2016年8月30日火曜日

中米ニカラグアで原油貯蔵タンク火災、ボイルオーバー発生

 今回は、2016年8月17日、ニカラグアのプエルト・サンディノにあるプーマ・エナージー社の石油貯蔵施設において原油貯蔵タンクが爆発・火災を起こし、その後、ボイルオーバーを発生した事例を紹介します。
 (写真はYouTube.comtn8.tvの動画から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、中米ニカラグア(Nicaragua)プエルト・サンディノ(Puerto Sandino)にあるプーマ・エナージー社(Puma Energy)の石油貯蔵施設である。

■ プーマ・エナージー社は中米、アフリカなど世界で展開している石油会社である。プエルト・サンディノのパシフィック・ポートにある石油貯蔵施設には、4基の貯蔵タンクがある。この石油貯蔵施設はニカラグアで唯一の製油所と連結している。製油所は当該石油貯蔵施設から約70km離れた首都マナグアにあり、精製能力は20,000バレル/日(3,180KL/日)である。発災したタンクは原油用で、1基当たりの容量は144,000バレル(22,900KL)である。
               プエルト・サンディノ周辺   (写真はGoogle Mapから引用)
                プーマエナージー社の石油貯蔵施設   (写真はGoogle Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年8月17日(水)午後4時頃、プエルト・サンディノの石油貯蔵施設にある4基の燃料貯蔵タンクのうちの1基が爆発を起こし、火災となった。

■ 発災に伴い、消防隊が出動して対応した。国の消防庁も現場へ入った。消防隊はすべての消防資機材を使って消火に努めたが、若干弱まっても再び燃え上がっていった。

■ 発災による死亡者は出ていない。しかし、当局は近隣に住む約6,000人の人たち対して空高く渦巻く黒煙の有害ガスを避けるよう警告した。

■ 火災による黒煙は3kmの高さにまで立ち昇った。地元テレビ局だけでなく、見物していた人たちが撮った強烈な炎と海側へ遠くまで流れる黒煙の写真やビデオが報じられた。地元テレビ局では、“地獄の火災”と称していた。

■ 8月18日(木)、制圧されるかに思えたタンク火災で爆発が起き、状況が悪化した。消防士は一時的に退避しなくてはならなかった。この2回目の爆発は18日(木)午後6時20分頃に発生した。この状況を撮影したビデオの映像では、爆発で生じたファイアーボールを背に走って逃げる人たちがいるのがわかる。この爆発はボイルオーバーだったとみられる。8月18日(木)、石油貯蔵施設では、2基目の貯蔵タンクが火災になった。ボイルオーバーの起ったときの動画はYouTube 「Explosión en refinería Puma en Puerto Sandino - León」を参照。

■ この時点でも、事故に伴う死傷者は出なかった。当局は、新たな爆発の危険性を考慮して、1km以内に立ち入らないよう求めた。しかし、目の前の火災の状況を見れば、住民たちは心配の気持ちをおさめることができなかった。火災の影響を受けそうな住民に対して、風向きが変わっても大丈夫な場所に避難所が開設された。

■ その後、2基のタンク火災では、複数回のボイルオーバーが起っていたものとみられる。

■ 米国とカナダの火災専門家が、当局に火災制圧のためのアドバイスを行うために現地に入った。プーマ・エナージー社は、地元住民の安全確保を最優先に取り組んでいると語っている。

■ 8月19日(金)朝の時点でも、2基の火災は続いており、懸命な現場対応が実施されるとともに、住民の避難も続いていた。2基のタンク火災から立ち昇る炎と黒煙は遠いところからも見ることができた。

■ プーマ・エナージー社によると、タンクの残存油量から8月21日(日)には燃え尽きるだろうと予測された。8月22日(月)、プーマ・エナージー社はプエルト・サンディノの石油貯蔵施設での火災は鎮火したと発表した。 

被 害
■ 容量144,000バレル(22,900KL)の原油貯蔵タンク2基が火災で損壊した。また、内部液の原油が焼失した。このほかの石油貯蔵施設の被災状況は不詳である。

■ 事故に伴う死傷者は出なかった。近隣住民が避難した。

■ ボイルオーバーによって構内外の動植物や土壌・海浜などの環境破壊への影響が発生した。影響を受けた範囲は半径500mといわれている。

< 事故の原因 >
■ 最初のタンク爆発・火災の原因は不詳である。

■ 2基目のタンク火災は、1基目のタンクでボイルオーバーが発生したことによる延焼とみられる。

< 対 応 >
■ 8月19日(金)、火災が継続し、住民の不安が払拭できないため、消防隊のほか、軍隊および警察が現地に増員派遣された。このほか、ニカラグア赤十字と健康・環境省の職員が支援のために現地へ入った。

■ 消火活動に投入された人員資機材は、消防士120名、消防車20台、泡薬剤18,000ガロン(68KL)だった。

■ 8月22日(月)、環境保護団体によると、事故に伴って海岸や草木に油分が見られ、敏感な生き物へのダメージを回復するには数年かかるだろうという。影響を受けた範囲は半径500mといわれている。

■ 8月23日(火)、プーマ・エナージー社は原油によって影響を受けた施設の構外エリアについて明らかにした。同社は、関係機関と連携して環境修復計画を策定するため、環境影響分析の専門会社と作業を行い、そのために必要な投資をしていくという。また、同社はほかの貯蔵施設を使って、石油製品に不足が出ないようにすると語っている。

■ プーマ・エナージー社は、150名以上の作業員を動員して、影響を受けたエリアのクリーンアップ作業を始めたと8月24日(水)に発表した。クリーンアップ作業には、油の回収機材や吸収材を投入している。
(写真はHoy.com.ni から引用)
 (写真はTrincheraonline.com から引用)  
 (写真はYoutubeLaPresaの動画から引用)
(写真はEl19digital.comから引用)
                避難する近隣住民  (写真はLaprensa.com.niから引用)
    出動した消防車などの緊急対応部隊  (写真は左:Elsalvador.com、右:Laprensa.com.niから引用)
(写真はLaprensa.com.ni から引用)
 (写真はHawkesfire.co.uk から引用)
           ボイルオーバーと退避する人たち  (写真はYouTube.comtn8.tvの動画から引用)
(写真はElnuevodiario.com.ni から引用)
(写真はLaprensa.com.ni から引用)
 (写真はElnuevodiano.com.ni から引用)
(写真はConfidencional.com から引用)
(写真はLajornadanet.comから引用)
                        クリーンアップ作業  (写真は左:Laprensa.com.ni 右:Pumaenergy.comから引用)
補 足
■ 「ニカラグア」 (Nicaragua)は、正式にはニカラグア共和国で、中央アメリカ中部に位置するラテンアメリカの共和制国家である。人口は約608万人で、首都はマナグア(Managua)である。
 「プエルト・サンディノ」(Puerto Sandino)は、ニカラグアの西部に位置するレオン県にあり、太平洋に面した港町である。漁業やサーフィンで有名であるが、原油の輸入港でもある。
                                中米ニカラグア周辺   (写真はGoogle Mapから引用)
■ 「プーマ・エナージー社」(Puma Energy)は、1997年に設立され、シンガポールに本社を置き、プーマ・ブランドのガソリンスタンドを展開している石油会社である。石油を含むエネルギーや金属資源の取引を行うオランダのトラフィグラ社(Trafigra)の系列会社である。
 ニカラグアでは、2012年にエクソン・モービル社から石油下流部門を買収して石油施設を所有している。今回発災のあったプエルト・サンディノの石油貯蔵施設もそのひとつで、2012年にタンク改造工事を行ったものとみられる。
              モンタジェス社によるタンクの改造工事状況  (写真はMontajessinlimites.com.coから引用)
■ 発災タンクの仕様は原油用で、容量(22,900KL)しか分かっていない。グーグルマップによると、1基目と2基目はいずれも直径約48mである。従って、高さは約13mとみられる。タンク型式はアルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクと思われる。仮に1基目のタンクが満杯だった場合、つぎのように推測される。
 ● ヒート・ウェーブの下降速さを60~90cm/hとすれば、ボイルオーバーの発生は約14~21時間後となる。実際の火災では、約26時間後にボイルオーバーが発生している。
 ● 燃焼速度を30cm/hとすれば、燃え尽きるまでの時間は約43時間となる。実際の火災では、2日(48時間)以上、燃え続けている。
 なお、直径48mのタンク全面火災において日本の法令では、放射能力20,000 L/minの大容量泡放射砲システムが必要となる。

■ ボイルオーバーが起こると、燃えている油がタンク直径の何倍もの距離のエリアに飛び散ることになる。“経験則”としては、ボイルオーバーによる飛散影響はタンク直径の5~10倍の距離の全範囲に及ぶといわれている。(実際の距離は、油の保有量、蒸発する水蒸気の量および風向によって変わる)
 今回の事例では、環境への影響を受けた範囲は半径500mといわれており、これはタンク直径の約10倍である。事故後の航空写真による構外の木々の燃えた跡は発災タンクから200mを超えているので、ボイルオーバーによる飛散影響範囲はタンク直径の5~10倍の距離という経験則は妥当だといえよう。
 なお、ボイルオーバーについて当ブログで紹介した事例は、「ボイルオーバー=眠れる巨人=」を参照。
                        タンク火災の前と後の航空写真  (写真はTwitter.com から引用)
                              発災タンクからの距離   (写真はGoogle Mapから引用)
所 感
■ 今回の事故状況を総括的に推測してみると、つぎのようになると思われる。
 ● 8月17日(水)午後4時頃、アルミニウム製ドーム型内部浮き屋根式タンクの浮き屋根上で可燃性混合気が形成し、何らかの引火要因で爆発が起り、引き続いて火災となった。この爆発はアルミニウム製ドームルーフを一部破損する程度で、火災も内部浮き屋根上に漏れ出た油が燃える状態だったと思われる。この段階で消火活動が行われたが、消火資機材の能力不足や不適切な消火戦術によって消火に失敗したものと思われる。
 ● 8月17日(水)の夜、アルミニウム製ドームルーフが焼損するとともに、内部浮き屋根が沈下し、全面火災に至ったものと思われる。内部浮き屋根がもろくも沈下したのは、アルミニウム製の簡易型浮き屋根(浮き蓋)だったと思われる。この全面火災では、大容量泡放射砲システムを必要とするが、配備できなかったものと思われる。
 ● 8月18日(木)は手がつけられないほどの全面火災が続き、午後6時過ぎ、ボイルオーバーが起った。大規模なボイルオーバーが発生した割に死傷者が無かったのは、事前の兆候(音など)が顕著だったために退避できたか、あるいは消火活動は行っていなかったためと思われる。
 ● 8月18日(木)夜、ボイルオーバーによって隣接するタンク1基に延焼したものと思われる。この2基目のタンクもアルミニウム製ドームルーフの焼損およびアルミニウム製簡易型浮き屋根(浮き蓋)の沈下が起こり、全面火災になったものと思われる。
 ● 8月19日(金)、2基のタンクの火災は続いた。最初に火災となったタンクは3日目の8月20日(土)に燃え尽きたものと思われる。2基目のタンクも3日目の8月21日(日)に燃え尽きたものと思われる。

■ 今回の事例では、ボイルオーバーに関して過去の事例や実験から経験則でいわれていたこととが当てはまっていると思われる。特に、ボイルオーバーによる飛散影響範囲がタンク直径の5~10倍の距離であったことは注目される。ボイルオーバーを発生する可能性のある油種のタンク火災では、現場指揮所の位置、消防隊の配置、資機材の配備、医療トリアージ(治療優先順位の区分け)、安全区域について十分考えておく必要があることを再認識する事例である。  


備 考
  本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・BBC.com, Nicaragua Struggles to Control Fire at Sole Refinery,  August 19,  2016 
  ・Archyworldys.com,  “Infernal Fire” Oil Tanks in Nicakagua,  August 19,  2016
  ・Latino.foxnews.com, Nicaragua Battles to Control Fire after Oil Tank Explosion,  August 19,  2016  
  ・ABCnews.go.com, Billowing Flames and Smoke Rise from Oil Tank Explosions in Nicaragua,  August 19,  2016
    ・News.goo.ne.jp,  ニカラグアの製油所で爆発、炎上,  August 20,  2016
    ・Forum.theworldnewsmedia.org, Nicaragua Battles to Control Fire after Oil Tank Explosion,  August 20,  2016
    ・France24.com,  Nicaragua Refinery Fire under Control: Officials,  August 22,  2016
    ・Pumaenergy.com,  Actualizacion del Incidente Terminal Sandino,  August 19,  2016
    ・Pumaenergy.com,  Puerto Sandino Fire under Control,  August 23,  2016
    ・Pumaenergy.com,  Puerto Sandino Fire under Control, Cleanup Continues,  August 24,  2016
    ・Hawkesfire.co.uk,  Nicaragua – Puma Energy Storage, Fire and Multiple Boilover’s,  August 25,  2016
    ・Tn8.tv,  Infierno se Desata en Planta Puma de Puerto Sandino,  August 18,  2016
    ・Tn8.tv,  Asi Amanece el Incendio en Puerto Sandino,  August 19,  2016
    ・Laprensa.com.ni,  Fuego Persiste en Tanques de Puma Energy,  August 19,  2016
    ・Elnuevodiario.co.ni,  Verifican Primerros Danos Ambientales por Incendio en Puerto Sandino,  August 20,  2016
    ・Laprensa.wm.ni,  Danos Ambientales en Puerto Sandino,  August 21,  2016



後 記: 今回は情報をいち早くキャッチした方から連絡を受けて調べ始めたものです。Boiloverとはっきりと書かれていましたので、まとめやすいのではないかと思っていました。ところが、この事例をボイルオーバーとして認識した情報源は最初に得た1件だけでした。報道では、2基目のタンクが爆発したと思っている情報が多くありました。また、肝心の発災時間がバラバラです。特に最初のタンク火災は時間もそうですし、初期段階について報じているものはありませんでした。これを補完したのが火災写真です。記事と写真を見ながら状況を想像するしかありませんでした。しかし、火災写真でいうと、これまでもあったように関係のない写真が紛れ込んでいました。例えば、つぎのような写真です。左は今回の事例ですが、枠内にある消火活動の写真は、実はリビヤのタンク火災における写真(右)です。ボイルオーバーという貴重な事例ですので、曖昧さを含む記事や写真を吟味しながら、まとめました。


2016年8月24日水曜日

米国テキサス州の原油貯蔵施設で工事中にフラッシュ・ファイヤー、7名負傷

 今回は、2016年8月12日、テキサス州ジェファーソン郡にあるサノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナルにおいて配管工事中にフラッシュ・ファイヤーが発生し、7名が負傷した事例を紹介します。
   サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナル  写真Slideshare.netから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国テキサス州(Texas)ジェファーソン郡(Jefferson)にあるサノコ・ロジスティクス社(Sanoco Logistics)の石油貯蔵施設である。

■ サノコ・ロジスティクス社はジェファーソン郡ネダーランド(Nederland)に原油、天然ガス、石油製品の貯蔵タンク130基を有しており、貯蔵能力は24百万バレル(382万KL)である。当該石油貯蔵施設は石油パイプライン網と接続している。発災があったのは原油用貯蔵タンク地区で、新しいタンクにパイプラインをつなぐ計画のため、当時、配管の工事中だった。
            ジェファーソン郡ネダーランド周辺   写真Google Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年8月12日(金)午後9時頃、サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナルにおいて配管工事中にフラッシュ・ファイヤーが発生した。フラッシュ・ファイヤーは、作業員が配管のフランジを接続するための溶接を始めたときに起ったという。

■ 発災に伴い、ネダーランド警察とアカディアン救急が現場に出動したほか、ジェファーソン郡保安官事務所が対応した。

■ この発災によって7名の負傷者が出た。このうち4名は救急車によって病院へ搬送され、3名は救急ヘリコプターでヒューストンなどの火傷治療センターへ搬送された。死者は出ていない。負傷した人たちは、サノコ・ロジスティクス社の工事請負会社エル-コン社(L-Con, inc.)の従業員だった。

■ サノコ・ロジスティクス社の広報は、今回の事故が操業に大きな影響を及ぼすことはないと語っている。

■ 8月15日(月)、被災者である溶接士がサノコ・ロジスティクス社と特殊施工管理専門会社のカーバー社(Carber Inc.)を過失責任で告訴した。
 訴状によると、発災時の状況はつぎのとおりである。
  ● 施設内の配管で2枚のフランジの溶接作業を行っていた。
  ● 原油配管は清掃され、きれいな状態で、作業を行える準備は終えていたとサノコ社は話していた。
  ● 作業員たちは地上から10フィート(3m)以上の足場上で作業するよう指示されていた。
  ● 作業員が工事を始めたとき、配管内の圧力が上がり始めていた。
  ● カーバー社によって設計・取付けられた口径30インチのプラグによる密封に失敗し、配管内から噴き出し、溶接士の胸と肩の付近を襲った。このとき、配管内の原油に引火し、フラッシュ・ファイヤーに至った。
  ● 溶接士は溶接マスクを飛ばされ、顔と上体を炎に覆われた。溶接士は衣服を脱ぎ捨て、足場から飛び降りた。
            出動した救急車などの緊急対応部隊   写真Metro.us から引用)
被 害
■ フラッシュ・ファイヤー(爆発)によって7名の負傷者が出た。うち、4名は重度の火傷である。

■ フラッシュ・ファイヤーによる設備の被災状況は不詳である。

事故の原因 >
■ 米国安全衛生労働局(OSHA)および米国化学物質安全性委員会(CSB)が原因調査中である。

■ 訴状の事故状況からつぎのように推測できる。
 ● 原油配管のホットタップ工法で取付けたプラグの密封機能が喪失し、配管内の原油の軽質ガスが噴出した。この軽質ガスに溶接工事の火花で引火し、爆発的な燃焼であるフラッシュ・ファイヤーが起ったものと思われる。
 ● 原油配管は上流側のバルブを閉止し、内部の液抜きをしたが、閉止機能が完全ではなく、徐々に漏れ出ていたと思われる。

< 対 応 >
■ サノコ・ロジスティクス社は、8月12日(金)、同社ネダーランド・ターミナルで建設工事中に火災があったという声明を出した。この中では、7名の負傷者が出て、病院へ搬送されたことなどが述べられている。

■ ジェファーソン郡保安官事務所は、フェイスブックなどを使って、近隣住民には危険のないことを伝えた。

■ 米国安全衛生労働局(OSHA)および米国化学物質安全性委員会(CSB)が事故の原因調査に乗り出した。米国化学物質安全性委員会(CSB)は、火気作業に関わる危険性について安全資料や安全ビデオなどで事故防止の啓蒙を図ってきた。(「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」を参照)

■ 被害者の弁護人は、8月16日(火)、「今回の事故はたまたま起ったものではありません。この法律事務所では、毎年、50件ほど今回のような事故を取り扱っています」と語っている。さらに、「製油所や石油施設では、炭化水素が塔槽や配管から放出しないようにすることが原則です。炭化水素が放出すると、爆発する機会が大きくなります。今回の事故は、バルブが故障したか、あるいは適切に設置されていなかったことが、炭化水素を漏れ出させたものとみています」と語った。

補 足
■ 「フラッシュ・ファイヤー」(Flash Fire)は、可燃性ガス、可燃性または爆発性液体あるいは可燃性粉体と空気の混合気が着火して突然、激しい火災を起こすことをいう。高温、短時間、急速な火炎前面が特徴である。一般には「爆発」(Explosion)という用語で表現するが、消防など専門分野では区別している。今回の報道でも「爆発」という表現を使っているところもあるが、ここでは「フラッシュ・ファイヤー」という用語を使用した。フラッシュ・ファイヤーの事例としては、「米国ニューハンプシャー州の地下タンクでフラッシュ・ファイヤー、2名負傷」20139月)を参照。 

■ 「テキサス州」は米国南部にあり、メキシコと国境を接している州で、人口は約2,700万人である。
 「ジェファーソン郡(Jefferson)は、テキサス州東部に位置し、人口約25万人の郡である。ボーモントがジェファーソン郡の郡都である。
 「ネダーランド」(Nederland)は、ジェファーソン郡の東中部に位置し、人口約17,500人の町である。 
        テキサス州ジェファーソン郡周辺   写真Google Mapから引用)
■ 「サノコ・ロジスティクス社」 (Sanoco Logistics)は、原油、天然ガス、石油製品の物流業務を行い、米国の東北部、中西部、メキシコ湾岸を中心に13,700kmの石油パイプラインを有し、763万KLの貯蔵能力を有する石油企業である。テキサス州ネダーランドの石油貯蔵施設(382万KL)は国内最大級の原油貯蔵基地である。製油所を有する石油会社のサノコ社の関連企業であったが、現在は、天然ガスの物流会社であるエネルギー・トランスファー社(Energy Transfer)の系列会社である。
           サノコロジスティクス社の石油施設   (図はSunocologistics.comから引用)
      サノコ・ロジスティクス社ネダーランド・ターミナル  写真GoogloMapから引用)
■ 「エル-コン社」(L-Con, inc.)は、テキサス州ヒューストンに本社を置き、石油精製、石油化学、電力、重工業、石油ターミナルなどの建設関連事業を行っている企業である。同社は鉄鋼会社のレキシコン社(Lexicon Inc.)の系列会社である。エル-コン社は、2012年6月、「米国テキサス州のタンク施設で工事中の爆発、死傷者2名」の事故で被災者を出している。

■ 「カーバー社」(Carber Inc.)は、1996年に設立し、テキサス州ヒューストンに本拠地を置く特殊施工管理を行う専門会社である。同社の専門は溶接試験、ボルト締付管理などで、そのうちのひとつにホットタップ工法がある。同社の工法は、浮き屋根式タンク屋根沈下時の緊急油抜き対応で側板に開口部を設ける際に活用されたり、供用中の配管に穿孔するためのホットタッピング・マシンとはタイプが異なる。(「メキシコで原油パイプラインからの油窃盗失敗で流出事故」の補足を参照)
 カーバー社のホットタップ工法は、パイプラインの油抜きをした後、専用のパイプカッターで配管を冷間切断し、パイプラインにフランジを溶接する際には、特殊なプラグを配管内にセットして工事箇所を孤立化する方法である。概要は下図に示すが、詳細はYouTube 「Cold Cut, Isolation and Weld Test for tie-in or tie point」を参照。
               カーバー社のホットタップ工法  (図はYouTube.comの動画から引用)
所 感
■ 石油パイプライン網を張り巡らしている米国ならではの独創的アイデアのホットタップ工法が使用されたと思われる。特殊プラグ部はよく考えられた構造で多重シールになっている。この密封機能がなぜ喪失したのだろうか。その要因を考えると、つぎのようなことが挙げられよう。
  ● 口径30インチ(外径762mm)の原油配管であり、真円でなく、シール部に大きな隙間ができた。
  ● 配管の液抜き・内面清掃の作業に予定より時間を費やした。
  ● 圧力液による封入が完全にできなかった。
  ● 工事時間に余裕がなく、 密封が完全でないまま、見切り発車で溶接を始めた。
 今回の事故は、米国化学物質安全性委員会(CSB)がまとめた安全資料「タンク内外の火気工事における人身事故を防ぐ7つの教訓」とは異なった事例である。米国安全衛生労働局(OSHA)と米国化学物質安全性委員会(CSB)が原因調査に乗り出しているので、明確な結論が出され、公表されることが期待される。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Foxnews.com, 7 Injured in Flash Fire at Texas Refinery,  August 12,  2016 
  ・KHOU.com,  Seven Injured Following Flash Fire at Sunoco Logistics,  August 13,  2016
  ・Edition.cnn.com, Seven Injured in Explosion at Texas Oil Plant,  August 13,  2016  
  ・CDAnews.com, Seven Injured in Flash Fire at Sunoco Logistics Crude Oil Terminal,  August 13,  2016
    ・Reuters.com,  Sunoco Logistics Sees No Impact to Texas Terminal Ops,  August 13,  2016
    ・Fox4beaumont.com,  Seven People Injured in Explosion and Flash Fire at Sunoco Plant outside Nederland,  August 13,  2016
    ・Reuters.com,  Sunoco Logistics Texas Terminal Operations near Normal after Fire,  August 14,  2016
    ・Hydrocarbonprocessing.com,  Seven Injured in Fire at Texas Crude Oil Terminal, Operations near Normal,  August 15,  2016
    ・Firedirect.net,  CSB Deploying to Refinery Terminal Incident that Injured Seven Workers in Texas,  August 16,  2016
    ・Chron.com,  Injured Worker in Sunoco Explosion Files Lawsuit,  August 16,  2016
    ・Houstonchronicle.com,  Worker Injured in Sunoco Explosion Files Lawsuit,  August 16,  2016
    ・Tankstoragemag.com,  Seven Injured in Fire at Sunoco Logistics Oil Terminal,  August 17,  2016



後 記: 今回は事故の画像がなく、事故の状況が当初はっきり掴めませんでした。フラッシュファイヤーというので、最初は貯蔵タンクの事故だと思いましたが、調べていくと、パイプライン(配管)だと分かりました。つぎに疑問に思ったのが、発災時刻です。午後9時は溶接工事を行うような時間ではありません。夜に緊急自動車が出動していますので、夕方以降に違いないのですが、サノコ・ロジスティクス社が声明を出した時間と重なり、発災時刻に疑問を持ちました。しかし、特殊なホットタップ工事に手間取ったこともありうるので、発災は午後9時頃にしました。しかし、一番手こずったのが、「30インチのプラグ」です。文章だけではイメージがつかめません。はっきりしたのは、「カーバー社」と「ホットタップ」で検索すると、カーバー社が特殊なホットタップ工法を有しており、PR用動画をYouTubeに投稿していたので、訴状の内容が理解できました。このため、報道では出てこなかったホットタップ工事という言葉を使いました。
 

2016年8月18日木曜日

米国フェルミ原子力発電所で地下タンクから油漏洩

 今回は、2016年7月14日、ミシガン州モンロー郡にあるDTEエナージー社のフェルミ2原子力発電所の燃料用地下貯蔵タンクで油が漏洩していた事例を紹介します。
                フェルミ原子力発電所    (写真Nukeworker.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、米国ミシガン州(Michigan)モンロー郡フレンチタウン郡区にあるDTEエナージー社(DTE Energy Co.)のフェルミ2原子力発電所(Fermi 2 Nuclear Power Plant)の施設である。

■ フェルミ2原子力発電所は沸騰水型原子炉で、1,198MWの発電能力を有する。1972年に建設が始められ、1985年に最初の臨界運転、1988年に商業運転が開始された。それ以前に、高速増殖炉のフェルミ1原子力発電所が1956年に建設が始められ、1963年に最初の臨界運転、1966年に商業運転が開始されたが、メルトダウン事故を起こし、1972年に廃炉とされた。

■ 発災があったのは、発電所と送電線をつなぐ120kV開閉所の近くにあった燃料用地下貯蔵タンクで、容量は2,250ガロン(8,500リットル)である。
                 エリー湖とモンロー郡付近   (写真はGoogle Mapから引用)
             DTEエナージー社フェルミ原子力発電所付近 (写真はGoogle Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2016年7月14日(木)午前9時15分頃、エリー湖岸沿いにあるフェルミ2原子力発電所の燃料用地下貯蔵タンクで油が漏洩していることが発見された。120kV開閉所の地中ケーブルを取替えるため、掘削工事を行っているときに漏洩が分かった。

■ 当該タンクは1950年代に燃料油用の地下貯蔵タンクとして作られたものであるが、現在は使用されていない。そして、いつ最後に使用されたのか分からないという。

■ 油の量は分からないが、地下タンクまわりに漏洩し、発見されたときにはタンク近傍の土壌に滲み出ていた。現時点では、施設構外や水系へ達するような流れた跡は認められなかった。

被 害
■ 燃料油用地下貯蔵タンクが損傷を受けた。(ただし、使用されていなかった)
 
■ 地下貯蔵タンク内に残っていた燃料油がタンク外に流出し、まわりの土壌を汚染した。
 事故に伴う被災者はいなかった。

< 事故の原因 >
■ 使用しない燃料油用地下貯蔵タンクが油の入ったまま、放置されていた。
 (当該タンクは1950年代に作られたものであるが、いつまで使用されたか分かっていない)

■ タンク漏洩は腐食によるものと思われる。

< 対 応 >
■ フェルミ2原子力発電所は、貯蔵タンクと汚染土壌をどのように対処するのが最も適切かを決めるため、調査・検討を実施することとした。

補 足
■ 「ミシガン州」(Michigan)は米国中西部に位置し、五大湖地域に含まれる人口約980万人の州である。
 「モンロー郡」(Monroe)はミシガン州ロウアー半島の南東隅に位置し、人口約15万人の州である。郡庁所在地はモンロー市(人口約2万人)である。

■ 「フェルミ原子力発電所」(Fermi Nuclear Power Plant)は、正式には、原子核物理学者の名をとったエンリコ・フェルミ(Enrico Fermi)原子力発電所である。

■ 高速増殖炉の「フェルミ1原子力発電所」は、1956年に建設が開始され、発電まで至ったが、1966年10月5日にメルトダウン(炉心溶融)事故を起こした。原因は、炉内の流路に張り付けた耐熱板が剥がれて冷却材(ナトリウム)の流路を閉塞したため、冷却材の循環が止まり、炉心の温度が上昇し続け、メルトダウンに至った。これが原子炉のメルトダウン事故の最初の例とされている。事故に伴う放射性物質の大気放出は無かった。
 漏洩のあった地下貯蔵タンクは1950年代に作られたものとみられており、これはフェルミ1原子力発電所の建設時期(またはそれ以前)である。
建設中のフェルミ1原発 (写真はMonroenews.smugmug.comから引用)
■ 沸騰水型原子炉の「フェルミ2原子力発電所」は、1972年に建設が始められ、1988年に商業運転が開始された。 発電した電力は2つの345kV送電線と3つの120kV送電線で需要者へ供給されている。 なお、フェルミ2の原子炉の終了年は2025年である。

■ 「フェルミ3原子力発電所」の計画が2008年に原子力規制委員会に提出された。建設場所は同じ敷地内でフェルミ2の南西側で、原子炉のタイプはGE日立ニュークリア・エナジー社の革新型単純化沸騰水型原子炉である。2015年5月に原子力規制委員会はフェルミ3の建設と運転ライセンスを承認した。しかし、DTEエナージー社は、認可を受けて発電の選択肢が増え、喜ばしいが、現時点で建設の計画はないと述べている。  

■ 一般的に原子力発電所の「開閉所」は写真や図に示す例のとおりである。漏洩のあった地下貯蔵タンクの場所は特定できないが、フェルミ2原子力発電所の開閉所が敷地写真に示す場所付近と思われるので、原子炉南西の空地のどこかであろう。この場所は、フェルミ1原子力発電所の位置からかなり離れている。なお、地下貯蔵タンクは容量が8,500リットルなので、直径1.5m×長さ5m程度の大きさである。
               フェルミ原子力発電所の構内 (写真はGoogle Mapから引用)
                       開閉所の例 (左写真:Rbbtoday.com、右図: Kepco.co.jp から引用)
所 感
■ 事象的には、地下タンクが腐食によって開口し、内液が漏洩するという珍しくはない事例である。しかし、つぎのような疑問が浮かぶ。
 ● 場所に制約があるように思えない敷地で、なぜ地下貯蔵タンクにしなければならなかったのか。
   (自重を利用して排出する受入れ貯槽の役割ではなかったのか)
 ● タンク付帯の配管はどのようになっていたのか。
 ● タンク製作時期からフェルミ2原子力発電所と関係ないような印象であるが、管理機器として認識されていたのではないか。
 ● 内液が燃料油となっているが、本当に油だけなのだろうか。
 ● 土壌汚染はタンク近傍に限定されていないのではないか。
 設備管理および運転管理が万全でなければならない原子力発電所において、適切な管理が行われていたとはいえない印象の事例である。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである
    ・Toledoblade.com, Oil Leals from Tank at Fermi Plant ,  July  15,  2016 
  ・Miningawareness.worldpress.com,  Old Underground Oil Tank Leaking under Fermi Nuclear Reactor Switchyardopoort ,  July  16,  2016



後 記: たまたま、「フェルミ(原子力発電所)の事故」というキーワードが気になって調べてみました。貯蔵タンクの事故情報としては内容が乏しく、疑問ばかりが残る事例でした。予断を持ってはならないといわれますが、原子力分野の隠蔽体質は日本だけでなく、米国でも同じような気がします。特に、米国では、第2次大戦中の軍事機密から始まっていますので、隠蔽でなく特定機密だという認識があるでしょうね。フェルミ1原子力発電所の事故を調べていたら、「報告義務が無かった」時代の日本における原子力関係の事故が結構あるようです。(「忘れてはならぬ 原子力事故」を参照) 原子力発電所に関わる事を調べると、なにか気分が落ち込みます。