2014年2月25日火曜日

テキサス州マグペトコ社タンク火災のボイルオーバー(1974年)

 今回は、1974年1月11日、テキサス州ポート・ネチェズにあるマグペテコ社のタンク火災のボイルオーバー事故について紹介します。この火災には、後にウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社を設立したドワイト・ウィリアムズ氏が消火活動に参加し、ボイルオーバーに巻きこまれた経験をし、消火方法の考え方を変えるきっかけになっています。
(写真はIndustrial Fire Worldから引用)
<事故の状況 >
■ 1974年1月11日、レス・ウィリアムズとドワイト・ウィリアムズの親子は、テキサス州ポート・ネチェズにあるマグペテコ社のタンク火災の消火活動に参加した。彼らにとって初めてのタンク大火災であり、親子はチームの一員として力を合わせて対応した。この火災は歴史に残るものだったが、消防隊にとって苦い結果だった。

■ ドワイト・ウィリアムズ氏に過去に対応した中で最悪の火災は何かと質問すると、彼はひとこと“マグペテコ”と答える。マグペテコ火災では、燃えている原油が大量に貯蔵タンクから噴き出し、大釜から現れた悪魔のように消防士たちを追い立てた。

■ のちにウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社を設立したウィリアムズ氏は、“まったく信じられなかった”ことについて語り始めました。「私は噴き出すタンクの堤内にいた。油がどんどん湧き上がっていた。そのとき、そいつが落ちてくると感じ、私は駆け出した」と語った。

■ 何でも真っ黒にし、火傷を負わせ、焼き尽くすような過熱した潮の流れにすべてが飲み込まれていた。しかし、今は、マグペテコの略称で知られたマグノリア・ペトロリアム・カンパニーで起こった火災はほとんど忘れ去られている。1970年代半ばにテキサス州ポート・ネチェズの製油所や緊急対応部隊で働いていた人のほかは、マグペテコと聞いても、知らないと肩をすぼめるだけである。

■ マグペテコで突然、大混乱に陥った現象(専門用語で“ボイルオーバー”と知られている)は、当時、ボーモント消防署の副署長だったピート・シェルトン氏にとっても、それまで24年間の消防士生活の中でまったく初めて経験だった。シェルトン氏は、「たびたび起こるものじゃないが、起こったときのことを考えておくべきです」と語った。
原油タンク火災の断面図を示す。左:ヒート・ウェーブ(黒い部分)が形成して下降。中央:ヒート・ウェーブが層状の水に当たり、スロップオーバーを発生。右:ヒート・ウェーブが底部の水に到達し、ボイルオーバーを発生。
■  1901年のスピンドルトップ石油噴出で有名なテキサス州南東部のボーモント、ポートアーサー、オレンジのゴールデン・トライアングル地域は、1974111日の夜明け前、雷を伴う嵐に襲われていた。午前3時過ぎ、ウィリアムズ氏の故郷であるポート・ネチェズにある49基のタンクを有する石油基地において、1基のタンクに雷が落ち、火災となった。ポート・ネチェズはボーモントから南東に約12マイル(32km)離れたところにある。火災を起こしたタンクには約20,000バレル(3,100KL)の原油が入っていた。

■ 午前9時には、隣接していたタンクに延焼していた。このタンクには70,000バレル(11,000KL)の原油が入っていた。ポート・ネチェズ消防署のジム・ハリントン署長は得られる支援をすべて欲しいと思っていた。ハリントン署長は、「我々は、昼食をとっていた北から強い風を受けることになった。このため、風に向かって作業しなければならなかった」と語った。
 
■ 父親のレス・ウィリアムズ氏は、当時、ポート・ネチェズで最も大きい化学会社であるジェファーソン・ケミカル社(現在のハンツマン社)で作業安全主任(セーフティ・ディレクター)として従事していた。可燃性液体の火災消火に関して長く研究しており、レス氏はすでにファイアソーブという商標の消火泡剤の特許を持っていた。
 マグペテコ火災は、ウィリアムズ親子が一緒に活動した最初の大火災となった。彼らが成功した多くの消火活動の最初の火災だったと言われることもあるが、それは真実ではない。
■ 激しい雨によってタンク基地の地面はどろどろのぬかるみになっていたと、ドワイト・ウィリアムズ氏は話している。消防車がぬかるみにはまり込まないよう、道路には貝殻材が急いで撒かれた。消火用水が必要だったが、マグペテコ社の構内には消火栓がゼロだった。シェルトン副署長によると、火災点から約1マイル(1,600m)離れたネチェズ川の原水を持ってこなければならなかったという。後年、レス・ウィリアムズとドワイト・ウィリアムズが消火活動のために開発した泡ノズルや大容量移送ポンプへ供給する水を十分に確保しておくという考え方は、当時の産業界では希薄だった。

■ ボーモントの消防隊はタンク外側の冷却ラインを保持しようと努めていたと、シェルトン副署長は語った。火点にできるだけ近づくため、泡放射トレーラーは火災タンク周りの防油堤内に配置されていた。シェルトン副署長は、「堤内には誰もとどまっていなかったが、我々は泡放射トレーラーを通して水を入れ続けていた。結局、これがボイルオーバーの起こる要因になったのだと思う」と語った。

■ ウィリアムズ親子はフォーム・タワーを立てるのに忙しかった。今日では、タンク側壁越えで燃焼油面に泡放射できるよう設計されたブーム付き消防車は一般的に見られるが、1974年当時は“フォーム・タワー”という可搬式で組立型の設備を、電柱のように伸ばして立てていた。
 ドワイト・ウィリアムズ氏は、「これで500~700ガロン/分(1,900~2,600リットル/分)の範囲で放射できた」と語った。 ドワイト・ウィリアムズ氏によると、昼頃になって父親のレス・ウィリアムズは制圧する状況になかなかならないことを懸念し始めていたという。レス・ウィリアムズ氏は、ジェファーソン・ケミカル社のジム・フリッツ氏とドワイト氏に燃えているタンクの堤内にノズルを配置し直し、操作するように指示した。

■ ドワイト氏は、「親父よ、モニターには3本のラインがつながっているんだぜ。誰か支援してくれるのかと言った」と語った。 ノー!とレス・ウィリアムズ氏は言った。レス・ウィリアムズ氏はドワイト氏とフリッツ氏に、やっている間、気をつけてやれ、そして終わったらすぐに戻れと指示した。話し合うまでもなく、ふたりは言う通りに実施した。
 彼らが任務を終えてきた途端に、誰かが別な雑事でふたりを使おうとした。レス・ウィリアムズ氏の指示に基づき、ふたりは何も言わず、用事を済ますためにその場を去った。

■ レス・ウィリアムズ氏が懸念したのは、ボイルオーバーとして知られる現象である。この現象に関する理屈はそれほど難しいものではない。原油には、量の差があるにしても、水や塩水を含んでいる。油と水は混じり合うことはなく、原油が一旦、貯蔵タンクの中に保管されたら、水は底部に静置し始める。火災が原油タンクの全面に広がった場合、火の下の原油は約450°F(232℃)に加熱される。

■ ゆっくりと、ヒート・ウェーブは原油の中を下ってゆき、その下降の速度は約3フィート/h(90cm/h)である。ヒート・ウェーブが底部に達すると、待っていた水の層は1:1,700の爆発的な膨張率で水蒸気に変わる。この膨張によって、熱く燃えた原油が突然、猛烈に噴出し、あっという間にタンク直径の10倍のエリアを巻き込む。

■ 一旦、タンクが噴き上がったら、カウントダウンの始まりである。レス・ウィリアムズ氏は、カウントダウンの開始時刻を約4分間ミスした。ドワイト氏とフリッツ氏は戻ろうとして、防油堤内を横切って歩いていた。そのとき、地面がゴロゴロと地鳴りし始めた。ドワイト氏は肩越しにちらっと見返すと、そこにはタンクから噴き出す真っ黒い原油が見えた。「ジムはまっしぐらに走ったし、私も懸命に走った」とウィリアムズ氏は語った。
 文字通りかかとに燃えた熱い原油を感じながら、ドワイト氏は防油堤内から抜け出し、道路の向こう側のレス・ウィリアムズ氏がいたところに戻った。ボーモント消防署のピート・シェルトン副署長も逃げていた。
 「そこには居られない状況で、とにかく急いだ。我々はメイン道路を約500ヤード(450m)退却しなければならなかった」と彼は言った。その間、放棄された泡トレーラーと消防ホースは燃えてしまった。

■ ジェファーソン・ケミカル社の消防車には、車両トップに500ガロン/分(1,900リットル/分)のモニターを2台設置していた。ドワイト氏は2台をうまく使った。1台は原油火災への直接対応として、もう1台は上へ向け、激しい輻射熱から彼ら親子を防護するためである。「呼吸をするのにも、消火服の中に顔を隠さなければならなかった」と彼は語っている。
 2台のモニターは機能を発揮し、向かってくる火の勢いを分け、車両の両側にやりすごさせた。テキサコ製油所から運んできた小型トラックは運がなかった。発災現場近くに駐車していたため、火に曝されてしまった。

■ 火災は拡大し、4基以上の貯蔵タンクに引火し、ウィリアムズ氏がいた近くのナフサタンクも火災となった。タンク屋根が噴き飛び、あたかも巨大なフリスビーが空へ飛び立つようだった。トラックに救いを求め、ウィリアムズ親子は前輪の下にもぐった。「“神よ、トラックの上にタンクの屋根を落とさないでくれ”と祈ったのを思い出すね。目を開けたとき、タンク基地で知った若者たちもトラックの下に隠れていたよ」とドワイト氏は語った。

■ しかし、ジム・フリッツ氏の消息はわからなかった。レス・ウィリアムズ氏が火災のために連れてきたこの仲間が火の中で生きていたということを知ったのは、数時間後だった。実際、彼はけがも無く、逃げていた。脱出ルートを遮るように水路があったが、ジムは即座に水路を選んだ。泳ぐことができなかったのもかかわらず、フリッツ氏は水路を渡り切り、助かった。後年、レス・ウィリアムズ氏がジェファーソン社を退社した後、ジム・フリッツ氏は作業安全主任を引き継いだ。

■ 驚いたことに、この火災事故で死者はいなかった。ドワイト氏によると、唯一負傷したのは、友人のクリントン・スミス氏だけだったという。「最初、彼を見たとき、火傷を負ったと思った。彼が運ばれるとき、全身油まみれだったからね。でも、実際は走っているとき、筋を違えて転倒したということだった」とドワイト氏は語った。

■ 消防隊としての心配は、タンク基地の火災が隣接するユニオン製油所(現サノコ)に拡大することだったとシェルトン副署長は語っている。バックホウを使って土手を構築し、火災を燃えている6基のタンクに限定しようと努めた。

■ 火災となったタンクでは、少なくとも2回のボイルオーバーが発生した。ポート・ネチェズ消防署ハリントン署長の推定では、当日、同署の消防隊とその他の対応部隊が失ったホースは口径2-1/2インチおよび3インチのもので36,000フィート(11,000m)に及んだという。これだけのものをつぎ込んだにも関わらず、マグペトコ火災は、午後8時までにタンクに在庫されていた燃料を使い果たし、火災事故の歴史に残った。

■ 2年後、シェルトン副署長はボーモント消防署の署長になった。シェルトン署長は、マグペテコ火災で起こったことをもとに、産業界の消火活動に関して出されている文献の研究に多くの時間を費やした。ボーモント消防署の消防士たちも自分たちで実験をやり始めた。「55ガロン缶(200リットル缶)を使って、可燃性液上部のベーパー空間でのBLEVE(Boiling Liquid Expanding Vapor Explosion;沸騰液膨張蒸気爆発)や火炎の影響などの実験をしたもんだよ。我々が学んだのはわずかだし、エキスパートとはいえないが、何が起こって、何を学んだかということは君たちに話せるよ」とシェルトン氏は語っている。

■ サクセス・ストーリーとしての“マグペテコ”は、タイタニックとベータマックスの間にランクされている。火災は鎮火できず、燃えて何も残らず滅んでしまった。しかし、貴重な学習経験として、マグペテコは計り知れないものを残した。レス・ウィリアムズとドワイト・ウィリアムズ親子にとって、産業界の消火活動について新しいスケールで考えるベースとなった。1980年、これらの知見をもとにドワイト・ウィリアムズは新しい会社を興した。もし、マグペテコの灰の中から飛び立つフェニックスがいたとすれば、それはウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社だったろう。

補 足                                                         
■ 「ポートネチェズ」は、テキサス州ジェファーソン郡にあり、現在の人口は約13,000人の町で、近郊のボーモントやポ-トアーサーの都市圏になる。

■ 「マグペテコ社」(MAGPETCO)は、正式にはマグノリア・ペトロリアム・カンパニー(Magnolia Petroleum Company)で、20世紀初頭の1911年に設立された石油会社である。1925年にニューヨーク・スタンダード・オイル社(Socony)の傘下になり、その後、1959年Soconyのモービル(Mobil)部門と合併された。その後の経緯はよくわからないが、現在は、モービル・オイル・ターミナルとなっている。
 操業時のマグノリア・ペトロリアム・カンパニーの工場 (写真はTxgenweb.orgから引用)
現在のテキサス州ポート・ネチェズにある石油ターミナル (中央部にタンク跡地も見える)
(写真はグーグルマップより引用)
■ 「サクセス・ストーリー」とは成功談あるいは成功話であるが、この記事では「“マグペテコ”はタイタニックとベータマックスの間にランク」と書かれており、成功談の下位を表している。ベータマックスはソニーが開発した家庭用ビデオの規格で、 VHS方式のビデオと激しい技術競争が行われ、世界の記録技術の進歩に大きく貢献したと言われるが、普及競争には負けた。

■ 当ブログでは、つぎのような資料に「ボイルオーバー」の情報を掲載している。

所 感
■ 今回はウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社を設立したドワイト・ウィリアムズ氏が、同社を興すきっかけとなり、同氏自身がボイルオーバーの中に巻き込まれたマグペテコ火災事故の経験談をまとめたものとして興味深い情報である。ボイルオーバーという用語や現象は頭の中で理解し、懸念しながらも、開始時刻を約4分間ミスったとあるように、初めての経験では判断を誤りやすいと思われる。しかし、米国では、このような事例をもとにボイルオーバーの危険性について理解し、疑似体験していったものと思う。

■ ボイルオーバーが起こったタンク仕様はわからないが、液量(3,700KLおよび11,000KL)や撤退距離(450m)から推測すると、直径25~45mで、容量5,000~15,000KLクラスと思われる。現在、日本にある原油タンク規模からみれば、比較的小さい。ボイルオーバー発生事故として負傷者が1名だったのは、タンク規模が大きくなかったためであろう。

■ ボイルオーバーに関するデータとして参考になるのは、つぎのとおりである。
   ●ヒートウェーブの下降速度は約90cm/hとみている。
   ●ボイルオーバーの影響範囲はタンク直径の10倍のエリアとみている。
 これらは確証されたものでなく、経験値からきているが、米国では標準的に考えられているデータである。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・FireWorld.com,  Magpetco、By Anton Riecher (Industrial Fire World Editor), Vol26 Winter, 2011



後 記: 先日、今回の資料をまとめていた時期でしたが、秋吉台の山焼きに行ってきました。山口県秋吉台青少年自然の家が主催して小・中学生の親子を対象にした山焼き体験なのですが、一般の人も募集していたので、申し込みをしたら抽選に当たりました。最初は枯れ草に夜露が降りて濡れていて、なかなか火が着きません。時間が経って乾いてくると、すぐに火が着きます。というより、火道(防火帯)に入る火を消す必要があるのですが、火消し用の葉っぱ付き生木で叩いてもなかなか消えず、意外に消す方が大変でした。また、炎が高く上がると、顔が熱く、その場所にとどまっておられません。丘の下から火を着けますが、燃えていく速度は結構速い。以前、このブログでプロの消防士が亡くなった豪州の山火事を取り上げましたが、ほんの少しだけ山火事の怖さを感じることができました。しかし、カルスト台地に火の帯が進んでいき、黒い焼け跡に白い石灰岩が点々と見える風景は美しく、普段ではできない貴重な面白い経験でした。


2014年2月17日月曜日

貯蔵タンクのボイルオーバーの発生原理、影響および予測

 今回は、イランのカシャーン大学のMojtaba Mirdrikvand氏ほかが貯蔵タンクのボイルオーバーについてまとめた「Boilover in Storage Tanks: Occurrence, Consequences and Predictions」を紹介します。
(写真はHazmat-mike.squrespace.com から引用)
要 旨
■  製油所や石油化学の会社にとって、原油や石油ケミカルを貯蔵する大型タンクは常に大きな憂慮要因になっている。大量の保有能力を有し、大火災の危険性をもっているため、世界各国の科学者によって広く研究されている。ボイルオーバー現象は水の層で起こり、影響が広範囲に及ぶため、最も重大視されている火災事故のひとつである。ボイルオーバーの発生を予測したり、ボイルオーバー火災への進展を回避したり、広範囲に及ぶ火災の被害をできる限り小さくしたりするため、効果的で経済的な方法を見出すことは科学者にとって意義あることである。この論文では、ボイルオーバーに関してこれまで実施されてきた研究についてレビューする。その中で、ボイルオーバーの危険性と発生原理を明らかにし、ボイルオーバーの有効な予測方法と事故が起こった際に影響を少なくする最良の方法を示し、今後の参考にしてもらいたい。

1.はじめに
■ 火災の防災分野では、石油貯蔵施設に関する火災の危険性は常に大きな関心事である。ボイルオーバーは石油工業分野の火災のひとつで、燃焼している油のタンク底部にある水の層で起こる。ボイルオーバー現象は、炭化水素混合物が燃焼し、ヒート・ウェーブが下降して伝播していくことによって起こる。この現象は原油を保有する開放型タンクにおいて起こるが、ときには重油の火災時に起こることもある。ボイルオーバーが生じると、大量の油が防油堤をも越えて猛烈な勢いで放出される。ボイルオーバーは、複数タンク火災や防油堤火災に至る可能性があり、消防士にとって極めてリスクの高い事故になる。ボイルオーバーの危険性は大げさに言っているわけではない。ボイルオーバーはタンク全面火災になってからわずか2・3時間で起こることがある。火災が長時間にわたって燃え続けていれば、ボイルオーバーは起こらないと見なすべきでないし、タンク内には底部だけに水が存在していると見なすべきでない。実際、もし大型タンク内の原油が燃え続けていれば、ボイリング現象が生じるだろう。

■ ボイルオーバーの発生条件、まわりの環境への脅威、発生した際の影響については、古積、バーゴインおよびカータン、ブリノフおよびハダコフ、長谷川、ホールの各氏によって調査・研究されている。これらの研究内容についてはこの論文でレビューする。これらの研究によると、ボイルオーバーに必要な条件は燃焼している液体内の等温層の形成であるとしている。
この等温層の厚さは、引火後、時間の経過とともに増加し、ボイルオーバーが起こる前には数メートルの深さまで成長することもあるという。等温層の下境界がタンク底の水の層に達すると、水が急激な蒸発を起こすものと考えられている。しかし、等温層が形成されて成長するプロセスは現在もよくわかっていない。最近、フェレーロは、炭化水素混合物の燃焼プロセスにおける対流の初速度を推定する相関式を提案した。提案された相関式によると、燃料層の最初の厚さおよび平均温度が重要なファクターとなる。この相関式は、ボイルオーバーの種類や確率を予測するための今後の研究に有用だと思われる。

■ ここでは、ボイルオーバーの研究に関連する最近の論文をレビューしていく。そうすることによって、ボイルオーバーの基本的な危険性、発生のプロセス、被害の影響を小さくする方法などについて理解を深める。

2.貯蔵タンクの火災の分類
■ タンクの分類は屋根の形式によることが多く、固定屋根型、内部浮き屋根型、外部浮き屋根型、ドーム式外部浮き屋根型に分けられる。可燃性液体あるいは燃焼性液体が貯蔵要件として重要な場合、タンク内に保有する製品の物理的性質やタンクの設置方式で分類されることもある。燃焼性液体を保有する場合、大型コーンルーフ式タンク、小型低圧の立型タンクまたは横型タンク、あるいは地下タンクといった方式が標準的に採用される。一方、可燃焼液体の場合、外部(開放型)浮き屋根タンクまたは内部浮き屋根タンク、小型低圧の立型タンクまたは横型タンク、あるいは地下タンクといった方式が通常用いられる。

■ 図1にタンク火災の分類と拡大のステップを示す。図は大型の外部浮き屋根タンクにおいてよく起こる火災の例を示す。最初に小さな火災から始まり、徐々に全面火災へ至ったり、あるいは間接的に全面火災まで拡大することがある。屋根と側壁間のシール部から漏れるベーパーに引火し、制圧できなければ、ボイルオーバーへ至ることがある。原油は引火点が低く、高揮発性で流動性があるため、火炎はただちに油の全面に広がり、熱気流が全面火災上を乱舞し、最終的にボイルオーバーへ至る。図2は貯蔵タンクにおけるタンク火災のシナリオ例を示す。
図1 火災の分類および拡大のステップ
図2 タンク火災のシナリオ例
3.ボイルオーバー発生原理
■ 開放容器に入れられた油や石油ケミカルを燃料源にした火災を水で消火しようとした場合、ボイルオーバー型の火災における危険性が非常に高いということを理解することができる。この状態の最も大きい要因は油/石油ケミカルと水の相対的な比重差にある。水よりも軽い油は、常に表層にいようとするからである。これは、家庭の台所で天ぷら油を入れた鍋で起こる火災を考えればわかる。

■ 油面上に水を投入しても、水はすぐに油の下に沈み、容器の底部に集積してしまい、消火に寄与するのはほんのわずかである。火災による温度が徐々に蓄積されていき、燃料源の油を通じて下降していく。そして、最終的に容器の底に集積した水に達することになる。下降していったヒート・ウェーブが十分な温度をもっていれば、水は蒸発して水蒸気になる。水蒸気は水の状態に比べ、容積が1,700倍に膨張する。この急速に膨張した(おそらくスーパーヒートの)水蒸気は油を上方へ押し上げ、水蒸気と油が容器外に放出されて、さらに着火し、広範囲で制御不能な状況が引き起こされる。規模の大きい場合、タンクが火災となって、燃焼面の熱い残渣物が水の層に移行したときにボイルオーバーという用語を使う。要するに、ボイルオーバーが起こるために必要な要素は、タンク底部の水の層、油全面のタンク火災、油が燃えたときのホット・ゾーン(すなわちヒート・ウェーブ)の形成である。

 3.1 フロスオーバー、スロップオーバーおよびボイルオーバー
■ ボイルオーバーの現象は、原油あるいは重油相当の油の入った開放型タンクにおいて起こった火災が、ある程度長い時間燃え続けたときに起こる。ボイルオーバーが生じると、大量の油が防油堤をも越えて猛烈な勢いで放出される。ボイルオーバーは複数タンク火災や防油堤火災に至る可能性があり、消防士にとって極めてリスクの高い事故になる。重大な火災事故についてレビューした“LASTFIRE”では、ボイルオーバーを起こしうる油を保有したタンク(固定屋根型タンクを含む)について16件の火災事故を取り上げているが、そのうち7件がボイルオーバー、2件がスロップオーバーを起こしている。ボイルオーバーは起こらなかったが、タンクが損壊して防油堤内に油の流出した事故が7件ある。この7件のうち、タンク側壁が損壊しなかった場合、何件がボイルオーバーに至ったかは分からない。

■ 最も激しい形で起こったボイルオーバーにみられる共通的な必要条件は、つぎの3つの要素である。
   ● 上部が開放されたタンク火災
   ● タンク内に水の層が存在すること
   ● 高温で、相対密度の高いホットゾーンの形成;これは貯蔵されている製品の性質で決まる。
 原油や重油相当の油を保有したタンクで全面火災が起こると、ボイルオーバーの発生する可能性は高い。油のホットゾーンが油中で下降していき、タンクの底部あるいは別な場所に存在する水に到達すると、ボイルオーバーが起こる。

■ 水が沸騰して水蒸気へ変わると、タンク内の油は上方へ押し上げられる。この結果、タンク内の液が大量に四方へ放出され、タンク直径の何倍もの距離の範囲に及ぶ。ボイルオーバーを起こしうる油は“トップ”と呼ばれる中間精製物を含んでいる。すなわち、原油留出油、残渣油、重油留分など沸点の異なるいろいろな留分を混在している油である。燃料油やヘキサデカンのような狭い沸点範囲のもので沸点の高い油が高温になり、ホットゾーンを形成され、ホットゾーンが水の層に接触するような状況になったときにボイルオーバー型の事象が起こる。

■ スロップオーバーは、消火水または消火泡を熱油に投入したときに起こる。水が沸騰することによって、熱油がフロスアップし(泡立ち)、タンク上部を越えてこぼれるような現象である。このため、当初のタンク火災に加え、堤内火災に至ることがある。

■ 注意すべきことは、ボイルオーバーがスロップオーバーやフロスオーバーとはまったく異なる現象だということである。スロップオーバーの範ちゅうには、燃焼している熱い油面に水を噴霧したときに起こる小さなフロス(泡立ち)現象を含んでいる。フロスオーバーは、火災と直接的に関係しておらず、高温の粘性油を保有するタンクに水が存在していたとき、あるいは水が入ったときに起こる現象である。ミキシングを行うと、水から水蒸気への転移が突然起こり、タンク内液の一部がオーバーフローすることがある。スロップオーバーは、タンク火災で燃え続けている燃焼面に対する水の存在との関係で起こる現象である。水はタンク液面において重質油中にしみ込み、そして蒸発する。このため、油が同調して動き、タンクから油があふれ出す現象となる。これは家庭で料理用油の入った鍋に水を注いだときに起こる火災と類似している。

 3.2 ボイルオーバーの影響
■ ボイルオーバーが起こると、燃えている油がタンク直径の何倍もの距離のエリアに飛び散ることになる。確証された研究結果があるわけではないが、“経験則”としては、ボイルオーバーによる飛散影響はタンク直径の5~10倍の距離の全範囲に及ぶといわれている。実際の距離は、油の保有量、蒸発する水蒸気の量および風向によって決まると思われる。

■ ボイルオーバーは壊滅的な結果をもたらすので、タンク周辺にいる人は非常に大きなリスクに曝せれることになる。従って、消火活動による鎮火ができそうもなく、油がボイルオーバーを起こす油種であれば、すべての人を安全域まで撤退させることが重要である。

■ ボイルオーバーが切迫しているという兆候に関する見解はいくつか見られるが、残念なことに、ボイルオーバーが起こる時が分かるような確証的な方法は今のところ見つかっていない。油の中を熱生成物が下降していく状態は、タンクの全表面において必ずしも一定でないということを認識しておかなければならない。従って、熱画像カメラや示温塗料を用いてタンク側板の高温ゾーンの下降状況を測定することは、必ずしも信頼性があるわけではない。一般的に認められている“経験則”によれば、ホットゾーンの下降速さは約 1~2 m/hである。この値はラフな見込み値としてだけに用いるべきで、実際の速さは油の種類や組成によって異なると思われる。また、ホットゾーンがタンク底部に達しなくても、ボイルオーバーは起こりうる。水のポケットや油の組成によっては、タンク内の異なったレベルでボイル現象が起こる。特に、原油ではこの傾向がある。

■ ボイルオーバーで飛散する油の量を最小にするための方法として、できる限り早くから、水を移送することが推奨されている。配慮しておくことは、この移送は消防活動中も行うことができることである。移送に伴うタンク内の乱れや熱生成物の動きへの影響は小さく、投入された消火泡の有効性は十分保たれる。

 3.3 ボイルオーバー現象の実験
■ 古積によって行われたボイルオーバーの実験において、風上から観測された火炎の赤外線画像を図3に示す。この画像によると、風上から観測された火炎の高さは、定常状態の燃焼に比べ、3倍の高さに増加していることがわかる。そして、熱電対によって計測された最高温度は、ボイルオーバーが起こったとき、約900~1,100℃に上昇した。この実験は3回実施されたが、この観察結果、油の厚さとボイルオーバーの時間に相関があることがわかった。
図3 ボイルオーバーの実験で風上から撮られた火炎の赤外線画像
(a)定常燃焼 (b)ボイルオーバー時
■ ボイルオーバーが生じる可能性のある事故の状況にあって、いつボイルオーバーが起こるかわかれば役に立つ。実際、ボイルオーバーが起こったあとの火災は極めて危険な状況(火炎の高さが増加し、輻射熱が増加)になるので、ボイルオーバーの発生前に消火を達成しておかなければならない。しかし、火災の最後の時間における音のスペクトルは非常に不規則な状態で発するので、正確な最後の瞬時を判断することが難しい。確かに、ボイルオーバーは、一般にクラックリング・サウンド(ぱちぱち音)と呼ばれる荒いノイズを発生することが知られている。これは、水のベーパーが泡立ち、一斉に動き、火炎へ油を放出させるからである。このように、ボイルオーバー現象の開始は、火災の騒音レベルから判断することができる。

■ ボイルオーバーの発生までに大量の油が燃焼するということ(ボイルオーバーまでに燃える質量比)は、ボイルオーバーの特性を考える上で、極めて重要なことである。このことは、ボイリング過程にある間、あと、どの位の油量が燃えるかという情報を与えられることになる。実験を通じて質量比を正確に分析し、ボイルオーバーを予測する方法を見出そうとしている。

■ ボイルオーバー時にどのくらいの水が蒸発しているか精度よく分析されていないが、ボイリング過程における実際の燃焼率(燃焼速度)を測定することは有用である。水量と火炎の表面積には関連があるのかもしれない。

4.ボイルオーバーの予測
■ ボイルオーバー現象では、油の直下に水が存在するため、単純な油燃焼のほかに、油から水に熱が伝わり、多様な影響を及ぼすことになる。その影響のひとつが、ボイルオーバーとして知られる油の破壊的な燃焼である。すなわち、水が沸騰して飛び散り、油の爆発的な燃焼に至る。ボイルオーバーに関する諸問題のうち、重要な関心事項はボイルオーバーの開始点と強さ(激しさ)の二つだと思われる。

■ ボイルオーバーに至る前の擬似定常期は、最も効果的で攻撃的な消火方法をとりうる期間であり、成功すれば、極めて有害で衝撃的な影響を防ぐことができる。しかし、常に成功を保証する有効な方法は無い。一旦、消火活動に失敗してボイルオーバーが生じれば、火災は制御不能で、火災による被害は大きくなる。ボイルオーバーが起こる前に、消防士と消火資機材を危険ゾーンからただちに撤退させ、周辺の油タンクを適切に防護できれば、火災による被害を少なくすることができる。J.P.ガロは、ボイルオーバー直前の燃料の質量比をベースに、ボイルオーバーの強さを推定している。この層が厚いほど、ボイルオーバーの強さは大きくなる。一方、H.S.ホアのグループによる研究では、環境騒音からマイクロエクスプロージョン(微細爆発)ノイズを識別することによってボイルオーバーの発生を予測できるとしている。この研究では、ボイルオーバーのメカニズムを調べるために小規模の油タンクのモデルを用いている。直径600mmの油タンクのモデルを用いて、ボイルオーバーのハザード火災挙動および予兆現象を観察した。さらに、実験室で小さな油タンクのモデルを用いて詳細な計測を行い、安定した結果を得た。火炎構造、油/水の層の温度経過、燃焼速度、ボイルオーバーの密度、ノイズ・レベルなど一連の物理的データが、全ボイルオーバー過程において記録された。

 4.1 マイクロエクスプロージョン・ノイズ・エミッション法
■ マイクロエクスプロージョン・ノイズ・エミッションのメカニズムおよびノイズ・エミッションとボイルオーバー発生の関係を解明するため、 H.S.ホアのグループは三方の壁を石英ガラスにした特別な四角形の油タンクのモデルを作り、油/水の境界面における水のボイリング過程の観察を行い、カメラで記録した。さらに、音響記録システムを使用して、油燃焼の全過程中のマイクロエクスプロージョン・ノイズを磁気テープに記録した。これによって、マイクロエクスプロージョン・ノイズを繰り返し再生することができ、たくさんの音響パラメーターの中からノイズ識別に最も適した方法を得た。

■ 油/水の境界面における水のシーシング(煮沸)が、結局はボイルオーバーを引き起こすことがわかった。従って、水のシーシング過程を注意深く観察したり、試験を行うことによって、ボイルオーバーのメカニズムを解明し、マイクロエクスプロージョン・ノイズなどのエミッションの事前兆候現象の解明に役立つものと思われる。 H.S.ホアによる実験観察の結果、油/水の境界面における水のシーシング状態は、2つの基本的な状態、すなわち弱いシーシング状態と強いシーシング状態のあることが明らかになった。弱いシーシング状態はマイクロエクスプロージョン・ノイズを発する代表的な現象であることを示し、一方、強いシーシング状態はボイルオーバー発生に直結する現象であることがわかった。

5.ボイルオーバーの影響低減策
■ 油貯蔵タンクでボイルオーバーが起こると、大量の燃えた油が飛び散り、急速に炎が大きくなり、火炎による周囲への輻射熱は激しく増加する。さらに、ボイルオーバーは、時として、擬似定常燃焼が長く続いた後、突然起こることがある。このような燃焼特性は、制御不能な油火災になるだけでなく、消防資機材を破壊し、油タンク近くで活動していた消防士を焼け焦がす。従って、急なボイルオーバーは火災による被害を拡大させることになる。ボイルオーバー現象に関する研究は、火災挙動とメカニズムの二つについて世界で広く行われてきた。

■ しかし、ボイルオーバー現象は、燃焼、伝熱、物質移動、相変化、ボイリング、ベーパー・エクスプロージョンなど多様な物理的特性を含んでいるという複雑さから、ボイルオーバーのメカニズムはなかなか解明できていない。このような中で、ボイルオーバー現象に関する注意深い実験観察の結果、典型的なボイリング過程は三つの基本状態、すなわち擬似定常期間、事前兆候期間およびボイルオーバー期間に分けられることが経験的にわかった。これまでの研究の大多数は、擬似定常期間や全過程に焦点が向けられていた。

■ ボイルオーバーの影響低減策は必ずしも好結果を得ていない。小型タンクでは、SSI((Sub Surface Injection:液面下放射)方式による泡投入や高加速水流によってホットゾーンの破壊や形成防止が可能だった。(この戦術を用いることは、一般には推奨されていない) ホットゾーンがかなりの深さまで達している場合、SSI方式は、スロップオーバーの可能性があるため、実施が難しい。 SSI方式において間欠的に泡を投入する(タンクの液面に水蒸気が見えたら、投入を停止)ことによって、スロップオーバーを回避できた例はある。しかし、この例は事故時の経験であり、本題に対して信頼性のあるアドバイスとしては、データーが不十分である。

■ 底部に水の層が形成しないようにと、タンク・ミキサーを使用することは行うべきでない。ミキサーを運転することによって、局所的な水のポケットが形成する可能性がある。ミキサーへの電源が無くなる事態になれば、水はさらに集積する可能性がある。

■ 消火活動が不可能あるいは実質的にできないと判断した場合、油の抜き出し(移送)を推奨する消防士は多い。この理由は、たとえボイルオーバーが目前に迫っていても、ボイルオーバーに巻き込まれる油の量を減らすことができるという考えである。いくつかの会社では、貯蔵タンクを作るとき、底部に勾配をつけ非常水抜出し点に集まるようにしているところがある。これによって、ホットゾーンがタンク底部から3mに達した時、非常水抜出し系を開け、タンク底部からできる限りの水を抜くようになっている。

結 論
■ 製油所や石油化学の会社において、原油や石油ケミカルの大量貯蔵は大きな危険性を内在している。この論文では、貯蔵タンク火災に関する各分類とその事象について説明し、つぎに火災事故の中で最も重大な事項のひとつであるボイルオーバー現象について、タンク底部の水の層や温度境界のような影響因子について論じてきた。ボイルオーバーが起こると、取り返しがつかない損害を被ることになるかもしれない。火災はタンク直径の10倍以上の範囲に拡大することもある。このことは製油所の貯蔵タンクのレイアウトに関する設計の重要性を表している。

■ ボイルオーバーの影響を小さくするための提案として、日常の水抜出し系統について特別な設計を行うという考え方がある。これは、調査によると、ボイルオーバーの現象発生時点で石油ケミカルを安全な場所に移送することはかなり危険だということからである。この提案は、ボイルオーバーの主要因が水の層の存在にあるということに基づいている。さらに触れたことは、火炎構造の分析、貯蔵タンクの局部温度、油の厚さと水の層の比、火災進展速さ、燃焼時のエクスプロージョン音の研究が、ボイルオーバーを予測するために役立ち、場合によってはボイルオーバー発生を回避する手立てにつながるということである。

補 足                                                        
■ 「カシャーン大学」(University of Kashan)はイランのテヘランから約230km南にあるカシャーンにある大学で、1974年に設立され、工学、物理学、数学、化学、芸術、人文科学などの分野に約6,000人の学生が在籍している。

■ 「マイクロエクスプロージョン」(Micro-explosion;微細爆発)は、ボイルオーバー前に起こる微小な水蒸気爆発をいう。ボイルオーバーに至る前の現象で良いイメージではないが、金属の組織微細化や医療品製造など工業分野ではマイクロエクスプロージョンの活用技術が展開され始めている。
 ボイルオーバーの予測方法としてH.S.ホアのグループが研究した内容は、 J. S. Hua, W. C. Fan & G. X. Liao; Study and Prediction of Boilover in Liquid Pool Fires with a Water Sublayer using Micro-explosion Noise Phenomena; Fire Safety Journal 30 (1998) 269-291に掲載されているという。

■ 本論文で燃料の「質量比」(Mass ratio)に関して言及しているが、つぎのような論文が参照されている。
① Fabio Ferrero, Miguel Munoz, Bulent Kozanoglu, Joaquim Casal, Josep Arnaldos, 「Experimental study of thinlayer boilover in large-scale pool fires」, Journal of Hazardous Materials A137 (2006) 1293–1302
② J.P. Garo, J.P. Vantelon, S. Gandhi, J.L. Torero, 「Determination of the thermal efficiency of pre-boilover burning of a slick of oil on water」, Spill Science & Technology Bulletin, Volume 5, Issue 2, May 1999, Pages 141-151
③ J. P. Garo, J. P.Vantelon, H. Koseki, 「Thin-layer Boilover: Prediction of its Onset and Intensity」, Combustion Science and Technology, Volume 178, Number 7, July 2006 , pp. 1217-1235(19)

所 感
■ ボイルオーバーに関する世界の研究について、このように整理してまとめた論文は非常に有用である。

■ 実際の貯蔵タンクの操業部門や消防部門の観点から、参考になる事項はつぎのとおりである。
 ① タンク・ミキサーによるミキシングは行なうべきでない。
 ② タンク底部に溜まった水は、できる限り、抜き出すべきである。消火活動中であっても、水の抜出しを行っても良い。
 ③ 予測のためタンク側板を熱画像カメラで撮っても、信頼性は低いとみておく。
 ④ ヒートウェーブの下降速さは約1~2m/hである。ラフな見込み値としてだけに用いる。
 ⑤ ボイルオーバーによる飛散影響はタンク直径の5~10倍の距離の全範囲に及ぶ。
 ⑥ マイクロエクスプロージョン・ノイズの観測はボイルオーバー予測に役立つ。

■ 消火戦略の観点からいえば、つぎのような考え方ができると思う。
 「原油タンクの全面火災時には、まず攻撃的な消火戦略として大容量泡放射砲などを使用して消火活動を行う。制圧が可能であれば、泡放射を開始してノックダウン時間(20~30分)を経過すれば、火勢が衰えるはずである。しかし、火勢が衰えず、保有する消火資機材では鎮火が困難で、ヒートウェーブの下降速さからボイルオーバーの発生が迫っていると判断すれば、消火戦略を変更する。すなわち、泡放射(水の投入)を停止し、燃え尽きさせる戦略をとる。この際、タンクからできる限り、水を抜き続ける。タンクおよび水排出管の構造から完全に水を抜き出すことができない場合もあり、消防隊などは安全域(タンク直径の5~10倍)に撤退する」

備考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Petrotex.us,  Boilover in Storage Tanks: Occurrence, Consequences and Predictions, (American Journal of
  Oil & Chemical Technologies ISSN Print: 2326- 6570 ; Online: 2326- 6589 Page: 13-21)
           Mojtaba Mirdrikvand, Ali Cheshmeh Roshan, Masoud Mahmoudi
               Research Center; Researcher; Petroleum University of Technology; North Bowarde, Abadan, Iran
               Department of Chemical Engineering‚ University of Kashan ‚ Kashan Iran


後記: スポーツに国境はないと言われます。(ソチ・オリンピックの開会式には主要な欧米首脳が参加拒否しましたが) 今回の論文は、イランのカシャーン大学の人が執筆し、米国の雑誌に掲載されたものです。このような形で国境がないのも好ましいと思いますね。ところで、今回、標題にボイルオーバーの写真を入れようと思って探していたところ、見つけました。かなり昔のものと思われ、セピア色になっていました。そのままでもよいのですが、試しに画像補正のソフトを使って修正してみました。これが本当の色彩かはわかりませんが、素人でも簡単に修正できるようになり、便利ですね。
左;修正前 右;修正後
                                              


 


2014年2月9日日曜日

イングランドのエセックス州で空のタンクから火災

 今回は、2014124、イングランドのエセックス州コリートン旧シェル・ヘイブンの空の貯蔵タンクで保全工事中に起こった火災事故を紹介します。
旧シェル・ヘイブンのタンク火災に出動した消防車両  (写真はThurrockGazette.co.ukから引用)
<事故の状況> 
■  2014年1月24日(金)午後12時50分頃、イングランドのエセックス州にある貯蔵タンクから火災が起こった。事故があったのは、エセックス州コリートン旧シェル・ヘイブンの閉鎖された製油所跡にある空の貯蔵タンクで、保全工事中に小火が起こったものである。
旧シェル・ヘイブンの製油所跡付近  (矢印部が貯蔵タンク群) 
(写真はグーグルマップから引用)
■ エセックス消防署は、午後1時前に、空の貯蔵タンクから火災発生という通報を受け、出動した。
 コリンガム消防支署のジェフ・ウィール支署長は「貯蔵タンクは空で、作業員が保全工事中でした。作業員は鋼製の底板を切断し、溶接作業を行っていたところ、タンク基礎のアスファルト舗装がくすぶり始め、炎が燃え上がったということです。消防隊員は空気呼吸器を装着し、消火剤を噴射して火災を消しました」と語った。


■ コリンガム、オーセット、グレイの各支署から出動したエセックス消防署の隊員は現地のシェル社の消防隊とともに活動し、13時54分、素早い消火に成功した。消火後に残ったホットスポット部は熱画像カメラを用いてチェックを行なった。 

補 足                                                         
■ 「イングランド」は、通常、英国あるいはイギリスと言っているが、正式には「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」である。人口は約6,200万人で、首都はロンドンである。
 「エセックス州」は、イングランドの東部に位置する州(カウンティ)で、人口約167万人、州都はチェルムズフォードである。
 エセックス州では、2013年4月29日、サロックにあるヴォパック社ロンドン・ターミナルで「ディーゼル燃料油タンクの火災事故」が起こっている。
 
■ 「エセックス消防署」は、正式には「エセックス州消防および救助サービス」(Essex County Fire and Rescue Service;ECFRS) で、エセックス地域を管轄する州の消防機関である。管轄地域は 367,000 haで、年間に約25,000件の緊急事故に対応している。職員は1,640名のスタッフ、フルタイム消防士874名と待機消防士479名を擁している。同消防署のホームページには、緊急事故で対応した際の出動車両などの情報を公開している。

■ 「旧シェル・ヘイブン」はエセックス州コリートンのシェル社の製油所があった場所である。製油所は1999年に閉鎖し、2007年に海運会社のDPワールド社に売却された。現在はDPワールド・ロンドン・ゲートウェイ・ポートなどとして使用されている。石油精製プラントは撤去されたが、貯蔵タンクの一部が石油ターミナルとして使用されていると思われる。 グーグルマップから推算すると、直径30m級(容量10,000KL級)の浮き屋根タンクが18基、直径44m級(容量30,000KL級)の浮き屋根タンクが4基ある。
 なお、隣接していたコリートン製油所も2013年に閉鎖されている。
                                                操業時のシェル・ヘイブンの製油所    (写真はFlickr.comから引用)
旧シェル・ヘイブンにある現在の石油タンク・ターミナル
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
旧シェル・ヘイブンにある現在の石油タンク・ターミナル  (上が東方向)
(写真はグーグルマップから引用)
所 感 
■ 火災は、タンク底板の腐食防止のため基礎部に使用していたアスファルト舗装(アスファルトサンド)が燃えたものと思われ、極めて珍しい事故である。建設当初のアスファルト舗装の油分によって火がつくことは考え難いので、底板取替えに伴い、基礎部のアスファルト舗装をやりかえたのでないかと思われる。その際、アスファルト分(油分)が多かったことも考えられる。

■ 石油精製プラントは無くなっても、貯蔵タンクは継続して使用されることが多い。大量の油を保管し、多くの危険要因が潜在している貯蔵タンクを軽視することなく、油断することなく管理していくことの大切さを示す事例である。

備 考
 本情報はつぎのようなインターネット情報に基づいてまとめたものである。
    ・Essex-fire.gov.uk, Small Fire in Empty Storage Tank,  January 24, 2014
    ・ClactonAndFrintonGasette.co.uk,  Fire in Storage Tank at Former Shell Haven,  January 24, 2014 
    ・ThurrockGasette.co.uk, Fire in Storage Tank at Former Shell Haven,  January 24, 2014    
    ・TheEnquirer.co.uk, Fire at Empty Storage Tank in Coryton,  January 25, 2014 



後 記: 空のタンクで火災という情報から、このブログで紹介した「豪州エクソン・モービルの旧製油所でタンク火災」と同様、閉鎖された製油所のタンク撤去工事中に中に残存していた油分による火災かと思いました。しかし、石油精製プラントはすでに撤去されており、一部のタンクが継続して使用されていたものの1基の保全工事中による小火でした。今回、旧シェル・ヘイブンの状況がよくわからなかったのですが、操業時の製油所の写真が見つかり、参考になりました。巨大な製油所のプラントがまったく無くなっており、「夏草や 兵(つわもの)どもの 夢の跡」という芭蕉の句を思い出しました。しかし、これはイングランドだけの話でなく、ここ周南市にある出光興産徳山製油所の石油精製プラントがこの3月で操業をやめます。精製プラントや中間タンクはいずれ無くなり、石油ターミナルとして製品タンクのみになるでしょう。時代の移り変わりを感じますね。
                                                            出光興産徳山製油所                 (写真はSankeibiz.jpから引用)