cm、厚さ3mm。2枚がテープで固定されており、試運転前に回収することになっていたが、作業員が回収は不要と勘違いしてそのまま残したという。うち1枚がはがれて排水口をふさぎ、流量が低下したとみられる」

           バッチ処理タンク2Cの内部点検結果 写真・図は東京電力の報道配布資料から引用) 

補 足
■ 「汚染水浄化装置」は、原子炉の循環冷却に使用された放射能汚染水を浄化されるために導入された。当初、フランスのアレバ社の除染装置と米国キュリオン社のセシウム吸着装置が導入されたが、運転や性能に問題が多く、バックアップ用として導入された東芝のセシウム吸着装置の方が相対的に良いということで、現在は東芝のセシウム吸着装置「サリー」が水処理設備のメイン装置として稼働している。「サリー」はゼオライトに放射能物質セシウムを吸着させる方式の装置である。

 その後、原子炉建家に流入する地下水により、多量の放射能汚染水が発生するため、新たな汚染水浄化装置が導入されることになった。この汚染水浄化装置が、「多核種除去設備(ALPS;アルプス)」である。ALPSは、米国放射性廃棄物処理事業会社のエナジー・ソリューション社が開発した設計技術をもとに、東芝がシステムや機器類の詳細設計を行なったもので、汚染水から重金属やカルシウムなどを除去する前処理設備と、活性炭や樹脂などの特殊な吸着材で放射性物質を取り除く吸着塔で構成される。「サリー」で除去できないストロンチウムやヨウ素などの放射性物質を除去し、法定濃度以下に下げることができるといわれてきた。 しかし、ALPSの試運転開始は、高放射能廃棄物容器の安全性の問題に引きずられて大幅に遅れ、やっと試運転を始めたところでバッチ処理タンクの漏れによって補修のために停止することになった。

 このような状況の中で、東京電力は、2013年9月20日、汚染水の処理を加速させるため、新たな汚染水浄化装置の導入意向を発表した。政府も高機能の処理装置の導入を決め、開発業者を公募するという。

所 感
■ バッチ処理タンク漏洩原因の背景が垣間見えてきた。今回の情報の中で、「ALPS」より先行して設置されたセシウム吸着装置「サリー」において、すき間環境に起因する典型的なステンレス鋼の局部腐食の事例が2012年2月に発生していたことがわかった。これで、バッチ処理タンクの漏洩原因について東京電力が当初からステンレス鋼のすき間腐食にこだわっていたことが理解できた。セシウム吸着装置「サリー」の運転情報(腐食事例)は多核種除去設備「ALPS」の設計・建設部門に活かされることなく進められたが、ALPSの試運転が始まった時点では、ALPS関係者の中には腐食が起こりうると予見していた人がいたと思う。しかし、予想を上回る早い腐食開口だったに違いない。

■ 一般に失敗事例のうち、報告・連絡・相談による情報の共有化が不足した失敗は全割合の5~10%あるが、今回のバッチ処理タンクのゴムパッド取り忘れ事例は、情報共有化の不足による失敗事例である。

■ 今回、ALPSのプロセスに関わる情報を見て感じたのは、オリジナル設計からつぎのような大きな変更を行っていることである。
   ● バッチ処理タンクの材質をステンレス鋼ではなく、ゴムライニングとする。
   ● バッチ処理タンクへの次亜塩素酸注入を止める。
   ● 銀添着活性炭吸着塔を使用しない。
   ●  銀添着活性炭の吸着性能は吸着塔の構成変更で処理する。
 完成したプロセスであれば、このような変更はない。ALPSは完成したプロセスでなく、ラボの実験レベルを一気に商業化プロセスレベルで試運転していることがわかった。本来のベンチ・プラントやパイロット・プラントで実績を確認しながら改良していくステップを省いている。(我々が勝手にそう思っているだけで、ALPS関係者はパイロット・プラントと思っているのかもしれない) 
 運転時間79日間(約1,900時間)で腐食開口事例によって試運転を中断し、改修を行ったように完成度としてはまだまだの感である。運転も強アルカリ性と中和を繰り返すなど調整の難しいかなり厳しい運転条件があり、今後の試運転にもいろいろな課題が出てくると思われる。

 <備 考>
本情報はつぎのような情報に基づいてまとめたものである。
  ・Tepco.co.jp,  東京電力報道配布資料;バッチ処理タンク関係,  August  07 ~ September  29,  2013
    ・Nsr.go.jp, 原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会の議事録等,  July  29~ September  30,  2013
   ・Mainichi.jp,  東京電力:汚染水浄化装置「アルプス」に不具合、運転停止,  September  28,  2013
    ・Mainichi.jp,  福島第1原発:汚染水処理、アルプス停止 シート置き忘れが原因 排水口ふさぐ,  September  30,  2013
  ・Yomiuri.co.jp,  東電、福島第一原発の汚染水処理で新装置導入へ,  September  20,  2013




後 記: バッチ処理タンクの情報紹介は成り行きで今回で4回目になります。東京電力福島第1原発の設備では「地下貯水槽」、 「バッチ処理タンク」 、「組立式円筒タンク」と連続して取り上げてきましたが、多分、今回で終わりになると思います。10月に入って組立式円筒タンクから溢流させたという情報が入りましたが、 いわゆる“貯蔵タンク”ではなく、本来の適正な設備ではない特異なケースであり、控えることとします。
 ところで、 前回の組立式円筒タンクの漏れ原因発表の記者会見において東電副社長が「これで先が見えてきた」と発言していました。すでに底板部からの漏れということはわかっていましたから、何を言っているのか理解できませんでしたが、発注者と受注者の瑕疵担保の観点の意味合いだったのでしょう。ビジネスの社会ですので、当然ではありますが、本来、福島第1原発の事故処理や東日本大震災の復興事業で“儲ける” ことは考えるべきでないでしょう。赤字でとはいいませんが、日本の復興に貢献しているという精神的な“黒字” をもって収支トントンでやっていけばよいのではないでしょうか。一方、発注者は本社でコスト最優先の設備選択を行い、あとの処置を現場に委ねると、これまで紹介してきたような一連の不都合な事例に遭遇することになるでしょう。