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2018年3月7日水曜日

沈没した石油タンカーの流出油が奄美・沖縄の島々に漂着

 今回は、2018年1月に東シナ海で石油タンカーが衝突・炎上し、漂流後に沈没して油が流出したが、1月27日(土)、鹿児島県トカラ列島宝島の海岸で油の漂着が発見され、その後、奄美大島や沖縄の島々につぎつぎと油の漂着が確認された事例を紹介します。
奄美大島の海浜に流れ着いた油漂着物
(写真はAsahi.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 発災施設は、イランのナショナル・イラニアン・タンカー社が運営管理しているパナマ船籍の石油タンカーのサンチ号(Sanchi)である。サンチ号は2008年に建造され、全長約274mで、総トン数約85,000トン、載貨重量約164,000 DWTで、イラン人30名とバングラデシュ人2名の計32名の乗組員が乗船していた。サンチ号はイランから韓国への石油を輸送していた。油種はコンデンセートと呼ばれる軽質原油の一種で、136,000トンを積んでいた。
 
■ 2018年1月6日(土)、中国・上海の東300kmの沖合で石油タンカーのサンチ号が香港船籍の貨物船CFクリスタル号と衝突し、サンチ号は衝突後すぐに爆発があり、火災を起こした。 サンチ号の乗組員32名は全員が死亡した。石油タンカーは火災を起こしながら、日本の奄美大島の西方の排他的経済水域(EEZ)付近を漂流していたが、1月14日(日)正午頃、突然、石油タンカー内で爆発を伴う激しい火災が発生し、横転して、午後5時頃に沈没した。

■ 石油タンカーに積載されていたコンデンセート136,000トンの一部が火災によって焼失したほか、残りは石油タンカーとともに海中を沈んだ。また、石油タンカーには、機関用燃料の重油が1,900トン積まれていた。焼失しなかった油は周辺海域を汚染するととともに、流出した油が漂流した。
(石油タンカーの衝突・沈没事故については、「イランの石油タンカーが東シナ海で衝突・炎上、漂流後、沈没、死者32名」を参照)

< 油漂着の状況および影響 >
事故の発生
宝島に流れ着いた油漂着物
(写真はAsahi.comから引用)
■ 2018年1月27日(土)、鹿児島県トカラ列島宝島の海岸で油の漂着が確認された。油状の固まりが約7kmにわたって見つかった。
■ 21日(木)午前には、鹿児島県奄美大島で油の漂着が確認された。油は奄美大島の北部から西部にかけて直線距離で50km以上にわたって点在していた。朝仁(あさに)海岸に500mにわたって打ち上げられたものは、人のこぶし大の黒い漂着物で触ると弾力があり、表面を崩すと油の臭いがした。海岸を犬と毎日散歩するという女性によると、犬といっしょに砂浜に入ったら、足が油だらけになり、犬の足の油はしばらく取れなかったという。

■ 2月1日(木)以降、奄美大島のほか周辺の喜界島、徳之島、沖永良部島でも油漂着が確認された。2日(金)の漂着量は前日より増加した。
石油タンカーの沈没位置と油漂着場所 (海上保安庁)
(図はKaiho.mlit.go.jp から引用)
被害にあったオオウミガメ
(写真はSankei.comから引用)
■ 26日(火)には、奄美大島の知名瀬海岸でオオウミガメの死骸が発見され、鹿児島県が死骸を回収して調べて結果、口の中に油が付着していたことから、周辺で漂着が続く油の影響で死んだと発表した。同日、環境省は、23日(土)に奄美大島で油の付いたヒヨドリの死骸が確認されたと発表した。しかし、釣り糸がからまり、油漂着で死亡した可能性は低いと述べ、現地調査を検討していると説明した。

■ 2月6日(火)、鹿児島県は奄美大島の油漂着状況を発表したが、これによると、島の北西側に片寄っている。一方、2月9日(金)に発表された喜界島の油漂着状況では、島の北西側だけでなく、南東側にも油漂着が確認されている。また、 2月16日(金)に発表された徳之島の油漂着状況でも、油漂着は島のまわりに片寄りなく点在している。

■ 2月7日(水)、鹿児島県屋久島の海岸でも油のようなものが漂着しているのが見つかった。鹿児島県は、二次汚染防止のため、漂着物にはむやみに触らないよう呼びかけた。

■ 2月7日(水)、沖縄本島北部の今帰仁村と本部町で油漂着物が確認された。

■ 2月14日(水)、沖縄本島北部の海岸で油漂着物が発見されて以降、新たに那覇港や恩納村、伊平屋島、伊江島、座間味島の海岸などでも油漂着物が相次いで確認され、本島北部のほか、本島中南部や周辺離島の広範囲に広がった。

(図はOkinawatimes.co.jpから引用)
■ 2月15日(木)、沖縄本島北部などに油の塊などが相次いで漂着しているが、海流に詳しい専門家は、先月の石油タンカー沈没事故で流出した重油が黒潮に流されていったん本州向けに北上した後、南西諸島に沿って吹く北風に押し戻されたと推測している。
 鹿児島大学の中村啓彦教授(海洋物理学)は、沈没した石油タンカーから流出した油の経路をシミュレーションした結果、1月下旬から2月中旬に強い北風が吹いた影響で重油が黒潮を横切り、そのまま南下していたと推測している。外洋には奄美大島に漂着した油より多い量がまだ残っており、沖縄でも奄美大島と同じことが起こるのではないかという。 一方、3月上旬頃までの北風の強さで漂着量は増減するとした上で、奄美群島は1か月程度で、しばらくすれば沖縄も収束するとの見方を示した。
 
■ 2月15日(木)、黒潮に乗って油汚染が日本の広範囲に広がり、生態系や漁業に悪影響を与える危険性を指摘する英国の研究者らの意見に対して、環境汚染に詳しい鹿児島大の宇野誠一准教授は冷静な対応を呼び掛ける。さらさらした重油が海中のごみを取り込みながら粘性の高い塊になったとみて、「有害物質は漂流中に風化して減り、塊の中に閉じ込められてもいるので溶け出しにくい。速やかに回収されれば、生態系に壊滅的な影響を与えることは考えづらい」と話している。
 
■ 2月27日(火)、沖縄本島北部の海岸を中心に油漂着物が相次いで見つかっている中で、新たに宮古島の海岸でも黒い塊が確認された。宮古島の東に位置する高野海岸で油のような塊が漂着しているのを巡回中の宮古島海上保安部の職員が発見したという。

■ 2月28日(水)、宝島で油の漂着が確認されてから1か月を経過した。油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認されている。

被 害
■ 油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認された。見つかった油漂着物や油付着物は人による清掃作業で回収する必要がある。  

■ 生態系への悪影響が懸念される。現在のところ、オオウミガメ1匹が漂着油で死んだほかはわかっていない。

■ いまのところ漁業被害はない。けが人や健康被害も出ていない。  

< 事故の原因 >
■ 沈没した石油タンカーの機関用燃料の重油が流出して一部が漂着したものとみられる。  

< 対 応 >
■ 1月17日(水)、第十管区海上保安本部は、沈没現場周辺で船を走らせ、スクリューで軽質原油を揮発、拡散させる作戦を進め、油膜は拡散して消滅しつつあると発表していた。

■ 中国政府は、船や人工衛星で拡散状況を調べており、1月末時点で、沈没海域延べ約80万平方kmを監視し、360箇所の水質検査で11箇所から基準値を超す油関連物を検出したとして、「環境に一定の影響がある」とみていた。1月下旬の水中調査では、沈んだタンカーの船体に最大35mの穴が見つかっている。甲板の通風口なども大部分が損壊しており、さらなる油の流出の懸念があるという。

■ 2月2日(金)、鹿児島県奄美大島の海岸に黒い油のようなものが漂着しているのが見つかったことを受け、鹿児島県、奄美海上保安部、地元市町村が集まり、対策会議を開いて対応を協議した。

■ 2月2日(金)、日本政府は、奄美大島の沿岸で油の漂着を確認したことから、首相官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置し、情報を収集して対応策を検討すると発表した。 同日、環境省は九州地方環境事務所長をチーム長とする油汚染対策現地対策チームを設置した。

■ 2月3日(土)、奄美大島の朝仁海岸では、油漂着物の除去作業をする住民や島外からのボランティアの姿がみられた。一方、鹿児島県大島支庁は、ボランティアによる除去作業に対して「行政の準備が整うまで待ってほしい」と呼びかけた。油と砂やゴミなどを混ぜて回収すると、処理がしにくくなったり、費用がかさんだりする恐れがあるという。鹿児島県と地元市町村は、2月5日(月)に回収の手順や開始時期、ボランティアの受入れなどについて話し合う予定だという。2月3日(土)に福岡から来島し、朝仁海岸での作業に加わったボランティアの男性は「手伝いたい人はたくさんいるはずなので、受入れの窓口や情報提供をきちんとしてほしい」と話した。
                  奄美大島の油漂着マップ   (図はMaps.amami.camera から引用)
                       油漂着状況  (写真はMaps.amami.camera から引用)
■ 2月6日(火)、第十管区海上保安本部は、宝島、奄美大島、喜界島に漂着した油につい て分析した結果、C重油または原油相当だと発表した。油種が特定できなかったのは、油が海外製で技術的に困難だったという。

■ 2月7日(水)、鹿児島県は安全に漂着油の除去作業ができるよう回収作業マニュアルを作成し、ウェブサイトに公開し、除去作業を行う場合に配慮するよう呼びかけた。

■ 2月8日(木)午後、鹿児島県大島支庁は職員約25名で奄美大島の朝仁海岸で漂着油の回収作業を行った。5本の200Lドラム缶が用意され、回収量は約160kgだった。 200Lドラム缶は今後、130本準備される予定である。
一杯になった漂着油回収ドラム缶
(写真はGreenpiece.orgから引用)

■ 2月9日(金)午後、鹿児島県奄美市は職員約50名で奄美大島の朝仁海岸で漂着油の回収作業を行った。回収量は約1,950kgだった。回収した漂着油は鹿児島県が用意した200Lドラム缶が一杯になったため、ビニール袋に仮保管した。来週から計画的に実施していきたいとし、一般市民のボランティアも受け入れたいという。油漂着物の回収作業にボランティアで参加した人によると、漂着物の中には、砂に埋まって見えなくなっており、漂着物の量はかなりあり、たくさんの人でやらなければ終わらないと語った。

■  2月5日(月)から2月9日(金)にかけて、環境省大気環境局水環境課・大気環境課は、国立環境研究所と連携して漂着地域における環境モニタリングのため、現地踏査と海水・大気等の試料採取を実施した。

(図はCas.go.jpから引用)
■  2月9日(金)、海上保安庁は、油汚染範囲を明らかにするため、1月29日(月)から2月2日(金)にかけて沈没周辺海域および沖縄近辺から南九州沿岸の海水を採取したと発表した。

■ 2月9日(金)、水産庁は、国立研究開発法人「水産研究・教育機構」に対し、沈没事故で流出した油による水産資源や漁場への影響調査を委託した。同調査は、海水や動物プランクトンを採取して分析調査を行い、魚類等に油類が与える毒性を明らかにする。調査は2月16日(金)~3月12日(月)まで行われ、結果は4月上旬に公開される予定である。

■ 2月9日(金)、徳之島では、役場職員、建設業協会、地元漁協、青年会議所などが漂着油の回収作業を行った。
徳之島の油漂着場所(鹿児島県徳之島事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 29日(金)、喜界島では、観光客などが訪れる中里のスギラビーチと池治海水浴場で鹿児島県喜界事務所と喜界町の職員など約20人が参加して漂着油の回収作業が行われた。約2時間の作業でドラム缶6個分を回収した。喜界島では、回収作業を実施した2つの海浜を含めて16か所で油の漂着が確認されている。
喜界島の油漂着場所(鹿児島県喜界事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 211日(日)、沖永良部島で、鹿児島県沖永良部事務所や和泊町職員ら有志によるボランティア約70人で漂着油の回収作業が行われた。1時間半の作業で約60kgの漂着油を回収した。回収作業は、試験的な意味を込めて行政職員のみで実施されたもので、今後の対応は今回の作業を踏まえ、検討していくという。
沖永良部島の油漂着場所(鹿児島県沖永良部事務所)
(写真はPref.kagoshima.jp から引用)
■ 2月14日(水)、環境省環境副大臣が奄美大島の油漂着状況の視察のため現地を訪問した。油漂着物回収作業の今後の予定は明らかにしなかった。

沖縄のおける油漂着場所
(図はRyukyushimpo.jpから引用)
■ 2月14日(水)、沖縄県、沖縄北部地区の10市町村、第十一管区海上保安本部は、相次ぐ油漂着を受け、名護市で緊急対策会議を開いた。出席者は漂着物の情報を共有し、今後の対応を話し合った。

■ 2月15日(木)、鹿児島県知事が奄美大島の油漂着状況の視察のため現地を訪問した。油漂着物回収作業の今後の予定は明らかにしなかった。

■ 2月16日(金)、環境省九州地方環境事務所は、奄美大島への油漂着による沿岸域の生態系への影響把握のため、5箇所の地区(笠利半島海域公園地区、大島海峡海域公園3地区、摺子崎海域公園地区)について目視による調査を行った結果を公表した。その結果、4箇所の海岸において油状の物の漂着を確認した。なお、海面における浮遊はなかった。イシサンゴ類等への付着は確認されず、現時点ではイシサンゴ類、海藻海草類、貝類、ウニ・ヒトデ類(棘皮動物) の生息・生育には特に異変がないとみられる。

漂着した油の状態
(写真はGreenpiece.org から引用)
■ 2月16日(金)、環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、2月12日(月)~14日(水)に奄美大島の油漂着現場を見てきた状況をウエブサイトに掲載した。主な内容はつぎのとおりである。
 ● 油の漂着は東シナ海に面する北西の海岸で広がっている。一方、油が漂着している浜と、していない浜で差がある。地元のテレビ局と映像関係者が協力して自主的な調査に基づく油漂着マップを作成している。(注記:地元のテレビ局と映像関係者とは、奄美テレビ放送とあまみカメラである)
  ● 朝仁海岸の回収作業は進んでいた。集められた油漂着物は専用のドラム缶に回収されている。ウミガメの産卵地である大浜海浜公園は回収作業が行われるところで、海岸への立入りを控えるよう看板が設置されていた。大浜の近くの知名瀬海浜では回収が始まっておらず、油の漂着物はそのままの状況だった。知名瀬海岸で海鳥オオミズナギドリの死骸が発見された。捨川(すてご)海浜には、油の塊が浜に広がっていた。
 ● 北西の海岸の中でも、モズク漁が行われる龍郷町芦徳(とのり)では、油の漂着はこれまで確認されていない。大和村国直(くになお)の浜辺では、油の漂着物は少なく、住民のボランティアで片付けられる規模だった。

■ 2月16日(金)、環境保護団体グリーンピース・ジャパンは、日本政府に対して生態系や住民への影響を最小限にとどめるために、早急で適切な対応を取るよう、つぎの事項を要望した。
 ● 事故現場および油類が漂着した場所の生態系への影響を見極めるために、中長期的なモニタリング体制を構築し、影響を除去・緩和するための計画を作成して実施すること。
 ● 目視できる漂着油を除去した後も、炭化水素が砂に入り込んだ箇所、岩などに油がこびりついた箇所は汚染物質の100%除去は困難であるため、当該地域では継続的なモニタリングの実施と得られたデータの情報を公開すること。
 ● 海洋生態系および海水調査の結果を地元住民に積極的に公開すること。
 ● 国際的な調査チームをつくり、調査データを他国と共有すること。

■ 2月18日(金)、奄美大島の奄美市は、ボランティアを募って市内28か所の海岸で一斉に漂着した油を回収した。参加した市民らは約1,840人で、約3時間で回収した漂着物は約43.5トンだった。この回収作業には、環境省(九州地方環境事務所、那覇自然環境事務所、奄美自然保護官事務所)の職員11名が参加した。
油漂着物の回収作業の状況(奄美市)
(写真はChinaplus.cri,cn から引用)
回収された油漂着物 (奄美市)
(写真はFacebook.comから引用)
■ 221日(水)、第十管区海上保安本部は、サンチ号沈没位置付近で117日(水)に採取した浮流油、28日(木)に沖永良部島に漂流・漂着した油状物、28日(木)に与論島に漂着した油状物につい て成分分析を行った結果、C重油または原油相当だと発表した。また、それぞれは構成する成分や比率が類似しているという。

■ 2月21日(水)、海上保安庁は、 1月29日(月)から2月2日(金)にかけて行った海水の分析結果を公表した。採取した14箇所の海域の海水の油分の測定した結果、すべての採水箇所において、海水中の油分は事故以前に測定された値と比較して変わらない値となり、今回測定した箇所における油による汚染は確認されなかった。
海水の調査場所と分析結果
(図はKaiho.mlit.go.jp から引用)
■ 2月23日(木)、海外メディアのAFPによると、海上保安庁は、鹿児島県の沖永良部島と与論島に漂着した油について、東シナ海で沈没した石油タンカー「サンチ号」から流出したものとみられることを明らかにした。海上保安庁の報道官によると、両島に漂着した油を採取して分析したところ、サンチ号の燃料に使われていたものと成分が似ていた。事故海域で原油流出を伴う海難事故は他に把握していないため、沖永良部島と与論島に漂着した油はサンチと関係がある可能性が高いと結論付けたという。沖永良部島と与論島以外の島々に漂着した油のサンプルはそれぞれ異なる成分を示していた。サンチ号は各種のタンクや装置でさまざまな重油を使用していた可能性もあると指摘した。同報道官は、分析を続けているところであり、他の島々に漂着した油について結論を出すのは時期尚早と考えていると述べた。
漂流する油 116第十管区海上保安部撮影)
(写真はAfpbb.comから引用)
漂流する流出油
(写真はRferl.org から引用)
■ 2月28日(水)、第十管区海上保安本部は、東シナ海におけるタンカー衝突事故について海上保安庁の対応状況について公表した。
 ● 1月15日(月)、現場海域に浮流油を確認した。
 ● 1月15日以降、浮流油の調査、行方不明乗組員の捜索および油防除作業を開始した。
 ● 2月22日(木)、サンチ号沈没位置付近の漂流油状況を確認した。沈没位置から南西へ約500mを基点として、南へ長さ約700m×幅約20mの油膜が浮流している。なお、2月16日(金)~22日(木)までの状況は特段の変化はない。また、付近では引続き中国巡視船等が行方不明者捜索および油防除作業中である。  
 ● 2月28日(水)、サンチ号沈没位置付近の漂流油状況を確認した。沈没位置付近から長さ約500m×幅約20mの範囲に浮流油を認めた。浮流油は末端から拡散消滅している状況とみられる。

■ 2月28日(水)、宝島で油の漂着が確認されてから1か月を経過した。油漂着は宝島、奄美群島、沖縄本島に拡大し、2月27日(火)時点で24の島で確認され、各地で回収作業が進められている。
 宝島では、これまでに島民が回収作業を行っているほか、2月14日(水)から清掃作業会社約30人が加わり回収作業を行っている。しかし、漂着している範囲が広く、完全に取り除くには数か月はかかる見込みだという。島の住民からは今後、水質への影響や島の経済についての不安の声が聞かれた。
 一方、夏は多くの海水浴客でにぎわう奄美大島の大浜海岸では、奄美市から管理を委託されている清掃作業会社がほぼ毎日、油の回収作業を続けている。当初に比べ、表面上の油は目立たなくなったが、砂に埋もれたり、石に付着した油がまだ残っている。油漂着は広範囲で、それぞれの島が回収作業を進めているが、手作業のため回収の長期化や影響への不安が広がっているという。

■ 2月28日(水)、奄美市はこれまでに約48トンの油漂着物を回収した。いまのところ漁業被害はないという。鹿児島県によると、県内では2月18日(日)までに約90トンを回収したという。
 一方、回収した油の処理が問題化している。現在はドラム缶やブルーシートに包んで保管しており、鹿児島県は環境などへの配慮から離島での焼却は見送り、九州本土に運搬して処分する方法を検討している。また、回収費などは通常、原因となった船主に請求するが、そのためには、漂着した油と船の燃料などの成分が類似していることを証明する必要があり、自治体などは第十管区海上保安本部の漂着物の分析を注視している。

■ 3月1日(木)、環境省は、 2月8日(木)に奄美大島の6つの海岸で採取した海水の水質分析の結果を公表した。その結果、いずれの調査地点においても環境基準値等を超える項目は無かった。

■ 3月1日(木)、フェースブックに奄美大島知名瀬海岸における油漂着情報が投稿された。これによると、ペットボトルやロープなどの人工漂着物にへばりついた油や、砂地に点在した油塊などが多くみられた。大きさや粘度は様々で、大きいもので50cm程度のものもある。中にはまだ柔らかくて光沢のある油塊もあり、その状態から漂着して時間が経っていない印象を受けたという。

■ 環境省奄美自然保護官事務所は、奄美大島の用海岸、大瀬海岸、大浜海岸・小浜、知名瀬、ヒエン浜、大棚の6地点を重点監視ポイントとして巡視等を実施しており、日々の巡視状況をウェブサイトに掲載している。3月1日(木)知名瀬で確認された油漂着物(バケツ4杯分)は回収された。3月4日(日)は知名瀬で新しい油漂着物が見られたほか、用海岸で少量が回収され、6地点の油漂着量は少なくなっている。
 一方、徳之島でも、4地点を重点監視ポイントとして巡視等を実施しており、日々の巡視状況をウェブサイトに掲載している。それによると、2地点では油漂着が多量に残っている。沖縄を含めてその他の地域の油漂着量と回収量は明確にされていない。
環境省奄美自然保護官事務所よる奄美大島の巡視・回収状況
(写真はKyushu.env.go.jp から引用)
所 感
■ 日本の島に油漂着が発見されてから約1か月間余、いろいろな部署が動いているが、油がどのくらい漂着し、どのように対応し、回収量がどのくらいになったのかという全体像が分からないという状況である。

■ 結局、日本政府および鹿児島県の危機管理対応の能力不足を露呈してしまったということは否めない。主な問題点はつぎのとおりである。
① 危険予知の感性が不足し、初動対応が遅い
 ● 1月14日(日)の奄美大島西方で起った石油タンカー沈没に対して、 日本の島々への油漂着に関する予測(危険予知)がなされていなかった。1月27日(土)、鹿児島県宝島で油漂着が確認された後、迅速な対応(回収作業の開始)がとられていない。鹿児島県と日本政府がそれぞれ会議を開催したのは2月2日(金)で、この間一週間が経過している。

② 現場指揮所(災害対策本部)が設置されなかった
 ● 首相官邸に設置されたのは危機管理センターに情報連絡室を設置しただけで、政府内の対応組織を明確にしなかった。このため、従来の官庁縦割り組織のまま、環境省、農林水産省(水産庁)、国土交通省(海上保安庁)の関係機関がそれぞれ行動した
 ● 緊急事態対応時には、本来、各機関を司る指揮所(本部)を設置し、権限をもつ指揮所長(本部長)を配置する必要があるが、この基本的な対応がとられなかった。また、政府(中央官庁)と鹿児島県庁の連携が悪く、対応組織が一元化されなかった。
 ● 鹿児島県庁は対応組織を明確にせず、県庁の組織(各島事務所)内だけで行動した。このため、地元市町村はそれぞれが行動した。

③ 油流出対応の戦略・戦術が欠如していた
 ● 戦略を立てるには、「敵」(漂流して襲ってくる油)を明確にする必要があるが、各部署のテリトリー内の場当たり的な対応になってしまった。 本来、「敵」の行動を戦術に活かすために行う各機関の調査や分析の結果を出すのが遅く、対応に活かされていない。
 ● 日本には、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法令」があり、いろいろな部署で「海上災害対策」の基準があるが、対応は船主第一責任のもとに行われる。今回のように漂着する油の持ち主が明確でない場合、回収作業を命じる相手がなく、対応が後手後手にまわった。
 ● 過去の船舶による海上流出事故の経験をもとに「海上災害防止センター」が設立されたが、今回の対応で活動しておらず、忘れられた組織になっている。
日本周辺で発生した船舶起因の主な流出油事故
(図はMlit.go.jpから引用)
■ 今回の対応の中で目立ったのはボランティアの活動である。奄美大島に油漂着が確認された翌日の2月3日(土)には、ボランティアによる回収作業が行われているし、2月18日(金)に行われた回収作業には1,840人が参加している。 日本にボランティア精神が定着したと感じる。
 一方、今回のような漂着油の回収は、人による手作業の人海戦術をとるしかない。迅速に清掃作業会社の作業員を配置し、計画的で早い回収作業を行わなければならない。その中でボランティアの人の手をどのように活用するのかという対応が必要である。

■ 鹿児島県内で回収された量は、2月18日(日)までに約90トンだといい、現時点の回収全量ははっきりしていない。外洋には奄美大島などに漂着した油より多い量がまだ残っていると指摘されている。サンチ号には機関用の重油が1,900トン積まれていた。この量が出港時のものか、沈没時のものか分からないが、仮に半分(950トン)が流出して漂流しているとすれば、まだ相当量の油が陸地に漂着する可能性がある。今回の漂着では、北風に流されたと見る向きもあるが、東シナ海の海流は基本的には朝鮮半島(韓国)側に流れるし、黒潮に乗れば、太平洋側に流れる。いずれにしても、日本のどこかに漂着する可能性がある。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
   ・Mainichi.jp,  沈没タンカーから油 日中海洋当局が対応, January  17,  2018
       ・Aasahi.com,  油状固まり7キロ、⿅児島・宝島に タンカー事故関連か, February 01,  2018
     ・Nikkei.com,  奄美⼤島沿岸に油漂着、タンカー沈没と関連か 官邸に情報連絡室, February 02,  2018
       ・Sankei.com,  奄美⼤島「⿊い油」、対策会議で対応を協議 沈没タンカー流出?海上保安本部は成分分析, February 02,  2018
       ・Aasahi.com,  奄美の漂着油で県呼びかけ「除去待って」,  February 04,  2018
       ・Mainichi.jp,  東シナ海 原油流出1カ⽉、⽇本への影響は 被害懸念, February 06,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/07放送】奄美沿岸漂着油 油の分析結果発表, February 07,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/08放送】奄美沿岸に漂着油 続報 回収マニュアルを作成, February 08,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/09放送】奄美市が朝仁海岸で除去作業開始, February 09,  2018
       ・Nankainn.com, 22時間でドラム缶6個分 海水浴場などで漂着油回収 喜界町, February 11,  2018
       ・Nankainn.com, 沖永良部島でも漂着油回収, February 12,  2018
       ・Youtube.com,  ティダニュース【02/14放送】奄美沿岸に漂着油 渡嘉敷環境副大臣が視察, February 14,  2018
   ・Youtube.com,  ティダニュース【02/15放送】三反園県知事が朝仁海岸に現地視察, February 15,  2018
       ・Ryukyushimpo.jp,  油漂着 沖縄本島西海岸で拡大 県など緊急会議、11管調査, February 15,  2018
       ・Okinawatimes.co.jp,  どこまで拡大するのか 油の漂着物、沖縄県内8市町村・300個超え, February 15,  2018
       ・Sankei.com,  漂着油でアオウミガメ死ぬ 奄美⼤島の海岸、6⽇回収, February 08,  2018
       ・Nikkei.com,  漂着油でアオウミガメ死ぬ 奄美⼤島の海岸, February 08,  2018
       ・Hazardlab.jp,  奄美周辺の漂着油「重油と判明」沈没船の燃料流出か?海保が分析, February 08,  2018     
   ・Jcp.or.jp,  奄美沖タンカー沈没 漂着油 ⽣態系脅かす 国際NGO 政府に対策要望, February 19,  2018
       ・Mainichi.jp,  漂着物 奄美市で回収 ボランティア1,840人で43.5トン, February 19,  2018
       ・Env.go.jp,  奄美大島等における油漂着事案に関する環境省の対応について, February  23,  2018
       ・Afpbb.com,  沖永良部島と与論島の漂着油は沈没タンカーの燃料、海上保安庁, February  24,  2018
       ・Kaiho.mlit.go.jp,   奄美大島等における油状物関連情報, February  28,  2018
       ・Greenpeace.org,  奄美大島に漂着した油を見てきました, February  16,  2018
       ・Smbc.co.jp,  油漂着から1か月  回収作業に数か月かかる島も, February  28,  2018
       ・Buzzfeed.com,  日本の排他的経済水域に沈没したタンカー 原油の大量流出、その後の被害は, February  28,  2018
       ・Nishinippon.co.jp, 鹿児島、沖縄の油漂着24島に被害 発生1ヵ月 回収も処分も難題, February  28,  2018
       ・Rbc.co.jp, 油状の漂着物 宮古・八重山地方で初確認, February  28,  2018


後 記: 石油タンカーの衝突・沈没事故について当ブログで紹介しましたので、日本に油が漂着したことから調べてみました。情報はいやになるほどたくさんありました。しかし、断片的であり、総括できるような状況ではありませんでした。このため、漂着状況と対応をそれぞれ時系列でまとめることにしました。その中から分かったことは所感に書いたとおりです。
 前回の事故情報の後記の中で、「日本の排他的経済水域(EEZ)付近で漂流して沈没し、油流出による環境汚染や漁業への影響が懸念される状況でありながら、日本の海上保安庁、農林水産省、環境省などからの情報が聞こえてこないのはなぜでしょう。海上保安庁は巡視艇を派遣しているので、状況をつかんでいるはずですが、あまりにも情報公開に消極的です」と書きましたが、今回は別な観点の疑問があります。それは、海上保安庁の漂着油に関する曖昧な態度です。石油を扱っている人なら、C重油相当または原油相当という分析結果に疑問を持ちます。どこから原油相当という判定が出てくるのでしょう。これだけの状況が揃っていながら、なぜサンチ号の機関用重油だといわないのでしょうか。インターネットでは、中国に気を遣っているという話もありますが、サンチ号はイランのタンカー会社が運営管理しているパナマ船籍の石油タンカーです。イランは損害額が110百万ドル(121億円)で、内訳は石油60百万ドル(66億円)、タンカー本体50百万ドル(55億円)と言っています。これは損害保険で補填されるはずです。何を忖度しているのでしょう。このブログでは「沈没した石油タンカーの流出油が奄美・沖縄の島々に漂着」としました。



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