2016年2月26日金曜日

インドで石油タンクに迫撃砲によるテロ攻撃(2003年)

 今回は、2003年3月7日、インドのアッサム州ティンスキアにあるインディアン・オイル社ディグボイ製油所で、ガソリン貯蔵タンクがテロ攻撃を受け、迫撃砲によって火災となった事例を紹介します。
   火災になったガソリン用タンクNo.559には、側板に大きな穴がみられる。   写真TheHindu.comから引用)
< 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、インドのアッサム州(Assam)ティンスキア(Tinsukia)にあるインディアン・オイル社(Indian Oil Corp.)ディグボイ製油所である。ディグボイ製油所は1901年にインドで最初に建設された製油所で、現在操業している製油所では、世界最古の部類に入るといわれている。

■ 発災があったのは、タンク地区にある燃料を貯蔵するタンク13基のうちの1基である。タンク地区にはおよそ25,000KLの油が貯蔵されていた。発災タンクは容量5,000KLの内部浮き屋根式タンクNo.559で、当時タンク内には約4,500KLのガソリンが入っていた。
インドのアッサム州にあるインディアン・オイル社ディグボイ製油所付近 
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2003年3月7日(金)午後11時45分、ガソリンを貯蔵していたタンクNo.559で火災が起こった。タンク火災はアッサム統一解放戦線(United Liberation Front of Assam: ULFA)が迫撃砲による攻撃を行ったためである。迫撃砲はタンクから約200m離れたところで発射されたとみられる。

■ 火災の炎は一時100m以上の高さに舞い上がり、夜空を照らした。その後も高さ10mの炎を上げて燃え続けた。この火災に伴い、周辺地区の住民約3,000人が避難した。
■ 火災に伴い、消防隊が出動し、泡放射を始めたが、消火用資機材が不足したため、中断した。そして、近くにある12基のタンクへの火災拡大を回避するため、隣接タンクの冷却に注力した。

■ 3月10日(月)朝、消火用資機材が揃ったので、再び泡放射を開始し、昼過ぎに火災は鎮火した。火災後にタンクに残った油は深さ1mほどだった。   

被 害
■ 内部浮き屋根式タンク1基が火災により損傷した。 この火災によって約4,500KL入っていたタンク内のガソリンは、深さ約1m分を残して焼失した。インディアン・オイル社によると、概算損害額は1億ルピー(2.5億円)と推定された。
■ この火災による死傷者は出なかったが、地域住民約3,000人が避難をした。 

< 事故の原因 >
■ 迫撃砲の被弾によってタンク内で2箇所が破壊され、火災になったとみられる。事故原因の分類としてはテロ攻撃による「故意の過失」に該当する。  

■ 石油タンクへの攻撃の背景: 1979年、インドのアッサム州の分離独立を目指して「アッサム統一解放戦線」(United Liberation Front of Assam: ULFA)が設立された。組織的には政治部門と軍事部門があり、軍事部門は武装闘争を経て目的を達しようとし、各地でテロ攻撃を繰り返している。2003年3月7日には、製油所の石油タンクのほか、警察の交番、パイプラインなどがテロ攻撃を受け、2名の死者、6名の負傷者が出た。インド政府はテロ組織に指定して掃討作戦を展開し、組織は小さくなっているが、現在もバングラデシュ、ブータン、ミャンマーとインドとの国境地域に拠点を有しているとされる。

< 対 応 >
■ テロ攻撃後、州全体に警戒警報が発令された。

■ 発災に伴い70名の消防隊員が出動し、初動で泡放射を行ったが、資機材が不足したため、中断した。消防隊は、火災拡大を回避するため、隣接する6基のタンクの冷却作業に奮闘した。

■ 発災から56時間を経過した3月10日(月)の午前8時45分、消火用資機材が揃ったので、再び泡放射を開始した。泡消防車8台、泡投入装置6台、3,750L/min (1,000gpm)級モニター3台が火災に対して一斉放射された。 タンク火災はおよそ3時間半後の午前12時45分、鎮火した。
■ 使用された泡薬剤は、3%水成膜泡(AFFF)および3%フッ素たん白泡(FP)で、泡放射活動時の4時間で消費された量は合計65,000リットル(65KL)だった。
■ インディアン・オイル社は一時的に製油所の操業を中断したと言われていたが、3月8日(土)、製油所の精製装置は火災タンクの場所と離れており、安全が確保できるので、操業を続けていると発表した。

補 足
■ 「インド」(India)は、南アジアに位置し、インド亜大陸を領有する連邦共和制国家である。1947年に独立し、インダス文明に遡る古い歴史を持つ国で、約13億人と世界第二位の人口を持つ。首都はムンバイである。
 「アッサム州」(Assam)は、インド北東部にある人口約2,600万人の州で、北東インドの中核となっている。
 「ディグボイ」(Digboi)は、アッサム州の北東に位置するティンスキア(Tinsukia)地区の人口約20,000人の町である。ディグボイは、19世紀後半にアジアで最初に原油が発見されたことで知られている。1901年には製油所が建設され、操業を始めている。
         インド北東部のアッサム州まわりの国々  (写真はグーグルマップから引用)  
      迫撃砲の例  (写真はSeesaawiki.jp から引用)
■ 「迫撃砲」(はくげきほう:Mortar)は、弾体と発射薬が一体化された砲弾を簡易な構造で発射できる火砲である。迫撃砲で使用される砲弾は榴弾(りゅうだん)のほか、発煙弾、照明弾、焼夷弾などがある。迫撃砲は砲弾を砲身内に落とし込むだけで発射ができ、少人数での携行が可能で、操作も簡単である。射撃時の反動を地面に吸収させ、機構を簡素化させているため、射角は高くとり、砲弾は大きな湾曲の弾道を描く。 このため、命中精度が低く、射程は長くないが、軽量で大きな破壊力をもち、速射性に優れた火砲である。口径60mmクラスの軽量迫撃砲で射程距離は約3,000mである。持続射撃において毎分10発前後を発射でき、着弾時の角度は垂直に近くなる。
 当該事例の使用武器が「迫撃砲」であれば、内部浮き屋根式タンクの外部屋根に速射で発射されたものとみるのが妥当であろう。このため、外部屋根および内部浮き屋根が損壊し、油面火災になったものと思われる。しかし、使用された武器は迫撃砲のほかにロケット砲あるいは擲弾(てきだん)という情報もある。標題の発災写真には側板に大きな穴が見られるので、ロケット砲や擲弾も使用された可能性はある。

■ 「発災タンク」の場所は、主要精製装置地区の構外にある公道を越えたタンク地区ではないかと思われる。グーグルマップによると、このタンク地区には貯蔵タンクが13基あり、まわりは木々に囲まれている。そのうち1基は供用されていないとみられる。このタンクに隣接するタンク数は6基になる。報道された情報と合う。これが発災タンクだとすれば、直径は約23mであり、容量5,000KLクラスとなる。(発災タンクの大きさを推定した情報には、直径50m×高さ15mというのがあるが、これは30,000KLクラスになる)
 この容量5,000KLタンクに4,500KLのガソリンが入っていたとすれば、液面の高さは10mである。ガソリンの全面火災時の燃焼速度を30cm/hと仮定すれば、燃え尽きる時間は約33時間となる。実際には深さ1mを残して鎮火するまで約60時間かかっており、燃焼速度は15cm/hとなる。おそらく、内部浮き屋根の沈降によって「障害物あり全面火災」の状況ではなかったと思われる。 
ディグボイ製油所精製装置の構外にあるタンク地区付近(現在)
               (右下端のタンクは供用されていないようにみえる)    (写真はグーグルマップから引用)
所 感
■ この事故は、石油タンクがテロ攻撃の標的になったものの中では、発災状況と消火活動内容が比較的明らかな事例である。それでも、タンク直径(液の表面積)がはっきりしないので、泡放射量(L/min・㎡)が推測できない。56時間燃え続けたのち、消火資機材が揃ったのを機に消火活動を再開し、3時間半の時間をかけて消火しているが、残りの油面が深さ1m程度であり、ほとんど燃え尽きる状況だったと思われる。
 消火泡投入後、火勢が急激に衰える時間を「ノックダウン時間」というが、通常、ノックダウン時間は10~30分である。すなわち、泡放射開始から10~30分で火勢が衰えなければ、火災の鎮圧はむずかしく、泡放射モニターの増強や配置を見直すべきである。さもなければ、泡消火薬剤を無駄に消費させることになる。今回の事例が現場でこのような再検討が行われたかどうかは分からない。

■ このブログで紹介した世界のテロ攻撃はつぎのとおりで、規模がエスカレートしている。
  

備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Sp.se, Tank Fires   Review of fire incidents 1951-2003,  SP Swedish National Test and Research  Institute,
  ・Rediff.com,  ULFA Terrorists on Rampage in Assam,  March  08, 2003
  ・TheHindu.com, Blaze in Digboi Refinery as ULFA Attacks Oil Installations,  March  09, 2003  
  ・Tribuneindia.com, ULFA Ultras Bomb Digboi Refinery,  March  09, 2003


後 記: 今回のタンク事故情報は「Tank Fires」という資料で知りました。過去のテロ攻撃事例として紹介しようと、内容を見直し、フランス環境省のARIA(事故の分析・研究・情報)の記載項目に沿ってまとめ直しました。当時はグーグルマップを知りませんでしたが、今回、ディグボイ製油所付近の地図を見ていくと、報道記事に合うタンク地区のあることが分かりました。「補足」で述べたように発災タンクと思われるのですが、立証できませんので、断定は避けました。
 最近は事件があると、テレビニュースの中で現場の地図が紹介されますが、Googleの文字が添付されており、グーグルマップから引用したことが分かります。このブログでも必ずグーグルマップで確認することにしています。文字情報では分からない状況や雰囲気を感じることができます。グーグルマップで世界旅行をしているようなもので、便利な世の中です。

2016年2月20日土曜日

メキシコで内部浮き屋根式タンクに落雷して火災(2006年)

 今回は、石油貯蔵タンク基地などで起った火災事故の消防対応の業務などを行う会社として有名なウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が公開しているCode Red Archivesの中から、 2006年6月28日、メキシコのベラクルス州のペメックス社系列の製油所にある内部浮き屋根式タンクに落雷があり、全面火災となり、この消火活動にウィリアムズ社が応援で出動した事例を紹介します。
古い施設で輻輳した設備地区、火災を受けたときのタンク構造への影響、発災タンク場所の高低、風の条件、 火炎の挙動や特性などの要因によって対応が難しくなったタンク火災   (写真はWiliamsfire.comから引用)
< 事故の発生 >
■ 2006年6月28日、メキシコのベラクルス州ミナティトラン市を熱帯低気圧が通過中、メキシコ国営石油ペメックス社(Pemex)の系列製油所の古い地区にあるタンクに落雷があり、火災が発生した。発災のあったのは87オクタン・ガソリン用の直径134フィート(37m)×高さ40フィート(12m)の内部浮き屋根式タンクで、まわりには多くの設備が並んでいた。火災が起ったとき、タンクには貯蔵能力の半分ほどの55,000バレル(8,700KL)が入っていた。
キシコのベラクルス州ミナティトラン市にある製油所付近(現在)  (写真はグーグルマップから引用) 
■ 火災発生から9時間後、ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control)アメリカ地域担当のフィリップ・ハンハウゼン代理人に発災事業所からの連絡があり、相談とともに現地への支援が可能か聞かれた。ハンハウゼン氏は、施設で保有している泡薬剤をはしご車を使用して“ハイアード・ガン”(Hired Gun)で放射し、 それに放射能力2,000gpm(7,500リットル/分)泡モニターの“パトリオットⅡ” (Patriot II)と泡混合設定装置の“ホットショット・フォーム・システム” (HotShot Foam System )を使って“フットプリント” 法による泡放射方法を確立するのが良いと助言した。

落雷によって貯蔵タンクが火災となり、明るく照らされた夜空
(写真はWilliamsfire.comから引用)  
■ 事業所の消防隊は、当該地域にある系列事業所の消防隊とともに、徹夜で消防活動を行っていた。火災は完全な全面火災になっており、発災初期のすさまじさと火災そのものの大きさに直面しながらも、合同消防隊は火炎に向かって大量の水と泡による攻撃を行い、消火に努めた。午前中までの消防隊の初動活動によって、何回か火災を制圧できそうな状況までいったが、再燃してしまい、この間に泡薬剤は減少していった。

■ この時点で、ハンハウゼン氏は現場での指揮支援の対応と泡薬剤の手配を要請された。ハンハウゼン氏には、泡薬剤の調達先がいくつかあった。ウィリアムズ社テキサス施設にはすぐ出せる泡薬剤があったし、メキシコ国営石油ペメックス社の系列事業所は現場に泡薬剤を置いていた。また、泡薬剤メーカーのアンサル社(ANSUL Inc.)はメキシコにある地方倉庫から泡薬剤3,000ガロン(11.3KL)をすぐに出荷することが可能だった。

■  ハンハウゼン氏が到着した時点で、保有していた泡薬剤がほとんど使い果たされ、消防活動は隣接設備の曝露対策と冷却作業に縮小され、消火活動を継続するためにはかなりの増援が必要な状況だった。ハンハウゼン氏は現場に着くと、多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)の“サンダーストーム”(Thunderstorm)を少なくとも3,000ガロン(11.3KL)を手配するとともに、できれば当該周辺地域からすぐに現場へ持って来れる泡薬剤を要請した。

■ 泡薬剤が来るまでの間に、ハンハウゼン氏が最初に行ったことは火災現場を自分の眼で見て評価することだった。ハンハウゼン氏が現場を観察して気になったことは泡攻撃の場所だった。その時点では確かに風上だったが、防油堤のレベルからおよそ15フィート(4.5m)下であり、まわりにはいろいろな設備が輻輳しているエリアだった。また、タンク堤内の水位が高く、堤壁の割れがかなり気になる点だった。もし、タンクが壊れて油流出が起これば、防油堤が飲み込まれ、周辺エリアに油が漏洩し、泡攻撃している場所も堤内火災に至る恐れも考えられた。ハンハウゼン氏は、単に眼の前で起こっている火災だけでなく、火災自体がどのような経緯をたどる可能性があるかということにも気を配った。

< 消火活動で成功を勝ち取る秘訣 >
■ ハンハウゼン氏はドワイト・ウィリアムズ氏に連絡をとり、現場の観察結果を報告し、印象を聞いた。ドワイト氏は火災を読む不思議な能力がある。彼は、あなたが根気よく火災の挙動を観察することができれば、敵の強みと弱みをつかみ、打ち破るための最適な方法を見出すことができるだろうといった。確かに、眼前で事故に直面している最中に、このような才覚を発揮することは難しい。しかし、攻撃の先頭に立って、手元にある大切な資機材を的確に使いこなすことを求められたときには、この考え方を貫かねばならないという。

■ 火災は、まるで炎が全面火災の中で自由に動き回っているような状況を呈していた。実際、火災の激しい箇所は外周部に2つあり、ときどき噴射されて出てくるような炎の柱を立ちあげた。一方、火災の中心部はおとなしく、内部に障害物があるかのような状況を呈していた。

■ ウィリアムズ社のハンハウゼン・チームにとって運が良かったのは、ドワイト氏が2週間前に同じ状況に直面していたことである。それはオクラホマ州で起きた大きなガソリンタンクの火災で、内部浮き屋根が崩壊し、それに伴う残骸が障害物となっていた。このとき、最初に行った消火活動は、地上から見えない障害物のため、挑戦的な試みだった。ドワイト氏がオクラホマ州で指揮した作戦は「垂直泡攻撃」(Vertical Foam Attack)と称するもので、タンク中央部分にどっと浴びせる“シャワー・ダウン”で、敢然として燃えている全表面を泡で覆った。

■ ドワイト氏がとった作戦と同じように、ハンハウゼン・チームは手配した資機材を使って消火活動を展開した。はしご車から泡モニターを使った泡放射が行われ、地上からはハンハウゼン・チームが指揮する泡モニター“パトリオットⅡ” を使って支援した。ハンハウゼン・チームは“パトリオットⅡ” を使用して“フットプリント”法による泡で覆う方法を確立した。はしご車は高い位置から、死角になる部分に下向きに泡を放射した。火災状況の中で、2台の泡モニターの組合せによる消火活動は、劇的で極めて効果的な結果に導いた。およそ10分ほどで火災を消すことができ、初動で試みた泡攻撃に比較して泡の使用量は非常に少なかった。

■ この火災は非常に変わっていた。状況はタンク構造に直接関連するものであったが、火災自体が他に類を見ないような振る舞いをする火災になった。ハンハウゼン・チームが成功したのは、火災の挙動を根気よく観察し、状況に合った攻撃のやり方を見出したからである。

< ドワイト・ウィリアムズの言葉 >
■ 「この26年の間、ウィリアムズ社が成功した大きな理由は、要請された事故対応に際して火災の挙動に対する観察眼にある。そして、火災の特性に合った戦術を慎重に実施したからである。確かにできるだけ早く火の上に濡れた覆いを掛けたいというのが人間の本性であるが、これまでの経験によると、脅威の本質を見抜くのは意外に短い時間であり、それが的確で、効率的で、効果的な対応方法につながる」


補 足
■ 「メキシコ」(Mexico)は、正式にはメキシコ合衆国で、北アメリカ南部に位置する連邦共和制国家である。人口は約1億2,000万人で、首都はメキシコシティである。
 「ベラクルス州 」(Veracruz) は、メキシコ湾の西岸に位置する南北方向に細長い州で、人口約760万人である。気候は高温多湿で、内陸の丘陵地は多湿であるが、涼しい。6月から10月にかけてはカリブ海などで発生するサイクロンの影響を受ける。
 「ミナティトラン」(Minatitlan)は、ベラクルス州の南東部に位置し、人口約35万人の市である。ミナティトランにある製油所は1906年に建設されたラテンアメリカで最初の製油所である。2003年頃には24万バレル/日の精製能力だったが、現在は16~18万バレル/日程度である。
(図はグーグルマップから引用)
■  「ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火の実績を有している。当該メキシコのタンク火災の2週間前にあったという事故は、2006年6月12日米国オクラホマ州グレンプールで起ったタンク火災である。当ブログにおいてウィリアムズ社関連の情報はつぎのとおりである。

■ ウィリアムズ社はウェブサイトを有しており、各種の情報を提供している。この中で「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開している。今回の資料はそのひとつである。

■ タンク全面火災時の「泡の打ち込み方法」の考え方は大きく二つに分かれる。一つは米国グループで、ウィリアムズ社を始めとする実火災の消火経験をベースにしたグループで、もう一つは、FORMSPEXプロジェクトによる泡消火の理論と実験をベースにした欧州グループである。
 ウィリアムズ社は泡の打ち込み方法として「フットプリント理論」を構築した。この「フットプリント理論」は、泡の放射流を油面の中で一つの区域に着水させ、部分的に大きな放射量を確保することによって、泡を急速で効率的に広がることを図るものである。泡放射は基本的にタンク中央付近へ打ち込む。
 一方、欧州グループは、タンク側板近傍端部への泡打ち込み方法をベースにした大容量の泡放射システムである。これは、タンク中央は火災による上昇気流があり、泡を打ち込みにくく、タンク側板近傍部に泡の“橋頭堡”(きょうとうほ)を形成すれば、消火できるという考えである。  
      フットプリントを示す図例             FORMSPEX プロジェクトによる実験の例
 写真はWilliamsfire.comから引用)                       写真Sp.seから引用) 
所 感
■ 今回の資料でウィリアムズ社の「フットプリント理論」の背景が理解できた。内部浮き屋根式タンクが全面火災になった場合の特徴かどうかわからないが、ウィリアムズ社のハンハウゼン氏は「火災は、まるで炎が全面火災の中で自由に動き回っているような状況を呈していた。実際、火災の激しい箇所は外周部に2つあり、ときどき噴射されて出てくるような炎の柱を立ちあげた。一方、火災の中心部はおとなしく、内部に障害物があるかのような状況を呈していた」という。ウィリアムズ・ドワイト氏がオクラホマ州で指揮した作戦は、「垂直泡攻撃」(Vertical Foam Attack)と称するタンク中央部分にどっと浴びせる“シャワー・ダウン”で、燃えている全表面を泡で覆ったという。火炎状況の弱いタンク油面付近に垂直泡攻撃を行うという戦術を「フットプリント理論」として理論構築したものと思われる。

■ 日本では、フットプリント理論ありきというか、ひとり歩きしているように思う。今回のメキシコでのタンク火災の消火成功についてウィリアムズ社のハンハウゼン氏は、「火災の挙動を根気よく観察し、状況に合った攻撃のやり方を見出したからである」と述べ、ドワイト・ウィリアムズ氏も同様に、「ウィリアムズ社が成功した大きな理由は、要請された事故対応に際して火災の挙動に対する観察眼にある。そして、火災の特性に合った戦術を慎重に実施したからである。確かにできるだけ早く火の上に濡れた覆いを掛けたいというのが人間の本性であるが、これまでの経験によると、脅威の本質を見抜くのは意外に短い時間であり、それが的確で、効率的で、効果的な対応方法につながる」と語っている。ウィリアムズ社では、何も考えず、フットプリント法を行うということではない。
 結局、当たり前の話であるが、火災の挙動をよく観察し、敵である火炎の弱点をつく対応方法(泡放射)をとるということが、基本だということが理解できた。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Williamsfire.com,  「 Mexico Lights up!   Internal floating roof tank ignites from lightning strike , Feature , Edited by Brent Gaspard,   CODE RED ARCHIVES, Williams Fire & Hazard Control. Inc.


後 記: 今年になってタンク事故の情報は、リビアにおけるテロ攻撃によるタンク火災以外、入ってきません。本当にタンク事故がないとすれば、良いことです。このため、ウィリアムズ社の公開資料を続いて紹介しています。タンク火災対応の実体験の少ない日本では、貴重な経験談です。ウィリアムズ社が消火支援に出動した2006年のオクラホマ州グレンプールのタンク火災事故は当グログで紹介していましたが、今回のメキシコのタンク火災がオクラホマ州のタンク火災の2週間後の事故で、共通的で関連性のある事例だったことが分かりました。ひと月に2回もタンク全面火災の対応をしているのですから、大変なことだと感心するとともに、これだけの実体験を重ねているのですから勝てないなあ(今風にいうと“やばい”かな?)と実感しますね。

2016年2月13日土曜日

グアテマラの固定屋根式タンク火災で消火泡から炎(2003年)

 今回は、石油貯蔵タンク基地などで起った火災事故の消防対応の業務などを行う会社として有名なウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社が公開しているCode Red Archivesの中から、2003年7月26日、中南米グアテマラにある石油貯蔵ターミナルの固定屋根式タンクの1基に落雷があり、一時的に保管されていたガソリンに引火して火災となり、この消火活動にウィリアムズ社が応援で出動した事例を紹介します。
趣意; 固定屋根式タンクの気相中の火災は目に見えないところで危険が潜み、消火薬剤の優れた性能と卓越した戦術を使って挑戦する消火活動になることがある。

< 事故の発生 >
■ 2003年7月26日(土)、中南米グアテマラにある石油貯蔵ターミナルの固定屋根式タンクの1基に落雷があり、一時的に保管されていたガソリンに引火した。発災のあったのは直径95フィート(29m)のコーンルーフ式タンクだった。

■ 事故発生の2日前の7月24日(木)、ガソリン専用タンクが満杯になったので、一時的な措置としてコーンルーフ式タンクにガソリンを入れた。石油貯蔵ターミナルの各タンクには、ポンプ・プロポーショナル方式の固定泡消火設備が設置されていた。この設備はNFPA(米国防火協会)の燃料貯蔵タンク防護に関する設計基準を満たしていた。

■ 落雷によって発生したタンク内火災の初期対応として、固定泡消火設備が使用された。固定のフォームチャンバー(泡放出口)による消火に失敗した消火活動の間に、系統中の容量1,500ガロン(5,670ℓ)の泡薬剤タンクの泡原液(3%フッ素たん白泡消火薬剤)はどんどん減っていった。

■ 7月27日(日)の午前5時、ウィリアムズ・ファイヤー&ハザード・コントロール社(Williams Fire & Hazard Control Inc.)に支援業務の要請連絡がはいった。ウィリアムズ社はただちに5名の消防士によるチームを現場へ派遣することを決めるととともに、消火活動のための設備と泡薬剤の手配にはいった。

■ 事故の規模が大きくなり、現場に配置された数台の消防車が消火用水タンクへ補充するため使用され、消火活動中の補給水として使われた。石油貯蔵ターミナル側では、施設に保管したあった別な場所から泡薬剤タンクへ3%フッ素たん白泡消火薬剤の充填を行い、再度、固定泡消火系統を使った2回目の攻撃に備えた。

■ この時点で、タンク本体は高温の熱によって曝され続け、屋根と側板の接合部に沿って“魚の口”(フィッシュマウス)状の隙間が生じていた。施設内のタンクは満杯だったので、火災タンクから内液を移送する先のタンクも転送する時間も無い状態だった。

■ 泡投入が続けられ、ベント部やタンク頂部まわりにできた“魚の口”状の開口部などから溢れるほどだった。残った別のベントの一箇所から噴き出している火炎を消そうと消火水ラインが展開された。タンクから泡が吐き出され、その泡のまわりに陽炎(かげろう)が出ているので、泡の中にかなりの量のガソリン・ベーパーを取り込んでいることは確かだった。この結果、防油堤内に出た泡部に火が付いた。タンクからガソリンの液体が漏れていることは無かった。取り込んだ油分が燃えて消費されるまで、堤内に広がった飽和状態の泡が短時間(5分間)燃えた。この時点で、ウィリアムズ社の設備と泡薬剤が到着するまで、すべての作業を停止することが決められた。

< ウィリアムズ社の消火活動 >
■ 泡攻撃に必要な設備を積んでいくのに適した航空機を見つけることは難しいと分かった。施設との最初の打合せによって、消火用貯水量が200,000ガロン(750KL)消費され、可搬式の消火水ポンプを必要とすることが分かったからである。一旦、C-130輸送機を手配し、テキサス州ボーモントに着陸させ、必要な設備を積込み、それからグアテマラへ飛ぶために14時間かかった。ウィリアムズ社のチームが到着したのは、7月27日(日)午後5時だった。

■ 次の日、ウィリアムズ・チームは別な戦術の泡攻撃を行った。フォームチャンバーを通じて泡を投入するやり方を行ったが、選定した泡薬剤は多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)の“サンダーストーム”(Thunderstorm)である。1%-3%サンダーストームは、既設の泡プロポーショニング・システムのオリフィスを調整する必要があった。フォームチャンバーのほかに、放射能力125ガロン/分(560L/分)の“フォーム・ワンド” (Foam Wand)3本をタンクのベント・ホールに配置した。また、タンク屋根の開口部から放出しているベーパーを洗い流すため、可搬式泡モニターの“ダスピット・ツール” (Daspit Tool)を配置した。タンク屋根の開口部でベーパーが燃え続けている状況の中で、可変流量式泡ノズルの“ハイドロ・ケム” (Hydro-Chem)を2台配備し、1台は火災タンクの踊り場に、もう1台は隣接タンクの上に配置した。
フォーム・ワンド(左)、ダスピット・ツール(中央)、ハイドロ・ケム(右)
   (写真はWilliamsfire.comから引用)
■ 泡攻撃は7月28日(月)午後8時15分に開始された。その後まもなくして、炎が衰え始めた。すべての火は泡を覆うことで消火し、3個のベントは可変流量式泡ノズル;ハイドロ・ケムの機能とともにドライケミカルを使用して封じ込めた。午後8時45分、炎が見えなくなった。その後、一定期間、間欠的に泡投入を行うととともに、タンク屋根の冷却が続けられた。翌朝、タンクの状態が調べられ、ガソリンを移送できる状況となった。

< タンク気相部の火災に潜む問題点 >
■ この事故に伴なう問題点を理解するには、まず火災になった固定屋根式タンクや内部浮き屋根式タンクに存在する問題要因を認識しておかなければならない。浮き屋根が沈降した場合、あるいは不適切な油種の貯蔵(当該事故のような例)があった場合、燃料油が全面にわたって曝露される可能性がある。タンクの気相部分で引火することになれば、タンクへ損傷を与えることになるだろう。気相部が爆発混合気の範囲にあれば、タンク内で爆発が生じることになるのが普通である。この放爆が大きければ、意図的に弱めた接合部が大きく壊れて、屋根が噴き飛ぶことも稀ではない。この結果、タンク全面火災になることもある。

■ 気相部が爆発混合気で着火しても、放爆が小さかったり、あるいは気相の濃度が高かった場合、火災は開口部だけに留まるのが普通である。グアテアラの事故がこれに当たる。全面火災になることはなかったが、タンク内部の気相部は燃焼するには濃度が濃すぎる状態だった。タンク開口部を通じて入ってくる空気によって濃度が薄くなると、火炎が大きくなった。(標題写真を参照)

■ フォームチャンバーを通じて固定泡消火設備のシステムが作動すると、泡はベーパー濃度の高い雰囲気中に入っていき、油面から上に溢れ始める。この過程を経て、覆った泡の中に多量の可燃性ベーパーが巻き込まれていった。このようにして、泡がタンク開口部を通って放出され、堤内エリアに落ち、燃える泡が生まれた。

■ ここで、覆った泡の上の気相部の状態について考えてみる。覆った泡がベーパーを抑えて発生量を少なくしているのは間違いない。しかし、発生していたベーパーは覆った泡の上に残っている。ベーパーは、開口部(当該ケースでは10×18インチ)を通じて流れていき、空気と混合して燃えることになる。 燃えたベーパー量は非常に少なく、 4フィート(120cm)の気相部では、およそ42,000立方フィート(1,190㎥)である。油の蒸気圧と開口部10×18インチ(25×45cm)から考えると、蒸発持続時間は優に12時間以上続く。ベーパーが減っていく前に覆った泡が壊れていく。このような現象を繰り返すことによって施設の供給できる泡を減少させていった。

■ 難しい状況下で、ベーパー発生を抑えようと長時間にわたって泡を覆い続けると、このこと自体が事故に伴う損害をエスカレートさせる結果になる可能性もあった。覆った泡がベーパーの発生を抑え、火災によってベーパーが消費されてしまえば、タンク内部のベーパーは開口部から入る空気と置き換わるようになる。ベーパーが消費され続け、可燃性範囲の域に達するまで気相部が薄まれば、この時点でベーパーと空気の混合気による爆発が起き、屋根が噴き飛び、全面火災になる可能性があった。

■ いずれにしても好ましい結果でない。想定を考える上で、今回、われわれが知ったような事象をもっと認識していく必要がある。


補 足
■ 「グアテマラ」(Guatemala)は、正式にはグアテマラ共和国で、中央アメリカ北部に位置する共和制国家である。人口約1,400万人で、首都はグアテマラ市である。コーヒー、砂糖、バナナなどの農業を主としており、中米では経済的に中位の国である。
(図はグーグルマップから引用)
■  「ウィリアムズ・ファイア&ハザード・コントロール社」(Williams Fire & Hazard Control)は1980年に設立し、石油・化学工業、輸送業、軍事、自治体などにおける消防関係の資機材を設計・製造・販売する会社で、本部はテキサス州モーリスヴィルにある。ウィリアムズ社は、さらに、石油の陸上基地や海上基地などで起こった火災事故の消防対応の業務も行う会社である。
 ウィリアムズ社は、2010年8月に消防関係の会社であるケムガード社(Chemguard)の傘下に入ったが、2011年9月にセキュリティとファイア・プロテクション分野で世界的に事業展開している「タイコ社」(Tyco)がケムガード社と子会社のウィリアムズ社を買収し、その傘下に入った。
 ウィリアムズ社は、 米国テネコ火災(1983年)、カナダのコノコ火災(1996年)、米国ルイジアナ州のオリオン火災(2001年)などのタンク火災消火の実績を有している。当ブログにおいてウィリアムズ社関連の情報はつぎのとおりである。

■ ウィリアムズ社はウェブサイトを有しており、各種の情報を提供している。この中で「Code Red Archives」というサブサイトを設け、同社の経験した技術的な概要を情報として公開している。今回の資料はそのひとつである。

■ 石油(非水溶性液体可燃物)に使用される「泡消火薬剤」は消防法やISO規格によって規定されている。成分構成による分類と定義を表に示す。
              泡消火薬剤の成分構成による種類と定義  (表はNrifd.fdma.go.jpから引用)
 「たん白泡消火薬剤」(P)は、動物の角などのたん白質原料を粉砕して製造され、暗褐色の粘性溶液で、たん白特有の臭いがする。各種添加剤が加えられ、泡の持続安定性、耐熱・耐火性が強化される。日本では、古くから石油貯蔵タンク等の固定泡消火設備に使用されている。一方、泡が固いために流動展開性は劣る。また、泡膜が可燃性ベーパーを取込みやすく、油汚染を起こしやすい。

 「フッ素たん白泡消火薬剤」(FP)は、フッ素系界面活性剤を添加し、流動展開性を改善し、泡膜の可燃性ベーパーの取込みも少なく、油汚染を起こしにくい。また、耐油・耐熱・耐火性の油面被覆性能が強化され、たん白泡消火薬剤と同様、石油貯蔵タンク等の固定泡消火設備に使用されるほか、油汚染の少ない特性から底部泡注入方式にも使用される。フッ素たん白泡には、油の表面に水成膜を形成する「フッ素たん白水成膜泡」(FFFP)という泡があり、ISO 規格で定義されている。フッ素たん白泡よりも更に流動性に優れており、航空機火災などの流出油火災に使用されている。

 「合成界面活性剤泡消火薬剤」(SD)は、炭化水素系界面活性剤を主成分とし、淡黄色液体で、グリコールエーテル臭がする。各種添加剤が加えられ、起泡性に富み、高発泡消火用に使用される。しかし、泡の耐熱・耐火性、耐油性が乏しいことから、低発泡として石油貯蔵タンク火災の消火には使用されていない。

 「水成膜泡消火薬剤」(AFFF)は、合成界面活性剤泡消火薬剤(SD)の組成にほぼ似ているが、異なるのは、表面張力低下能の高いフッ素系界面活性剤が添加されている。合成界面活性剤泡消火薬剤と同様、淡黄色液体で、グリコールエーテル臭がする。流動展開性が改善し、泡膜の耐油・耐火性の強化により、迅速な消火が可能といわれ、航空機火災などの流出油火災に使用されている。
 
 このほかに、本来は水溶性液体用泡消火薬剤で、通常、耐アルコール泡(AR)と称されている「多糖類添加耐アルコール泡」(AR-AFFF)がある。多糖類はアルコールに接すると不溶性となって泡に付着して泡が破壊されるのを防ぐことができ、欧米で使用されてきた。日本では、ウィリアムズ社がオリオン製油所のタンク全面火災で使用した大容量泡放射砲の泡消火薬剤(“サンダーストーム”)として注目された。消防法では対応規格がないが、 たん白泡、合成界面活性剤泡または水成膜泡の三型式で行われる性状試験と同一の基準に適合することを条件に「大容量泡放水砲用泡消火薬剤」を認める形をとっている。

■ 泡消火剤の「油の汚染度」は一般につぎのようにいわれている。
 ● 「たん白泡」は、古くから油火災の消火用の泡として用いられているが、泡を油面へ直接放出すると、油にまみれて油汚染されると泡が消滅してしまう。このため、特に消防隊による泡消火に困難性があった。これは「合成界面活性剤泡」でも同様である。
 ● 「フッ素たん白泡」は、泡の汚染を起こしにくいと言われるが、泡が油で汚染されても、なお泡の安定性、耐熱・耐火性など消火に必要な性質を保持している泡である。油に汚染した泡に着火して、泡が燃えている状況でも、泡が消滅する度合いが少ないといわれている。
 ● 「水成膜泡」は、油汚染されにくい泡であるが、泡の中に油を包み込む性質があり、これに着火すると一瞬に泡が燃えて消滅してしまうことがある。


所 感
■ 投入した泡が油面に接した様子もなく、タンク上部の開口部から溢れ出て、堤内で炎を発する状況を見たときに、消防隊員は驚いたと思う。特に、泡消火薬剤の知識のある消防士は、油に汚染しにくいといわれているフッ素たん白泡が燃えるのを見て、すぐには理解できなかったと思う。ウィリアムズ社が到着するまですべての作業の停止を決めたのがわかる。固定屋根式タンクの気相部で生じていた現象の解説を聞けばなるほどと納得する。確かに固定屋根式タンクにガソリンを入れるという通常はありえない条件などが重なっているが、現場で初めて遭遇したときには、正しい状況判断と対応は難しいだろう。ウィリアムズ社は、このような経験を積み重ねて的確な消火戦略・戦術をとれるようになったものと思う。そして、このような事例の情報を公開する姿勢に感心する。

■ 今回の事例の消火方法について言及されており、既設フォームチャンバーから多糖類添加耐アルコール泡(AR-AFFF)を使用し、タンク開口部から出るベーパーを洗い流すという戦術をとったことが理解できる。しかし、泡ノズル(“フォーム・ワンド”)、可搬式泡モニター(“ダスピット・ツール”)、可変流量式泡ノズル(“ハイドロ・ケム”)をどのようにして火災タンクまわりに設置したかはよくわからない。標題写真には重機が作業を行っており、このような機械を活用するにしても、かなりリスクの高い作業を行ったものと思う。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Williamsfire.com,  「Guatemala Teaser 」, Feature , Edited by Eric Lavergne ,   CODE RED ARCHIVES, Williams Fire & Hazard Control. Inc.
  ・Fdma.go.jp,  「消防用設備等に関するISO規格の比較検証事業報告書(平成23年度)」(消防庁予防課、2112年3月)
  ・Fd.fdma.go.jp,  「石油タンク火災の安全確保に関する研究報告書 -石油タンク火災に使用される泡消火薬剤の消火特性-」(消防研究所、2006年3月)



後 記: 当資料の原題は「グアテマラの難題」(Guatemala Teaser)ですが、ブログの標題は難題を示唆する「グアテマラの固定屋根式タンク火災で消火泡から炎」としました。
 いつも言葉で悩みますが、今回は“Form Blanket”です。“泡の毛布” という日本の表現はありませんし、まだ“泡布団”の方がイメージを掴めそうな気がしないでもありません。最近の映画タイトルのように原題をそのまま日本語にする“フォーム・ブランケット”で通じるでしょうが、それまで“泡”という言葉を散々使ってきたのに、急にフォーム・ブランケットではしっくりきませんし、“泡のブランケット”でも何か違和感があります。“泡の被覆”では硬すぎますし、結局、“覆った泡”という表現にしました。近ごろは日本語の語彙検定なるものがあり、つくづく語彙力の不足を感じますが、日本語にない表現でも悩みながらまとめています。

2016年2月5日金曜日

タイで石油タンクに擲弾(てきだん)によるテロ攻撃(2010年)

 今回は、2010年4月21日、タイのパトゥムターニー県ラムルークカーにあるタイ・ペトロリウム・パイプライン社の石油ターミナルでテロ攻撃があり、ジェット燃料タンクに擲弾(てきだん)が打ち込まれた事例を紹介します。
    側板に爆発の痕跡が見えるタンク。枠内はタンク壁に開いた穴を補修する作業員
写真はBangkok Post.comから引用)
 < 発災施設の概要 >
■ 事故があったのは、タイのパトゥムターニー(Pathum Thani)県ラムルークカー(Lam Luk Ka)にあるタイ・ペトロリウム・パイプライン社(Thai Petroleum Pipeline Co.)の石油タンク基地である。タイ・ペトロリウム・パイプライン社は、パイプラインによって石油を効率的に輸送する目的で1991年1月に設立され、通常タップライン社(Thappline)と呼ばれる石油会社である。株主はタイ石油公社(PPT)33.19%、エッソ20.66%、シェル14.87%、残りがタイの主要石油企業である。 
 タップライン社は、タイ国内に2箇所の石油ターミナルを所有している。ラムルークカー石油ターミナルは貯蔵能力17万KLで、タンク19基を保有し、一度に5台のタンクローリー出荷が可能な施設である。

■ 発災があったのは、石油ターミナルから約38km離れたスワンナプーム国際空港(新バンコク国際空港と呼ばれている)へ供給するジェント燃料油用で貯蔵能力22,000KLのタンクである。 
タイ・ペトロリウム・パイプライン社ラムルークカー石油ターミナル付近 
(写真はグーグルマップから引用)
< 事故の状況および影響 >
事故の発生
■ 2010年4月21日(水)午前1時15分頃、タイ・ペトロリウム・パイプライン社のジェット燃料タンクに擲弾(てきだん)が打ち込まれた。擲弾はタンクに当たり、地上で火災が発生した。

■ 作業員が警察に語ったところによると、燃料貯蔵地区で爆発音を聞き、急いで現場へ行くと、タンク番号T-401Dの脇で炎が上がっているのが見えたという。

■ 投げ込まれた擲弾は2発で、うち一発がタンクに当たり、貯蔵地区の地上で火災が起こった。もう一発は不発だった。擲弾の爆発によってタンクには、地上から約1.5mのところに直径約4cmの穴が開いた。しかし、タンクは二重壁構造で防護されていたため、タンク内の燃料油に引火しなかった。攻撃を受けたとき、タンクには9,000KLの油が入っていた。 

■ 火災は消防隊によって発災から約1時間後に鎮火した。

■ 警察の調査によると、擲弾はM79グレネードで、現場から100mほど離れた自動車道からランチャーで発射されたものとみられる。M79グレネード・ランチャーは約400mの射程距離を有しているという。

被 害
■ 二重壁構造タンクの外板に直径約4cmの穴が開いた。しかし、貯蔵機能は維持されており、タンクの穴は補修して塞がれた。タイ・ペトロリウム・パイプライン社運転部長によると、損害額はそれほど大きくはないと語っている。  
■ この事故による負傷者は無かった。
 
< 事故の原因 >
■ M79グレネード・ランチャーを使用した擲弾による。事故原因の分類としてはテロ攻撃による「故意の過失」に該当する。  

■ 石油タンクへの攻撃の背景: エネルギー省大臣によると、反独裁民主同盟(UDD)が計画していた集会の前に、エネルギー省は石油基地、製油所、発電所および輸送ラインのセキュリティを最高レベルにするため、会議を開催していたという。大臣は今回の攻撃を破壊工作の事前通告の代わりだと受けとっている。今回のように、石油ターミナル外の距離のあるところからの攻撃を食い止めるのは難しいことだと、大臣は認めた。大臣によると、先週、ワンノイの発電所の伝送設備で破壊工作の試みがあったという。

< 対 応 >
■ 二重壁構造タンクの外板の穴は、補修して塞がれた。

■ エネルギー省大臣は、警察と石油・ガス操業会社に対して施設のセキュリティ対策を強化するよう要請した。
    
■ タイ石油公社グループの副社長は、グループ幹部を招集し、施設の警備方法について議論するための緊急会議を開くと語った。 
 別の石油会社の幹部役員は、攻撃者が石油施設を目標にすることについて憂慮していることを認めた。 石油会社の幹部役員は、「実行しようと思えば、多くの手段がある。私はかなり心配しているが、私たちがとるべき最善策はやれる限りのセキュリティー対策を強化することである。監視カメラ、警備員、火災報知器、消防車を含めた消防資機材は24時間体制で配備している。これが私どもができるすべてである」と語った。

補 足
■ 「タイ」(Thai)は、正式にはタイ王国(Ratcha Anachak Thai)で、立憲君主国家である。国土はインドシナ半島の中央部に位置し、人口は約6,700万人である。タイは政変が多く、2006年に起った軍事クーデターは国王の介入により収拾され、軍事政権が発足したが、クーデター以降は、国民の間でタクシン派(反独裁民主同盟;通称赤シャツ)と反タクシン派が対立し、不安定な情勢にある。このような中で、2010年4月、首都バンコクでタクシン派のデモ隊と治安部隊との衝突を取材中、ロイター社カメラマン村本博之さん(43歳)が銃撃を受けて亡くなるという事件が起き、当時日本でも大きく報道された。
 2014年にプラユット将軍率いる国軍が軍事クーデターを起こし、実権を掌握して以来、軍事独裁政権が続いている。
(図はグーグルマップから引用)
  ■ 「擲弾」(てきだん)は投てきして用いる爆弾の意味で、手で投てきするものは一般に手榴弾(しゅりゅうだん)と呼ばれ、擲弾は投射器を使用して遠くへ飛ばすものを指す。「M79グレネード」 (M79 Grenade)は径40mmの擲弾で、グレネードランチャーという携行できる発射装置を使用し、銃身中央に折りたたみ式の照門があり、照準できる距離は最長375mから最短25mの範囲で25mごとに調整できる。ベトナム戦争時に開発されたもので、現在は多くの国で使われており、特にタイでは、度々テロ攻撃に使われており、M79という記号名だけで認識されている。
                         M79グレネード・ランチャーの例    (写真はWorld.guns.ru から引用)
■ ラムルークカー石油ターミナルの現場から100mほど離れた自動車道からM79グレネード・ランチャーを使用して擲弾が発射されたと言われているが、グーグルマップによると、タンクと道路の距離は約190mである。 ジェット燃料油タンクT-401Dの直径は約42mであり、容量22,000KLから推測すると、高さは約16mである。発射したとみられる自動車道から当該タンクをグーグルマップのストリートビューで見ると、つぎのとおりである。
自動車道から見たタンクT-401D(左から2番目)
(写真はグーグルマップのストリートビューから引用)
所 感
■ タンク側板の設計は、通常、液(圧)、風(荷重)について検討されるが、ここにテロ攻撃を想定し、二重壁構造にした先見性に感心する。タイの不安定な政情があるとはいえ、発想と実行力は見事である。少なくとも、テロリストには、M79グレネード級の擲弾によるテロ攻撃では効果がないと思わせたに違いない。さらに、石油ターミナルへのテロ攻撃は成功が難しいのではないかと考えたかもしれない。このように思わせることがテロ対策に有効である。

■ 一方、この2010年のタイにおける事故(事件)以降、このブログで紹介した世界のテロ攻撃をみていくだけでも、攻撃人員や使用武器がエスカレートしていると感じざるをえない。


備 考
 本情報はつぎのインターネット情報に基づいてまとめたものである。
  ・Bangkokpost.com,  Airport Oil Depot Attacked, Tank Set Ablaze,  April  21, 2010
  ・Bangkokpost.com, Oil Depot Hit in Grenade Attack,  April  22, 2010  
  ・Pattayatoday.net, No Aviation Fuel Supply Disruption After Oil Depot Grenade Attack, April  22,  2010
    ・Pattayadailynews.com,  Suvarnabhumi’s Main Oil Depot Hit by M-79 Grenade Attack, April  23,  2010
    ・Mcot.net, No Aviation Fuel Supply Disruption after Oil Depot Grenade Attack,  April  21,  2010   



後 記: 今回のタンク事故情報は2010年の発生時点で入手していました。このところのリビアのテロ攻撃をみて、過去のテロ攻撃事例として紹介しようと、内容を見直しました。当時はM79グレネードを手りゅう弾としました。手りゅう弾の訳が正確ではないとわかっていましたが、擲弾という用語ではあまりにもなじみがなく、敢えて手りゅう弾としていました。最近の多くのテロ攻撃から使用武器について正確に伝えた方がよいと思い、“擲弾”としました。(自衛隊や警察の人のように武器の知識をもっている人でないと、擲弾ではすぐに理解できないでしょうが)
 しかし、ベトナム戦争で開発されたM79グレネード・ランチャーやロケット砲という武器が簡便さからテロ攻撃に使用されているのは、皮肉なことです。テロ対策上、テロリストがどのような武器を使用するかを考えなければならないのは、嫌な世の中ですね。