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2017年9月1日金曜日

米国テキサス州で浮き屋根式タンクに落雷して火災(2009年)

 今回は、2009年7月23日(木)、テキサス州ガルベストン郡テキサスシティにあるシーウェイ・クルード・パイプライン社のタンク施設の原油タンクに落雷があり、火災となった事例を紹介します。
(写真はGalvnews.com から引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、テキサス州(Texas)ガルベストン郡(Galveston County)テキサスシティ(Texas City)にあるシーウェイ・クルード・パイプライン社(Seaway Crude Pipeline Company LLC)のタンク施設である。

■ 発災があったのは、テキサスシティのワイ地区の環状197号線近くにあるタンク施設内の容量600,000バレル(95,000KL)の原油タンクである。原油タンクには、軽質原油が貯蔵されていた。
テキサスシティのシーウェイ・クルード・パイプラインのタンク施設付近 
(写真はGoggleMapから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2009年7月23日(木)午後6時頃、シーウェイ・クルード・パイプライン社のタンク施設内に複数基あった原油タンクのうちの1基に落雷があり、火災となった。当時、雷雨前線がテキサス州メキシコ湾からガルベストン郡を通過中だった。
■ 火災によって発生した黒煙がテキサスシティとラ・マークの上空を覆った。
 
■ 火災発生に伴い、タンク内に装備された自動システムの固定式泡消火設備が作動した。火災は、発災から45分ほどで制圧下に入った。

■ 火災は午後7時45分までに消火された。発災に伴い出動していた消防隊は、火災が再燃しないことを確認するため、夜通し、監視を行った。

■ 事故に伴う負傷者はいなかった。発災時、従業員1名が施設内にいたが、落雷が起こったときにタンク近くにはいなかったという。

被 害
■ 容量95,000KLの原油タンクの浮き屋根シール部が焼損し、側板の一部が火炎にあぶられた。タンク内の軽質原油の一部が焼失した。

■ 事故に伴う負傷者は無かった。
(写真はGalvnews.com から引用)
(写真はGalvnews.com から引用)
< 事故の原因 >
■ 事故原因は、タンク浮屋根裏側にトラップされていた原油のベーパーが落雷によって着火したものとみられる。

< 対 応 >
■ テキサスシティ消防署のほか、近隣のラ・マルク消防署とテキサスシティに製油所をもつBP社からの応援による消防隊が共同して防災活動を実施した。しかし、火災の大部分はタンク内の固定式泡消火システムによって制圧された。

■ 消防隊が消火活動中、環状197号線、州ハイウェイ3号線の一部と州ハイウェイ146号線は閉鎖された。 テキサスシティ市役所は避難勧告を出さなかったが、火災状況について住民へ知らせるため電話の音声メッセージを流した。

■ シーウェイ・クルード・パイプライン社は、今後、タンクにどのような損傷があるか検査し、損傷に応じて適切な補修を行うと語った。

■ この事例については、YouTube「Oilstorage tank struck by lightning in Texas City」に動画が投稿されている。
(写真はGalvnews.com から引用)
(写真はGalvnews.com から引用)
補 足
■ 「テキサス州」(Texas)は、米国南部にあり、人口約2,780万人の州で、州都はオースティンである。
 「ガルベストン郡」(Galveston County)は、テキサス州の東南部に位置し、人口約29万人の郡である。   
 「テキサスシティ」(Texas city)は、ガルベストン郡にあり、人口約45,000人の都市である。テキサスシティは石油・石油化学の工場のある工業都市である。 「ラ・マルク」(La Marque)は、テキサスシティに隣接し、人口は約14,500人の町である。
        テキサス州のテキサスシティ付近 (図はGoogleMapから引用)
■ 「シーウェイ・クルード・パイプライン社」(Seaway Crude Pipeline Company LLC)は、メキシコ湾岸で採掘された原油をパイプラインでテキサス州の製油所への輸送業務などを行っている。 今回の落雷事故のあったタンク施設は、原油を一時貯蔵する施設である。発災当時は、 テプコ・パートナーズ社(TEPPCO Partners L.P)系列の会社であったが、現在は、エンタープライズ・プロダクツ・パートナーズ社(Enterprise Products Partners L.P.)とエンブリッジ社(Enbridge Inc.)との合弁会社で、2012年には、オクラホマ州側から原油を逆に移送するパイプラインを確立させている。なお、発災時に支援で出動したBP社の製油所は、現在、マラソン・ペトロリアム社(Marathon Petroleum Company)が所有するテキサスシティ・ガルベストンベイ製油所(459,000バレル/日)として操業されている。

■ 火災のあった原油タンクは修理を終えて、現在、操業を行っている。グーグルマップによると、容量95,000KLの原油タンクの直径は約91mであることから、高さは約15mクラスである。
テキサスシティにある現在のシーウェイ・クルード・パイプラインのタンク施設 
(写真はGoggleMapから引用)
現在のシーウェイ・クルード・パイプラインのタンク施設 
(写真はGoggleMapから引用)
所 感
タンク浮屋根部のシール構造の例 
(図はSuzuei.co.jpから引用)
■ 今回の事故は落雷による浮屋根式タンクのリムシール火災(リング火災)の典型的な事例である。リムシール火災は全周でなく、約四分の一周程度に限定されている。米国では、一般に固定式泡消火設備を設置したタンクは多くないが、原油パイプラインの一時貯蔵用タンク施設のため、タンクには自動システムの泡消火設備が設置されたものと思われる。このタンクに装備された固定式泡消火設備が有効に機能した事例でもある。
 
■ 今回の事例で興味深いのは、側板に黒い波形の筋がついていることである。 タンク浮屋根裏側にトラップされていた油のベーパーがシール部を抜けて炎となって側板をあぶったためと思われる。奇妙な形になっているが、すでに自動システムで消火泡が投入されているので、この関連があるのかもしれない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
      ・Galvnews.com, Lightning Sparks Oil Tank Fire,  July 23,  2009  
      ・Galvnews.com, Lightning Sparks Oil Tank Blaze,  July 24,  2009  
  ・Khou.com, Lightning Hits Oil Tank,  July 24,  2009 
  ・Reuters.com, Texas City Tank Fire Quickly Extinguished-Spokesman,  July 24,  2009



 後 記: 先日、インドで落雷による浮き屋根式タンクのリムシール火災があり、このブログで紹介しました。一方、日本でも、8月19日東京で2時間に1,000発の落雷があり、8月22日には愛知県で落雷によるとみられる火災が3件あったというニュースがあり、落雷による火災のリスクが大きくなっています。ということで、以前の事故ですが、典型的な落雷による浮き屋根式タンクのリムシール火災事故を紹介することとしました。場所は米国テキサス州テキサスシティですが、この夏の8月下旬、テキサス州にハリケーン・ハーベイ(Hurricane Harvey)が襲来し、ヒューストンで洪水が起こっていると報じられています。ヒューストンの南にあるテキサスシティも災害に見舞われているようです。
ハリケーン・ハーベイによってテキサスシティ・ガルベストンベイ製油所前の冠水した道路(826日) 
(写真はCbcnews.comから引用)


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