2015年4月23日木曜日

中国福建省でパラキシレン装置爆発によって貯蔵タンクへ延焼

 今回は、2015年4月6日、中国福建省漳州市にあるテンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の石油化学工場のパラキシレン装置で爆発事故が発生し、敷地内にある中間貯蔵用タンク4基へ延焼するという大きな事故を紹介します。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中国福建省(ふっけんしょう)漳州市(しょうしゅうし)古雷にある石油化学工場のパラキシレン装置および敷地内にある中間貯蔵用タンクである。石油化学工場はテンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社(Tenglong Aromatic Hydrocarbon Company)が所有するもので、パラキシレン装置は2012年に完成し、年間80万トンの生産能力を有している。2013年、試運転後1か月経った7月30日、配管が爆発する事故を起こしている。

■ 発災した貯蔵タンクはタンクNo.607、No.608、N0.609、No.610で、当時、No.607には重質ナフサ約2,000KL、No.608には重質ナフサ約6,000KL、No.609には改質油約1,500KL、No.610には改質油約4,000KLが入っていた。

■ パラキシレンはポリエステル・フィルムなどの原料として使用されるが、可燃性で発がん性のある液体として健康リスクの問題から、中国では以前からパラキシレン装置に対する抗議行動が起こっていた。漳州市のパラキシレン装置は、元々、福建省廈門市(あもいし)に建設予定だったが、2007年の大抗議運動によって現在の漳州市に変更された経緯がある。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2015年4月6日(月)午後6時56分、パラキシレン装置でキシレンが漏洩し、火花によって着火して爆発・火災を起こす事故が発生した。その後、装置に隣接する貯蔵用タンクNo.607、No.608、No.610の3基に引火して火災となった。

■ 4月7日(火)午前9時頃にタンクNo.607とNo.608の火災を消すことができた。タンクNo.610も7日午後4時40分までに消火した。しかし、7日午後7時45分にタンクNo.610が再び出火した。同日午後11時40分に消火した。

■ 4月8日(水)午前2時9分に今度はタンクNo.607が再出火した。当時、現場では風速7級(13.9~17.1m/s)の強風が吹いており、消火活動が困難な状況だったが、8日午後8時45分までに消火した。

■ 8日午前11時5分、3基とは別のタンクNo.609から新たな火災が発生した。高温によってタンク壁が損傷し、1,500トンの油が流出して火災になったものとみられる。タンクNo.609の火災は4月10日(木)午前2時57分に鎮火した。

■ 爆発時、プラント従業員のひとりは、「突然、ビックバンがあり、まわりの人たちは爆発で投げ出されました。怖かった」と語っている。近くの村の住民は、「地震が起ったと思った。家の窓ガラスが砕け散ったよ」と話した。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
事故による被害
■ この爆発・火災によって、当初3名と発表された負傷者数は、その後の確認で14名が負傷し、うち2名は重傷だという。死者は出なかった。(負傷者16名という報道もある)

■ 工場近くの住居の窓ガラスが割れる被害が出ているほか、発災場所から約1km離れたガソリンスタンドの窓が壊れるという被害も出ているという。目撃者の話では、50km離れたところでも爆発の震動を感じたという。テレビやインターネットでは、プラントから立ち昇る火炎の画像や映像が流された。

■ 当局は、事故発生後、古雷の住民に対して半径5km圏外へ避難するよう指示を出したが、タンク3基の約50時間続いた火災が消えた4月8日の報道によると、石油化学工場近くの住民約30,000人が避難していたという。
 
■ 火災が収束したことを受けて、地元政府が避難住民に対して安全宣言を出し、帰宅を促した。ところが、帰宅した住民からは古雷全域で依然として刺激臭が漂っているとの報告が相次いだ。中には吐き気やめまいなどの症状を訴える人も出ているという。このため、避難場所に引き続きとどまる人や、一旦帰宅したものの再び戻ってくる人が続出したという。

■ 火災から生じる煙は風に乗って運ばれ、古雷から南へ3km先の東山県に黒い雨を降らせた。家の壁には黒い雨の流れた跡が残った。火災の影響によって地元の養殖場のタツノオトシゴなどが大量に死んだという。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
< 事故の原因 >
■ 政府の調査では、パラキシレン装置の火災原因について生産プロセスに安全性の問題があったことと、操業管理が不十分だったとしている。詳細な調査が継続されている。

■ 中国工学院メンバーの曹湘洪(Cao Xianghong)氏は、パラキシレン装置内の物質はほとんどが可燃性で、プロセス内の欠陥によって爆発が起こりうるとし、「事故の起った要因は、運転が手順どおり行われなかったことと、設備的な欠陥があったことによる」と語っている。

■ 北京の清華大学・石油化学研究科のウェイ・フェイ(Wei Fei)教授は、テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の施設が適切な緊急事態対応計画をもっておくべきであり、その内容について査察を実施すべきだと語っている。また、業界標準では、主要装置と貯蔵タンク間は一定の距離をとるようになっており、 距離が保たれていれば、火災は簡単に広がることはないと指摘している。

< 対 応 >
■ 事故に伴い、漳州市消防署など各地から829名の消防士と170台の消防車が出動し、4日間の消火活動にあたった。この中には、軍の化学防衛隊も含まれ、火炎との戦いに従事した。

■ 工場内には、砂袋5万個、消火薬剤40トンが運び込まれたほか、工場外にも消火薬剤614トンが準備された。

■ 当局によると、環境保護担当者50名が現場へ派遣され、状況の監視と廃水の収集を行っているという。 411日(土)、福建省環境監視センターの技術者であるシュイ・ヤーさんは、「西寮村にある測定装置から15分前に得られたデータによれば、ベンゼン濃度は/㎥ほどであり、非常に少ない量です。中国における室内のベンゼン濃度の標準値より小さいものです」と語った。地方の当局者は爆発事故にかかわらず環境への被害がなかったとして楽観的な見方をしている。

■ 当局は、事故発生後、住民に半径5km圏外への避難命令を出した。事故時に交通遮断していた道路は、火災の鎮火を受け、通行を再開した。避難していた住民へ安全宣言が出され、飲料水、電気、ガスの供給が行われるようになった。

■ 工場の近くに住む40,000人の人たちに対して、工場から15km離れた場所に移住する計画があるといわれている。工場近くの村の住民は、「2013年に起った最初の爆発事故以降、いつかまた起こるだろうと思っていた」と語っている。
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
(写真はLAtimes.com から引用)
(写真はEn.apdnews.comから引用)
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
                                               タンク番号「607」が読める    (写真はIbtimes.co.ukから引用)
                                           1基のタンクは油面が見える   (写真はEnglish.caixin.com から引用)
(写真はLAtimes.com から引用)
消火泡剤用トートの荷下ろし作業
(写真はIbtimes.co.ukから引用)
避難した住民
(写真はWhatsonxiamen.com から引用)
補 足
■ 「福建省」 (フージエン ション/ふっけん しょう)は、中国南部にあり、人口約3,500万人の省である。海峡をはさんで台湾と向かい合った省で、一部の島は台湾が統治している。沿岸部を中心に台湾からの直接投資が多く、在住する台湾人も多く、経済的には融合が進んでいる。
  「漳州市」 (ヂャンヂョウ シー/しょうしゅう し)は福建省の南部に位置し、人口約約480万人である。「厦門市」 (エメン シー/あもい し)は漳州市の北で隣接する市で、人口約350万人である。
(図はグーグルマップから引用)
■ 「パラキシレン」(p-キシレン)はキシレンの一種で、系統名は1,4-ジメチルベンゼンといい、無色で密度0.86 g/cm3の可燃性液体である。ナフサの改質油あるいはナフサ分解によるエチレンと併産される分解油から抽出または分留されて得られるキシレン、すなわち混合キシレンに10~20%含まれる。パラキシレンは混合キシレンを抽出して得る方法と、混合キシレンに含まれるo-キシレン、m-キシレンの異性化によって得る方法がある。パラキシレンを酸化して得られるテレフタル酸がポリエステルの原料となる。
 「キシレン」は、無色で密度0.87 g/cm3の可燃性液体で、引火点は約30℃で、火災によって刺激性または毒性のガスを発生するおそれがある。

■ 「テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社(Tenglong Aromatic Hydrocarbon Company)は、ドラゴン・アロマティック社(Dragon Aromatics Company)傘下の石油化学会社で、福建省漳州市に建設した芳香族化合物工場を有する。フランスのアクセン社(Axens)と技術供与契約を結んでいる。ドラゴン・アロマティック社は台湾のシャンルー・ドラゴン・グループ(Xianglu Dragon Group)の子会社で、台湾資本といわれているが、実態はよくわかっていない。
漳州市古雷のテンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の工場付近
(写真はグーグルマップから引用)
テンロン・アロマティック・ハイドロカーボン社の発災場所付近(事故前)
(写真はグーグルマップから引用)
■ 発災タンクは、グーグルマップによれば、4基とも直径約30mである。これから推定10,000~15,000KL級のドーム型固定屋根式タンクとみられる。発災時の油量から油面高さを推測し、全面火災の燃焼速度(30~60cm/hと仮定)から燃え尽きる時間(推定)と実際の燃焼時間(火災時間)を比べてみたのが次表である。(発災タンクの番号を発災状況から推定してみたのが下の写真である)

■ 各タンクの火災について考えてみると、つぎのとおりである。
 ● タンクNo.607は一旦消えた後に再出火し、火災時間が長い。タンクNo.607は火災写真に写っており、側板の焼け具合からみると、油面高さは2.8mより高く、油量は2,000KLより多いと思われる。再出火したのは、消えた油面を覆っていた消火泡の供給不足だと思われる。当時、強風が吹いており、泡が片寄りやすい条件にあった。
 ● タンクNo.607の火災写真を見ると、No.607より座屈の激しいタンクがあり、これがタンクNo.608と思われる。報じられている油量(6,000KL)が正しければ、燃焼速度60cm/hで燃え尽きたと思われる。
 ● タンクNo.610は、No.608ほど激しく燃焼しておらず、火災時間がやや長い。No.607とNo.608は屋根が壊れ、全面火災になったものと思われるが、No.610は屋根が全部外れず、火災が制限されたものと思われる。
 ● タンクNo.609は、3基のタンクが発災してから約51時間後に火災になっている。記事によると、「高温によってタンク壁が損傷し、1,500トンの油が流出して火災になった」とあり、おそらくプール火災だったと思われる。隣接するタンク火災の熱によって内圧が上昇し、ドーム型タンク屋根のため、屋根が壊れずに側板と底板の接続部に亀裂が入ったものと思われる。

■ 発災タンクは固定屋根式で浮き屋根式ではなかったが、屋根が外れ、全面火災の様相を呈したタンクがあった。直径30m級のタンク全面火災では、日本の法律でも大容量泡放射砲システムを必要としない。必要泡放射量を10L/min/㎡とおけば、泡モニターの必要放射能力は約7,000L/minとなる。これは大型化学消防車(3,000L/min)の3台分に相当する。

■ タンク間距離は、グーグルマップによると、約14mである。タンク直径(約30m)の0.47倍である。現在の消防法では、タンク間距離を長くとるよう改正されたが、過去にはタンク直径の1/3(0.33倍)でよい時期があった。 

所 感
■ 最近、貯蔵タンクの事故が無いと思っていたら、4基のタンク火災という大きな事故が発生した。発災源のパラキシレン装置はいろいろ問題点があるが、貯蔵タンク火災として見ても、参考になる点がある。

■ ドーム型固定屋根式タンクの構造上の問題点が出たという印象である。
 ● フレームアレスター付きのブリーザーベントが付いていたと思うが、4基中3基まで引火しており、規模の大きい火炎に対しては機能しないことが再確認された。
 ● 引火・爆発した場合、ブリーザーベントではガスを放出できず、ドーム屋根が噴き飛ぶことがある。
 ● 高温の輻射熱に曝されると、ブリーザーベントではガスを放出できず、内圧が上昇し、側板と底板の接続部(溶接)に亀裂が生じる可能性がある。
 ● 重質ナフサを灯油に近いと考え、ドーム型固定屋根式タンクを選んだものとみられるが、やはり浮き屋根式タンクを選定すべきだった。標題の写真を見ると、火災タンクに隣接する浮き屋根式タンクは発災していない。(浮き屋根式タンクの側板には爆風による影響跡が見られ、エアフォーム・チャンバーから泡が放出されているので、リムシール火災が起った可能性はあるが、大きな火災には至らなかった)

■ 消火活動についてはつぎのとおりである。
 ● 直径30m級のタンクで全面火災になれば、大型の消防車による泡放射で消火は可能だと思われる。(消火活動の写真を見る限り、大容量泡放射砲は使用されていない) 
 ● しかし、タンク側板が大きく座屈し、ほとんど燃え尽きたタンクもあり、消火はかなり難航した。大容量泡放射砲システムがあれば、もっと早く消火できたであろう。
 ● 一旦、消火しても再出火しており、泡張り込みの継続が必要だった。

■ 主要装置とタンクまでの保安距離やタンク間距離は、各国とも大きな災害を経験して、長くとるようになった。今回の事例を受けて、中国でも保安距離やタンク間距離に関する議論が出ると思う。当該石油化学工場は最新の施設であるが、他の国の失敗事例がなかなか活かされないことを痛感する。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・English.sina.com, 3 Injured in Chemical Plant Blast in E China,  April 06, 2015  
    ・Latimes.com,  Massive Fire Puts Spotlight back on Chinese Chemical Plants,  April 08, 2015   
    ・News.iafrica.com, China Evacs 30000 after Chemical Fire,  April 09, 2015   
    ・CNCnews.com, Chemical Plants Fire Put out,  April 09, 2015
    ・Firenews.com,  Zhangzhou Gulei Fourth Tank Fire,  April 09, 2015   
    ・Wantchinatimes.com,  Explosion in Fujian Paraxylene Plant Displaces 30000,  April 11, 2015  
    ・Ecns.cn, Pollutants Monitoring Continues Days after Chemical Plant Blast,  April 12, 2015   
    ・Whatsonxiamen.com, 40,000 People Relocated after Zhangzhou PX Plant Blast,  April 13, 2015  
    ・English.caixin.com, Latest Blast at PX Plant in Fujian Rekindles Public’s Worries,  April 15
    ・Asahi.com,  中国・福建省の化学工場で爆発 6人けがの報道,  April 07, 2015
   ・J.people.com,  福建省漳州古雷でパラキシレンの漏洩・火災事故,  April 07, 2015
    ・Jp.Reuters.com,  福建省の化学工場爆発事故、収束宣言も住民から不安の声,  April 13, 2015



後 記: 大きな事故だったので、海外だけでなく、日本でも(?)結構、報道されています。今回は情報過多という感じでした。 しかし、パラキシレン装置の建設について抗議活動や論争を生んでいるところに、事故が起ったこともあり、パラキシレン装置や台湾資本に関する話題の記事が大半でした。また、発災翌日くらいまでの報道が多く、4日間のタンク火災の状況を報道した記事は少なかったですね。
 一方、中国の報道の中で感心するのは、写真が多いことです。地方政府や事業者から発信される情報が少ないためでしょう、写真でカバーしようという意欲を感じます。今回も発災写真が大いに参考になりました。ただ、時間がわからず系統だっていないため、写真をよく吟味する必要があります。ながめていると、ふっと見えてくることがあります。


2015年4月15日水曜日

千葉県野田市の廃油処理施設の爆発事故(2013年)

 今回は、貯蔵タンクに直接関係する事例ではありませんが、2013年11月15日、千葉県野田市のエバークリーン社の廃油処理施設で起った爆発・火災事例を紹介します。
(写真はNHKニュース映像から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故のあった廃油処理施設は、千葉県野田市にあるエバークリーン社が所有する廃油を回収して処理する再生プラントである。廃油回収から処理して再生するまでの流れは図を参照。
(図はエバークリーン社ウェブサイトから引用)
■ 発生場所は廃油蒸留施設であり、本施設の流れの概要はつぎのとおりである。
 ① 廃油タンクローリーで回収されてきた廃油をキャノピー(屋根付き入荷所)で受け入れる。
 ② キャノピーから受け入れた廃油は大きな不純物を除去され、受入れ原油地下タンクに入り、更に、受入れ原油タンクに入る。
 ③ 受入れ原油タンクから、廃油蒸留プラントに入った廃油は70℃前後に熱せられ、マイクロセパレータで遠心分離処理を行う。
 ④ 85℃前後に熱せられ、PX油清浄機で遠心分離処理を行う。
 ⑤ 95℃前後で、蒸留缶によって蒸留処理を行う。
 ⑥ 最終的に蒸留による水分、軽質油、再生重油となる。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2013年11月15日(金)、午後3時50分頃、操作室にいた従業員が、普段はしない強い有機剤のような臭いに気づいた。さらに、2階機械室内の床面付近に霧のようなものが漂っているのを確認した。この異常を感知したことから、通常の停止操作の手順をとっていたところ、午後4時08分、爆発が発生し、火災となった。

■ 事故発生に伴い、野田市消防本部および他地区の消防署が出動し、約1時間の消火活動の結果、同日午後5時10分に鎮火した。
(写真は4Uinfomation.blog.so-net.ne. jpから引用)
事故による被害
■ この爆発によって、従業員2名が死亡し、9名の負傷者(うち重傷者2名)が出た。爆発の規模が大きく、影響は構外へ及び、13名の負傷者(うち重傷者2名)が出た。 (消防庁発表)
 
■ 爆発の影響は最長で南方向2.3km地点で被害が発生し、近隣企業51事業所の建物86棟が破損した。また、住宅は最長北西方向2.7km地点で被害が発生し、14件の破損(窓ガラス8割程度破損2件、天井板破損1件、窓ガラス数枚破損2件、窓ガラス1枚破損7件、軽微な壁面の破損2件)した。

< 事故の原因 >
■ 事故の直接原因は、ガソリンと軽油の混合物が9,900リットルと大量に投入され、加熱工程で揮発濃度が高まり、そのガスに何らかの原因により着火して爆発したものと推測される。

■ 間接原因としてはつぎの要因があった。
 ● 廃油処理施設の消防法への届出は第四類第2石油類(灯油、軽油など)までで、ガソリンなどの揮発油類(第四類第1石油類)は届けられていなかった。
 ● ガソリンは会社として回収できないとしていたにもかかわらず、ガソリンを回収した。
 ● 過去にガソリンを含む廃油を処理した経験があった。
 ● 排出事業者(自動車解体業)は回収対象物を「廃油」とのみ言い、ガソリンを含むことを伝えなかった。
   回収担当者は、ガソリンが多く含まれたものであったも、有価物であれば扱えるとの認識によって、絶対に回収してはいけないという認識は乏しかった。

< 対 応 >
■ 事故に伴い、野田市消防本部(13隊)、その他広域応援協定により茨城西南広域消防本部(2隊)、 吉川松伏消防組合(2隊)、春日部市消防本部(1隊)及び柏市消防局(2隊)、計17 隊並びに野田市消防団4台32人が消火活動を実施した。

■ 11月18日、消防庁(危険物保安室)は、つぎのような主旨の「廃油処理施設等における事故防止対策の徹底について」(平成25年11月18日消防危第195号)を各都道府県消防防災主管部長宛に通知した。
 ● 廃油処理施設では、多数の事業所から廃油が回収され、ともすると許可品名以外の低引火点の廃油の混入するおそれがあることから、廃油の受入れ時の品質管理の徹底が必要である。
 ● 廃油処理施設では、危険物の加熱・加圧を行なう廃油精製工程や油水分離工程の設備については運転時の適切な監視・制御を行なうとともに、日常点検や定期検査による適切な維持管理を行うこと。
 ● 異常発生時の緊急停止作業や応急対応について、作業手順の再確認を行い、従業員への周知し、訓練によって徹底すること。

< 再発防止策 >
■ 廃油回収タンクローリーから廃油処理施設への受入れ前に引火点分析を行なう。

■ 分析によって引火点の低い油類が検出された場合、廃油処理施設への受入れを禁じる。

< メディアによる報道 >
20131116日 47News 「爆発火災“直前にガソリン臭” 千葉県警など現場検証」
 ●千葉県野田市の廃油精製工場「エバークリーン千葉リサイクルセンター」で、作業員2人が死亡した爆発火災で、重傷を負った作業員が「爆発直前に蒸留施設内でガソリンが気化したような臭いがしていた」と話していることが16日、県警への取材で分かった。
(写真は47news.jpから引用)
20131116日 日経新聞 「廃油精製工場で爆発、2人死亡16人負傷 」
 ● 運営するエバークリーン(東京)によると、爆発があったのは廃油の蒸留施設で、エンジンオイルを精製する作業をしていた。県警は作業手順などに問題があった可能性があるとみて、業務上過失致死傷容疑も視野に詳しい原因を調べる。
 ● 加藤栄作社長は15日夜、本社で記者会見し「(廃油の)遠心分離機から煙が発生し、緊急停止の作業をしたところ爆発した。近隣住民の皆さまにおわびを申し上げる」と謝罪した。同社によると、施設は廃油を集めて不純物を取り除き、蒸留して再生油にリサイクルしていた。
 ● 爆発の衝撃で屋根や壁が吹き飛び、数百メートル離れた場所でも窓ガラスが割れるなどの被害が出た。火災は約1時間後に鎮火した。約600メートル離れた野田市立山崎小学校は窓ガラスが破損。児童らにけがはなかった。

20131117日 千葉日報 「ガス充満し引火か 重軽傷者18人に」
(写真はChibanippo.co.j pから引用)
 ● 野田市の廃油精製工場「エバークリーン千葉リサイクルセンター」で2人が死亡した爆発事故で、県警は同市消防本部とともに現場検証を始めた。県警などによると、同施設はガソリンスタンドや車用品店などから回収したエンジンオイルの廃油から不純物を除去して、ボイラーなどの燃料を製造。作業員は「蒸留施設の遠心分離機から煙が出て、設備を止めたところで爆発した」と話しており、県警は施設内に何らかのガスが充満し引火した可能性があるとみて、業務上過失致死傷の容疑で詳しい原因を調べる。
 ● 爆発で、いずれもエバークリーン社作業員の増田一夫さん(52)と飯田賢治さん(50)が死亡し、59歳と36歳の男性作業員2人が重傷を負った。他に同工場や隣接する別の工場の作業員らも負傷した。県警によると、新たに2人の軽傷者がいたことが判明し、重軽傷者は計18人となった。

20131118日 千葉日報 「揮発性高い油混入? 重傷作業員“現場にもや” 」
 ● 野田市の廃油精製工場「エバークリーン千葉リサイクルセンター」で2人が死亡した爆発事故で、エバークリーン社が爆発当日の15日に通常のエンジンオイルとは異なる揮発性の高い油を回収し、施設内で精製していた可能性があることが17日、同社への取材で分かった。重傷を負った作業員は「作業現場がもやがかった感じがしたので、窓を開けたら爆発が起きた」と同社に説明しているという。
 ● 同社によると、爆発事故を受け13~15日の廃油の回収記録を調査した際、15日に回収した廃油について、ガソリンとみられる油が混入していた可能性が出てきたという。ガソリンは爆発事故があった施設で取り扱われることはなく、通常は別の施設で処理される。

補 足
■ 「エバークリーン㈱」は、再生油の製造・販売、産業廃棄物の収集・運搬およびリサイクル業を営み、従業員約270名の企業で、主に東日本を中心に活動を展開している。 1973年に創業し、千葉県野田市に関東汚泥処理センターを設立し、その後、何度か社名を変え、2003年にエバークリーン㈱と改称し、2013年には本社を東京都千代田区に置いた。1981年に再生重油の精製設備を設置して廃油処理を手掛け始めた。
 なお、事故のあった施設は取り壊し、隣接地に新たな千葉支店新廃油処理施設を設置し、2015年1月から稼働している。
(写真はグーグルマップから引用)
復旧したエバークリーン社千葉支店の工場
(写真はエアバークリーン社ウェブサイトから引用)
■ 消防法では、液体燃料について危険物第四類として分類し、さらにつぎのように区分している。
 ● 第1石油類: 引火点が21℃未満のもの。ガソリン、ベンゼン、トルエンなど。
 ● 第2石油類: 引火点が21℃以上70℃未満のもの。灯油、軽油など。
 ● 第3石油類: 温度20℃で液体であって、引火点が 70℃以上 200℃未満のもの。重油など。
 ● 第4石油類: 温度20℃で液体であって、引火点が 200℃以上 250℃未満のもの。潤滑油(ギヤー油、シリンダー油、タービン油)など。

■ エバークリーン社の廃油処理施設は、「蒸留施設」と「微粉砕・ろ過施設」に分かれている。「蒸留施設」は第3石油類を処理でき、「微粉砕・ろ過施設」は第1石油類を処理できる施設として許認可を得て設置された。しかし、「微粉砕・ろ過施設」の届出は第2石油類までだった。 「蒸留施設」と「微粉砕・ろ過施設」の流れは図を参照。
 一般に第1石油類を除く廃油の再生処理は遠心分離機を用いる方法で行われている。廃油の種類を限定し、廃油の再生は固形不純物と水分の除去に特化しているためである。廃油再生処理工程の例を図に示す。エバークリーン社の廃油処理施設は、マイクロセパレータと称する遠心分離機およびPX油清浄機と称する遠心分離機による遠心分離処理を行なった後、蒸留缶による蒸留工程をとる方法がとられている。このことはかなり広範囲の石油類の廃油を前提に設計されたものと思われる。
 なお、エバークリーン社千葉支店に2015年に設置した新廃油処理施設は、加熱工程や遠心分離を加工を得ることなく、廃油を再生する方法だという。
                          蒸留施設   (写真はエバークリーン社ウェブサイトから引用)
                          微粉砕・ろ過施設   (写真はエバークリーン社ウェブサイトから引用)
                           一般的な廃油処理施設の例   (図はIwanokouyu.co.jpから引用)
■ エバークリーン社は、当該事故について「千葉支店廃油処理施設 火災事故調査報告書」を20149月にまとめ、「要約版」を同社ウェブサイトに公表している。
 また、㈱安全マネジメント研究所による「再発防止策と改善進捗状況について(検証)」を2015年1月にエバークリーン社ウェブサイトに掲載している。事故調査報告書(要約版)を補完するような内容はつぎのとおりである。
 ● 直接原因は、廃油蒸留施設に投入できないガソリンと軽油の混合物である低引火点油類を投入してしまい、精製過程において気化した可燃性ガスに引火して爆発に至ったことが推定されている。廃油回収作業においてどのような過程で、どのようにして低引火点廃油を回収することになったのか、どうして入れることができない蒸留施設へ投入したのか、現場を中心に調査を行い、それに対しての対策策定作業を行っている。(注;内容は掲載されていない)

 ● エバークリーン社では、事故要因の背後要因として、つぎのようなリスクが存在しているとの認識を深めたうえで、対策を立案している。
  ① 廃油を排出する事業場では、第3石油類の廃油に第2石油類(灯油や軽油)や第1石油類(ガソリンなど)の低引火点廃油が混入する可能性がある。
   ② 廃油回収をする企業が、回収の都度、回収現場で引火点を測定することは技術的および現実的に不可能である。
   ③ 廃油を排出する事業者が自ら引火点測定を実施してから廃油を回収させることは現実的でない。
 
 ● この対応としてつぎのような方法をとることとした。
  ① 回収タンクローリーから廃油蒸留施設への荷卸し段階で、回収廃油の引火点検査を行う。
  ② 引火点検査の所要15分間、タンクローリーは待機し、検査合格通知で荷卸しを開始する。
  ③ 70℃を下回る引火点が検出された場合には、本廃油蒸留施設への受け入れを禁止する。当該タンクローリーは別工場の受入れ可能施設へ転送する。

■  当該事故の法令違反上の措置は、2015年1月9日千葉支店従業員5名が業務上過失致死傷の疑いで千葉地方検察庁に書類送検された。その後、2015年3月31日、このうちの2名について 刑事起訴処分が発表された。本件に関するメディアの報道はつぎのとおりである。

2015110日 産経新聞 「野田の工場爆発5人書類送検 ガソリン無許可で処理疑い」
 ● 野田市の廃油精製工場「エバークリーン千葉支店」で2013年11月に発生した爆発事故で、業務上過失致死傷の疑いで県警が書類送検した当時常務だった男(46)らは、工場の業績を上げるために無許可で業者からガソリンを含む廃油を回収していた疑いが強いことが9日、県警の発表で分かった。
 同容疑では5人が書類送検された。工場では、遅くとも2011年頃にはすでに無許可でガソリンを含む廃油の回収を始めていたことも捜査で判明。元幹部らは県警に対し「回収量が増えれば工場の業績が上がるため、利益目的で行っていた」と述べたという。
 ● 県警によると、事故当日の2013年11月15日は、廃油を検品する担当者が休みで、安全確認が不十分なまま、蒸留施設のタンクに市原市の業者から回収したガソリンが混ざった廃油が流し込まれた。その後、廃油の不純物を除去する過程で気化したガソリンが充満。換気しようとした際に静電気が発生して引火したとみられている。

2015115日 千葉日報 「ガソリン含む油処理原因 千葉県警、実験重ね立件 野田の工場爆発」
 ● 発生から約1年2か月、地域を震撼(しんかん)させた大事故の原因が明らかになった。県警は再現実験を重ねて揮発性の高いガソリンを含んだまま処理しようとしたことが原因と断定、9日、工場の運営会社5人の立件に踏み切った。
 ● 業務上過失致死傷容疑で書類送検されたのは工場運営会社「エバークリーン」の当時の常務(46)や千葉支店長(43)ら5人。書類送検容疑は2013年11月15日、市原市の取引先業者から回収した廃油約10,000リットルに、施設では扱えないガソリンが含まれているのを知りながら納入。不純物を除去する作業中に爆発を引き起こして、50代の男性作業員2人を死亡、施設や周辺にいた21人に重軽傷を負わせた。

2015331日 NHK「精製施設の爆発事故 元役員ら2人を起訴」
 ● 2013年、千葉県野田市の廃油の精製施設で爆発が起き、2人が死亡、20人がけがをした事故で、千葉地方検察庁は、施設を経営する会社の元役員ら2人を業務上過失致死傷の罪で起訴し、当時の従業員3人を起訴猶予にした。
 ● 警察は、ガソリンが混ざった廃油を許可なく処理したなどとして、2015年1月、会社の当時の常務や支店長ら5人を業務上過失致死傷などの疑いで書類送検していた。千葉地方検察庁は、このうち、元常務らを業務上過失致死傷と労働安全衛生法違反の罪で起訴した。一方で、当時の従業員3人については「刑事責任を問うのは相当ではない」として起訴猶予にした。
 ● 法人としてのエバークリーン社については、労働安全衛生法違反の罪で起訴し、消防法違反の罪では嫌疑不十分で不起訴にした。

■ 廃油処理施設の事例には、今回の事故と同様、軽質油を含んだ廃油を処理しようとして爆発や火災になった事故がある。
 ● 「廃油再生工場で軽質油が蒸発し爆発・火災」 (失敗知識データベース)

所 感
■ 事故の印象は、英国バンスフィールド火災(2005年)の爆発事象「タンク過充填によってオーバーフローしたガソリンの蒸気雲爆発」に似た状況だったように感じる。爆発の規模からみると、かなりの量のガソリンベーパーが放出されたものとみられる。廃油原料はガソリンと軽油の混合液とされているが、ガソリンの割合が相当多かったものと思う。
 廃油は再生処理工程に入り、70℃、85℃、95℃と加熱されて遠心分離で攪拌が行われ、マイクロフィルターだけでなく、開放系の中間タンクなどからガソリンベーパーが多量に放出し、蒸気雲となって流れていたものと思われる。蒸留缶などは設計以上の軽質油が供給・加熱され、異常運転の状態だったと思う。発火源は静電気という説が出ているが、ガソリンの引火点は「21℃未満」でなく、-43℃の高引火性である。ガソリンベーパーの蒸気雲が漂っている中では、静電気だけでなく、まわりの電気機器によって容易に引火する。
 (「英国バンスフィールド火災(2005年)」は、当ブログ「最近の石油貯蔵タンク火災からの教訓」を参照)

■ 事故を起こした廃油処理施設は蒸留方式で広範囲の油類を前提にした施設だったと思われるが、設計者の意図と操業者の使用方法に齟齬(そご)があった。ガソリンを含む廃油を再生するには、当該施設のような開放系でなく、製油所の蒸留装置のように密閉系にしなければならない。中質油を含む廃油の処理が可能な施設を選定したことが間違いのもとで、ガソリン量の多い廃油でも処理できるという思い込みが生まれたものとみられる。発災日までたまたま事故にならなかっただけで、いつかは起こるべき事故だったといえる。

備考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Everclean.jp, エバークリーン㈱千葉支店廃油処理施設火災事故調査報告書(要約版),  January 30, 2015  
    ・Everclean.jp,  事故再発防止のための改善進捗状況について(検証),  January 30, 2015   
    ・Fdma.go.jp, 千葉県野田市工場火災(第6報),  December 05, 2014  
    ・Nikkei.com , 廃油精製工場で爆発、2人死亡16人負傷 ,  November 16, 2013
    ・47news.jp ,  爆発火災「直前にガソリン臭」 千葉県警など現場検証,  November 16, 2013   
    ・Chibanippo.co.j p,千葉日報 「ガス充満し引火か 重軽傷者18人に ,  November 17, 2013   
    ・Chibanippo.co.j p, 揮発性高い油混入? 重傷作業員「現場にもや」 ,  November 18, 2013   
    ・Chibanippo.co.jp , ガソリン含む油処理原因 千葉県警、実験重ね立件 野田の工場爆発,  January 10, 2015  
    ・Sankei.com , 野田の工場爆発5人書類送検 ガソリン無許可で処理疑い,  January 10, 2015
    ・NHK.or.jp ,精製施設の爆発事故 元役員ら2人を起訴, March 30, 2015


 後 記: 今回の事故を紹介しようと思ったのは、この4月初めに事故の責任者が起訴されたというニュースを知ったからです。この事故は、当時、大きく報道されましたし、タンクに関連しているという報道もあったことから記憶していました。調べてみると、事故の調査結果が当該会社からすでに公表されていましたし、まとめるのは容易だろうと思っていたところ、簡単ではありませんでした。調査結果が要約版のため、疑問点が多くあり、インターネットで調べても、当時の報道記事を含めていろいろな情報が出てくるのですが、肝心の答えになるようなものが少なく、考えをめぐらすことになったためです。
 いったいどのくらいの量のガソリンベーパーが爆発に寄与したのだろうか、バンスフィールド事故では爆発の過圧力の影響は爆発点から2km離れたところで感じたというのに対して、今回の事故では2kmを超える場所でも被害が出ているといいます。破壊状況(被害解析)から爆発の過圧力の推定ができるだろうにと想像が膨らんでいきました。裁判が絡んでいるだけに、やや曖昧な情報内容に疑問を残しつつ、まとめることになりました。


2015年4月8日水曜日

フランスのアスファルト製造所で添加剤タンクが爆発(2002年)

 今回は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省)がまとめているARIA(事故の分析・研究・情報)の中のひとつで、2002年、フランスで起きた「潤滑油・瀝青材精油所における添加剤タンクの爆発」( Explosion of an additive tank in a oil and bitumen refinery )の資料を紹介します。
< 製造所の概要 >
■ 事故のあった製造所は、フランスのノール県ダンケルクにあり、1950年代初期に建設された。施設は、石油精製装置の常圧蒸留残渣および水素化分解残渣から基油(ベースオイル) 、瀝青材(アスファルト)および派生製品を生産しており、従業員は260名である。
 施設の特徴は、工業用ブラスト・タイプ瀝青材の生産装置、舗装用アスファルトとポリマー改質アスファルト生産装置を有しており、特別な添加剤を使用している。原料と添加剤は現場に貯蔵され、使用時に混合される。

< 事故の状況および影響 >
事故の発生
(写真はARIA資料から引用)
■ 2002年5月18日午後3時30分、瀝青材タンク地区にある瀝青添加剤タンクで爆発が起きた。タンクの屋根が噴き飛んだ後、近くに落ちた。火災が起こり、炎が10mの高さまで上がった。社内の非常事態対応計画が実施された。爆発に伴って出動した消防隊は、消火ノズル2台を使用して、10分後には火災を制圧した。

■ 公設の消防署が到着したときには、特に活動する必要はなかった。県は午後440分に類別施設検査官へ連絡した。郡によってまとめられたプレス・リリースが、同日、地方の報道機関へ送られた。

事故による被害
■ 事故による被害者はなく、施設の被害も、タンク自体を除けば、限定的だった。物的損害は発災タンク関係に限定され、事業所による推定損害額は50万ユーロ(65百万円)だった。

■ 事故当時、風は地元の住居地区の方向に吹いておらず、桟橋の方に吹いていた。火災によって失われた原料の量は1KLとみられる。タンクに残った添加剤は別の受取り先へ移送された。消火泡と混ざり合って使い物にならなくなった添加剤は、別の工場で処理された。

■ 事故を起こした添加剤は、現場の発災タンクのみで貯蔵されていた種類だったので、事故に伴い、この関係の製品の注文はキャンセルされた。しかし、この生産量は所内の全生産量に対してわずかな割合だったので、施設における通常の操業に支障が出ることはなかった。 

欧州基準による産業事故の規模
■  19942月、セベソ指令を司るEU加盟国管轄庁の委員会は、事故の規模を特定するために18項目のパラメーターを用いる評価基準を適用した。わかっている情報をもとに検討された結果、当該事故は4つの分類項目に対してつぎのように評価された。
■ タンク爆発に伴う影響が限定的だったため、「危険物質の放出」はレベル1と評価された。
 事業者によって出された設備の被害額から、「経済損失」はレベル1相当に該当する。
 
< 事故の原因 >
■ 出火したタンクには、瀝青材(アスファルト)を製造するための添加剤が入っていた。添加剤は高い引火点のポリマー2種から成っていた。タンクは直径6m×高さ6.5mで、貯蔵能力は185KLだった。貯蔵能力を重量で表すと140トンで、発災時、タンクはほぼ満杯だった。

■ タンクには攪拌機と加熱コイルが設置されており、添加剤を150℃の一定温度に保持している。当該温度より低いと、添加剤の粘度が高くなり、ポンプでの移送ができなくなる。設備の安全性の観点から、タンクには、温度指示計、窒素導入システムおよびベントが設けられていた。温度指示値は計器室コンソールで読むことができた。タンクは185㎥より大きい容量の防液堤内に設置されていた。

■ 事故後の調査で分かったことは、問題の添加剤を構成していた2種のポリマーが、貯蔵温度より低い温度で分解したということである。最初、引火点が50℃より低い物質への分解と、引火点が0℃より低く、可燃性の高いモノマーへの分解が起る。つぎに、可燃性の高いガスが放出する。

■ 事故の発端は、添加剤の2つの構成要素のゆっくりした分解と空気の存在によって、有機過酸化物または自然発火し得る物質が生成したことである。この物質は長い時間をかけて蓄えられ、大量の静電気を蓄積していった。この背景には、事故へ至るまでの何か月間かは、ほとんど添加剤は使われず、貯蔵されたままだった。窒素のフラッシングだけでは、タンクへ入り込む空気を防止するには不十分だった。

< 対 応 >
■ 事故に伴い、検査官の提案に従って、知事は、事業者に対してつぎのような緊急指示書を出し、条項を守るよう要請した。
 ● 詳細な事故報告書を8日以内に提出。(発災物質、貯蔵条件、事故の状況、事故原因に関する仮説・・・)
 ● 事故の原因調査報告書を1か月以内に提出。(爆発の原因、再発防止策の提案) 
 ● 原因と対策がはっきりするまでの間、当該添加物の調達を即時中止。

■ 事業者から提示されたいろいろな要因について検討が行われ、検査官が知事に提案したことは、問題の添加剤を貯蔵タンクに入れて使用するに当たっては、つぎのような安全設備を追加することが条件ということであった。
 ● 貯蔵期間にかかわらずポリマーの熱分解を防止するための自動温度制御。(最高制限温度で遮断) 
 ● 添加剤温度の連続測定装置(直接計測または間接計測)。 計器室に“高レベル”警報を設置。
 ● 攪拌機のモーター電流の連続計測。計器室には遠隔の異常警報を設置。
 ● 加圧制御方式による窒素不活性システム。
 ● タンクのガス雰囲気の連続測定装置。計器室に“低レベル”警報を設置。
 ● 空気の流入を防ぐバルブ型ベント・システム、または同等の機能をもつシステム。(フレームアレスター付きブリーザー弁、・・・)
 
■ 要求された設備を設置した後、事業者は事故前よりも低い温度で添加剤の貯蔵を再開した。

< 教 訓 >
■ 外れやすくした屋根によって底板部が破損することがなく、大量漏洩の事態を回避することができた。

■ 事故原因の調査によって、リスク評価が不十分で、設備的にいくつか足らなかったことがはっきりした。不足していた設備は、自動温度調節、攪拌操作の温度調節装置、窒素不活性装置、その他の付属装置(ベント、ガス雰囲気の圧力計測器、・・・)

■ 当該添加剤のタンク事故の原因が明らかになって、事業所は他の貯蔵タンクについて確認を行なった。その結果、最新の貯蔵条件において熱分解を生じるような製品は無いことが分かった。破損した添加剤タンクと同種の特性を有し、フラッシング型窒素導入システムの付いた可燃性液体貯蔵タンクが他に現場にないか調査し、該当タンクについて、事業者は安全設備を追加するようにした。

補 足
■ フランスのノール県にある「ダンケルク」は、フランス本土最北端に位置し、ベルギー国境から約10kmのところにあり、人口約71,000人の港湾都市である。フランス北部における工業都市であり、鉄鋼、製油、造船、化学工業、食品加工などがある。
 フランスには12箇所の製油所があったが、最近3箇所が閉鎖し、現在は9箇所となっている。ダンケルクには、トタール社(Total)のフランドル製油所(Flandres Refinery)があったが、閉鎖している。

■ 発災事業所は、製油所の近くにある潤滑油および瀝青材(アスファルト)を専門に製造する工場だとみられる。ダンケルクには、このような潤滑油と瀝青材の生産を専門とするSRD社(Société de la Raffinerie de Dunkerque)がある。潤滑油は年間28万トン、瀝青材(アスファルト)は年間30万トンを製造している。従来、 SRD社のオーナーはエクソンモービル社とトタール社だったが、2010年、フランスの舗装会社であるコーラス社(Colas)が買収し、現在はColasグループの傘下になっている。
                 フランスのダンケルクにあるSRD社の事業所   (写真は同社ウェブサイトから引用) 

■ 製造所には、工業用ブラスト・タイプ瀝青材の生産装置、舗装用アスファルトとポリマー改質アスファルト生産装置があると記載されているが、「工業用ブラスト・タイプ瀝青材の生産装置」の詳細はわからない。「ポリマー改質アスファルト」は、改質アスファルトの一種で、SBS(スチレン系熱可塑性エラストマー)などのポリマーを使用したもので、日本でも多くの種類が製造されている。アスファルトに関する基礎知識は、日本アスファルト協会の「入門講座」を参照。
                 ポリマー改質アスファルトの製造の流れの例    (図はAskyo.jpから引用)
■ 「有機過酸化物」とは、分子内に酸素ー 酸素(- O - O -)結合を少なくとも1個持っている有機化合物の総称である。有機過酸化物は、酸素-酸素という過酸化結合を有するため、熱に敏感、分解時に熱を発生、分解により遊離基(フリーラジカル)を発生、異物に敏感、分解時にガス(分解生成物)を発生し、ミストを形成する場合があるなどの特性をもっている。この特性を利用して重合開始剤、硬化剤、架橋剤などに使用されるが、有機過酸化物は自己促進分解を起こさないよう、温度管理、密封性、異物に関して細心の注意が必要な物質である。有機過酸化物の基礎知識は、日本有機過酸化物工業会の「有機過酸化物の特性と安全対策」を参照。
 有機過酸化物による火災事故は多く、事例として「貯蔵中の有機過酸化物の自然発火」(失敗知識データーベース)や「有機過酸化物の火災事故の調査と対策」(Safety & Tomorrow No.91,2003年3月)で紹介されている。

■ この資料では、タンクに窒素が導入されたシステムを「窒素不活性システム」(Nitrogen Inerting System)と呼んでいる。このシステムは、さらに「フラッシング型窒素導入システム」( Flushing Type Nitrogen Sytem)と「加圧制御方式による窒素不活性システム(Nitrogen Inerting System based on A Pressurerisation Slaving and Control System)に分けている。
 単に窒素を定量で流している場合、タンクの息継ぎや出荷時において空気が流入する可能性がある。フラッシングだけのシステムは、日本でも「窒素シール」と称することがあるが、実際にはシール(密封)されておらず、今回のような酸素の存在が異常反応に至る恐れがある場合は、問題のあるシステムとなる。

■  「フランス環境省 : ARIA」(French Ministry of Environment : Analysis, Research and Information on Accidents)は、フランス環境省(現:フランスエコロジー・持続可能開発・エネルギー省 French Ministry of Ecology, Sustainable Development and Energy)がフランスにおいて発生した事故について情報を共有化し、今後に活用するため、1992年から始めた事故の分析・研究・情報のデータベースである。有用な海外事故も対象にしている。

所 感
■ 瀝青材製造のための添加剤が有機過酸化物(または自然発火し得る物質)になり、爆発したという事例であるが、肝心の添加剤の名が書かれていないので、一般的な事例紹介になっている。瀝青材製造の特許に関わるためなのかわからないが、事故事例を活かす観点からすれば、添加剤名を明らかにして再発防止に役立つ内容にしてもらいたかった。また、添加剤タンクが設置されてから相当の期間が経過していると思われ、発災へ至る変化点があったのではないかという疑問にも答えてほしかった。

■ 今回の事例で参考になることは、資料の「教訓」の項と重なるが、つぎのふたつである。
 ● 設計段階でのリスク評価が大切であること、そして運転時には危険予知の感性が必要である。
 ● コーンルーフ式タンクの屋根は放爆構造(接続を弱める)になっていることを確認する。
 これらは、いわゆる常識的な話である。しかし、逆にいえば、基本的なことをきちんと実行することによって事故を回避したり、被害を最小にすることができるということを再認識する事例だといえる。

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Aria.development-durable.gouv.fr, Explosion of an additive tank in a oil and bitumen refinery,  May 18, 2002,
Dunkerque [Nord],  France,  DGPR / SRT / BARPI - IMPEL- No. 22459, Sheet updated: February 2008 



後 記: 今回のARIAの資料は、前回のイタリアの事故と同様、国によってまとめ方の差が感じる事例のひとつです。タンク屋根が噴き飛んだだけという被害が小さかった(?)ため、内容はあっさりしているという印象です。貯蔵タンクの事故としては稀な部類に入る事例として紹介しました。
 ところで、地元、山口県周南市の情報です。出光徳山製油所の旧佐保充填所(アスファルトと硫黄の出荷設備)の跡地にスーパーマーケットができます。敷地を広くとるため、スポーツクラブが道の反対側に移転し、残っていた建物の解体が始まりました。バブル期にできただけにりっぱな建物です。