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2016年1月26日火曜日

米国の石油貯蔵タンク基地におけるハザード評価

 当ブログで紹介した「事故は避けられない?」(2015年12月)は、石油ターミナル計画の環境影響報告書の中の記載事項について意見をまとめたものですが、今回はその環境影響報告書の中で貯蔵タンクの「ハザード評価」(ハザード・アセスメント)の箇所について紹介します。
< ウェスト・パック・エナージー・ピッツバーグの石油ターミナル計画の概要 >
■ ウェスト・パック・エナージー・ピッツバーグ(WesPac Energy–Pittsburg LLC)は、ウェスト・パック・エナージー社がオイルタンキング・ホールディング・アメリカ社(Oiltanking Holding Americas, Inc.)と合弁事業で設立した石油ターミナル会社で、カリフォリニア州ピッツバーグ市にある既設の石油貯蔵・輸送・桟橋施設を近代化する改造・改修の計画をしている。
 計画は2015年末までに許可を得て、2016年半ばに着工し、 18か月の建設期間が予定されている。貯蔵タンクは16基の改造・改修が計画されている。この計画に伴い、2013年7月に環境影響報告書が作成され、ピッツバーグ市のウェブサイトに公開されている。

■ 貯蔵タンクの新設・改造計画はつぎのとおりである。
  =南タンク地区=
  ● 既設500,000バレル(79,500KL)の原油用コーンルーフ・タンク5基を内部浮き屋根式へ改造するとともに、底板を取替える。(タンクT8、T9、T13、T15、T16)
  ● 既設500,000バレル(79,500KL)の原油用外部浮き屋根式タンク3基を撤去し、新たに200,000バレル(31,800KL)の内部浮き屋根式タンクを設置する。(T10、T11、T14)
  ● 既設500,000バレル(79,500KL)の原油用コーンルーフ・タンク1基を撤去し、新たに200,000バレル(31,800KL)の内部浮き屋根式タンクを設置する。(T12)
  ● 既設54,000バレル(8,590KL)の外部浮き屋根式タンクを底板の取替えなどの改修を行う。(T17)
  =東タンク地区=
  ● 既設162,000バレル(25,700KL)の原油コーンルーフ・タンク6基を内部浮き屋根式へ改造するとともに、底板を取替える。(タンクT1~T6) 既設コーンルーフ・タンク1基は残す。(T7)
貯蔵タンクの設計仕様
< 石油タンクの配置計画 >
■ 石油ターミナルにおける貯蔵タンクの配置は、東タンク地区にタンクT1~T6までの6基、南タンク地区にタンクT8~T17までの10基に分かれている。東タンク地区の各タンクは、高さ15フィート×厚さ8インチ(高さ4.5m×厚さ20cm)の補強コンクリート製防油堤で囲まれている。南タンク地区のタンクT9、T15、T16は土盛り製の防油堤で囲まれている。南タンク地区にある残りのタンクは、雨水排水ベースン区域の防止堤内にある。
 各防油堤には、手動操作の排出弁または排水ポンプがある。防油堤と雨水排水ベースンの構造・仕様は、流出防止法の該当規則を満たしている。法規制では、油が構外へ流出しないように、防油堤や防液堤の2次封じ込めエリアのバルブは閉止するようにしている。ポンプを外す場合は、ポンプ点検した後にエリア内の雨水を排出しておく。

■ タンク設備は、適用法令に合致しているとともに、API Std 650(Design of Welded Steel Tanks for Petroleum Storage )などの規格・基準に準拠している。
石油ターミナルのタンク配置計画
< タンクから油流出の原因 >
■ 石油貯蔵タンクの事故は、人の健康、環境、経済的損失、社会的責任に重要な影響を及ぼすものとして広く研究されたきた。火災、爆発、設備故障は石油タンクで起こる流出事象の主要因であり、多くの石油貯蔵タンクで起こっている事故の原因でもある。

=火災・爆発=
■ 世界で過去に起った石油貯蔵タンクの流出事故の原因は、主に火災または爆発に関連している。2006年のチャン氏とリン氏の研究によれば、米国の105の施設において1960~2003年の間に起きた石油貯蔵タンクの流出事故について調査した結果、事故の85%が火災または爆発に関連していることが分かった。

■ 事故の原因で最も多いのが落雷によるものであり、事故の33%を占める。電荷を分散する接地が不適切な場合、石油貯蔵タンクへの直撃雷あるいは近傍の地面への落雷によって被害が出たり、事故になったりする。API規格とNFPA基準によって設計したタンクは、直撃雷や近接雷があっても事故に至ることなく、耐えるとみられる。しかし、爆発範囲の可燃性ガスが存在する箇所にアークが発生すれば、事故になる可能性はある。例えば、適切なメンテナンスが行われていない浮き屋根のシール部にアークが発生する場合である。このような事故の事象は広範囲であり、油損失や環境汚染が少なく比較的制圧可能な小火災(例えば、浮き屋根のシール部火災)のものから、重大な環境破壊あるいは人身災害に関わるような大きな火災・爆発やタンク破損に至るものまでいろいろある。落雷による火災は、外部浮き屋根式タンクの“リムシール”で起こることが大半である。2008年のシェリーの研究によると、この種の火災は標準的な消火設備によって火を消すことが比較的容易で、大事故に至ることはないという。

■ 当タンク計画では、すべて地上式の内部浮き屋根式タンクとしてAPI規格とNFPA基準に準拠した設計が行われる。内部浮き屋根式タンクは、外部浮き屋根式に比べ、落雷による火災、流出、その他のタンク損傷に至ることが少ないといわれている。当該計画で取扱う油種に対して、内部浮き屋根式タンクは安全面において手堅い設計だといえる。内部浮き屋根式タンクは、通常、ガソリンのような揮発性の高い精製油を貯蔵するのに用いられている。

■ 当該タンク計画の地区は雷のリスクが高い地域ではない。2013年の米国地質学会の研究によれば、南極を除いて世界中で最も落雷の少ない地域である。世界的にみると、落雷頻度の少ないところは北極・南極の近くと大海原上であり、最も高いところは低緯度の熱帯大陸性気候の地域である。ヴァイサラ(VAISALA)の米国雷検知ネットワークの2012年雷データによれば、1996~2000年の5年間における雷光密度は0~0.25回/km・年だった。ちなみに、米国内で最も雷光密度の高いフロリダでは、当タンク計画地区の60倍である。従って、落雷に伴って起こる火災あるいは流出事故の可能性は、この資料で引用している公表の調査結果よりはるかに小さいものになると思われる。というのは、取扱い油種に対して手堅いタンク設計を選択しており、さらに最新の設計規格を採用するからである。タンクを使用する期間内に落雷によって火災や流出事故が起こる確率は、統計的に極めて小さいといえる。

■ タンク計画地区の電光密度が比較的小さいにもかかわらず、タンク型式として内部浮き屋根式を採用し、最新の接地設計を行うので、火災や油流出に至るような落雷事故に遭遇する可能性は大幅に減少するといえる。

■ 石油貯蔵タンクの油流出に関連する火災・爆発の原因としては、落雷の次が人為ミス(ヒューマン・エラー)である。2006年のチャン氏とリン氏の研究によると、人為ミスによる原因は30%である。タンク過充填および溶接や機械的な摩擦(例えば、グラインダー)を含めたメンテナンス・エラーが、事故の主な原因である。タンクの過充填は当該タンクから2次封じ込め設備である防油堤内へ油を流出させる原因となる。過充填によって油流出があれば、可燃性ガスを形成して引火する恐れがある。可燃性ガスの雰囲気の中では、溶接作業は引火源になりうるし、同様にグラインダーや電気工具などの火花も引火源になる。これらの要因は人為ミスとして防止できるハザードと考えられている。そして、関連の規則や基準が予防手段として位置づけられ、これらのハザードに対する適切な取扱いについて規定されている。この種の人為ミスが起こるのは、オペレータやメンテナンス作業員が安全なやり方を逸脱するためである。当タンク計画では、このような人為ミスが起こるのを最小にするため、該当の規則や基準、例えば、過充填防止に関する基準:API RP 2350「Overfill Protection for Storage Tanks in Petroleum Facilities」、火気作業に関する規格:NFPA 51B「Standard for Fire Prevention During Welding, Cutting, and Other Hot Work」などに準拠する。

=設備故障=
■ 過去における石油貯蔵タンク事故の研究によって、設備故障を起因としたタンクからの流出事故が起こっていることが明らかになっている。例えば、浮き屋根の沈降、タンクの割れや破裂、配管の漏れや損傷、バルブ故障、加熱器の不調、温度調節器の故障などである。

■ 屋根沈降による油流出事例の多くは、外部浮き屋根が雨水排水のために外気に露出しているからである。当タンク計画では、外部固定屋根と内部浮き屋根の組合せの構造で、浮き屋根を雨水系統から切り離しており、この種の油流出の可能性を大幅に少なくしている。

■ 疲労、地震動、地盤沈下によってタンクに割れが入ることがある。この場合、大抵は底板や溶接端部で発生することが多い。また、タンク底部、側板、屋根部は内外面に腐食の影響を受ける。タンク基礎部と接している底板には腐食を発生することがあり、外気に曝されているタンク側板や屋根部の外面にも腐食の問題がある。タンク側板、屋根部、底板の内面は、水分や硫化水素など貯蔵する石油製品中の腐食成分による腐食の影響を受ける。APIの点検方法に従って検査をしていれば、割れや腐食は発見することができる。

■ タンクT10、T11、T12、T14は新規建設することとし、油流出に至る初期欠陥が生じないように品質保証/品質管理(QA/QC)計画に基づいて建設を行うこととしている。 計画中の残りのタンクは、API Std 653「Tank Inspection, Repair, Alteration, and Reconstruction」に従って検査を実施し、貯蔵タンクとして必要な補修、取替え、改造を実施する。この規格は、タンクを良好な状態で操業できるように厳しい検査内容や修理条件を定めている。建設工事の品質保証/品質管理(QA/QC)計画とAPI Std 653に従った検査と修理が実施されれば、タンクは供用に適合していることが保証され、運転に入ることができる。運転に供される前に最終確認として、タンクは水による健全性のテストが実施される。操業に入ってからは、 API Std 653の規定に従って定期的に検査とメンテナンスを実施すれば、タンクの健全性が継続される。この際、 API Std 653による詳細検査は、タンクを一時的に縁切りし、内容液の排出、内部の清掃、内部ガスの除去を行って実施する。

=自然災害=
■ 石油貯蔵タンクの油流出について統計的にみれば、自然災害は頻度の高い原因とはいえない。2006年のチャン氏とリン氏の研究によれば、石油貯蔵タンクの油流出が自然災害に起因している事故は3%に過ぎない。石油タンク事故に至った自然災害は地震とハリケーンである。

■ 当タンク地区は地震活動の活発な地域である。タンクの構造設計は風による最大荷重を考慮している。石油タンクは、建設地における風に耐えるために必要な値より高い設計値の構造設計を行っているので、地震荷重にも耐えるとみている。石油タンクが地震動によって被害を受けるかどうかは、地震動の揺れ方、地盤の条件、タンク構造、地震が起ったときのタンク内液の種類と量など多くのファクターに依存する。当該タンク計画では、新設タンクについて最新の地震安全基準に合致する構造としている。改造する既設タンクも最新の地震設計基準に合致していることを確認する。最新の地震基準に照らし合わせて、必要ならば、タンクへの最大貯蔵量を制限して操業することとしている。

■ アメリカ国立標準技術研究所(U.S. National Institute of Standards and Technology)が委託した1997年のクーパー氏の研究によれば、 一般的に石油貯蔵タンクは地震動に対して無理なく追随した動きをすることがわかった。特に直径/高さ(d/H)の比率が2より大きいタンクで顕著だった。当タンク計画で使用する石油貯蔵タンクの直径/高さ(d/H)比は、1基を除いて、3より大きい。タンクT17(貯蔵量54,000バレル=8,590KL)は直径/高さ(d/H)比が1.8である。

< タンク油流出の規模 >
■ 石油貯蔵タンクからの油流出ケースは幅広く、油損失や環境への影響が小さく対応も容易な2次封じ込めの防油堤内に留まる小規模流出ケースから、タンク破壊による爆発や火災、あるいは大量の油損失や環境への重大な影響を及ぼしたり、人身災害を伴うような大事故のケースまでいろいろある。

■ 当タンク計画では、タンクによってもたらされるリスクを評価するため、潜在的な事故の可能性とその影響を考慮した検討を行っている。比較的小規模な油流出事故は、潜在的に起こる可能性が若干の頻度でありうるが、人の健康や環境に重大な影響を与えることはないとみられる。一方、大量流出は一度の事故でも重大な影響を及ぼすことになる。過去の石油貯蔵タンク油流出に関する研究から、流出事故の規模による発生確率(発生頻度)を示したのが表1である。流出規模は小規模漏洩からタンク全破壊や火災までの範囲である。
表1 タンク油流出の発生確率
=小規模流出=
■ 小規模流出の発生確率は2.5×10 /タンク1基・年と推定されている。 2.5×10 /タンク1基・年という発生確率は、ある石油貯蔵タンク1基について1,000年に2.5回の小規模流出事故が起こることを意味する。すなわち、平均してタンク1基当たり400年に1回の小規模流出があることになる。別な言い方をすれば、あるタンクがある年に小規模流出事故を起こす確率は1/400ということである。当タンク計画では、流出の可能性のある石油貯蔵タンクの数は16基であるので、石油ターミナル全体の発生確率は、タンク16基の総和となり、年間約16/400(=1/25)となる。この値はかなり大きいが、当タンク計画における小規模流出の想定条件として妥当な推定値とみるべきであろう。

■ 当該貯蔵タンクは2次封じ込め設備内に設置されており、小規模流出がタンク地区外に出たり、ひ弱な野生生物に影響を与えることはない。クリーンアップ作業は公的な管轄機関の基準に従って実施される。また、米国安全衛生労働局(OSHA)の基準によって危険物質に曝されるクリーンアップ作業者を安全レベルに保護する必要がある。流出油は回収して清掃されるので、長期間にわたって深刻な影響が残ることはない。従って、流出事故に伴う住民や環境への危険性は重大なものにはならない。

=大規模流出=
■ 大規模流出の発生確率は1×10 /タンク1基・年と推定されている。 この発生確率は、ある石油貯蔵タンク1基について10,000年に1回の大規模流出事故が起こることを意味する。別な言い方をすれば、あるタンクがある年に大規模流出事故を起こす確率は1/10,000だということである。当タンク計画では、流出の可能性のある石油貯蔵タンクの数は16基であるので、石油ターミナル全体の発生確率は、タンク16基の総和となり、年間約16/10,000(=1/625)となる。当該タンク施設の寿命と比較して625年というのは極めて長いので、大規模流出事故は起こらないといえよう。事故は起こりそうにないが、大規模流出はカリフォルニア州天然資源庁の指導する想定条件として考慮する。

■ 当該貯蔵タンクは2次封じ込め設備内に設置されている。2次封じ込め設備は大規模流出に対応できており、周辺地区に影響が出たり、ひ弱な野生生物に影響を与えることはない。しかし、大規模流出があれば、 2次封じ込め設備内に大量の油の溜まり、修復に数日から数週間かかるとみられる。クリーンアップ作業は公的な管轄機関の要求に従って実施される。また、米国安全衛生労働局(OSHA)の基準によって危険物質に曝されるクリーンアップ作業者を安全レベルに保つ必要がある。
 流出範囲は安全なタンク計画地区に限定されるので、住民や敏感な環境資源が直接的に曝されることはない。流出した油は回収されるが、流出油の溜まった量が多い場合、油溜まりに近い場所では、油が回収されるまでの間あるいは油の蒸発を何らかの方法でコントロールしなければ、油のベーパーの影響を受ける可能性がある。
 大規模流出の場合、流出油の池が広くなることがあり、気象条件によってはタンク計画地区における空気質が不安全なレベルになる可能性がある。さらに、油の池が広い場合、周辺地区は可燃性ガスによる切迫した危険に曝される可能性がある。可燃性ガスへの引火の恐れがなくなるまで、タンク地区の周辺地域は避難する必要があるかもしれない。この場合、住民の健康に危険が迫っているとして、地域社会警戒システムが発動される。地域社会に脅威をもたらすような油流出事故が起った場合、該当地域には緊急事態を知らせるサイレンが流され、住民は避難所などへ移動したり、身を守る行動をとることができるようにする。地域社会警戒システムでは、必要に応じ、テレビやラジオを通じて最新の情報を流すことができる。それにもかかわらず、2次封じ込め設備内で起った大規模流出に重大な危険性が生じた場合、周辺住民地区に短期間の対応策が検討される。このようなリスクは問題ではあるが、避けがたいことである。地域社会警戒システムにおいて想定されている軽減策の対応がとられることになる。このようにして発生したハザードを最小にとどめる。

■ 2002年のコーネル氏とベーカー氏や2006年のチャン氏とリン氏などが行った過去の貯蔵タンク事故に関する研究によると、適用基準や規格が厳守されていれば、多くの事故は避けることができるという。

=火災を伴う小規模流出=
■ 火災を伴う小規模流出の発生確率は9×10 /タンク1基・年と推定されている。 この発生確率は、ある石油貯蔵タンク1基について100,000年に9回の火災を伴う小規模流出事故が起こることを意味する。別な言い方をすえば、あるタンクがある年に火災を伴う小規模流出事故を起こす確率はおよそ1/11,000だということである。当タンク計画では、流出の可能性のある石油貯蔵タンクの数は16基であるので、石油ターミナル全体の発生確率は、タンク16基の総和となり、年間約16/11,000(=1/690)となる。当該タンク施設の寿命と比較して690年というのは極めて長いので、このような事故は起こらないといえよう。事故は起こりそうにないが、火災を伴う小規模流出はカリフォルニア州天然資源庁の指導する想定条件として考慮する。

■ 火災を伴う小規模流出は2次封じ込め設備内に限定されるので、流出事故がタンク地区外に拡大したり、ひ弱な野生生物に影響を与えることはない。火災が伴うので、煤や金属分などの微粒子に加えて、ナフタレン、多環式芳香族炭化水素類、二酸化硫黄、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、揮発性有機化合物などの毒性燃焼生成物が生じ、大気へ放出される。通常の大気条件であれば、火災からの熱い煙はタンク地区から上方および遠方へ流れて分散し、健康に直ちに有害な濃度の高いものが漂うことはない。石油ターミナル内で発災した場所と気象条件によっては、近隣地区において燃焼で放出された健康によくないガスの影響を受けるかもしれない。
 さらに、火災を伴う小規模流出の事故が拡大すれば、危険性が大きくなる。タンク地区の周辺地域では、差し迫った脅威が無くなるまでの間、避難を要するかもしれない。これらの要因を考慮すると、火災を伴う小規模流出事故が起これば、大きなハザードになる可能性がある。このようなハザードは問題ではあるが、避けがたいことである。地域社会警戒システムにおいて想定されている軽減策の対応がとられることになる。このようにして発生したハザードを最小にとどめる。前述のように、過去の貯蔵タンク事故に関する研究によると、適用基準や規格が厳守されていれば、多くの事故は避けることができたという。

=火災を伴う大規模流出=
■ 火災を伴う大規模流出の範囲は、2次封じ込め各エリアまたは全エリアになる。タンク容量の100%以上の能力で設計された2次封じ込め設備内にタンクがあったとしても、最悪の場合、火災を伴う大規模流出が起これば、2次封じ込め設備から油が流出して周辺地域に重大な影響を与える可能性がある。また、燃焼生成物によって、短期間ではあるが、深刻な大気汚染の状態になることがある。火災に伴い、煤や金属分などの微粒子に加えて、ナフタレン、多環式芳香族炭化水素類、二酸化硫黄、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物、揮発性有機化合物などの毒性燃焼生成物が生じ、大気へ放出される。
 大規模流出の火災は数日間ほど燃え続けるかもしれない。通常の大気条件であれば、火災からの熱い煙はタンク地区から上方および遠方へ流れて分散してしまう。一時的に、地表レベルでは、大気が汚染されて健康に悪い状況になったり、場所によっては微粒子が降ってきて物的損害が出たりする。また、火災からの熱放射も大きなハザードとなる。火災を伴う大規模流出事故が起これば、周辺地域には健康、安全、環境について差し迫った脅威が生じて、おそらく避難を要する事態になるだろう。周辺の住宅エリア、近くの野生生物、水資源が影響を受けるだろう。人への危害の恐れや建物などの資産が危険な状況になる可能性がある。地域社会警戒システムにおいて想定されている軽減策の対応がとられることになる。このようにして発生したハザードを最小にとどめる。

■ 操業を始める前に、施設対応計画(Facility Response Plan:FRP)を検討してまとめ、最悪ケースの流出事故への必要な資機材や準備をしておくことになる。この中には、カリフォルニア州の流出油対応機関(Oil Spill Response Organizations:OSRO)との契約やその他の対応に有効な人員資機材の手配に関する内容を含む。

■ 火災を伴う大規模流出の発生確率は6×10 /タンク1基・年と推定されている。 この発生確率は、ある石油貯蔵タンク1基について1,000,000年に6回の火災を伴う大規模流出事故が起こることを意味する。別な言い方をすえば、あるタンクがある年に火災を伴う大規模流出事故を起こす確率は6/1,000,000だということである。当タンク計画では、流出の可能性のある石油貯蔵タンクの数は16基であるので、石油ターミナル全体の発生確率は、タンク16基の総和となり、年間約96/1,000,000(=1/10,400)となる。当該タンク施設の寿命と比較して10,400年というのは極めて長く、このような事故はカリフォルニア州天然資源庁の指導する想定条件とならない。

=タンクの全破壊=
■ 満杯の石油貯蔵タンクが完全に破壊するという事故は稀なことであるが、例えば、火災、爆発、材料損傷、自然災害などの要因によって結果として起こることがある。タンクが全破壊すると、油の津波が生じ、2次封じ込め設備を壊したり、溢流したりして、流出域の環境に重大な影響を及ぼすことがある。タンク全破壊に火災が伴う場合、短期間であるが、燃焼生成物による重大な環境汚染を生じる可能性がある。タンク全破壊に伴う火災は、火災を伴う大規模流出の項で述べたように、数日間ほど燃え続け、大きな影響を及ぼすものとみられる。タンク全破壊事故では、周辺地域の健康、安全、環境に差し迫った脅威が生じるだろう。周辺の住宅エリア、近くの野生生物、水資源は深刻な影響を受けるだろう。住民が危機感をもつような重大な状況になるかもしれない。

■ 操業を始める前に、施設対応計画(Facility Response Plan:FRP)を検討してまとめ、最悪ケースの流出事故への必要な資機材や準備をしておくことになる。この中には、カリフォルニア州の流出油対応機関(Oil Spill Response Organizations:OSRO)との契約やその他の対応に有効な人員資機材の手配に関する内容を含む。

■ タンクの全破壊事故の発生確率は低いと考えられるが、火災を伴う大規模流出と同程度の発生確率とみられる。発生確率は極めて小さく、このような事故はカリフォルニア州天然資源庁の指導する想定条件とならない。

< タンク計画のハザードのまとめ >
■ これまで述べてきたタンク流出事故の影響に関するまとめを表2に示す。
表2 タンク流出事故の発生確率と影響
補 足
■ 「ピッツバーグ」(Pittsburg)は、米国カリフォルニア州のサンフランシスコの東に位置するコントラコスタ郡にあり、人口約66,000人の市である。

■ 「ウェスト・パック・エナージー社」(WesPac Energy LLC)は、1998年に設立され、石油・天然ガスの物流を担うエネルギー会社である。カリフォルニア州アーバインを本拠地に、北米で石油・ガスの物流施設を所有し、操業している。

所 感
■ 欧米におけるハザード評価の具体例がどのようなものか理解できる。情報公開という観点からこのようなハザード評価を行い、情報の共有化を図ろうとしているとみられる。
 設備的には最新の規格・基準に準拠して建設し、事故の起こらない施設を作る。これだけではハザードは無いが、施設に石油を入れることによってハザードが生まれる。このため、事故は起こりうるという考え方から、事故の規模を分類し、事故の影響を最小限にとどめる対応策を検討していくことは合理的な考え方だと思う。
 
■ 特に興味深いのは、過去の事例から事故の発生確率(発生頻度)を明確にし、タンク計画について評価していることである。日本では、石油ターミナルの計画書にこのような内容が書かれることはないだろう。規制基準に準拠していれば、事故は起こらないという安全神話のもとに、事故発生のことについて言及を避けたがる。日本では「事故の絶滅」という表現が一般的に使われるが、欧米では「事故の最小化」という。工業社会で活動をしている限り、事故はゼロになりえない。「ハザード評価」の概念をもとに、日本でも事故について正面から向き合い、 「事故の最小化」という表現に慣れる時期にあると感じた。

注記1:ハザード評価については、当ブログの「大型石油タンクのハザード評価の方法」を参照。
注記2:事故発生確率の別なデータとしては、当ブログの「貯蔵タンクにおける事故の発生頻度」を参照。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Ci.pittsburg.ca.us, 2013 WesPac Recirculated DEIR Chapters [PDFs], 「Recirculated Draft Environmental Impact Report -WesPac Pittsburg Energy Infrastructure Project 」,  10.0 HAZARDS AND HAZARDOUS MATERIALS,  July, 2013


後 記: ハザード評価のうち貯蔵タンクの部分だけですが、いろいろ参考になる面白い内容です。石油ターミナル計画の「環境影響報告書」は24章に分けられ、全文で942頁の大作です。ハザードの第10章は全75頁です。今は計画に際して、こんなにたくさんの文章をまとめる必要があるんですね。
 一方、計画を進めるための資料ですので、ハザード評価の評価そのものに限界があるのも見えてきます。例えば、発生確率1/1,000,000の数値を合理的に読めば起こりえないということです。確かに合理的に見れば予見性は出ないでしょう。しかし、宝くじと同じで、個人的に見ると到底当たらないだろうということですが、マクロに見れば誰かが当たっているのです。 “事実は小説より奇なり”というように、2005年の英国バンスフィールド火災や2009年プエルトリコ火災など壊滅的な事故が現実には起こっています。それでも世の中は、石油タンクのハザードを認識してつきあっていくことになると思います。救われるのは、報告書に記載されているように大火災であっても“数日間”の辛抱(避難など)で済むということで、この点が元の場所や環境に戻れない(正確には10万年で戻れる?)原子力発電所の事故と決定的に違うところでしょう。

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