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2017年2月10日金曜日

イランのテヘランで石油施設に落雷後、タンク火災

 今回は、2017年1月29日(日)、イランのテヘラン州にあるテヘラン製油所の構内に隣接するイラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社のパイプライン施設のタンク地区に落雷があった後、原油タンクで爆発があり、火災が発生した事例を紹介します。
 写真Tasnimnews.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、イランのテヘラン州(Tehran Province)エスラムシャー郡(Eslamshahr County)にあるテヘラン製油所(Tehran Oil Refinery Co.)の構内に隣接するイラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社(Iranian Oil Pipelines and Telecommunications Co.)のパイプライン施設である。

■ パイプライン施設は首都テヘランの南方約15kmに位置し、発災があったのはタンク地区にある容量2,000KLのタンク(タンクNo.102)で、内液は原油である。このタンクはオイル・パイプラインの余剰圧力を管理するために用いられている。
                                 テヘラン製油所付近 (写真はGoogle Mapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2017年1月29日(日)午前0時15分頃、 タンク地区に落雷があった後、T102の原油タンクで爆発があり、火災が発生した。爆発によってタンクの屋根が何メートルか飛ばされた。また、油が漏洩し、まわりのエリアに火災が広がった。

■ 発災に伴い、テヘラン消防署とレイ消防署が出動し、イラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社とテヘラン製油所を含めた消防隊は、火災が他の設備に延焼しないよう消防活動に努めた。

■ 消防隊は、約4時間の消防活動の結果、午前4時20分に火災を制圧下に入れた。一方、火災によってタンク内の原油は完全に蒸発した(燃え尽きた)とも報じられている。

■ 事故に伴うケガ人はいなかった。

■ 火災はイラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社のタンクで起こったが、隣接して消防隊を応援で出動させたテヘラン製油所に多くの問い合わせが寄せられた。当局も製油所の火災ではないと繰り返し発表した。なお、火災による製油所の生産への影響はなかった。

被 害
■ 原油タンク1基が火災によって焼損した。タンク内の原油約400KLが焼失した。 

< 事故の原因 >
■ 落雷があった後に火災が起こっている。しかし、地方当局は火災の原因は特定していないと語っている。
 
 注記: あるニュース・サイトでは、最近、イランの石油・天然ガス・石油化学の工場で起こっている火災はサイバー攻撃を受けている可能性を示していると伝えている。昨年4月~10月の間、イランでは平均して12日ごとに事故が起こっている。昨年10月7日の早朝に起ったピロージ・オイル&ガス・リファイナリーの火災事故では、40名の消防士が出動して5時間の消火活動によって鎮圧したが、4名の負傷者が発生したという。この火災の原因は未だ特定されていない。
(写真はTehranpicture.irから引用)
(写真はEn.mehrnews.comから引用)
< 対 応 >
■ 発災に伴い、テヘラン市とレイ市の15の消防署から消防士約120名が出動し、イラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社とテヘラン製油所の自衛消防隊とともに約30台の消防車で消防活動を行った。

■ 約4時間の消防活動の結果、火災は午前4時20分に制圧された。

■ イランでは、1月28~29日の2日間に各地の石油施設で3件の火災が起きており、消火活動が行われている。イラン南西部のアフヴァーズにあるアバダン製油所(45万バレル/日)の精製装置の火災、首都テヘランにあるテヘラン製油所(22.5万バレル/日)構内の石油施設でのタンク火災、イラン南西部のカイスランの天然ガス田の火災である。この中で、アバダン製油所の火災はこの3年ほどの間に起きた3件目の事故だという。
 (写真はTehranpicture.ir から引用)
(写真はTasnimnews.com から引用)
(写真はTasnimnews.com から引用)
(写真はTasnimnews.com から引用)
(写真はTehranpicture.ir から引用)
補 足
■ 「イラン」(Iran)は、正式にはイラン・イスラム共和国で、西アジア・中東のイスラム共和制国家である。世界有数の石油産出国であり、人口は約7,500万人である。
 「テヘラン州(県)」 (Tehran Province)は、イランの北部に位置し、人口約1,200万人で、首都テヘランがある。エスラムシャー郡」(Eslamshahr County)はテヘラン州の中央部に位置し、人口約48万人の郡である。

 首都テヘランでは、今回のタンク火災事故の前に高層ビル火災があり、世界的なニュースとして報じられた。事故は、1月19日(木)、テヘランのダウンタウンにある17階建ての“プラスコ”ビルで火災が発生し、約4時間後の消火活動中に建物が崩壊した。現場の様子はテレビ番組で生中継される中で崩壊し、消防士など多くの死傷者を出した。当時、現場には200人以上の消防士が出動していたといわれ、20人以上が死亡し、80人以上が負傷したと報じられている。 (崩壊時の映像は、YouTube「“Plasco”Building Collapses in Tehran」を参照)
                                           “プラスコ”ビル火災 (左:消火活動中、右:ビル崩壊後の状況)
(写真は左:Albawaba.com、右:Wikipedia.orgから引用)
■ イランでは、イラン国営石油精製販売会社(NIORDC: National Iranian Oil Refining and Distribution Co.)が親会社として製油所カンパニーとパイプライン会社を統括している。「テヘラン・オイル・リファイナリー」(Tehran Oil Refinery Co.)は製油所カンパニーのひとつで、1968年に設立された最も古い製油所である。通常は、「テヘラン製油所」(Tehran Refinery)と称されており、2系列の精製装置で合計225,000バレル/日の能力をもつ。
テヘラン・オイル・リファイナリー(テヘラン製油所)の風景
(写真はIrex2world.comから引用)
■ 「イラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社」(Iranian Oil Pipelines and Telecommunications Co.:IOPTC)もイラン国営石油精製販売会社(NIORDC)の子会社のひとつである。イラン国内に総延長14,000kmのパイプラインと175のポンプステーションなどの施設を有し、原油および石油製品の輸送業務を行っている。テヘラン地区には、8~30インチ径のパイプラインが21本あり、総延長は2,050kmである。テヘラン製油所に隣接するパイプライン施設はポンプステーションを兼ねているものと思われる。

■ 発災タンクは容量2,000KLと報じられている。この容量であれば、直径約14m×高さ約14m程度のタンクとなる。発災写真を見ると、タンク上部円周に手すりがあるので、ドームルーフまたはコーンルーフ式の固定屋根タンクと思われる。発災タンクの後方に大型の浮き屋根式タンクがあり、また敷地境界柵の近くである。テヘラン製油所に隣接する場所の条件でグーグルマップを調べてみると、一箇所だけ該当するとみられるタンク区域がある。このタンク区域には、直径約54mの浮き屋根式タンク3基と直径約14mの固定屋根タンク1基がある。固定屋根タンクは、大型タンクの防油堤内にあり、大型タンクと極めて隣接して設置されている。発災タンクは、この固定屋根タンクだと思われる。このタンクはオイル・パイプラインの余剰圧力を管理するために用いられていると報じられているが、その使用方法や安全管理方法は不詳である。
イラニアン・オイル・パイプライン&テレコミュニケーション社の
パイプライン施設とみられるタンク地区
(写真はGoogleMapから引用)
所 感
■ イランでは、昨年から石油施設における事故が頻発しており、このブログでもつぎのようなタンク火災事例を紹介した。
 今年に入っても事故が続いており、イラン国内の混乱ぶりを感じる。火災の原因が落雷であっても、サイバー攻撃による事故ではないかと懐疑的に思っている。実際、いろいろなプラントへのサイバー攻撃が行われているのは確かなようであるが、サイバー攻撃で特定のタンクをピンポイントで火災を起こすことはできない。事故を何もかもサイバー攻撃など外的要因の所為にすることなく、足元の操業管理をきちんと行っていくことが必要であろう。今回のタンク火災であれば、固定屋根タンクに原油を入れることへの危険性と対応が考えられていたかどうかである。 

■ 火災によって400KLの油が焼失したと報じられている。直径約14mのタンクであれば、液高さは約2.6mとなる。仮に全面火災で燃焼速度を30cm/hとすれば、燃焼時間(火災時間)は約9時間となる。一方、発災写真を見ると、堤内火災が生じている。タンクから漏洩し、まわりで火災になっていると報じられているので、タンク底板と側板の溶接部に亀裂が生じ、ここから流出しながら火災になっていると思われる。考えられるのは、落雷による引火・爆発が起こり、屋根が損壊するとともに、アップリフトによって底板の接続部に亀裂が生じ、タンク火災と堤内火災の複合火災となり、燃焼の速度(時間)は速くなったと思われる。火災の制圧時間は約4時間と報じられており、どのような状態を制圧と称しているか分からないが、印象としてはタンク火災は燃え尽きさせ、堤内火災は封じ込んで消火させたのではないかと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。 
     ・Reuters.com, Fire Contained at Iran Refinery Fuel Tank,  January  29,  2017 
  ・En.mehrnews.com,  Fire Hits Oil Storage Tank in Southern Tehran,  January  29,  2017
  ・Thebaghdadpost.com,  Fire Hits Oil Storage Tank in Southern Tehran,  January  29,  2017   
  ・Tasnimnews.com,  Fire at Tehran’s Oil Refinery Extinguished,  January  29,  2017
    ・English.alarabiya.net,  Fires Erupt in Refinery, Oil Field in Iran,  January  30,  2017
    ・Kitco.com, Fire Contained at Iran Refinery Fuel Tank,  January  29,  2017  
    ・Azernews.az, Firefighters Successfully Quench Fire at Tehran Refinery,  January  29,  2017
    ・Financialtribune.com,  Oil Storage Unit South of Tehran Hit by Lightning,  January  29,  2017


後 記: イランの事故情報については以前も述べましたが、事実が曖昧な点が多いですね。失敗は隠れたがる(隠したがる)といいますが、まず火災は制圧している、ケガ人はいないと強調する談話が出ます。今回もタンクの大きさ、油種、火災の鎮火時間などはっきりしないところがあるほか、発災場所がテヘラン製油所だと報じているところもありました。当初、私もテヘラン製油所の火災事故だと思っていました。いろいろな情報を吟味して総合的に判断してまとめました。
 それにしても、テヘラン市の消防士は大変です。1月19日(木)に17階の高層ビル火災で消火活動中に建物が崩落して同僚に多くの死傷者を出したばかりで、1月29日(日)夜半のタンク火災へ出動しています。堤内火災を伴うタンク火災に対して被害を拡大させなかったのはよくやったと感じますね。

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