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2016年4月10日日曜日

アルジェリアのスタトイル/BPの天然ガスプラントで再びテロ攻撃

 今回は、2016年3月18日(金)、アルジェリアの中央部インサラー地区にあるノルウェーのスタトイル社、英国のBP社、アルジェリアのソナトラック社の3社による合弁会社の天然ガスプラントに、過激派によるロケット弾が打ち込まれた事件を紹介します。貯蔵タンクに直接関係がありませんが、施設の保安警備の観点から取り上げました。
アルジェリアのインサラー地区の天然ガスプラント (写真はHydrocarbons-technology.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、アルジェリアの中央部インサラー(In Salah)地区のクレクバ(Krechba)にある天然ガスプラントである。インサラー地区では、ノルウェーのエネルギー会社のスタトイル社(Statoil)、英国のエネルギー会社のBP社、アルジェリア国営炭化水素化学輸送公社(ソナトラック:Sonatrach)の3社の合弁会社によってインサラー・プロジェクトが進められ、2004年からクレクバ・ガス田などからの天然ガスが処理されている。クレクバの天然ガスプラントには、スタトイル社とBP社の社員を含め、約600名の従業員がいる。

■ スタトイル/BP/ソナトラック社の3社は、アルジェリアのインサラーとイナメナス(In Amenas)において天然ガス開発プロジェクトを進め、両地区に天然ガス施設を保有している。 2016年2月、さらに90億㎥/年まで生産するため、ガス田開発を増強すると発表したばかりだった。
 イナメナスの施設では、2013年1月、アルカイダ系の「血判部隊」というイスラム武装集団によって襲撃され、同地区で働いていたアルジェリア人と外国人の多くを人質として拘束した事件が起こっている。このとき、日本の建設会社の日揮がプラント建設のため、現地に駐在していた。
 アルジェリア軍は人質奪回のため軍事行動を起こしたが、武装集団との戦闘によって日本人10人を含む外国人37人が死亡した。 (この「血判部隊」という組織は、2015年にイスラミック・ステート(IS) に加わったとされ、現在はイスラミック・ステート(IS) によるテロ攻撃といわれている)

■ 人質事件で5人の従業員が犠牲になったノルウェーのスタトイル社は2013年9月に事件の調査報告書をまとめた。報告書では、施設の警備が不適切だったと結論付けている。施設の警備体制は、内部を企業側が、外部を軍が担当していたが、両者の協力や信頼関係が十分でなかったほか、企業側が警備面で軍に頼りすぎていたとされている。
■ 2013年のテロ攻撃(人質事件)以来、アルジェリアのエネルギー主要施設は軍による警備体制が強化された。イナメナスの天然ガスプラントは2014年7月に通常の操業に戻っている。
               アルジェリア中央部のインサラー周辺  (写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年3月18日(金)午前6時頃、クレクバの天然ガスプラントに過激派によるロケット弾(Rocket-Propelled Grenades)が打ち込まれた。ロケット弾はプラント構外の遠い場所で車両から発射されたとみられ、3発が施設中央地区に着弾した。この着弾時の爆発音によってガスプラント内にいた人たちは震撼させられた。このスタトイル/BP/ソナトラック社の天然ガスプラントへのテロ攻撃は、3年前の事件以来、2回目の出来事である。

■ このテロ攻撃による死傷者は無かった。また、設備への被害も無かったが、安全措置として施設が停止された。

■ アルジェリア軍はこの地区を制圧下に収めており、軍はテロ攻撃した犯人を追跡した。犯人は2名とみられ、正体は不明である。

被 害
■ 天然ガスプラントの敷地内にロケット弾が落ちたが、設備には被害がなかった。また、死傷者も無かった。

< 事故の原因 >
■ 過激派によるロケット弾によるテロ攻撃である。

■ 事件の背景: 北アフリカの国々は、1990年代、20万人を殺したといわれているイスラム過激派との戦いに優勢を保ってきたので、アルジェリアにおける軍事行動や爆撃の頻度は稀になっている。この背景には、アルジェリアが欧州への天然ガスの主要な供給国のひとつになっており、欧州のサポートがあるためである。しかし、アルカイダやイスラミック・ステート(IS)と同盟している過激派組織は、南部の砂漠や首都アルジェ東部の山岳地域で活動している。また、アルジェリアでは、隣国であるリビヤで油田施設への攻撃を行っているイスラミック・ステート(IS)が勢力拡大を図っていることに懸念をもっている。

< 対 応 >
■ スタトイル/BP/ソナトラック社の天然ガスプラントへのテロ攻撃に伴い、事業者は安全措置として施設を停止した。また、社内の緊急事態対応手順の発動を行った。

■ スタトイル/BP/ソナトラック社は、インサラーの天然ガスプラントへのテロ攻撃を受けて、イナメナス天然ガスプラントの警備も強化した。

■ BP社はインサラー天然ガスプラントを停止したと発表したが、3月20日(日)、ソナトラック社の幹部関係者によると、生産は攻撃によって影響されていないという。匿名を条件に語ったところによると、クレクバでの生産は影響を受けておらず、ソナトラック社CEO(最高経営責任者)が現地のガス施設を訪問して、従業員を支援し、生産維持を奨励したという。

■ スタトイル社とBP社は、アルジェリアでの合弁会社からスタッフを撤退させていくことにした。3月21日(月)、BP社はアルジェリアにいるスタッフ全員を対象に翌週から一時的に移動させる計画であることを発表した。また、スタトイル社も次週以降、スタッフの人数を徐々に少なくしていくと発表した。

■ BP社によれば、会社としての最優先は人々の安全と安心だという。しかし、アルジェリアでの合弁事業は遠くから支援し続けるし、通常のビジネスに戻るようにスタトイル社やソナトラック社と連携していくと付け加えている。BP社はアルジェリアに30~40人のスタッフを置いているとみられる。スタトイル社ではアルジェリアに20人ほどの在住者がいるとみられ、うちクレクバのプラントには3名が駐在している。

■ 3年前のテロ攻撃によって警備の強化が図られたはずであるが、今回の事件によって、アルジェリアの原油・ガスプラントがイスラム過激派による攻撃に対してなおも脆弱であることを示す形
となった。

■ 3月20日(日)、アルジェリア軍がクレクバ天然ガスプラントを襲撃したとみている過激派4名をインサラーの砂漠地区で殺害したと治安当局筋の話を報じている。アルジェリア防衛省は確認していないという。

補 足
■ 「アルジェリア」(Algeria)は、正式にはアルジェリア民主人民共和国で、北アフリカのマグリブに位置する共和制国家で、人口約3,900万人である。リビア、チュニジアと東で国境を接し、北は地中海に面し、海を隔てて北に旧宗主国のフランスがある。
 「インサラー」(In Salah)は、アルジェリアの中央部で首都アルジェから約1,000km南のタマンラセット県北部にあるオアシスの町である。かつてはサハラ沙漠を東西に走る隊商交易路の重要な中継点で、現在は人口約44,000人の町である。
(写真はグーグルマップから引用)
■ インサラー地区はイナメナスと並んでアルジェリアの天然ガス生産の拠点である。「クレクバ」(Krechba)はインサラー地区のガス田のひとつで、最も北方に位置し、施設の周囲はイナメナスのプラントと同様、砂漠である。
BP社のアルジェリアとリビアにおける天然ガス探査・生産地区
(写真はEnergy-pedia.comから引用)
              クレクバの天然ガスプラント   (写真はPanoramio.comから引用)
ロケット砲RPG-7の例
(写真はScience.howstuffworks.com から引用)
■ 使用された兵器ははっきりしないが、ロケット弾(Rocket-Propelled Grenades)という見方が多い。これは、旧ソ連が開発した携帯対戦車擲弾発射器RPG-7の可能性が高い。RPG-7は安価で簡便かつ効果的であるため、途上国の軍隊やゲリラが好んで使用し、ベトナム戦争以降、世界各地の武力紛争に広く用いられている。最大射程は920mで、熟練した兵士なら150m、条件次第では300mの距離で命中させることができるといわれ、確実に命中させるためには80m以内に接近して射撃するのがよいといわれている。


所 感
■ どのような警備強化が行われたか不明だが、アルジェリア軍の人員は増強されていただろう。市街地で人に紛れて行われるテロ攻撃に対する警備が難しい点はあるが、砂漠の真ん中にある天然ガスプラントの警備も難しいということを示す事例である。使用された兵器が携帯式のロケット砲RPG-7クラスで、天然ガスプラントに命中していないことをみれば、おそらく500~1,000m離れた場所から発射されたものと思われる。当然、この程度の離れた場所からのテロ攻撃は想定されていただろう。警備に関するハード面に問題があったのか、ソフト面の問題か分からないが、警備の脆弱さを指摘されても仕方がないと感じる。

■ スタトイル社は、2013年イナメナスの人質事件に対して詳細な分析を行い、調査報告書をまとめている。
 スタトイル社(およびBP社)は、天然ガスプラントの警備について強化策をとっていたものと思われる。それだけに、今回の事件はショックだっただろう。スタトイル社とBP社が自社の社員を撤退させる判断をしているが、おそらく警備の脆弱さを最も身近に感じたからだと思われる。3年前に企業側が警備面で軍に頼りすぎていたとされたが、再び、軍に頼りすぎていた(頼らざるを得ないが)という印象である。しかし、プラント構外における警備とテロ攻撃への対策の問題はアルジェリアに特殊性があるわけでなく、日本国内でも潜在する懸念事項であろう。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Uk.reuters.com, Militants Fire Rockets at Algerian BP/Statoil Gas Plant, no Casualities,  March  18,  2016 
  ・RT.com,  Militants Attack BP-Statoil Gas Plant in Algeria,  March  18,  2016
  ・Telegraph.co.uk,  BP Gas Plant Hit in Algerian Rocket Attack,  March  18,  2016  
  ・Bloomberg.com,  Statoil, BP Gas Facility in Algeria Hit by Rocket Attack,  March  18,  2016
    ・Firedirect.net,  Attackers Fire Rockets at BP/Statoil Gas Facility in Algerian Sahara,  March  21,  2016
    ・Offshorereport.com,  Terrorists Attack BP Statoil Facility,  March  18,  2016
    ・Newsinenglish.no,  Statoil Gas Plant Attacked in Algeria,  March  18,  2016
    ・Uk.reuters.com,  Algeran Army Kills Militants behind Krechba Gas Plant Attack-source,  March  20,  2016
    ・WSJ.com,   BP, Statoil to Withdraw Staff from Algeria Following Rocket Attack,  March  21,  2016


 後 記: 日本では、まったく話題になっておらず、石油貯蔵タンクに関係のない情報ですが、2013年人質事件で警備の観点から情報を紹介したことから、その後の続報として紹介することとしました。今回の事件が、日本人がいなかったこと、人や設備に被害が無かったことから、ニュース性に価値が無かったと判断されたようですが、プラントの警備やテロ対策の観点でいえば、ひとごとではないと思いますね。
 このブログでは、政治性は極力排除するように配慮していますが、この種の事件は政治性が濃厚ですので、やむを得ず触れています。アルジェリア軍が襲撃した過激派4名を殺害したという情報は?ものですが、気になるところなので、記載しました。

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